神殺しの伝説中東・アフリカ

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 9Lv以上
難度 難しい
報酬 118.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/05〜10/07

●本文

●前日
「これで、オシリスやイシスが出てくるには充分だろう」
「足りない分は?」
「シェイド様にあいつらを献上した後で集め直す。今は幾つか足りない方が、手綱を握りやすい」
「そー。まあ、飼い犬に手をかまれないようにね。僕は見てるから」
 ジェリコと共同戦線を張ることで再びシャルロの前に姿を現した御影 永智は、今こうして再びシャルロの前にやってきていた。しかし今回はシャルロの側として。
 事件の顛末を客席最前列で見たいと言っていた彼は、こうして今、舞台上に乗り出す形で成り行きを眺めている。
「あの虎男はもういいの?」
「ああ。用済みだ。今は代わりの手駒がいる」
「正直に言うね。ま、今さら隠すことでもないか。ところで、実は今まで知らなかったんだけどさ。ここに封印されている『オシリス』と『イシス』って何?」
「『イシス』は、NWのミテーラだ。いわゆる女王蟻。NWを産み、増やす。『オシリス』は‥‥そうだな、元・女王蟻とでも言えばいいか?」
「元‥‥?」
「厳密には違うが姑だ。大抵の場合嫁より強い」
「なんだ、そういう意味か」
 場の空気に合わない会話をかわしつつ、二人は最下層の最深部へと到達する。封印の扉を通り、オシリスが封じられた棺に向けて、集めた『封印』のオーパーツを一つずつ使用、封印を解除していく。
 やがて。
 ゴン! と棺の内側から蓋を叩く音が聞こえ、棺から1本の棘が生える。それは、棺の中でオシリスが行動を始めたということ。WEA所持の『鎖の封印』がオシリスを未だ封じているが、それも一つだけでどこまで保つか。
「放っておけばそのうちオシリスは出てくるだろう。次はイシスだ」

●最悪の事件
 エジプトのWEA支部にて、数人の男達が沈痛な面持ちで話をしていた。モニターには今現在現場で起きていることがリアルタイムで中継され、被害の状況は次々に電話やFAXで入って来る。
 最早、手持ちの通常戦力だけではどうにも出来ないことは明白だ。今は、つい先ほど電話で集合を依頼した者達が到着するのを待つだけ。
「ただのNWなら、獣人としての能力に優れた者ばかりを集めずとも、銃の一斉射で時間稼ぎ程度は出来るというのに‥‥」
「通常の物理的な攻撃を全て無効化‥‥加えてあの戦闘力‥‥」
 誰も言葉が続けられなかった。何をどう言っても、『今さらのこと』。

 ・ ・ ・

 集まった面々は、詳しい説明は車内ですると言われてすぐに大型ワゴンに詰め込まれると、どこかへ向けて出発させられた。
「これから、皆への依頼の詳細を説明する。これを聞いて依頼を降りるという者がいれば、それでもいい。降りる者は現地到着後、すぐこのワゴンで折り返しカイロへ戻ってもらう。こうして依頼の説明も移動しながら行わなければならないほど、事態は切迫している」
 配られるのは、とある遺跡についての調査報告書。そこは『封印の遺跡』と呼ばれており、大量のNWが封じられていた場所だ。少し前にはそこからNWが流出して事件になっている。
「簡潔に説明する。その遺跡には、太古の昔14のオーパーツによって封印された強大なNWが2体、存在している。その封印が解かれた。封印を解いたのはダークサイドの手の者だと考えられる。以前から、『封印』のオーパーツをWEAと奪い合っていた」
 次に手渡されるのは、簡単に人間を描いたような絵。左側手足には丸印。
「『封印』は、イシスというミテーラを、その能力を『行動』と『産卵』に分けて封印していた。その封印が解かれたらしい。君達にはこのイシスを退治してもらいたい。既に、この周辺にいるWEAの戦力だけでは立ち向かうことは出来ない」
 ミテーラ・イシスはオシリスと同様の漆黒の弾丸を口から放ち、手からは黒い波動が放たれるという。遺跡内に侵入して帰った者はいないため詳細は分からないが、内部でイシスが活動しているにも拘らず誰もイシスを発見出来ず連絡を絶っていることから、普段はどこかに潜んでいて、獲物が来ると死角から忍び寄ってくるのかもしれない。
「しかも厄介なのは、このNWにはオーパーツでの攻撃や能力での攻撃でしか被害を与えられないということだ。華清池に現れた、白いNWとやらと同様のバリアのようなものだと考えられる」
 説明を続けていた男は、そこで一度言葉を切る。そして。
「WEAからのバックアップはない、死の可能性が高い仕事だ。最初にも言ったが、受ける受けないは自由だ」

●今回の参加者

 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0204 天音(24歳・♀・鷹)
 fa0750 鬼王丸・征國(34歳・♂・亀)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa2529 常盤 躑躅(37歳・♂・パンダ)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)

●リプレイ本文

 薄暗い遺跡の中を、メテオブレードと黒十字の軌跡が奔る。鬼王丸・征國(fa0750)と犬神 一子(fa4044)が先頭に立ってNWを駆逐しつつ、一行は最下層へ向け突き進む。
 最下層へ降りる通路の奥を、鋭敏視覚の能力を発動させた天音(fa0204)が覗き見る。そして、無言で「来い」と合図。まずはベルシード(fa0190)が灰代傀儡で作り出した身代わりが先行し、その後を鬼王丸と犬神、残る6名がさらに後に続く。ここまで戦闘組と待機組を明確に分けているのには、理由がある。
(「ブラットナイト、これがラストダンスです」)
 御影 瞬華(fa2386)が心の中で語りかける相手は、アブシンベル神殿攻防戦で大きく傷んだシードバンクル、その中の彼女の半身『ブラットナイト』。残るトランスはおそらく1度が限界、その力を対イシス戦に温存するため、瞬華は積極的に戦闘には参加せず、念のために銃を手に持っているだけ。『ヴァルキュリア』を所持する覆面男、常盤 躑躅(fa2529)も同様で。彼は後方の集団にいるだけでなく、奇襲を回避するため光学迷彩の能力で姿も隠している。
「思ったより、NWがいないな‥‥河野辺君、そっちは?」
「河辺野、です。‥‥ええ、見当たりません。上の様子から、地下はもっとうじゃうじゃしていると予想していたんですが」
 早切 氷(fa3126)の問いに答えてから、念のためにと河辺野・一(fa0892)は夜の護符、ラーの瞳とNWサーチのオーパーツを使用するが、夜の護符は効果範囲が広すぎて地上のNWまで探知してしまうため正確なことは何も分からず、ラーの瞳は時々やってくる小型のNWに反応しているのかどこかに隠れているイシスに反応しているのか分からない。
「『産卵』の封印が解かれたという話でしたが‥‥この分だと増援はないですかね?」
「たった今出産して、こちらに行進中かも知れんからの。油断は禁物じゃな」
 メテオブレードで飛び掛ってくるNWを叩き斬りながら、鬼王丸が言う。
「飲みどころが難しいですね、ゾンビパウダーは」
「そうそう、この錠剤だったら、すぐに飲み込めるんだけどな」
 ザコNWの攻撃を無視してイシスと戦えるよう河辺野が用意していたゾンビパウダーは、名の通り粉末だ。効き目は6分間と長くなく、戦闘が始まってから飲むには不適切だ。獣の咆哮や躍動する獣脚は飲み込もうとすればすぐに飲み込めるが。節約しておいて使用出来ないのでは意味が無いため、鬼王丸が持ってきた水で飲み込む。
 と、その時。犬神が足を止め、周囲に感覚を這わせる。何か、自分達の足音や話し声とは違う音が‥‥

 ビダッ

 暗がりの中、一行の前に突如飛び降りた黒い影。それは一行の先頭を歩いていた身代わりを踏み潰すと、直後その姿を消した。
「天井じゃ! 明かりを向けるのじゃ!!」
 天音が叫ぶ。
 各々にヘッドランプや懐中電灯を向けると、天井に張り付いた黒い人型の何か。
 暗闇を切り裂く閃光。天音の放った全力の破雷光撃がイシスに向かう。それはイシスを眩い光で包み、そして。
「やったか?!」
「暗視装置が少しいかれた! 見失ったぞ!」
「暗視ゴーグル外して! 僕が明かりをつける!」
 ベルが放った小さな火の玉と人工的な明かりで光量が増え、一時的に周囲が明るくなる。薄ぼんやりと、揺れる遺跡の中を、薄い煙を引きずってイシスが跳ねる。
「指先を掠っただけじゃ、油断するでないぞ!」
「トランスっ!!」
 『アウトキャスト・ビースト』装着、真紅のブラットナイトにトランスする瞬華。集中のため動きの止まったところを狙おうとしたのだろうイシスの行動は、立ち塞がる犬神の黒十字が抑え。
 槍の穂先を避けて天井に移動するイシス。河辺野は獣の咆哮を口に含み、同じく躍動する獣脚を服用しようとした氷はイシスが手から放った漆黒の弾丸を喰らい薬を取り落とす。鬼王丸は接近し氷薄水刃を放つが、間一髪のところで避けられた挙句に黒い波動の直撃を受けて地に沈む。
 しかし、その攻撃の隙を突いた犬神が虚闇撃弾を放ちながら接近し、黒十字を左腕に突き刺す。イシスの尻尾で犬神が弾き飛ばされると、黒十字が刺さったままで動きの鈍い左側から氷が氷塵槍を投擲、次いでライトバスターを持って接近、攻撃。同時に河辺野とベルが発生させた灰代傀儡が接敵、さらに氷塵槍を回避し身代わりに手を出したイシスを、地壁走動で後方に回った河辺野がレイジングスピリット、十握剣、ライトバスターの両手+尻尾の三刀流で襲う。レイジングスピリットは身代わりを潰し終えた右手が掴んで止め、ライトバスターは左脚がいなす。しかし、最後に残った十握剣はイシスの右肩口に突き刺さった。
(「イシスの反応速度が速すぎるの‥‥1秒後の行動を予測出来ても、着弾までの時間でガードを戻されてしまうとは‥‥」)
 乱戦の中、飛羽針撃によるコアの狙撃を狙っていた天音は、その結論に作戦を変更する。少しでもイシスにダメージを与え、後続の攻撃がヒットし易くなるように。狙うは、左脚。
 突き刺さる天音の羽根。それによって悲鳴のようなものを響かせるイシスにブラットナイトとなった瞬華が肉薄。彼女の剣が、河辺野の攻撃を抑えているイシスの右腕を斬り飛ばす。
 ブラットナイトには闇の弾丸、河辺野と氷には彼らをまとめて狙った闇の波動が、それぞれイシスから放たれる。が、戦列に復帰した鬼王丸の集水流弾が左腕を弾いて狙いを外し、イシスの頭部を狙った犬神の虚闇撃弾が闇の波動の狙いを誤らせる。河辺野と氷は接近し過ぎていて回避が遅れたが、おかげで直撃は避けられた。が、それでも戦線からは一時離脱を余儀なくされる。攻撃を受けた腕や足に、まったく力が入らなかった。
「いよし、ここだっ!! トランス『ヴァルキュリア』、トランス2『モードSAGA』っ!!」
 眩い純白の光と共に、突如姿を現した躑躅『ヴァルキュリアSAGA』。光学迷彩に重ねがけて紛潜陰行と幸運付与を使用して潜んでいた彼は、イシスに大きな隙が出来たこの瞬間を狙って出現、一気に第2段階までのトランスを成功させる。
「上映時間は限られてるんでな!! 最初っからクライマックスでいくぜ!! 俺と風羽で成長させたこいつの力を見せてやるぜ!!」
 躑躅の強い腕力が完全獣化で強化され、さらにトランスで上昇、それでも足りぬと金剛力増でパワーアップ。パワーナックルを叩き込もうと急速接近し、回避する間も与えずに一撃! 二撃! おまけの三撃!
「さっさと幕を降ろさせてもらうっ! 喰らえトドメ‥‥っ?!」
 思い切り振りかぶって最後の一撃を顔面に叩き込もうとしたところで、イシスの口が全開になった。そして、そこから発せられる漆黒の波動。身体の力が抜け、意識が遠のき、モードSAGAが解除される。そして、バンクルにヒビが入り‥‥
「まだだっ! まだ逝くなヴァルキュリア! お前の底力を、見せ付けろぉぉっ!!!」
 トランスアウト直前で踏み止まった躑躅は、残る全力をもってイシスの左腕を抱え込む。そして背後に回りこみ、首に腕を回す。
「瞬華、今のうちにとっととこいつをやっちまえ!!」
「――アクセス、モード『ロード・オブ・クリムゾン』‥‥ッ!」
 自身の全力でイシスを押さえ込んだ躑躅の声を受けて、瞬華はブラットナイトの真の力を引き出す。しかし、これまでの戦いで酷く消耗したバンクルは悲鳴をあげ、大きくひび割れる。
「耐えなさい、ブラットナイト! 私達の全力、こんなものではないでしょう!」
 瞬華の叫びに呼応するかのように、真紅の鎧から発せられる真紅の衣。ブラットナイト『ロード・オブ・クリムゾン』、ここに発現せり。
 虚闇撃弾は躑躅を巻き込んでしまうために撃つことが出来ない。が、今はヴァルキュリアが動きを止めているおかげで、コアが完全に無防備だ。腰の輝く剣を抜き放つ。
「貫け、ブラットナイト!」
「‥‥滅びなさい、忌まわしき神よ――!!」
 ブラットナイトの剣が、イシスのコアを貫く。と同時に、1分は保つはずだった瞬華のトランスが解除され、バンクルが完全に割れる。イシスの身体から力が抜けると、躑躅もヴァルキュリアからトランスアウト。彼のバンクルも力尽き、散っていく。
(「さようなら、ブラットナイト。私の半身‥‥もう一人の私‥‥」)
 疲労が最高潮に達し、その場に崩れ落ちる瞬華と躑躅。そのすぐそばでイシスの死骸が、そして二つのバンクルが、共に消滅していった。

 ・ ・ ・

 戦いを終えて、一行はその場からほとんど動けずにいた。河辺野や瞬華、氷が持っていたヒーリングポーションやリカバリーメディシンを使用して負った怪我や奪われた生命力はそれなりに回復したものの、まだ外に出るには危険だ。まだ外には中より多くのNWと、オシリスがいる。
 全てが終われば、救助も来るだろう。それまで、まずは休憩といこう。