演劇習慣始めよう・金曜アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/22〜05/28

●本文

●空港にて
 5月某日。一人の女性を連れた中年の男が、機嫌良く歌を歌いながら来日した。
「『くーろがねの〜♪』」
「先生。日本語で、しかもその歌を歌うのは恥ずかしいので止めてください」
「ふむ、これはまずかったか‥‥『たった一曲のロックン‥‥』」
「先生。曲目は何であれ空港の人ごみの中で歌うのは恥ずかしいので止めてください。ホテルにチェックインして、用事が済んでから思う存分カラオケに行ってください」
 女性‥‥エミリアが黙らせた男はヘラルト・リヒタ。ドイツを中心に活動する劇作家で、演出家である。最近ジャパニメーション、特にロボットにはまっている彼が来日した理由はというと‥‥
「まずはアキバに行って、」
「行きません。円井先生の事務所に行きます」
 彼が来日した理由は、日本人にとっての舞台演劇を、もっとポピュラーな物にするためである。日本にも有名な劇団が多数あり、その公演を見に行く者も数多くいるが、地域によって大きく斑があったり、年代によってバラつきがあったりするのが実情だ。
「円井君ならきっと僕の考えを理解してくれるはずだ。舞台演劇というものを、日本人の娯楽としてより定着させる。そして芝居に携わる人が増えてくれれば喜ばしいことだ」
「そういえば、何故日本からスタートなんですか?」
「もちろん、舞台演劇に夢の溢れるロボットを登場させてもら‥‥」
「そうですね、日本の善良な方々は新たな文化を舞台演劇に作り出してくれますよ!」

●劇作家、円井晋事務所にて
「なるほど、それは楽しそうな企画ですね! 僕も協力させて頂きますよ」
 劇団『gathering star』主宰の円井は、ヘラルトとエミリアの申し出に手を叩いて賛同した。その企画とは『演劇習慣始めよう・劇を忘れた古い日本人よ』略して『演劇習慣』。一週間(平日)を通し連続して、それぞれ別テーマで公演を行い、芝居を見る習慣をつけてもらおうというものである。ちなみに、週間と習慣がかけられている。
「企画や主宰はヘラルト先生で、足りない人手についてや稽古場の確保は共催として僕らが務める形になりますね。よろしくお願いします」
 ヘラルトと円井が固い握手を交わし、企画は走り出した。

●演劇習慣始めよう・金曜
 テーマは『反抗』。テーマを元に舞台を作ろう!

ストーリー例:
 とある田舎にぽつんと立つ古い木造の家。そこには昔から、ネズミの一家が住んでいた。ネズミ達は平和に毎日を暮らしていたが、突然その家に人間達が引っ越してくることになった。食べ物は増えるかもしれないが、人間がやってくるだけで問題がたくさん起きてしまう。捕まえられて殺されるかもしれない。リフォームとか言って住処を粉砕されるかもしれない。人間達が猫でも飼っていたら一大事だ。
 ネズミ達は、人間達が一度帰った後で集会を開き、ある決定をする。
「一致団結して、人間達を追い出そう!」
 次の日から、人間を追い出すための様々な作戦が動き出す‥‥

●今回の参加者

 fa0485 森宮 恭香(19歳・♀・猫)
 fa1401 ポム・ザ・クラウン(23歳・♀・狸)
 fa2820 瀬名 優月(19歳・♀・小鳥)
 fa2832 ウォンサマー淳平(15歳・♂・猫)
 fa3081 チェリー・ブロッサム(20歳・♀・兎)
 fa3205 桜庭・夢路(21歳・♀・兎)
 fa3503 Zebra(28歳・♂・パンダ)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

●パンフレット
キャスト
トリム(桜庭・夢路(fa3205))
チェリー(チェリー・ブロッサム(fa3081))
ヨハン(Zebra(fa3503))
グレイ(森宮 恭香(fa0485))
シンガ/アストレア(ポム・ザ・クラウン(fa1401))
サリュ(瀬名 優月(fa2820))
ディアウス(片倉 神無(fa3678))
ロビン(ウォンサマー淳平(fa2832))

●サーカス団、王国へ
「もぅ! 何なのよ〜!」
「だから言ったんだよ、得なんか絶対しないって〜」
 グレイと共に逃げているのはいつも弱気なヨハン。
「待て! ここまでだ、もう逃げられんぞ」
 逃げるサーカス団一行の前に立ち塞がったのは、彼らを追っていた兵士たちのリーダー。ロビンと呼ばれていた。
「がるるる(訳:ご主人様に何をするつもりだ!)」
「シンガ、駄目」
 人の言葉を解するライオン、シンガを、主人であるチェリーが止める。
 移動サーカス団がこの国に入国して数日。公演の宣伝を始めたサーカス団の前に現れたのは多くの兵士達。兵士達はこの国の『娯楽禁止令』に則って、サーカス団を捕らえようとしたのだ。交渉の余地も無く、サーカス団は逃げ出した。
 そして、現在。
「私たちの仕事は人に笑顔を与えることだよ、国の条例なんかには従わないわ!」
「や、やめようよグレイ〜」
 ヨハンがたしなめるもグレイは一向に引き下がる様子は無く。他の団員も同じだった。だがしかし、後ろからは他の兵士達が迫ってきている。
 と、その時。
「きゃあ〜! ライオンよ〜!」
 少し離れたところから、そんな女性の悲鳴が聞こえた。サーカス団にはライオンはシンガ一頭のみであり、心当たりは無い。が、ロビンは一瞬その声に気をとられる。
「今よ!」
 その隙を突いて再び逃げ出すサーカス団。ロビンは追うが、ついに見失ってしまった。

「申し訳ありません。今度こそは必ずや奴らを捕らえてご覧に入れます」
 その日、城にて。兵士長ロビンは国王ディアウスに事件について報告した。
「うむ」
 ディアウスはそれだけ言うと、ロビンを下がらせる。
 ディアウスが『娯楽禁止令』を出したのは、先日亡くなった王妃が生前サーカス好きであり、それらを見ると悲しみを思い出してしまうからだという。
 隣を見るディアウス。そこに座っているはずの娘は、今日は不在だった。

●お姫様の想い
「はぁ‥‥勢いで飛び出してきちゃったけど‥‥」
 街中をぶらぶらと一人歩きながら、チェリーは溜め息をついた。本業の猛獣使いとは別に練習中の軽業がどうしても上手くいかず、落ち込んでサーカス団を飛び出してきてしまったのだ。
「あなた、サーカス団の人でしょ」
 振り向くと、そこには綺麗な服装の女の子。
「私、サーカスを見た事が無いの。よかったら連れてって、見せてくれないかしら」

 サリュと名乗った女の子は、団員達にある話を持ちかけた。
「私は『娯楽禁止令』なんて馬鹿げてると思ってるの。あれから街の人々から笑顔が消えた。‥‥街の人たちに笑顔を取り戻させてあげて」
 必要な物は提供するから。そういうサリュにトリムが問う。
「提供する、って‥‥あなたはいったい?」
「私はこの国の王女。ディアウス王の娘よ」
「ええっ!?」
「がうーん(訳:お腹すきましたー)」
「シンガ、取り込み中だからちょっと檻に入っててね」
「がうぅ(訳:えぇ〜)」
「父も、昔はあんな人じゃあなかったの、あなた達なら何とかできるかもしれないわ」
 サリュがそうサーカス団に訴える。どうか王様の心を開いてと。
「‥‥なら、ますますやらないわけには行かないよ、ね! 皆」
 何度か頷いて、グレイが言った。続いて、ヨハン。
「そう、だね‥‥頑張ってみようか」
 二人にチェリーも賛成し、トリムもまた賛成した。
「そういえばあなたの声ってどこかで聞いたことあると思ったけど、もしかして「ライオン!」って叫んだ人?」
「そうよ。名演技だったでしょ?」

●王妃の記憶
 城の中庭で開催されたサーカス。ディアウスは隣で娘を抱き座っている王妃アストレアと、ピエロのジャグリングを観ていた。
「ご覧下さい、あなた‥‥皆楽しそうに微笑んでいるでしょう? わたくしは人が微笑んでいるのを見るのが一番好きなのです」
 眠る娘を起こさぬよう、静かな声でアストレアが言う。その配慮も、ライオンの芸を見た観客の歓声で無駄になった。娘がうっすらと目を開ける。
「ねぇ、あなた‥‥」
 サーカスは空中ブランコから奇術へ。アストレアの声に、ディアウスは視線を向ける。
「民や姫の前ではいつも微笑んでいて下さいね。その代わり、私の前では‥‥怒ったり泣いたりしても構いませんから」
 優しい視線。一瞬の沈黙。
「‥‥ああ」
 綱渡りを成功させたサーカス団員に、より一層大きな拍手と歓声。その歓喜の波に揺られながら。
「どうか、この子が王位を継いだ後も、国中に笑顔が溢れていますように」

 そんな、記憶。

●サーカス!
「この廊下を真っ直ぐ行けば中庭に出られるわ」
 数日後。サーカス団はサリュの手引きで城に入った。自分の使う道具をグレイと分担して運びながらよたよた走るヨハン。そこに。
「待て! 貴様ら何をしている!」
 兵士長ロビンが部下を連れて現れた。しかし、前に立ち塞がるサリュの姿に足を止める。
「姫‥‥何をなさっているのです」
「この人達にはサーカスをやってもらうの。お父様に見てもらうわ。お母様が亡くなってから、お父様は変わってしまった。この人達の公演なら、お父様を昔のお父様に戻してくれると思うの。お願いロビン、ここは見逃して」
「‥‥分かりました。ですが、中庭の周りは固めさせて頂きます」
 ロビンはサリュの言葉にそう従った後、トリムたちに向かって。
「この公演で、もし国王が深く傷つけられるようなことがあったらその時は‥‥全員、この国から出ることは叶わないと思え」
 そう言って、ロビンは他の兵士を伴って去った。
「トリムさん、私はお父様にサーカスを見るよう説得しに行くわ。‥‥よろしくお願いします」
「私達も出来る限り頑張りますよ。こちらこそ、よろしく」

「お父様」
「話はロビンから聞いている。馬鹿な真似を」
 サリュが父の部屋に入ると、そこにはディアウスが待っていた。
「お父様‥‥何がお父様をそんなに変えさせてしまったの? 街の人達を見て! 皆無表情で生きる気力を無くしてしまったみたいよ、このままでいいの? これでも王様と言えるの?」
「そんなことは関係無い! ロビンを呼べ! 奴らを捕らえさせろ!」
「本日は当サーカス団の公演にお越し頂き、誠にありがとうございます! 楽しい楽しい芸の数々、最後までゆっくりとお楽しみください!」
 中庭から王の部屋の中まで響いた声はトリムのもの。ディアウスとサリュが中庭の見えるバルコニーへ出ると、そこではボールジャグリングを披露し、司会も行う姿が見えた。
「このサーカス団の公演を見て頂戴、彼らの演技こそ今私達に必要な物よ」
 その言葉に渋い顔をしながら、ディアウスはサーカスの方を向き直った。

 城の中庭で開催されたサーカス。トリムの後にはチェリーとシンガの芸が続いた。
「さあ、頑張ろうねシンガ!」
「がう♪(訳:お仕事頑張るー)」
 シンガが玉乗りをこなしたり、燃え盛る火の輪を潜り抜ける姿を見て、職務も忘れて兵士達から歓声が上がる。
 チェリーとシンガのダンスが終わると、チェリーは梯子を上ってどんどん高いところへ。練習をしていた空中ブランコを、ここで初披露する。
 グン、と勢いよくチェリーが宙を舞い、そして華麗に芸をきめていく。
「おおっ!」
 思わず声を挙げ手を叩くロビン。チェリーがわざとらしくロビンに向け一礼すると、ロビンはプイとそっぽを向いてしまった。
「見て下さい、お父様‥‥皆楽しそうに微笑んでいるでしょう? 私は、人が微笑んでいるのを見るのが一番好き」
 サーカスはヨハンの奇術へ移る。その助手を務めるグレイが、奇術の実験台になる人を探し見渡す。
「はい、ではそこの兵士長サン!」
「なっ、俺か!?」
「今回行いますは人体切断マジック! こちらの箱に入って頂いた兵士長を3つに切ってしまいます!」
 ヨハンはそう宣言しつつ、ロビンの入った箱を3つに切り離し、そしてまた元に戻してみせる。歓声の中、深く一礼。
 サーカスは終盤。グレイが本領発揮と細い綱の上を歩き、走る。音楽に合わせて一通りの演技をこなすと、ひらりと空中で回転して着地する。
 より一層大きな拍手と歓声。その歓喜の波の中で。
「‥‥サリュ? どこへ行った?」

 消えたサリュは、中庭で再び姿を現した。ディアウスもロビン達も何が起こるのか注目している。
 すぅ、と息を吸い込んで。サリュの口が歌を紡ぎ始める。これが最後の演目。サリュはこっそり皆と歌を練習していたのだ。
 ディアウスは、サリュの歌で過去を思い出していた。アストレアがよく歌っていた歌。サーカスが好きだったアストレア。
「今ここに溢れる全ての笑顔、これを守るのが‥‥王なのではないでしょうか?」
 歌が終わり、グレイがディアウスに言う。そう、それはアストレアとの約束。ディアウスがこれまでやっていたことは、楽しかった過去の思い出、アストレアの言葉までも否定することと同意。
 最後に、サリュが告げた。
「どうか、これからずっと、国中に笑顔が溢れているように」
「ああ、そうだな。‥‥たった今この時をもって、『娯楽禁止令』は廃止する!」