東北演劇祭・衝撃の寿司アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 08/12〜08/16

●本文

 本格的な夏の暑さがやっとやって来た東北の地。そこで行われる一大イベント。

 『夏の大演劇祭in東北』

 毎年、東北の都市を順番に会場とし行われてきたそのイベント。その地域のアマチュア劇団から、幾つかのプロの劇団まで参加する舞台演劇のいわば祭典。数多くの参加団体に、大きな劇場、広い会場。その開催が近づいてくると、いやでも街は活気づいてくる。

 ・ ・ ・

「え? なんすかこれ」
「それはね、今度『FORCE』という団体がメインで企画をした舞台のあらすじだよ。もし良かったら、川上君も見に来ないかい?」
 劇団『gathering star』主宰で今は『Fortune Of Reformation and Creation, Engeki』の代表でもある円井 晋がそう言うと、劇団『gathering star』の副代表川上 雄吾は何ともいえないような表情をして、首を振る。
「俺らはこの日、円井さんとこの公演のあと2時間後に本番っすよ? まあ、俺ぐらいは見にいけるかもしれませんけどね、他の奴らが仕事の最終確認してる間に一人観劇っつーのは気が引けますよ」
「ま、それもそうだね。じゃあこれは渡しておくから、それだけ見てどんな話か想像して楽しんで」
 川上は円井が楽屋を去ったあと、渡された紙を見てみる。確かにあらすじだ。少ない分量で、本当に必要な流れしか書いていない。
 その、話の内容というのが。

 ・ ・ ・

 回転寿司屋で出会った二人の留学生。
 二人は互いの国の文化の違い、そして日本の文化に驚きながら、しかし親交を深めていく。

 ある日、出会いの回転寿司屋に向かうと、そこは何者かによって占拠されていた。
 閉鎖された店内から出てくる大仰な人影、いや、放射能火炎を吐く巨大トカゲ。
 彼(彼?)いわく、うまくて珍しい寿司を食べさせてくれなければ商店街を破壊しつくすと。
 二人はそれぞれの国と日本の味を組み合わせながら、珍妙な、しかし美味しい寿司を作っていく。

 最終的には留学生の二人と寿司屋の店長、巨大トカゲは意気投合し、それぞれの価値観の違いに驚きながら、さらに親交を深めていくのだった。

 ・ ・ ・

「何だこりゃ」
 いやまったく。

●今回の参加者

 fa0472 クッキー(8歳・♂・猫)
 fa1013 都路帆乃香(24歳・♀・亀)
 fa2832 ウォンサマー淳平(15歳・♂・猫)
 fa3066 エミリオ・カルマ(18歳・♂・トカゲ)
 fa3516 春雨サラダ(19歳・♀・兎)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)
 fa4031 ユフィア・ドール(16歳・♀・犬)
 fa4339 ジュディス・アドゥーベ(16歳・♀・牛)
 fa4616 グライス・シュタイン(32歳・♂・猿)
 fa5625 雫紅石(21歳・♂・ハムスター)

●リプレイ本文

●パンフレット
エミリオ・カルマ(fa3066)
ジュディス・アドゥーベ(fa4339)
グリース・ストーン‥‥グライス・シュタイン(fa4616)
トト‥‥クッキー(fa0472)
成田 誡‥‥ウォンサマー淳平(fa2832)
武田店長‥‥雫紅石(fa5625)
白沢 那深‥‥深森風音(fa3736)
佐久間 那月‥‥ユフィア・ドール(fa4031)
御堂 和‥‥都路帆乃香(fa1013)
春野 沙良子‥‥春雨サラダ(fa3516)

●ふぁーすといんぱくと
「うーん、美味しいです」
 アフリカ出身の留学生ロミーは、生まれて初めてやって来た寿司屋で寿司を食べていた。寿司屋と言ってもお皿が回る方のお店で、寿司と言っても玉子や稲荷寿司とかばっかりだが。日本といえば寿司、とやって来た回転寿司で、こればっかりというのも少々寂しい。
 とはいえ、ある意味これは仕方が無かった。ロミーの出身国では魚を生で食べる習慣が存在しなかった。だからマグロもイカもサーモンも、カツオもコハダもすべて奇妙に見えて手が出せない。こんな得体の知れないものが大量に回っている日本、恐るべし。
 ロミーが今日3皿目の玉子に手を出したところで、新たな来客。いらっしゃいませーの声。そして。
「先生、本当に寿司って自分の好きなものを乗せて出してくれるんですか?」
「ああ、そうだよ。今日は君にそんな素敵な寿司を紹介する。代金は私が払ってあげるから、好きなものを食べなさい」
 入ってきた二人に、ロミーは見覚えがあった。自分と同じくアルゼンチンから日本に留学してきたマリオと、学校の講師グリース先生。
「おや、そこにいるのはロミーさんじゃないか。隣の席、いいかな?」
「ええ、いいですよ。先生達もお寿司にチャレンジですか?」
「いや、チャレンジは俺だけだ。先生はプロフェッショナルなんだってさ。‥‥すいません、カルビ」
「あいよ、豚カルビね!」
 まわる寿司パレードの真ん中で、武田店長は豚カルビをバーナーで炙り、シャリの上に乗せて一貫完成。それを二つ並べて更に乗せ。豚カルビ寿司の出来上がり。ロミーはそれを見てそんなのあったんだと目を丸くする。
「牛タン」
「テール」
「ホルモン」
「‥‥マリオ、それは焼肉だな」
「そうだぜ、外人さん。俺の出す寿司ネタはどれも新鮮な奴ばかりだぜ。1つでも食ってみたらどうなんだい?」
 ついに先生と店長に突っ込まれるマリオ。だがそうは言われても、マリオの国でも魚の生食という習慣は無く、抵抗や偏見もある。
「まずはこの辺からどうです?」
 アルバイト店員の佐久間 那月が勧めるのは玉子。「それは甘くて美味しかったですよ」とロミーも言葉添えをする。
「じゃあお嬢ちゃんに次に勧めるのはコレだな。勝手に出すんだ、こいつはタダでいいぜ」
 店長が出してくれるのは穴子。魚だが生でないそれは、生魚の寿司に慣れていない人を慣れさせるための第一歩。
 無事に玉子と穴子をそれぞれ食べ終わった二人に次に出されるのは。
「ほら、これは炙りトロだ」
「炙りToro? 何だ、結局魚じゃないか」
「ん? トロって言ったら魚じゃない?」
 マリオの言葉に疑問を挟む佐久間。
「Toroっていうのは、スペイン語で雄牛って意味なんだよ。だから牛肉だと思ったのに」
「牛タン寿司もあるがね。まぁそいつを試してみな」
「そうですよ、魚は体にもいいですし」
 店長と佐久間に勧められ、グリースのニコニコ視線の下、ロミーは一口食べてみる。未だ持ったところで躊躇っているマリオをよそに、笑顔で「美味しい!」。
「そうでしょう、ロミーさん。これは断然嬉しくなってきましたね。あなたの分も私が払ってあげるから、好きなだけ食べなさい。‥‥安い皿中心に」
「え? 先生最後何て?」
「いやいや、まあまあ。はっはっは」
 楽しそうなやり取りの陰で、マリオはまだ炙りトロと戦っていた。
「ふと思ったんだけどさ。生の魚を素手で握るって大丈夫なのか? 魚は生だと腐りやすいから、焼いたりするだろ?」
 そんなマリオの疑問。それに対して。
「決してそんな事はありませんよ、少年」
「みっ、みどーししょーっ!!」
 自動ドアが何故かガラリと開いて和装の女性が入って来るなり、マリオ達とは反対側の席に座っていた女性が立ち上がり叫ぶ。店内一気に喧しく。
「突然お邪魔してすいません、私は流浪の料理評論家、御堂 和と申します」
「そして私がその一番弟子、春野 沙良子ですっ!」
 二人並んでドラマのOPのようにポーズ。背後で爆発は起きない。
「寿司は、素手で握ってこそ寿司。手袋など着けては職人の華麗なる手さばきが鈍ります。生魚は確かに悪くなりやすい。ですがそれでも誰も食中りなど起こさないのは、それだけ新鮮で美味しいネタを使用しているからなのです。清潔・新鮮・美味・健康。このフォースエレメントに職人技という5番目のキーが加わった時、伝説のフィフスエレメントが成立するのです!」
「師匠〜!! すばらしいっ、素晴らしいお言葉です、私感動しました!」
「‥‥! まぁ、少しは食べられる味だな」
 御堂と春野の漫才をよそに、とっくに寿司をパクついているマリオ。「次、このさーもんとかいうやつ」と生魚の寿司の注文まで始める。「はい、よろこんで!」と佐久間は嬉しそうに注文を受け。
「へー、加熱してなくても大丈夫なんですかー。じゃあ、このツーンとくるのは何ですか?」
 ただ一人評論家漫才を見ていたロミーが尋ねると、喜び勇んで御堂のマシンガントークがやってくる。
「それは山葵と言って、寿司の味にワンポイントを加えるだけではなく、辛味成分のアリルイソチオシアネートに殺菌作用があり‥‥」
 延々と続く解説をロミーがなるほどと聞き入っている間に、マリオはだいぶ慣れてきたのか次々に注文。ホヤ、サバ、大トロ、ウニ、ツナサラダ、うずら納豆‥‥
「ま、マリオ君‥‥少しは、遠慮というものを」
「ん? 先生何か言った?」
「いやいや、まあまあ。はっはっは‥‥はぁ」

●せかんどいんぱくと
 その日。日本の東北地方のある回転寿司屋のある商店街の常識は色んな意味でひっくり返った。
「僕に珍しくて美味しい寿司を食べさせないと、辺り一面を焼きつくすべ!」
 回転寿司の店内でドタバタ暴れるのは巨大トカゲ・トト。二足歩行のそいつは放射火炎のアイツのようでアイツじゃない。糸吐き芋虫と蛾、かもーん。
 それはともかく。
 この巨大トカゲはこの日唐突に店へやって来ると上記のようなことを騒ぎ立て、店長の握る寿司をどれも「こんなのは違うべ!」と突っぱねてきたのだ。この暴君に立ち向かわんと、通りかかっただけの急増勇者、成田 誡が伝説の武器金属バットで一人トトに挑んだが、結果は語るまでもない。
「お客様、店内で暴れられては困ります」
 店員の白沢 那深があり得ないほど普通にそう窘めるも、いつの間にか下僕に転職した元勇者成田がボコられるだけ。
「さて、どうしたもんかね‥‥和、沙良子。お前さん方に何か良い案は無いのかい? このままじゃあのボウズがどつかれ過ぎてバカになっちまう」
「彼がバカになるのは自業自得だからどうでもいいとして‥‥さっさと店からあのゴ○ラ追い出さないと商売になりませんよ」
 店長と佐久間の言葉に、御堂はうーんと唸るばかり。これまでにも、皆が思いつくばかりの寿司を出してきたのだ。それでも、全部没。トトもヒントくらい出せば良いのだが、無理が通れば道理が引っ込む、とでもいう感じか。今も、白沢の握った寿司が没を食らって成田が叩かれる。細かく切ったチャーシューとかいわれを軍艦巻きにしマヨネーズをかけた『かいわれマヨチャーシュー寿司』は、人気の出そうな寿司なのだが。
「新しい寿司を作るには、既成の概念に囚われない自由な発想を持った、新しい人間の話を聞くことが一番なのですが‥‥」
「そうです、We need new human Come on Neo Hominidae、です!」
「沙良子さん、適当ですね?」
「はい、師匠‥‥」
 その会話の向こうで成田が肩を掴まれガックンガックン頭を揺さぶられているその時。
「店長、この騒ぎは一体何なんだ!?」
「また食べに来ましたよー」
 やって来るマリオ&ロミー。と。
「わっ、な、何だよ、何だよいきなり!」
 御堂と春野、佐久間に腕をがっちりホールドされ、カウンターの内側に連行される2人。
「店長! この2人が新寿司開発に参加してくれるそうです!」
「おぅ、そいつはありがてぇや!」
「え? え? 一体何のお話ですかー?」


 事情説明中。かくかくしかじか。


「あら、そういうことだったんですかー。映画で見たことあるような着ぐるみさんがいるから、何かのお祭かと思いました」
 いや、これ着ぐるみじゃない怖い奴なのよと視線で訴える成田。
「今日は全メニュー制覇しようと思っていたのにっ! こうなったら町を、何より寿司を守るために力を貸すぜ!」
 それよりまず俺を助けてと視線で訴える成田。
「アガリを出すだ、誡!」
「は、はいただいま‥‥!」
「アガリが熱いべ、どうしてくれるだ!」
「す、すいませーん!」

 ・ ・ ・

「でも、寿司作るにはまず何をしなきゃいけないんだ?」
「まずは、手を洗うところからです。紙や服装は清潔に‥‥」
「いや、寿司握る自体は店長がやるんだから、この子らは手洗わなくても‥‥」
 御堂の言葉に佐久間が口を挟むも。
「いいえ! 健全な寿司の青写真はピカピカの手から生まれるんです! さあ、さあ!」
「師匠の言うとおりです! まずは手を洗ってください!」
 畳み込まれる。
 手洗い、うがい。
「で、どんな寿司を作るかだけど」
「握るネタや味付け、握り方などは、当然個々人好みの違いがありますよね。まずはあの巨大トカゲの好きな食べ物を知ることから始めれば、答えは少しずつ見えてくるはず」
「トカゲは、お肉が好きそうですね」
 御堂の助言に、ロミーが言う。だが、店長はそれに首を傾げる。
「だがアイツは那深のチャーシュー寿司をつっぱねたぞ?」
「ふふふ、それはだね!」
 どこからともなく響く声。突然カウンター内から顔を出すグリース先生。
「先生いつの間に、どうしてそこに!?」
「いやいや、まあまあ。‥‥本題に移ろう。何故トト君があの寿司を嫌ったかというと。理由はこれだ」
 先生は自分の頭に乗っている何かを取って見せる。それは。
「かいわれ大根‥‥?」
「そう、トト君はああ見えてまだ子ども。野菜に好き嫌いがあったわけだね! きっと彼には熱いアガリより、冷えたオレンジジュースの方が‥‥」
「寿司に合わないべさ!」
「げふぅ!!」
「ということは、肉を中心にした、野菜を使わないもの‥‥か」
 成田と一緒にボコボコにされるグリース先生を放置して、寿司会議に入る一同。成田はターゲットが増えて叩かれる割合が減ったため大助かり。

 ・ ・ ・

「よし、じゃあこれでどうだ! 牛の丸焼き寿司!!」
 マリオの思い描いた寿司は、牛を丸焼きにして、その肉で寿司を作るというもの。だが。
「それでは、寿司にする意味が少し希薄になってしまうのです。牛肉自体の味が強すぎて、シャリと一緒に食べる必要性が無くなってしまいます」
 御堂が言うそれは、確かに正論だ。この寿司にシャリを付ける意味があるとすれば、トトの腹を満たすのに必要な量を水増しする程度。
「牛肉の味を抑えるか、シャリの方に何か工夫を加えるかだな‥‥」
 店長も悩むが、答えは出てこない。これまでずっと寿司には同じ酢飯を使ってきた。今さら全く別の、主張するシャリと言われても。
「あ、じゃあシトはどうでしょう? 私の国で食べる、チリペーストみたいなものなんですが‥‥」
 ロミーが思いついたことを提案するが、しかしそれがこの店内にあるわけではない。一から作るにも、材料が‥‥
「ありますよ。こんなこともあろうかと、仕入れておきました」
「「それ何てご都合展開!?」」
 そうは言っても、白沢があると言ったらこの店内にそれはあるのだ。白が黒になるのだ。
 早速材料を出してきて、シトを作るロミー。ピリッとスパイシーなそれを白いご飯に適量混ぜて、ジューシーに焼き上げた牛肉を大きめに切ったものを乗せる。そしてサッパリ感を出すため、最後にレモン汁を数滴たらして‥‥
「完成、究極至高の寿司『丸焼き牛シト寿司』!!」
「素晴らしいです。これほどのオリジナル寿司を、よくぞ完成させましたね」
「そうです、師匠のおっしゃる通り、この寿司は素晴らしい、この取り合わせは眩いばかりの輝きを放っています!!」
「さあほら、食ってみろよお前!!」
 出来上がったそれを、すぐさま佐久間がトトに出してやる。まず見た目の段階で喜ぶトトは、早速一貫食べてみると。
「そう、これだべ! これこそ僕が食べたかった物だべさ!」
 あっという間に二貫目も食べ終わると、すぐさまおかわり。しばらく丸焼き牛シト寿司を食べ続けた後、お腹いっぱいな様子でトトが話し出す。
「すまんかった、大暴れしてしまって‥‥おなかが減ると僕はつい暴れてしまうだ」
「食に対する飽くなき欲求ってのは、誰でも共通なものなんだな‥‥よし、トト! 一緒に世界中のうまい寿司を食べ尽そうぜ!」
「賛成だべさ!! だば、まずはこの店の寿司から‥‥」
 勇んで席に座り、寿司が回って来るのを待つ。が。
「店長‥‥確か、もう朝に仕入れた魚はありませんけど?」
「そうだったか。悪いな、今日は店じまいだ」
「「「えぇーっ!!」」」

 ・ ・ ・

 ブーイングの嵐の店内を、ひっそりと立去る者。流浪の御堂。
「きっと、これから先彼らが新たな寿司フロンティアを開拓していくのでしょう‥‥楽しみに、後をつけさせてもらいますよ。うふふふ‥‥」