神話との戦い中東・アフリカ

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 9Lv以上
難度 難しい
報酬 118.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/05〜10/07

●本文

●数日前
「ああ、シャルロ? 意外と脆いものだね、WEAも。この前のことで消耗してたのかな。‥‥え? 分かってるよ。戻る戻る。注文の品は壊さないよう、気をつけるよ」
 御影 永智は携帯での通話を切ると、その場を後にした。

●最悪の事件
 エジプトのWEA支部にて、数人の男達が沈痛な面持ちで話をしていた。モニターには今現在現場で起きていることがリアルタイムで中継され、被害の状況は次々に電話やFAXで入って来る。
 最早、手持ちの通常戦力だけではどうにも出来ないことは明白だ。今は、つい先ほど電話で集合を依頼した者達が到着するのを待つだけ。
「ただのNWなら、獣人としての能力に優れた者ばかりを集めずとも、銃の一斉射で時間稼ぎ程度は出来るというのに‥‥」
「通常の物理的な攻撃を全て無効化‥‥加えてあの戦闘力‥‥」
 誰も言葉が続けられなかった。何をどう言っても、『今さらのこと』。

 ・ ・ ・

 集まった面々は、詳しい説明は車内ですると言われてすぐに大型ワゴンに詰め込まれると、どこかへ向けて出発させられた。
「これから、皆への依頼の詳細を説明する。これを聞いて依頼を降りるという者がいれば、それでもいい。降りる者は現地到着後、すぐこのワゴンで折り返しカイロへ戻ってもらう。こうして依頼の説明も移動しながら行わなければならないほど、事態は切迫している」
 配られるのは、とある遺跡についての調査報告書。そこは『封印の遺跡』と呼ばれており、大量のNWが封じられていた場所だ。少し前にはそこからNWが流出して事件になっている。
「簡潔に説明する。その遺跡には、太古の昔14のオーパーツによって封印された強大なNWが2体、存在している。その封印が解かれた。封印を解いたのはダークサイドの手の者だと考えられる。以前から、『封印』のオーパーツをWEAと奪い合っていた」
 次に手渡されるのは、簡単に人間を描いたような絵。左側手足には丸印。
「『封印』は、オシリスというNWを12に分けて封印していた。その力の多くが解放され、他の封印の効果を振り切って、今地上に出てきた。9の封印が解かれ、1つは部屋の封印だったため、残っているのは2つ分。そこが弱点だとは考えられるが‥‥とにかく、君達にはこのオシリスを退治してもらいたい。既に、この周辺にいるWEAの戦力だけでは立ち向かうことは出来ない」
 NWオシリスは両手に鋭い棘を持ち、漆黒の弾丸を口から放つNWだという。接近しようとした獣人は漆黒の弾丸に撃ち抜かれると外傷を受けないにも拘らず、倒れ、二度と目覚めなかった。運よく接近出来た者は、棘に貫かれ見た目明らかに絶命した。
「しかも厄介なのは、このNWにはオーパーツでの攻撃や能力での攻撃でしか被害を与えられないということだ。華清池に現れた、白いNWとやらと同様のバリアのようなものだと考えられる」
 説明を続けていた男は、そこで一度言葉を切る。そして。
「WEAから出来るだけのバックアップはするが、それでも死の可能性が高い仕事だ。最初にも言ったが、受ける受けないは自由だ」

●今回の参加者

 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa1435 稲森・梢(30歳・♀・狐)
 fa2431 高白百合(17歳・♀・鷹)
 fa2614 鶸・檜皮(36歳・♂・鷹)
 fa3014 ジョニー・マッスルマン(26歳・♂・一角獣)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa5271 磐津 秋流(40歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

「見えた‥‥あれだな」
 片倉 神無(fa3678)が視覚に補正を加える能力を使用してオシリスの姿を捉えると、鶸・檜皮(fa2614)、磐津 秋流(fa5271)の2人も続いてオシリスを見学しやすい地点に視覚能力の基点を置く。3羽ガラスならぬ3羽タカが、次々にコアの位置や狙えそうな部位の情報を皆に伝える。敷島オルトロス(fa0780)が所持していてまだ封印されている『左脚』、『左腕』には動きが見られない。冷凍された部位を無理やり引きずって動いているように見える。
「では、私は灰代傀儡を使いますね。動きなどの調査、お願いします」
 さっきまでWEAにポーションなどの補給依頼を行っていた稲森・梢(fa1435)が、トランシーバーの通信を切って能力を使用する。黄金の枝などのオーパーツはWEAが既に防衛線にて使用してしまっていたが、ポーション類は何とかかき集めて持ってきてくれるとのことだった。ただし、1時間後。
「動きはどうですか? 速さとか、羽根がついてないかとか‥‥」
 先のむさ苦しい3羽タカと一緒にしたくない4羽目のタカ、高白百合(fa2431)がそう問うと、磐津が「小さい翼はあるが、動きは速くない」と答え、片倉が「あの羽根じゃどう見ても飛べそうにはないな」と補足する。
「HAHAHAHA、DEADorALIVEなシチュエーションだGA、もっと肩の力抜いていこうZE〜〜!! そうかあれか、占いで『メカカッセーと破滅の勇者達』の続編は無いって出たから、皆落ち込んでるのKA〜〜?!」
「NGカレー欲しいか?」
「‥‥とまあジョークは其処までにして本番準備だNA!」
 ジョニー・マッスルマン(fa3014)が大声で話すのに、不機嫌なシェフオルトロスが釘を刺す。あの時のカレーは実際にオルトロスが作ったものだから、再現は可能である。
「あの、どうかしたんですか? すごく不機嫌そうですけど‥‥」
 おそるおそる夏姫・シュトラウス(fa0761)が尋ねると、オルトロスはその不機嫌さをまったく隠そうともせずに愚痴り始める。
「当たり前だろ、あんな不っ細工なもんを解き放つためだけに俺の『封印』を使いやがって。コレクションってのはな、どれか一つでも足りなかったり、開封済みだったりしたら価値がガタ落ちするんだ。お前も嫌だろうが、寄せ鍋の材料揃えて買ってきたら、鱈のパックが破けてたってことになったら」
「‥‥ま、まあ、そうですね‥‥」
 下手すると世界中を震撼させかねない大事件、主婦対スーパーの戦いに変換。
「身代わりが、そろそろオシリスと接触する。少し静かにしてくれ」
 檜皮が一度獅子頭を黙らせておいて、調査に集中する。梢が放った身代わりは、オシリスに50m程の所まで接近していて。
 と、片倉が「飛べない」と言っていた翼を一杯に広げ、オシリスが跳んだ。巨体を宙に舞わせると、大きくない翼で浮力を最大まで得ながら短距離を滑空。歩くよりも遥かに高速で灰の身代わりを踏み潰す。
「‥‥漆黒の弾丸とやらは撃ってくれないみたいだな。敵の選り好みでもしてんのかね?」
「まあいいだろ、大体の様子は分かったんだ。放っておけば他への被害もあるだろ。さっさと潰しにいくぜ!」
 オルトロスがそう言って場を締める。確かに周辺への被害は心配だ。だがきっと、彼は早くオシリスを殴りたくて仕方がないだけだろう。
「‥‥こいつが最後の一本にならなきゃいいが」
 片倉が煙草の吸殻を揉消してそう言ったのが、出陣の合図となった。

 ・ ・ ・

 距離300m、飛羽針撃の射程ギリギリのポイントまで進撃し、4人ずつ2組で待機する。各個撃破の危険を減らすことで、有効打の数を確保する狙いだ。
「皆さん、準備はよろしいですか?」
 梢がトランシーバーで別働隊に尋ねると共に、同じ場所にいる3人にも聞く。誰も、タイムとは言わず。
「では‥‥覚悟を決めて、いきましょう。‥‥‥‥放て!!」
 梢の指示と同時に、こちらの隊からは磐津と百合が、向こうの隊からは片倉と檜皮が飛羽針撃を全力で発射する。それを見届けることなく、梢は通信相手を切り替え。WEAの獣人達に援護攻撃開始を要請する。すると別方向からも、数発の飛羽針撃が飛んだ。
「次、オシリスの状態を確認しながら接近です! 油断をしないように!」
 一斉に、皆が走り出す。檜皮を除いた3羽タカとタカ紅一点は飛翔し、自身の持つ銃器や獣人能力をオシリスに放てる位置まで移動する。ジョニーはバイクで突っ込み、梢は俊敏脚足を発動させてゆっくりと様子見。オルトロスと夏姫、檜皮は最後の一押しのために梢よりも更に後方を行く。
 オシリスへの超長射程攻撃は、コアを狙ったものの察知され、背中の羽根と右脚を潰すに留まった。だがそれでも、未だ効いている『左脚の封印』によってオシリスの移動を完全に封じたことは大きい。
 まずはじめに射撃体勢に入った磐津が、ARASHIで連続して封魔の弾丸を3発叩き込む。事前の予定では蔦の弾丸を撃つつもりだったが、オシリスの行動は既に封じてあるために優先度が低くなった。
 放った弾丸はどれもオシリスに効いた様子は無く、小さく舌打ちして通常弾での攻撃に切り替える。少しでもダメージを与えて、カースブリットでの追撃を狙う。
 百合はオシリスを破雷光撃の射程内に捉えると、目下オシリスに向けて爆走中のジョニーの位置を確認する。大丈夫、巻き込まない。敵の攻撃に耐えられない自分が、この戦いの勝利に貢献するには。
 自身の持つ全ての力を、敵に先駆けて叩き込む!
 一瞬の集中、発動する全力の破雷光撃。それが百合の指先から放たれたのと同時に、巨大な闇が百合を包み込む。破雷光撃へのクロスカウンターで飛んできた闇の弾丸の直撃を受け、百合は一撃で墜落した。
 オシリスへの破雷光撃のインパクト。直後、突っ走るジョニーがバイクを乗り捨て特攻させようとするが、飛んできた闇弾を回避するために早めにハンドルを切り、バイクはその辺に。
「SHOOOOOOTだZE!!」
 飛び降りたジョニーは、オシリスの顔面目掛けて淡光神弾を全力でぶちかます。が、それは瞬時に回避行動に移ったオシリスの頭部左側面に浅く当たっただけで、致命傷にはならず。直後、撤退しようとしたジョニーを巨大な棘が襲い、間一髪で避け切ったところに漆黒が訪れた。
「ちっ、予想通りとんでもねぇ怪物だな‥‥だが、あくまで予想通り。それ以上ってワケじゃねえ。‥‥変身っ!!」
 オルトロスが意識を集中して叫ぶと、その全身を漆黒の外骨格が覆う。『アウトキャスト・インセクター』によってオルトロスがトランスした姿、漆黒のヘラクレス。次々に仲間が倒れていく状況を好転させるため、ドカドカ走り、途中から飛翔。
「心を落ち着けて‥‥オシリスを倒す、そのことだけに集中するんだ」
「オシリスを‥‥敵を、排除する」
 それから数瞬遅れて。檜皮と夏姫もシードバンクル『アウトキャスト・マシーン』を使用する。この二人でのマシーンズへのトランスは初挑戦だが、果たして‥‥
「‥‥I the attack(俺が攻撃を)」
「‥‥I the defense(私が防御を)」
 人工物など何も無い広い砂漠に、甲高い機械音が響き渡る。マシーンズ、トランス完了。
 その一方で。
「俺が牽制しとく、嬢ちゃん連れて下がれ!」
 片倉がトカレフとメギドの炎の2丁の銃を用いてオシリスを銃撃する。そのどれもが命中はするが、オシリスに大きなダメージは与えられていない。その後ろで、磐津がカースブリットを一発撃ち込んでから、百合を担いで飛び立つ。
「ちゃんと戻って来い。始末書に死亡者のことなど書きたくない」
「分かってる、だから下手に死亡フラグ立てるようなこと口走る前にさっさと帰ってくれ」
 視界の隅でカブト虫が接近して来るのを捉えつつ、水晶の22口径弾を撃つ。やはりこれも有効打にはならず、仕方ないと撤収しようとして。
「アイツも転がってるのか‥‥っ!」
 見つけてしまった、ぶっ倒れているジョニー。だが、オシリスのすぐ近くにいる彼を助けに行くにはもう間に合わず。
「目を覚ましてください! 引きずりながらでは逃げ切れません!」
 駆けつけた梢が、デカいジョニーの身体を引きずってオシリスから遠ざかろうとする。しかし、そんな狙いどころをオシリスが逃すはずもなく。黒い弾丸が二人を襲う。
「‥‥く、来週には、レギュラー番組の収録が‥‥こんなところで‥‥っ」
 全身から力が抜け、倒れこむ梢。残る力を振り絞って懐からヒーリングポーションを取り出し、飲もうとして。
(「一撃喰らってこのダメージ。‥‥二発目を喰らうと?」)
 急いで隣に倒れるジョニーの口元に手を当てる。呼吸は‥‥今にも止まりそうで。
 梢はジョニーの口に液薬を流し込み終えると同時に、意識を失った。
 止めを刺そうとオシリスが2人に向け口を開き始めた瞬間。
「テメエ、そのツラこっちに向けやがれ!!」
 ヘラクレスがオシリスの周囲を旋回しながら、接近と脱出を繰り返す。その行動にまずは元気な邪魔者から始末しようと思ったか、オシリスはオルトロスをターゲットに闇の弾丸を放とうとするが。
「油断したな、黒焦げにしてやる!!」
 マシーンズの中枢を受け持つ檜皮が、全力の破雷光撃をオシリスに撃ち込む。強烈な雷撃がオシリスの上半身を黒く焼き、封印されていて何の力も持たない左腕が焦げ落ちる。追撃を仕掛けようとするマシーンズだが、バンクル全体に細かいヒビがびっしりと入り、トランスが解除されそうになる。
 大きく体勢の崩れるオシリス。それを好機と見て、オルトロスがコアに止めの一撃を叩き込むため懐へと飛び込む!!
 その、瞬間。ふと妹の顔が脳裏を過ぎった。何となくバイクでコケたような顔をしていた。
「うぐ‥‥っ!!」
 オルトロスの強固な漆黒の鎧、その背中から、オシリスの棘が顔を覗かせていた。棘が刺さったままだからか、出血は酷くはないが。オシリスの腕力と自身の突撃の速度によって、オルトロスは空中で串刺しになっていた。
「‥‥I the attack!(私が攻撃を!)」
「‥‥I the defense(俺が防御を)」
 トランスアウトを寸前で止めたマシーンズが、その中枢を夏姫に替えて爪を振りかざす。超高速で振動する爪が、オルトロスを拘束するオシリスの右腕を切断する。オルトロスはそのまま腕と一緒に地に落ち‥‥ない。
「セイギノミカタがこんなところでくたばっちまったら‥‥締まらねぇだろ?! なぁオイ!!」
 背の羽根が大きく展開し、オルトロスを再び空へと運ぶ。コアの位置は首の付け根。その一点を目掛け、再び突撃する!
 両手両足を失ったオシリスが、最後の抵抗手段である闇の弾丸を発射する。が、それは寸前でオシリスとオルトロスの間に割って入ったマシーンズに直撃し、止まる。マシーンズは直後にトランスアウトし、二人は砂漠へと落下する。二人のバンクルは、共に砕けて風に散り。
 その二人と入れ替わるようにして、漆黒の矢がオシリスのコアを捉えた。
「てめぇはッ! ここでッ!! 永遠に寝てろやッ!!!」
 腹部にオシリスの巨大な棘が刺さったままの姿で、コアに全身全霊を込めた拳を叩き込むオルトロス。オシリスのコアはガラス玉が割れるように粉々に砕け、そしてオシリスの巨体が揺らぎ、倒れ、消滅していく。
 そして、ラストアタックと共にオルトロスはトランスアウト。漆黒の鎧と共に塵となった最後のバンクル、インセクター。その塵は、地面に落ちるオルトロスを最後まで守ってから、砂漠に還る。
 ここに、神話は終焉を迎えた。

 ・ ・ ・

 片倉と磐津が呼んだWEAの部隊によって、傷ついた者達は皆回収され、すぐさま治療を受けた。身体の怪我はそうして治ったが、治らないものも多かった。バンクルは全て失われ、死の恐怖は皆の精神をそれぞれに多かれ少なかれ蝕んだ。命のやり取りに慣れている者でさえ恐ろしさを感じるのだ、百合などは「終わりましたー」などとWEA職員にのんきに言いつつも、しばらくは救護車から降りられなかった。
「‥‥これも始末書を書くのか‥‥?」
 正しくは報告書だ、磐津。だがとりあえず、今は必要無い。必要なのは、これから無事に日常に戻るための、休養と平穏だ。