【AoW】Road to Ending中東・アフリカ

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 9Lv以上
難度 難しい
報酬 169.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/25〜10/29

●本文

「俺は、結果を出せるヤツが好きだ」
「‥‥‥‥はい」
「分かるな? つまり、結果を出せないヤツや、過程を評価しろなどと喚くヤツは嫌いだ」
「はい」
「シャルロ。お前はこれまでよくやってきたよ。だが、今回の失敗はあまりに大きい。WEAの戦力に痛手を与え、お前自身が捕獲されずに帰ってきたことを差し引いても」
「はい」
「お前はどうしたい、これから。ここで俺の手で引導を渡されたいか、薬で知らぬ間に逝きたいか。出来るものなら逃げるのも楽しかろう」
「‥‥いえ。私は、別の選択肢を選びたいと思います。これまでの成果が先の失敗で灰燼に帰したというのなら、次の成果で先の失敗を灰燼に帰すまで」
「‥‥‥‥出来るとでも?」
「出来るかどうかではありません。やるのみです。その機会を頂けるのなら」
「いいだろう。やる気のあるヤツは好きだ。今言った成果を上げられると思うなら、やってみろ」
「ありがとうございます」
「永智」
「ん?」
「お前も行って来い。好きなように暴れて、シャルロの行く末を見てから帰って来い」
「監視かい? つまらないけど、まあいいよ。『セクメト』の調子も見てみたいし」
「一度、どれだけお前に扱えるか試してみろ。下に捕らえたWEAの獣人がいる。それを餌に使え」
「うん」
「主。私が逃げるとでもお思いなのですか?」
「『出来るかどうかではありません。やるのみです』‥‥昔の男の口癖であり信条、だったな? 月島 夜恵琉」
「その過去は、名前と共に捨てました。今の私は誰でもない、過去の無い『死人(しびと)』。『刹那のシャルロ』です」
「その名を与えた意味を、覚えているな?」
「あらゆる手段のうち最も致命的な方法で、敵の心臓を貫くのみが役目」
「そう。つまり」
「「弾丸」」

 漆黒の部屋で。『刹那』と『黒翼の王』の面会は終わった。
 退室したシャルロは、服の襟元に隠している手づくりの簡素なネックレスを取り出して見つめる。一発の銃弾に小さな穴を開け、そこに紐を通しただけのそれ。
 『出来るかどうかじゃない、まずはやるんだ』。いつもそう言っていた人の好い男とは、もう10年ばかり会っていないし、連絡も取っていない。男はシャルロが生きているかどうかも知らないはずだ。
 シャルロは、忘れたと主張するその過去を、ずっと見ていた。追っていた。この暗い世界にやって来なければ、おそらく自分も歩んでいただろう世界を歩む男のことを。その男は自分の夢を果たし、劇団を作り、今はその筋では有名な人物になっている。
 今はスーツケースの中にある、日本から取り寄せた芝居のパンフレットを思い出す。
 きっとあのあらすじは、男が考えたものだろう。途中まで、そう。そんな感じだ。
 結末は、きっと。救いようが無い。誰も救われない。

●Please Give Me a Better End
「問おう! 我々は悪か!?」
 WEAの通信回線に割り込んで、シャルロの声が響く。彼女の言う『我々』とは、おそらくダークサイドのことを指すのだろう。
「NWを使役する我々を、お前達は悪であると敵視する! それは、真実であると言い切れるか? その行為は正義であると信じ切れるのか! ダークサイドは、須らく悪であると! お前達は言えるか!?」
 聞く者にとっては、何を今さら。突然の問いを、ここまででは多くの者は理解出来なかった。
「今、WEAは人間の組織の力を借り、全てのNWを排除しようと行動している。それは、私にとっても本懐である! NWを使役する、その方法を得た理由。それは、凶悪なNWを制御することで、その被害を無くすためだ。自己弁護も甚だしい、単なる命乞いに聞こえるかもしれないが、私や同じような志を持ったダークサイドは、悪か!? お前達の敵か!?」
 そこまで聞いて、やっと主張の理由を悟る者が出てきた。つまりは、戦うのをやめて、対NWの共同戦線を張ろうと‥‥
「知っているか!? 今、WEAを対NWに駆り出している組織のことを! 彼らは、これまで自分達の生存のために獣人という種を散々利用してきた! NWを駆逐するため、WEAにオーパーツという武器と情報を与えて戦わせ、一方ではNWを制御するため、我々ダークサイドにNWについての知識や情報を流した。その人間が、今、利用価値を失った我々ダークサイドを排除しようとしている! 我々は人間にとっては所詮道具でしかなかったのだ! WEAの獣人達よ、過去を思い出せ。お前達の同胞は、何人死んだ? ダークサイドの操るNWや、『封印』をはじめとした強力なオーパーツをめぐる戦いで、どれだけの命が散った!? 全て、人間達が我々を操った結果だ! 戦争において双方に武器を流し戦いを長引かせる死の商人のように、人間達は我々を死と混乱の渦に引き込む! いずれ人間達は、自分達よりも身体的に圧倒的に優れた種である獣人全体を、排斥しにかかるだろう。今回のNW打倒やダークサイドの排除は、その第一歩に過ぎない!!」
 何を、と聞いていたWEAの獣人が立ち上がる。そんなことがあるはずは。
 ない、とは言い切れない。
 ダークサイドによる被害は人間の関与が無くとも起こり得たことだろうと考えられるが、実際、NWを制御する目的のオーパーツを入手・使用するために獣人達は利用されてきたとも言えるし、それが失敗すれば獣人達に大きな被害が降ってくる。人間への被害はそれほど大きくない。大抵の場合、最前線で獣人達が戦っているから。
 過去の人間の歴史を振り返ってみても、やはり、人間達は獣人達を裏切らないと、そう言い切ることは出来ない。悲しいことだが。
「NWの撃滅は、人間と獣人、双方の願いである! よってこの行動に私は反対しない。寧ろ積極的に力を貸そう! だが、その前に‥‥我々を使い捨てる、人間達に。一矢を報いてからだ! 私はダークサイドとしてではなく、いち獣人として! 獣人という種の生存のため! 獣人を排除しようとする人間に、反抗する!!」

●This is a Road to Ending
「馬鹿な、そんな話に乗る奴が」
「いる。馬鹿な話なのは確かだが、ところどころに急所を突く言葉がある。『封印』関連のとばっちりで死んだ獣人の家族をはじめとして、思った以上に賛同する声が出ている」
 サハラ砂漠を走る大型車の運転をしながら、完全獣化の虎の獣人、ジェリコは話す。
「作戦の要はバベルドゥームだ。シャルロやその賛同者は、そこへ向かう全ての存在を、見つけ次第無差別に襲撃している。色々と人や物を運び込みたい事情があるWEAには、少々痛い存在だ。それを、倒す」
「そういえば、いつの間にあんたはWEAの依頼を仲介するような立場に」
「いや。これは仲介ではない。個人的な依頼だ。NWには一刻も早く消え去ってもらいたい」
「シャルロの話には賛成しないのか?」
「しないさ。人間にも、良いヤツはいる」

●今回の参加者

 fa0430 伝ノ助(19歳・♂・狸)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa2614 鶸・檜皮(36歳・♂・鷹)
 fa2671 ミゲール・イグレシアス(23歳・♂・熊)
 fa2683 織石 フルア(20歳・♀・狐)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 砂漠を走る車内。ミゲール・イグレシアス(fa2671)や敷島オルトロス(fa0780)とは比べ物にならないほど小柄で、色々な意味で『細い』2人が乗っていた。伝ノ助(fa0430)と織石 フルア(fa2683)の兄妹。今回は何の縁あってかわざわざサハラ砂漠までやって来た2人。
「終わったら美味いカレーの一つでも奢れ」
「何倍だ?」
「1倍」
 後部座席にデカい態度でどっかり座っているオルトロスにフルアは負けずに対応。って、何の勝負だ。
「な〜な〜、うちな。ジェリコのこと好きやよ」
 そんな殺伐とした後部座席とは逆に、運転席と助手席は桃色。敷島ポーレット(fa3611)の告白に、ジェリコでなく兄貴の方が驚き立ち上がり天井に頭ゴン。
「年齢がな」
「年の差とかは却下やよ。オル兄なんか11歳年下のピチピチの美女を射止めとるし」
 ポーの言葉に、シャノー・アヴェリン(fa1412)が「別にピチピチでは」と呟いて皆から囃し立てられている。
「いや。別に年齢差で断るわけではない。ただ、お前は年も背格好も娘に似ている。少し引っかかるものもあってな」
「髪の色は違うんやけどな〜」
 そう言って前髪を摘んでみせるポー。しかし、続く返答は無い。Noと解釈していいのだろう。だが明確な否定‥‥俺は年上じゃなきゃダメなんだとかが無かっただけポーには希望がある。悲しい記憶が思い出されてNoと言うなら、自分がより大人の女性になるまでの時間がジェリコを癒してくれるのを待って、それからもう一度も出来る。
 ともあれ、こうしてポーの『貴方のハートに瞬速縮地』作戦は失敗に終わったわけだが、本筋はここから。
「傷はもういいのか」
「あんなもん、唾つけて肉食って寝りゃ治る。お前は」
「問題無い」
 意訳すると「お前今回役に立つのかよ?」の応酬だったわけだが、そんな会話も「お前は唾をつけてから肉を食うのか?」というフルアの素敵な口出しで台無し。お兄さんは誤解訂正に一度妹を黙らせる。
「あなたはいつも無理をして‥‥」
「無理で済むように考えちゃいるさ。ヒーローは生きていてこそ価値があるからな」
 心配ないと胸を張るオルトロス。シャノーがオシリス戦を見ていたら、心配ないという言葉はこれまで以上にその信憑性を無くしていただろう。
「‥‥あっ!! 皆さん、向こうの空です! シャルロがいます!」
 警戒していた夏姫・シュトラウス(fa0761)が報告すると、ジェリコは車を止め、鶸・檜皮(fa2614)は真っ先に飛び出して飛翔し、周囲を見回す。
 全員が車を降りたところで、シャルロの足元の地面にいるNWサラマンドラが上空に向け火炎弾を放った。それを合図とし、次々に集まってくる車。
「包囲された状態では、効果はあまり望めませんね」
 シャノーは使おうと思っていたミストボールを懐に戻し、氷塵槍を構えた。

●砂上の論戦
「おいシャルロ! いい加減つまらん遊びなんぞ止めたらどうだ!」
 即刻撃ち落とさんばかりの檜皮を制しオルトロスが叫ぶ。呼びかけに話がしたい意図を汲み取って、シャルロは依然空中にありながら、接近してきた。
「ご立派な演説を聞いたが、人間達に一矢報いるだと? 人間ってのはな、俺達の客なんだよ。俺達が魂込めて見せるもんに、拍手と笑いと涙を献上する、な。人が敵だなんぞとのたまうのは、連中を魅了出来ないヘタレの所業だ。大昔や未来にビビってる暇があったら、芸能人として一つでも多くの作品なり何なりを産み落としてみせろ!」
「生憎、私は芸能人という立場はあまり好きでなくてね。にも拘らず、獣人の立ち位置は芸能界だ。魂込めて創り上げるものは、別に映画でなくてもいいだろう? もっと自由な選択が、これからの世代にあってもいいと思うがね。カドゥケウスは、我々が生きるか死ぬかの選択肢すら撤廃しようとしているんだよ」
「でも‥‥仮にカドゥケウスが悪者だとしても、それは人間の一部に過ぎません。人の全てを悪とは思えないんです。甘いと言われるでしょうが、それでも私は信じたいです」
 オルトロスの叫びを一蹴するシャルロに、続いて夏姫が呼びかける。が、シャルロはその顔色を変えない。
「別に、私は人間の全てを悪と言ってはいないさ。獣人を使い捨てる人間のみを敵だと言っている。‥‥お前の考えは立派だよ。一部を見て全てを判断はせず、人間を信じたい。そう思うなら、一部だけを見て全てのダークサイドを悪と断ずるな。こうして命懸けで意志を届けようと声を張り上げる者を一度でも信じてみろ」
 そう言われてしまっては、夏姫は二の句が次げない。全ては到底無理だとしても、両手で足りない数にも達しないダークサイドとの接触では、確かに断言など出来ないからだ。
「お前達は人間と獣人は手を取り合えると言う。だがそう言いながら実際はどうだ? 人間が芸能界で活躍することを許さず、自分達の世界から排斥している。獣人同士でもそうだろう? お前達は獣人という種族を、自分達とダークサイドに分割し敵視する。ダークサイドは悪者だから? 始めはどっちだっただろうな。ダークなどという名をつけて狩りを始めたのは。生存のために自衛手段を講じるのは当然だろう」
「私は、人間と獣人が信頼しあって一つのものを創り上げることが出来ることを知っている。これから、人間と獣人が信頼しあう、そんな社会が出来ることを、私は信じたいと思っている」
 人間と獣人の混合劇団『AVANCEZ』を暗に例示して、フルアが言うが。
「おそらくそれは獣人側が本性を隠し、譲歩しているんだろうな。人間と獣人、獣人同士の確執の現状はつい今しがた話した通りだ。そしてその確執を利用したカドゥケウスの陰謀は既に目の前にある。これから作る信頼という、時間のかかり過ぎる理想を当てに出来る程の余裕は無いんだ」
 議論は進まない。その原因はフルア達がカドゥケウスという組織についての情報を殆ど持っていないためだ。シャルロの語る話がどこまで真実で、どこから虚偽なのか分からない。
 業を煮やした檜皮が、空中からメガホンで周囲の獣人達に呼びかける。本丸を攻めあぐねているなら外堀から。
「俺は真実を知っている。オシリスとイシス、2体のNWを解放し、あの騒ぎを起こしたのはこの女だ。‥‥人間は獣人を利用しているんじゃない、頼らざるを得ないんだ。人間ではNWに勝てな」
 次の瞬間。銃声がして、弾丸が檜皮の傍を通過する。撃ったのは周囲の獣人の一人だった。
「俺はこの銃で、奇襲してきたNWを倒したことがある。これは人間も使える、人間の作る普通の銃だ。NWの存在を認識し対NWの体制を作り上げれば、人間の警察組織でも充分NWと戦える。そして封印の解放については知ってる。本人から全て聞いた」
「ややこしい話は後でええねん。単純に考えてみぃや。WEAはNWを封印しようとしとる最中。それを妨害しながら、シンクロニシティとは違う封印の手段について明確にしてへんダークサイド。NWの封印を出来ず、普通の獣人と人間を争わせて喜ぶのはどこや」
「カドゥケウスだ」
「何やと?」
 突然割って入ったシャルロの返答に、ミゲールは驚く。
「封印の代替手段はあるが公表は出来ない。カドゥケウスに裏で動かれて、潰されては敵わないからな。そのせいで疑惑の目で見られるダークサイドを、カドゥケウスはWEAに敵だと囁き、駆逐させる。獣人を利用してNWを封印し、人間へのNWの脅威を無くしてから、人類全体へ獣人の存在を公表、獣人狩りを行わせる。そうして全ての脅威が消えてから、オーパーツ製造も可能な秘儀と知識を活かし人間社会に君臨する。それが奴らの目論見だ」
「カドゥケウスの奴らでもねぇくせに、勝手に決め付けてんじゃねぇよ」
「私達にWEAが賛同すれば、カドゥケウスの真意も分かる。どうだ?」
「ダークサイドなど信じられないな。俺の友は、お前に騙され封印解除に利用された。典型的な手段‥‥使えるものなら何でも使い、嘘も吐く」
 檜皮が銃口を向け、それをシャルロは軽く笑って。
「ダークサイドはどんな手段も使う? 『ダークサイドの奴らでもないくせに、勝手に決めつけるなよ』。誰だって行動は状況に左右される。WEAが我々を頭ごなしに否定したりしなければ、嘘など吐く必要も無かったよ」
 残念ながらそれは正論だ。個人によって当然違うが、状況によっては普段からは考えられない行動をする者もいる。獣人にも、人間にも。
「ダークサイドは信じられんと言ったが、カドゥケウスなら信用出来るか?」
 逆にシャルロが問いを返してくる。そして返答を待たず続ける。
「安易に奴らを信用した私がバカだったよ。ミテーラ・イシスを支配下に置けば、オシリスを含め多くのNWを無力化出来ると言われた。イシスは私でも制御が出来るなどとも教えられた。結局はNWによる危機を演出してシンクロニシティ計画のためにWEAを動かし、ダークサイドを祭り上げ争わせる、奴らの計画に利用されただけだった」
「詭弁やな。別に大きな力を手に入れんでも、地道にNWを倒し、仲間との絆と連帯を手に入れればええ。もしそう言われたことが事実やとしても、それはお前さんの気持ちが弱かっただけや」
「お前は周囲の1人2人を守れれば満足か。手の届かない所で死ぬ者は見て見ぬ振りか。可能な手段は使い、少しでも多くの友を守ろうと考える者は愚か者か?」
 ミゲールの言葉に反論するシャルロ。どちらの意見が正しいか、判断は人により異なるだろう。シャルロの言が真実ならば、阿呆と決め付けることこそ阿呆と罵られかねない。
「NWを倒したいのはこっちも同じっす。でもこちらが動く上で貴女方に邪魔されるとすごく困るんす。目的が同じなら今は退いて下さいやし!」
 論戦の流れを見守っていた伝ノ助がシャルロに懇願する。だが。
「その言葉、そっくりそのまま返すよ。今は退け。そして実情を知り、我々も含めた獣人全体としての意見を一つにまとめてから、改めてカドゥケウスの計画を聞け。この計画はこのタイミングでしか出来ないわけじゃないのだろう?」
 やはり追撃の言葉は出せない。その通りなのだ。突然始まったこの計画は、本当に今しか出来ないのか。
「‥‥平行線ですね」
「どうする? お前達が退いてくれれば万事丸く収まるんだが」
 シャノーが結論を言い、そうシャルロが提案する。だが。
「やかましい。状況が状況だ!」
 オルトロスの叫びが、やはりWEAにとっては正しい。

●武力決着
 始まった戦闘は、一方的だった。
 伝ノ助が慣れないソードで戦うが、相手の獣人はさらに戦い慣れしていない。殺陣での身体捌きで充分に処理が出来た。そうして伝ノ助が叩いて弱らせた獣人をミゲールが剣の柄でぶん殴り、思い切り蹴り飛ばして獣人ボウリング。かなり広範囲に分散して妨害活動をしているのか、集まった敵獣人の数が少ない。数人戦える者も混じっているが、2人で充分なのは変わらない。
 フルアは一人、大物を相手にしていた。回復支援が暫く不要と分かって蹴り相手を探していたら、突っ込んでくるオフロードバギー。能力で強化した跳躍でそれを何とか回避する。車ごとキックで粉砕は出来ない。他が片付き増援が来るのを粘って待つ。後に、バギーはジェリコが拳を叩き込んで爆砕させた。


 檜皮はシャルロが召喚したNWを相手取って銃弾を撃ち込んでいた。かつてシャルロが封印の遺跡第2階層で従えた、獣人を絡め取るのが得意な大蜘蛛を、蔦の弾丸で逆に束縛し弾丸の雨を降らせる。
 ポーはかつてこの敵に瞬速縮地で接近してぐるぐる巻きにされた記憶があったが、それでも再び瞬速縮地で接近。戦闘開始直後に撃ち込んだギャンブルブリット(回復させた)に続いて、水晶弾を撃つ。
 檜皮と同じく上空から銃を撃っていたシャノーは、形勢有利と見るやシャルロ周辺の敵獣人への銃撃に移る。そうして開いた道を、夏姫とオルトロスが駆ける。


 夏姫が大きく跳躍し、シャルロを地上に落とそうと狙う。それをシャルロはかわし、背中に拳の一撃を加える。バックラーと呼ばれるシャルロのNWは、今は彼女のナックルとなっていた。
 夏姫の落下し始めを狙った一撃は、しかしシャルロにも大きな隙を作った。時間差でオルトロスが跳び、始めより低い位置にいたシャルロを砂漠に引きずり落とす。砂上でオルトロスが受身を取る間に、先に落ちた夏姫がシャルロを押さえつける。獣人能力での反撃が考えられたが、一先ずは完全に有利な体勢。オルトロスもすぐ起き上がり、近くに。

 すると。

 敵獣人と戦っていた伝ノ助のソードが弾かれて砂漠に消え、ポーの拳銃も同様に。その原因の氷の弾丸が放たれた先を見ると、いたのは謎のNWと。
「永智」
「シャルロ。助ける?」
 御影 永智の緊張感の無い言葉に、シャルロは帰れと。
「うん。じゃあ帰るよ。僕は別の所でも忙しいし」
 新たに現れた未知の敵に、シャノーは錠剤を飲み、奥の手の氷塵槍を投擲する。しかし、じゃあねと言い残して砂漠に落ちた影に消える永智には当たらず。

 ・ ・ ・

 シャルロと敵獣人、計23名を念入りに無力化し、WEAに連絡して護送車を待つ。その間警戒は緩めない。
 オルトロスや夏姫が警戒するのは敵獣人の脱走ではない。シャルロの自害だ。それを防ぐのが、彼女の主張を殺さない、彼女にしてあげられる最大の信頼。
「自害はしないよ。私はまだ諦めてはいない。獣人の生存権と、社会権を」
 考えを見て取ったか、シャルロがそう言う。
「まだ遅くはない。君達が目を覚まし、正しい行動を取ることを願っているよ」
 それきり、シャルロは完全に口を閉ざした。