たくさんのお友達アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/09〜05/15

●本文

「ボランティア公演、ですか?」
「そうだ。前回老人ホームでやったのが好評でな。今度はウチでやってくれないかと、幼稚園から話があったのだ。こちらも第2回の会場を探していたから、ちょうど良いとそこに決めた。客には近くの住人も呼ぶが、メインは小さい子供だな。それで、今度も公演をやってくれる人を募集したいのだよ」
 局プロデューサー織石は、ディレクターの小関と田名部に向かい、企画の説明をしている。
「費用はある程度広告主から出るというのと、スポンサーの宣伝が目的のひとつだから客席が広く舞台が多少狭いのは前回同様だ」
 織石によれば、舞台として使えるスペースは幅8m、奥行き3mとのこと。両袖に幕は無いが、衝立を一枚ずつ出して隠れられるようにするらしい。
「それと、今回は少しなら音響・照明機器が使用できる。舞台のスペースを幅2m削れば、MDコンポ一台とSS(サイドスポットライト)一台の使用が可能だ。それと、カットアウトでよければ暗転も出来る」
「音や光の効果を取るか、舞台スペースを取るかですね」
「うむ。ちなみに劇と劇の間に時間があまり無いから、劇ごとに使う使わないを変えるのは無理だと考えてくれ」
 織石は机の上に置いていたカップを取り、コーヒーを一口含んでから続けた。
「今回のテーマは『おともだち』だ。オムニバス形式で、1本10分から30分くらいの尺で、2本から4本程度上演というのは変わらない」
 わかりました、と動き始める小関と田名部に、織石が声をかける。
「ボランティア公演だが、今回も出演してくれたキャストやスタッフにはいくらかの謝礼が出る。そのことも募集の際には伝えておいてくれ」

●今回の参加者

 fa0179 ケイ・蛇原(56歳・♂・蛇)
 fa0213 一角 砂凪(17歳・♀・一角獣)
 fa0430 伝ノ助(19歳・♂・狸)
 fa1414 伊達 斎(30歳・♂・獅子)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2820 瀬名 優月(19歳・♀・小鳥)
 fa3109 リュシアン・シュラール(17歳・♂・猫)
 fa3656 藤宮 誠士郎(37歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

 参加メンバー総動員での前準備。ケイ・蛇原(fa0179)の指示で道具類の運び込みや音響・照明機器の設置が進められていく。準備の合間には、持ち回りで務める司会の順番や、その内容についての打ち合わせも行われた。
 藤宮 誠士郎(fa3656)は通行人として登場する際のタイミングなどを一角 砂凪(fa0213)らと綿密に詰め、伝ノ助(fa0430)とリュシアン・シュラール(fa3109)は公演の遊具の描かれた背景を、瀬名 優月(fa2820)の誘導で壁に貼り付ける。
 一方で、姫乃 唯(fa1463)は伊達 斎(fa1414)から演技指導を受けていた。彼女は芝居が専門ではないが、良い舞台を作り上げようと一生懸命だ。
 舞台上にベンチが置かれ、音や光を合わせる必要のある所を確認すると、役者達は観客の誘導のために出て行く。
「成功するといいが」
 舞台に残った藤宮がそう呟く。彼がここに残ったのは調整のため。
「大丈夫でしょう。皆力を尽くしました。わたくし達は、公演が成功ではなく、大成功することを祈ることにいたしましょう」
 舞台上の藤宮に光を当て、ステージスポットライト(SS)の当たりの最終確認をしながら、ケイが言う。
 間も無く客席に観客がやってくる。SSの光が消えると、静かに客入れの音楽が流れ出す。

●嘘は吐かないで
・キャスト
彩:一角 砂凪
優月:瀬名 優月

「ねぇ、約束覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
 やって来た二人は、言い争っていた。
「いつになったらペットを見せてくれるの?」
「また今度ね」
 二人は親友同士なのだが、とあることで最近は少しケンカが多くなっていた。過去にペットのことで話をした時、優月が「犬を飼いはじめた」と彩に話し、彩は「私も飼ってるんだ」と、「いつか見せてあげる」と約束をしたのだ。
 しかし、彩は本当は犬を飼ってなどいなかったのだ。その場のノリで、羨ましがってほしいと思って、深く考えずに吐いた軽い嘘。そのはずだったのだが。
「また今度ね、ってそればっかりじゃない」
 彩のいつも通りの返答に声を荒げる優月。無意識に大きくなってしまったその声に、通りかかった藤宮が驚く。
 彩とて、好きで嘘を吐き続けているわけではない。始めのうちは維持を張っていたのだが、優月は昔から仲の良かった友達だ。その友達との関係がこじれ、崩れていくのを辛いと感じていた。だから、とても悩んだが、今日は。
「あのさ‥‥実はね、犬を飼ってるっていうの、嘘だったんだ」
 思い切って、本当のことを明かした。きっと怒られるだろうけど、それでもこのままケンカし続けるよりは良いと信じて。
 ベンチに座っていた優月は、彩の告白に一瞬思いを巡らして、口を開いた。
「‥‥そうだったの‥‥本当のことを言ってくれてありがと」
 優月の口から出た言葉は、彩の想像していた言葉とは真逆で。どうしてありがとうと言われたのか分からず考える間に、優月はさらに続けた。
「私こそあなたに謝らなければいけないわ。私もね、犬を飼いはじめたって言ったでしょ。でもほんとはペットなんかいないの」
「えっ? それって‥‥」
「こうだったらいいのにねって思ってことよ。理想と現実の区別がつかないなんてバカね‥‥私のせいであなたにまでウソをつかしてしまったのね。本当にごめんなさい」
 ベンチから立ち上がって、ペコリと頭を下げる優月。
「ううん、私もゴメン。‥‥これからは嘘を吐くのは止めるよ。もうこんな思いはしたくないから」
「うん、私も」

「ねぇ、私たちってもう何年の付き合いかしら?」
「ええと‥‥幼稚園の頃から、かな」
 二人、公園の中をぶらぶら歩きながら。思い出し語り合うは出会った頃の話。先までのような見えない壁は既に無く。
「これからもずっとお友達でいようね」

●友達は大事にしよう
・キャスト
伝ノ助:伝ノ助
クレイ:リュシアン・シュラール

「おはよう! 伝ノ助」
「おはようクレイ!」
 挨拶を交わしながらやって来たのは伝ノ助とクレイ。二人とも手にはスケッチブックを抱え、絵を描くためのポイントを見つけるとそこに座り込む。
「よし、描くぞ! コンクールのテーマは公園っす!」
「二人で描こう!」
 二人は、絵のコンクールに応募する絵を描こうとこの公園にやって来たのだ。木々の緑の公園にしよう。お互いにまず自分の思うとおりに絵を描いてみる。が、しかし。人の視点や世界の受け取り方は様々。そのうち、絵の方向性について言い争いが始まってしまった。
「この滑り台はキリンで行くべきっす! 象じゃダメっす!」
「え? 緑色に合わせるのは空の青色でしょ!? 太陽の黄色じゃ合わないよ!」
 二人とも絵が好きなことに変わりはない。コンクールに出品するということが焦りを呼んでしまったのだろうか。自分の絵のほうが優れている、と主張をぶつけ合うばかり。
 みっともないと思ったのだろうか。ケンカが始まって数分、空からは雨が降り出した。初めポツ、ポツと弱かった雨足はあっという間に強くなり、クレイと伝ノ助はスケッチブックを抱えて滑り台の下に避難した。
 同じ場所で雨宿りをしながらも、お互いそっぽを向いて口も利かない二人。しかし、滑り台の下はとても狭く、互いの肩と肩は触れ、相手のスケッチブックも目の端に映る。
 滑り台の、緩やかな斜面を下から見上げて。
「象ってのも、面白いっすよね」
 さっきまで覗いていた太陽を下から求めて。
「太陽の光もいいよね。太陽の黄色」
 雨は土を緩ませる。ひび割れていた大地も溶けてまたひとつになる。雨が二人の意地になっていた部分を溶かし、お互いの優れた点を認め合って高めあう気持ちを蘇らせた。
「ごめん、二人で描こうって決めたんだったね」

 雨が止んだ。仲直りを待っていたかのように、雨雲の間から太陽が顔を覗かせる。
「雨、止んだね」
「子供達が遊びに来たっすよ! あ、いい事を思い付いたっす」
 と、伝ノ助がクレイに耳打ち。二人でニッと笑って、早速行動開始。観客の子供達に問いかける。
「ねえ! 皆はどんな公園がいい? どんな公園が好きかな?」
「あっしらはお友達と遊びたくなるような公園の絵を描きたいんすけど、皆はどんな公園で遊んでみたいっすか? 皆の夢の公園を教えて欲しいっす」
 二人は手分けして客席に分け入ると、子供達から理想の公園について聞いていく。初めはびっくりしていた子供達だったが、次第に我先にと夢を紡ぐ。
「ありがとう! これで最高の絵が描けるよ!」
「これからもよろしくっす!」
 子供達に感謝を。相方と握手を。さあ描こう! 皆の夢の公園!
 駆けて行く二人の手に抱えられているのは、夢がたくさん詰まったスケッチブック。

●みんな友達
・キャスト
姫乃 唯:姫乃 唯
伊達 斎:伊達 斎

「そうですか。では、その本をお貸ししますよ。一度、直接会ってみませんか? 約束の場所にその本を持って立っていますので」
 それが、伊達が姫乃に送った手紙の内容だ。伊達と姫乃は児童文学を共通の趣味として持っており、文通をしていたのだ。
 公園のベンチに座り、手紙を読んでいる伊達。手紙は姫乃から返ってきた返事だ。それには、ぜひ会いましょう、私もお勧めの本を持っていきますと書いてあった。

 約束の時間になって。周囲を見回す伊達を見る一人の人影があった。姫乃である。
「えっ、同じ位の歳の女の子だと思ってたのに、大人の男の人だったの!?」
 そう、伊達は姫乃の父親ほどの年齢の男性である。外見はそれより多少若くはあるが、どっちにしても同年代とは言い難い。趣味や『いつき』という名前から姫乃は伊達を同年代で同性だと思っていたため、あまりの驚きに声をかけるのを躊躇ってしまった。
 姫乃は隠れたまま、伊達は相手を待っているまま、数分が経った。伊達はベンチから立ち上がると、やって来ない姫乃を探そうと公園内を歩き出す。約束の場所は公園内のベンチ。別のベンチにいるかもしれないなどと考えながら。
 公園中のベンチを探す。入り口から道路を覗き込む。滑り台の下をチェック。道端の石を持ち上げてみる。が、しかし。姫乃は一向に見つからない。
 ベンチの下へ! 遊具の影へ! 滑り台の上へ! 石の下は‥‥ないね。ひたすら姫乃は隠れ、逃げ続ける。
「すいません、この近くで女の人を見かけませんでしたか?」
 通りかかった通行人、ケイに伊達が尋ねる。伊達の動向を見て再び隠れようとした姫乃と目が合ったケイは‥‥
「いえ、見ていませんね」
 必死のジェスチャーでケイと口裏を合わせた姫乃は瞬時に隠れる。「そうですか‥‥」と伊達が振り返った時には既にその姿は無い。
 と、姫乃は気付いた。伊達が一冊の本を落としたことを。伊達は姫乃を探すことに没頭していて気が付かない。
 姫乃は一瞬逡巡したが、伊達の本を拾い上げると、意を決して話しかけた。
「あの、これ‥‥斎さん、ですよね? 私、唯です。本当は前からここに来ていたんだけど、隠れてました」
「どうして隠れたりなんかしたんだい?」
 姫乃の言葉に、伊達が柔らかい口調で問いを返した。その問いに、姫乃は。
「ごめんなさい、性別も違うし年齢も離れていたから驚いちゃって」
 答えを聞いた伊達は少し笑うと、もう1つ問いを発した。
「年齢や性別が違ったら‥‥友達に離れないのかな?」
「‥‥ううん。年齢も性別も違うけど、ずっとお友達でいてくれるかな‥‥?」
 姫乃の答えに、伊達は笑みを返し。互いの持ってきた本を交換し合った。