戦え、母ちゃん隊!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.9万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 05/14〜05/20

●本文

「ゴミ捨てくらい行ってくださいよ!」
「嫌いでも野菜残さないの!」
「脱いだ物は畳む!」
「パチンコなんか行かないで子供を遊びに連れてってください!」
「ほら朝だからさっさと起きて着替えて朝ごはん食べて学校行く!」

 子どもには進学のための受験戦争がある。父親には昇進のための営業戦争がある(職種にもよるし、母親でも専業主婦でなければ同様にあるが今回は割愛)。そして、家でいつも寝転がっているようなイメージがある専業主婦(あくまでイメージです。イメージ)にも戦争がある。

 朝、家族を送り出す『早朝戦争』!
 昼前、家中を掃除する『掃除戦争』!
 昼、自分の食事を準備しつつ昼メロを見る『昼戦争』!
 午後、ご近所さんとの駆け引きを展開する『ご近所戦争』!
 夕方、帰ってきた子供達の汚れた服を集める『洗い物戦争』!
 ほぼ同時に、夕飯を用意し取り込んだ洗濯物を畳む『夕戦争』!
 夜、食器を片付けつつ次の日に備える『夜間戦争』!

 受験戦争の如く一時的、一過性のものではない。営業戦争の如く昼間限定ではない(夜間に行っている方もいらっしゃいますが今回は割愛)。一日中、特に何か理由がない限り毎日続くエンドレスウォー。家事戦争。

 この舞台は、そんな過酷な家事戦争を戦い続ける部隊、『母ちゃん隊』の一日を描く物である!

●今回の参加者

 fa0832 醍全 史郎(55歳・♂・蝙蝠)
 fa2177 縞八重子(27歳・♀・アライグマ)
 fa3004 ラム・セリアディア(14歳・♀・リス)
 fa3081 チェリー・ブロッサム(20歳・♀・兎)
 fa3285 氷咲 水華(35歳・♀・猫)
 fa3487 ラリー・タウンゼント(28歳・♂・一角獣)
 fa3605 ルージュ・シャトン(12歳・♀・猫)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

「悪いね、一日しか来られなくて」
 出演者の一人ラリー・タウンゼント(fa3487)の兄は、舞台を客の視点から見た感想とアドバイスをし、帰っていった。物を渡すという本来の目的は、しっかり果たしたようだ。

●母子戦争勃発
「テレビ見てるくらいだったら家の手伝いでもしなさい!」
「何言ってんの? 私は受験生なのよ!」
 それは早坂家の日常。氷咲 水華(fa3285)演じる母親、早坂由香里が娘の千枝里に怒鳴り、千枝里はそう反論するも勉強している雰囲気は全く無い。千枝里はチェリー・ブロッサム(fa3081)が黒髪のカツラをかぶって演じている。
「全く、今年受験するなんて信じられないわ‥‥どこ行くの? 千枝里!」
「友達と遊びに行くー」
「また遅くまで帰ってこないんでしょう!? 受験生だって主張するなら、ちょっとは勉強しなさい!」
「あーもー、うるさいなぁ! 隣のお母さんは優しそうなお母さんで良いなぁ、私もあっちの娘に生まれればよかったー」
「千枝里!」
 由香里が振り返りそう叫んだときには、既に千枝里の姿は無かった。
「全くもう‥‥」
 普段はこんなに怒鳴り散らしたりするような人間ではない、と由香里は自分で思っている。そして、それは確かに真実だ。だが、娘が受験を控えているということで自分にも軽いストレスがかかり、心配から勉強を勧めても娘が従わないことがイライラを増やし、口うるさい鬼嫁のようになってしまっている。夫が頼りなく、娘に強く言ってくれないことも鬼嫁化に拍車をかけていた。
「全くもう‥‥」
 その言葉は今日何度目か。

●敵増援到着セリ
「よぉ! 久しいな!」
「なぁに湿気た面してんだ…あん?」
 色々な意味で最悪の日だった。
 事前通告も最終勧告も無しに突如早坂家を訪問した伯父、剛(醍全 史郎(fa0832))。
 事前通告はあったが交渉の余地無く攻め入ってきた父親の同僚、陣内(片倉 神無(fa3678))。
 この二人の来訪に別の事件が重なったものだから大変である。
「もうワケわかんないよバカじゃないの!?」
 千枝里である。
 学校から落ち込んで帰って来、その尋常ではない雰囲気に何があったのか由香里が尋ねると、返ってきた答えは進学についてだった。「この点数じゃ進学出来ないかもしれない」、そう脅されたと。
 千枝里はそれから急に勉強を始めたのだが、その矢先にこの襲撃である。直接伯父や父の同僚に文句を言うことなどできない千枝里は母に当り散らし、最後には。
「お父さんもお母さんも私の事なんかちっとも考えてくれてない!」
 そう言って泣きながら家を飛び出していってしまった。
 そんな事態が台所で起きていることも知らずに居間では。
「嫁さんの尻に敷かれてばっかりじゃなく、たまにゃガツーンと強く出てみろってんだ!」
 と咥え煙草で陣内。
「女は結婚すると変わるからなぁ」
 飲み食いしつつ剛。
「はぁ、まあ‥‥その」
 そんな二人に挟まれ小さくなっているのが、早坂家の旦那、早坂冬弥。ラリー・タウンゼントが演じる。
「仕事の他に、家で家事とかもやらされてるんだろ?」
「亭主は外で稼いで一家を守ってんだ、家事くらい全部やらせとけ!」
「そ、そうですね‥‥僕は家族のために仕事してるんですから! 分かりました、ガツンといきます!」
「そうそう…やっぱり男ってのは強く出て何ぼってもんよ…はっはっはっ」
 陣内の哲学に冬弥が侵食されたところに、タイミング良く(悪く?)やって来たのは由香里。酒が多少入っているのと二人の味方を得ている冬弥は、立ち上がると、鬼嫁への反逆を開始する!
「由香里さん! いつも僕に暇なら家事をしろっていうけど、僕は毎日仕事があるんだよ。たまにできた時間くらい、僕が使いたいように使う! 大変なのは由香里さんだけじゃないんだ!」
「そんなこと今は関係ないわよ! 千枝里が出て行っちゃったの!」

 ‥‥‥‥‥‥‥

「「「な、何だってー!!!」」」

●和解交渉
「はい。もうお夜食の時間になっちゃうかしら?」
「すいません、ありがとうございます」
 早坂家を飛び出した千枝里がたどり着いたのはお隣の志摩家だった。千枝里にとって、夫が海外への出張中ということで家を一人で切り盛りする母親、志摩弥生(縞八重子(fa2177))は、いつか千枝里が自分の母親に言ったとおり、優しい理想的な母親に見えた。
「いちご。あなたも千枝里ちゃんみたいに勉強したら? あなたも今年受験なんだから」
「受験なんていいの! あたしはロックシンガーになるの!」
 ラム・セリアディア(fa3004)演じる志摩いちごも、千枝里と同じく中学3年で受験生である。だが毎日のように、家で一人、外で仲間達と、ギターをかき鳴らしている。
「高校に行くことも、一度しか経験できない大事なことよ」
 弥生はそれだけ言うと、いちごの部屋から出て行った。
「やっぱり、いちごちゃんのお母さんは優しくっていいなー」
「優しいかなぁ? 結構うるさいよ?」
 などと、おやつを食べながら話す二人。友達と遊びに行った時の話や、バンドの練習の時の話。女3人寄れば姦しいと言うが、2人でも十分で。
 空になった皿を片付けにいちごが部屋から出ると、入れ替わるかたちでいちごの妹、りんごが入ってきた。ルージュ・シャトン(fa3605)が演じている。
「千枝里さんのママも、優しいと思うよ?」
 りんごは今年中学に入ったばかり。去年一年間受験のために色々なストレスを溜めていた。中学と高校の違いはあれど、少し前まで千枝里と同じ立場だった。
「受験が終わるまでは、もうイライラのしっぱなしで、ママにいつも当たってたんだ。お父さんは単身赴任でいないし‥‥だからかもしれないけど、ちょっとしたことでモノに当たったり、投げたりしたんだ」
 りんごはそこで一度言葉を切って、眼鏡の奥から真っ直ぐな瞳で千枝里を見て。
「でも、今は違うよ? 志望の学校にも入れたし、お友達もできたから、そんなことしないよ。それもこれも、ママが心配して、色々言ってくれたからだと思うんだ」
 千枝里が何を思って家を飛び出してきたのか、千枝里が両親に何を求めているのか。それをまるで知っているかのようにりんごは言った。驚く千枝里。ちょうどそこに戻ってくるいちご。
「ねっ、お姉ちゃん。私ちゃんと家のお手伝いもするよね?」
「え? う、うん、そうだね」
 りんごの突然の問いに戸惑いながらも答えるいちご。その答えにりんごは笑顔になって。
「うん、私ママが大好きだもん!」

 いちごの部屋を出た千枝里。台所には弥生がいた。
「あたしが子どもの頃は受験、受験ってうるさく言われなかったけど、受験の時期って色々大変でしょう? りんごも塾で帰りが遅かったりして、全然顔を合わせることもなくてね」
 その弥生の言葉に、千枝里はふとある事を思い出した。いつか友達と遊び歩いていて夜遅くに帰ったとき、それでも母は夕食を準備して、寝ずに待っていたことを。
「千枝里ちゃんのお母さんも、今千枝里ちゃんが大変だってこと分かってると思うの。その上で心配して、何とか助けになってあげようって思ってると思うのよ。‥‥きっと心配して探してるわよ。戻ってあげなさい。ね?」
「‥‥はい、分かりました」
 千枝里が玄関へ向かうと、弥生はそっと電話を手にした。

●停戦合意
 志摩家を出た千枝里が最初に聞いた音は、自分の名を呼ぶ母の声だった。
「千枝里! よかった、ごめんね‥‥」
「‥‥お母さん‥‥ごめんなさい」
 目に涙を浮かべ駆け寄ってくる母に、千枝里は抱きついた。
「ごめん‥‥今までお母さんが仕事が大変だったり心配してくれてたりすること、全然気付かないで文句ばっかり言ってた」
「ううん‥‥いいのよ‥‥」
 その光景を遠くから眺める父、冬弥。剛はその肩をぽんと叩いて。
「奥さんと娘、大事にしろや。じゃ、俺帰るわ」
 踵を返し去っていく剛。このシーンだけを見るとカッコイイが、今回の事件の主犯は間違いなく彼である。
「ほら、行ってやれ」
 陣内に背中を押され、娘と妻の下へ走っていく冬弥。家庭のこと、娘のこと全て妻に任せっきりにしていたことを反省しながら、冬弥は千枝里を優しく抱きしめる。その目からは、つっと一筋の涙が流れ落ちた。
「‥‥さて、俺も帰るか‥‥っと、電話‥‥もしもし? あっ、お、お前‥‥いや、その、遅くなったのはだな‥‥まっ、待て俺が悪かったっ‥‥なっ!?」
 目の前にいない電話相手に何度も頭を下げながら走り去る陣内。世の中そんなものである。

●母子戦争『再』勃発
 翌日。
「どこ行くの? 千枝里!」
「友達と遊びに行くー」
「受験生だって主張するなら、ちょっとは勉強しなさい!」
「私隣の娘に生まれればよかったー」
「千枝里!」
 昨日の感動のシーンはどこへやら。再び母親とその周りを巻き込んだ戦争が始まる。
「全くもう‥‥」
 世の中そんなものである。
 その言葉は今年何度目か。