咎めの頚木中東・アフリカ

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 6Lv以上
難度 難しい
報酬 42.9万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 09/09〜09/11

●本文

 ある日の会議室では、緊迫した雰囲気で議論が進められていた。
 WEAの、中東・エジプト地域における『封印』のオーパーツの確保・防衛・調査を指揮する部会。彼らが話し合うのは、つい7時間前に終了した獣人対獣人の戦闘について。
「襲撃を行った獣人は皆、ダークサイドではないことが判明しております。ただ、ダークサイドの指示で動いていただろうことは、証拠はありませんが確実なところだと思われます」
「あの獣人達は誰一人として身元を示すものを持っていませんでした。そこで死体から歯型を取って検証したところ、4名中2名が『戸籍上既に死んでいる』者だということが分かっています。残りの2名は顎部の損傷が激しく照合に酷く手間取っておりますが、おそらく同じような者達でしょう」
 報告されているのは、『封印』が収蔵された美術館を襲撃してきた獣人について。WEAは見つかる限りの『封印』を回収し、本部で、または厳重な警備をつけ狙われにくい大きな美術館に保管していた。その厳重な警備を突き破って、彼らはやって来た。美術館の防衛に就いていた獣人達は捨て身で攻撃をしてくる襲撃者達を全戦力投入して撃退、壊滅させたが、その隙をついて何者かに『封印』を奪われてしまった。『オシリスの胴体』は現在行方不明である。
 ここまで大規模な、真正面からの襲撃をかけてくるということは。『封印』を集めていたダークサイドにとって、WEAに隠れて活動する必要性が限りなく無くなってきたということ。
「目的の達成の時が、近いというのか‥‥」

 ・ ・ ・

 一方そのころ。神話の遺跡の最下層へ向かうシャルロとジェリコの姿があった。シャルロは『オシリスの胴体』の他『オシリスの頭部』『オシリスの心臓』『棺の鍵』『イシスの卵』を持ち、ジェリコが『扉の鍵』2つを所持している。
 2人が最下層へ入ると、すぐさま小型のNWが出迎えた。それをシャルロは切り裂き、ジェリコは叩き潰しながら奥へ進む。WEAがこの遺跡を調査した時どこかの獅子男が『オシリスの左脚』を持ち去った分かれ道の先には見向きもせず、そのまま最奥部へ。そこには3つの鍵穴のある、巨大な扉。
「ジェリコ。『情報の鍵』を寄越せ」
 シャルロが言う。この扉は3つの『封印』の鍵で封じられている。入退室を封じる『生物の鍵』、全ての情報の行き来を封じる『情報の鍵』、全ての特殊超常的な力を封じる『超常の鍵』。人間や獣人がこの部屋に立ち入るには、最低限『生物の鍵』と『情報の鍵』が必要となる。
「どうした、ジェリコ」
「シャルロ様。この鍵をお渡しする前に、ご教授頂けませぬか。NWを操る、その能力を得る方法を」
「断る」
 即答。沈黙が流れる。
「では、この鍵はお渡し出来ません」
「全てが成功してから、と言ったはずだ。あとはエイを縛り上げて他の『封印』を集め、オシリスを解放すれば終わる」
「それでは、信用が足りません。全てが終わってしまえば」
 瞬間、咄嗟に体を捻り地面に転がるジェリコ。その左腕は肘より先が、シャルロのNW『サラマンドラ』によって黒く焼かれ。
「相変わらず頑固な男だな。だから娘と喧嘩別れをするんだ」
「頑固なのはお前も同じだろう。いつまであんなクソ男に」
 再び『サラマンドラ』の吐く炎がジェリコを襲う。今度はジェリコはそれを軽く回避する。
「あの方の邪魔になり得る者は、誰であっても処分する」
「なら私も、私の邪魔になり得る者は全て叩き潰そう。NW事件がそれで幾らでも減るのなら」
 封印の扉を背にし、手持ちのNWを次々に実体化させていくシャルロ。『サラマンドラ』『大蜘蛛』『バックラー』‥‥ジェリコはヒーリングポーションを1つ飲み干すと、戦闘態勢を取る。
 地下に雄叫びが響く。

 ・ ・ ・

 WEAから下されたその依頼は、ある日の会議から4時間も経たずして出されたものだった。WEAが以前調査し、大量のNWが潜んでいるためにNWごと封鎖した遺跡から、非常に多くのNWが出現、大移動を行っているのだ。遺跡の中にいた小型NWに限らずそれより少し大きめの個体も多く確認されており、WEAも今動員出来る全力を投じてそれらの撃退を行っているが、人手が足りないというのだ。
 しっかりと編成された増援部隊がまとまった数やって来るまで、長く見積もって最大3日。それまでの間で構わないから、NWを撃退し周辺への被害が起きるのを食い止めなければならない。
 そして、もし、もしも可能なら、遺跡の再封鎖か原因究明・根絶を行ってほしい。
「だが、このNWの数は‥‥遺跡の中にはおそらくミテーラがいるだろう。NWの噴出口を塞ぎにいくのは良いが、少しでも危険を感じることがあれば、退くべきだ」

●今回の参加者

 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa2614 鶸・檜皮(36歳・♂・鷹)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)
 fa5662 月詠・月夜(16歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

●1日目
「こりゃまた、随分な数だね」
 現場に到着した一行の感想は、皆MAKOTO(fa0295)のそれとほとんど変わらなかった。WEAの包囲網の一角には、襲い来るNWが視認出来るだけで20。これが全地点に常時いるわけではないだろうが、それでもやはり多い。その1体を敷島オルトロス(fa0780)がぶった斬ってみるが‥‥
「手応えが違うな‥‥単に遺跡の中のザコが溢れたわけじゃなさそうだぜ」
 以前は素手でも叩き潰せたNWが、今回は剣で両断も出来ない。一応、倒せはするが。
「とりあえず、WEAの援護に入りましょう‥‥行動はひとまず作戦通りに」
 シャノー・アヴェリン(fa1412)の言葉に全員が頷き、それぞれに散開する。


 空中から見た戦場は、まさしく危機的状況だった。1体2体を防ぐために6人いるところもあれば、10体20体を防ぐのに6人しかいないところもあった。シャノーはNWが出てくる遺跡の上空近くに待機し、時々は出てきたNWに銃弾を叩き込みながら、主に飛行部隊へ指示を出す。
 小型の雑魚NWが徒党を組んでいるところに、相沢 セナ(fa2478)がブーストサウンドで音波攻撃を加える。その1発で倒れるNWはいなかったが、しかしその集団はセナを敵と認識し襲ってこようとする。空中にいるセナには、ほとんど全てが届きすらしないのだが。
 他方、鶸・檜皮(fa2614)もシャノーから連絡を受け、別のNWの集団にIMIUZIで弾丸の雨を降らせる。破雷光撃や飛羽針撃といった獣人能力は、未だ遭遇していない中型以上のNW用に温存しておく。
 こうして、WEAの最終防衛ラインへ向かう集団を足止めしておいて。
 セナの方へ爆走してくるランプレッサ。敷島ポーレット(fa3611)が運転するその車が2体のNWを弾き飛ばし、車の窓からほぼ全身を乗り出していたオルトロスが両手の剣をぶん回しながら飛び降りて大暴れする。泣く子はいねぇが〜ととにかく暴れる。今回の大流出事件を鎮圧しなければならないのはそうだが、オルトロスにとって目的はそれ以上にWEAを驚かせることにある。WEAに突出した戦闘力を見せ付ければ、『封印』の安全な保管のため、その所持者に自分が選ばれるかもしれないという妄想からだ。その昔、ジェリコという男一人相手に軽く放り投げられたことは言わないでおこう。
 ポーの車を追ってくるNWには、もう一人後部座席から降りてきたマコトがNWとボディランゲージで会話。パンチ=「帰れ」、キック=「ダウンだ」、必殺のエルボー=「あの世に行け」。了解したNWは次々に砂漠の砂へダウン。暇が出来たらコアを砕いてまわってゴミ消去。
 また鶸の方には、別の爆走者が。俊敏脚足や翼を発動させてやって来る5人。ダークデュアルブレードを振りかざす神保原・輝璃(fa5387)、光学迷彩で姿を消している月詠・月夜(fa5662)、そして3人のベルシード(fa0190)。灰代傀儡で作り出された偽物のベル2人は先行してNWの注意を分散させると、そこにベル本体と月夜の銃撃、そして輝璃の斬撃が続けて加えられる。辛うじて攻撃から逃れた(射線や輝璃の移動ルート上にいなかっただけとも言う)NWは、ベルの狂月幻覚で同士討ちをさせられたり、再びの鶸の銃撃で撃ち抜かれたり。

 こうして、防衛ラインへ向かわれては困る集団を中心に遊撃を行う面々。それでもステージが広すぎて対応出来ない分や、数が多く遊撃隊が討ち洩らしたNWは、シャノーやポーがWEA防衛隊に連絡を入れ、防衛隊の戦力を幾らかずつ移動させてライン崩壊を防ぐ。
 強力な敵がほとんど存在しないおかげで、今までのところでは全体的に優位に戦闘は進んでいる。

●休憩時間と情報交換
 WEAの最終防衛ラインまで一度退き、休憩を取る一行。NWの膨大な数はやはり無尽蔵ではなかったらようで、1日目の駆除の開始時と比べればずっと楽な状況になっている。おかげで、夜はまとまった休憩時間を取ることが出来た。一応、見張りとしてポーが起きている。ポー自身は昼間時間の空いた時に車の中でクーラー効かせて快適に休んだので罰ゲーム。でもないが。
 獣人能力の回復のために睡眠に入った皆が、先まで話していたのはエジプトを中心に起きている『封印』に関係した一連の事件について。

 はじめは、一枚の石板だった。シャルロは『呪い』の文字が書かれたその石板から神話の遺跡のことを調査し、最下層に達した。最下層でオーパーツのシリーズ『オシリスの封印』『イシスの封印』のことを知った彼女は、遺跡の管理者であるセト神の子孫に接触するなどして『封印』を収集し、同時に『封印』の危機を察知したWEAと、シャルロの目的に興味を持つ御影 永智も『封印』の回収に動き出した。そして。
「もう3ヶ月が経つのですね。それを入手してから。あの時に僕らが見たNW、あれがミテーラだったのでしょうか‥‥」
 一連の争いの中で、オルトロスは『左脚』を入手することになった。それを入手した時に遺跡へ入っていたセナは、最下層に多数いたNWとは明らかに違う、異様な圧力を持つNWのことを話した。思ってみれば、ほぼ間違いないだろう。あれがミテーラ、もしくは今回のNW噴出事件の元凶。

(「ジェリコは、どうなったんかなぁ‥‥?」)
 ポーが思い出すのは、仲間を襲撃してまで『封印』を手に入れ、シャルロとの交渉に向かった虎獣人、ジェリコのこと。別れる時、『封印』以外にも勝算があるようなことを言っていたが、今はどうしているのやら。最も良いのは、ジェリコがNWに対抗するための力を得て、かつ無事なことだけれど。
 先の会話では、最下層へのギミックや最下層の作りなど、遺跡内部のことについても触れられていた。このままの調子でNWの撃破が進み、余裕が出来たならば、3日目は遺跡への突入となるだろう。皆もそこそこその気のようだ。
 足の速さと運転免許と想いだけで、どこまで行けるのか。

●2日目
 状況は好転してきた。
 皆の行動は基本的に1日目と変わらず、シャノーらが敵の数の多い場所を知らせ、遊撃部隊がそれを始末する形。1日目よりも敵の集団の構成数が少なくなっていることや、集団自体の数が減ってきているおかげで、WEAの部隊も押し留めるに甘んじることなく、遺跡に向かって前進が出来るようになった。
 比率の上では増えてきた中型のNWには、接触・開戦より前に鶸やセナの獣人能力が何度も直撃し、ほぼ戦闘不能状態まで追い込んでから接触、コアをぶち抜いて終わりという戦法が多く取られた。基本的に中型のNWは小型のものより耐久力が高くなっている程度で、歴戦の獣人達には相手にならず。
 人海戦術を取れなくなってきたNWは、完全に押され始めた。


 そして、陽が落ちた頃。
「増援が来たんだってよ」
 ベルが伝える、WEAの増援部隊到着の報。3日かかるところを押して2日で準備し、NWの数が減ってきたというのもあって多少数が足りない程度ならと急ぎ派遣されてきたものらしい。これによって包囲網はほぼ完璧になり、遊撃部隊の仕事はより減少する。
「それじゃ、事前の打ち合わせどおり、明日は遺跡に行ってみようか」
 打ち合わせでは、3日の午前中までに包囲網が遺跡から半径15mほどまでに狭まるか、増援が到着したなら、遺跡へ突入するということになっていた。そしてついさっき、少し早めに条件が揃った。
 マコトの言葉に頷き、皆は遊撃の仕事もそこそこにして身体を休めつつ、次の朝を待つ。

●3日目
「いいですね、日差しが入ってこないのは」
 帽子を脱ぎながら、セナが言う。
 遺跡の内部には直射日光が差し込まず、日焼けの心配も無ければ日射病の心配も無かった。月夜が水筒の水を飲み、自らのヘッドランプをポーに渡す。月夜は内部で光学迷彩を使用するのに、そんなもの被っていては存在がばれてしまう。
 奥に入っていくほど、発掘時のような巨大照明の無い遺跡内は暗闇に沈んでいった。ヘッドランプや懐中電灯、そして持っている者は暗視用ゴーグルを時々用いながら、第2階層へと進む。
 と、途中に何か蠢くものがあった。
「何だ、見覚えのある野郎が2人揃って」
 オルトロスが発見したのは、負傷したジェリコと、彼に肩を貸す狸獣人、御影 永智。ジェリコの言っていた『勝算』とは、同じくシャルロを敵に回している彼との共同戦線だったのかもしれない。
「おや、お友達が入ってきたよ? ジェリコ」
「ジェリコ、どうしたんや」
 ポーが駆け寄り、持っていたヒーリングポーションを飲ませる。傷はすぐに塞がるが、まだ完治とはいかない。
「最下層の、扉の仕掛けでここを封鎖しろ。あそこさえ閉めればNWは止まる」
「何があったんだ、この遺跡で」
「シャルロが『封印』を解いたんだよ。オシリスと、イシスのね」
 鶸が尋ねると、永智が代わって答えた。
「何? ったく、先に使われちまったか‥‥だが、『左脚』は俺が持ってるぜ? 全部揃わなくても何とかなるもんなのか?」
「『封印』は、全て揃って一つの効果を発揮するものではない。14それぞれが14の力を封じているだけだ。オシリスは左脚以外の封印を解かれれば、出てきて暴れるくらいは出来る」
「そのオシリスとやらが、ミテーラなのか?」
「いや‥‥ミテーラと呼ばれるNWは、イシスの方だ。オシリスはイシスの護衛とでも言うべきNW。どちらもその動きはまだ、封じられているが」
「『封印』を解いたのはシャルロ‥‥ですね?」
「そうだ。あいつはもうこの遺跡にはいない。『封印』を解くだけ解いて、帰った」
「なら、今のうちにぶっ潰せるんじゃねえのか? そのオシリスとイシスとやらを」
 オルトロスが尋ねると、ジェリコは首を横に振る。無理だ、と。奴らは身動きを封じている程度で倒せるNWではないと言う。
 だが、それでも奥へ入ってみたい面々は多い。遺跡への好奇心や、今ミテーラを倒さなければ被害が広がるという使命感、そして『封印』勿体ねーなという獅子頭。
 一人で歩くことは出来るジェリコを遺跡の入り口までポーが送っていき、他の皆は最下層への通路へ向かう。永智はどちらについていく様子も見せず、ポーが戻ってきた時には姿を消していた。

 最下層の隠し通路の先。視覚トラップで行き止まりに見せかけた丁字路の右側。『左脚』があったのとは反対側のそこには、セナが3ヶ月前に見たままの姿で、巨大な何かがいた。緑色の一対の瞳は、今はどこか別の所を見ていて。それが、おそらくミテーラ『イシス』。
 イシスに対し、言霊操作での行動封じを試みるベル。だが、それが聞いた様子は全く無く。歩いてこそ来ないものの、首だけはこちらを向く。
 鶸が飛羽針撃を、月夜が空圧風弾を放ってイシスのコア破壊を狙う。が、それらはイシスの腕に防がれ、そして。
 お返しとばかりにイシスの口から放たれた漆黒の弾丸が、ベルに見舞われる。その超高速の巨大な弾丸の直撃を受けたベルは、壁に打ち付けられると身体を地に倒す。外傷は無いが、身体がひどく冷たい。一人で歩くことも難しそうなほどに、体が動かない。
「ダメだな、こりゃ‥‥こう狭くちゃあれは避けられねえ‥‥逃げるぞ、仕方ねぇ!」
 輝璃の声に一行は急ぎ撤退し、オルトロスが担ぐベルにシャノーがヒーリングポーションを飲ませながら最下層を封じ。何とか遺跡を後にするのだった。