演劇習慣始めよう・火曜アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/24〜05/30

●本文

●空港にて
 5月某日。一人の女性を連れた中年の男が、機嫌良く歌を歌いながら来日した。
「『くーろがねの〜♪』」
「先生。日本語で、しかもその歌を歌うのは恥ずかしいので止めてください」
「ふむ、これはまずかったか‥‥『たった一曲のロックン‥‥』」
「先生。曲目は何であれ空港の人ごみの中で歌うのは恥ずかしいので止めてください。ホテルにチェックインして、用事が済んでから思う存分カラオケに行ってください」
 女性‥‥エミリアが黙らせた男はヘラルト・リヒタ。ドイツを中心に活動する劇作家で、演出家である。最近ジャパニメーション、特にロボットにはまっている彼が来日した理由はというと‥‥
「まずはアキバに行って、」
「行きません。円井先生の事務所に行きます」
 彼が来日した理由は、日本人にとっての舞台演劇を、もっとポピュラーな物にするためである。日本にも有名な劇団が多数あり、その公演を見に行く者も数多くいるが、地域によって大きく斑があったり、年代によってバラつきがあったりするのが実情だ。
「円井君ならきっと僕の考えを理解してくれるはずだ。舞台演劇というものを、日本人の娯楽としてより定着させる。そして芝居に携わる人が増えてくれれば喜ばしいことだ」
「そういえば、何故日本からスタートなんですか?」
「もちろん、舞台演劇に夢の溢れるロボットを登場させてもら‥‥」
「そうですね、日本の善良な方々は新たな文化を舞台演劇に作り出してくれますよ!」

●劇作家、円井晋事務所にて
「なるほど、それは楽しそうな企画ですね! 僕も協力させて頂きますよ」
 劇団『gathering star』主宰の円井は、ヘラルトとエミリアの申し出に手を叩いて賛同した。その企画とは『演劇習慣始めよう・劇を忘れた古い日本人よ』略して『演劇習慣』。一週間(平日)を通し連続して、それぞれ別テーマで公演を行い、芝居を見る習慣をつけてもらおうというものである。ちなみに、週間と習慣がかけられている。
「企画や主宰はヘラルト先生で、足りない人手についてや稽古場の確保は共催として僕らが務める形になりますね。よろしくお願いします」
 ヘラルトと円井が固い握手を交わし、企画は走り出した。

●演劇習慣始めよう・火曜
 テーマは『ドロップ』。テーマを元に舞台を作ろう!

ストーリー例:
 『普通』の生活に馴染めなかった主人公。通っていた大学での生活についに耐えられなくなり、ドロップアウトしてしまう。
 いつかこの『普通』を推奨する世界にドロップキックをぶちかまし、倒してやる。そう思いながら日々を無為に過ごす主人公は、コンビニからの帰り道、不思議な人間に出会う。
 その人間は、1つの小さな小さな包みを渡して、主人公に告げる。
「君にこの魔法のドロップをあげよう。これを食べれば、君が嫌う世界を壊すことが出来る。しかし、食べてしまったら最後、もう普通の人間には戻れなくなるよ?」

●今回の参加者

 fa0182 青田ぱとす(32歳・♀・豚)
 fa0206 遥雄哉(12歳・♂・ハムスター)
 fa0521 紺屋明後日(31歳・♂・アライグマ)
 fa0542 森澤泉美(7歳・♂・ハムスター)
 fa0984 月岡優斗(12歳・♂・リス)
 fa1435 稲森・梢(30歳・♀・狐)
 fa2672 白蓮(17歳・♀・兎)
 fa3268 稲川 茨織(12歳・♀・狐)

●リプレイ本文

 裏方仕事はメルヘンチックな世界で行われた。
 お菓子の家、お菓子のなる木‥‥そういった背景ばかりではない。本当にお菓子の国にいるような気さえ起こさせる、大量の飴、飴、飴。舞台で、少しずつ降らせるのだ。
「メルヘンやけど、ダンボールに詰め込まれてるっちゅうのが世界観ぶち壊しやな」
 今回大道具や天使のダミー人形、天使の羽等の小道具を担当したのは紺屋明後日(fa0521)。演劇習慣主宰のヘラルトに公演が終わったらアキバを案内すると言い、仕事が手につかなくなるほど彼を浮かれさせエミリアに怒られたということは公然の秘密である。
「あとは本番中に、人形と飴を落とせばええな」
 大量の飴の中からひとつ失敬し、口に放り込んで道具の確認をする紺屋。準備は万端だ。

●パンフレット
キャスト
男の子(遥雄哉(fa0206))
リーナ(白蓮(fa2672))
ラルク(月岡優斗(fa0984))
シエル(森澤泉美(fa0542))
ローゼ(稲川 茨織(fa3268))
魔女(青田ぱとす(fa0182))
母親/ナレーション(稲森・梢(fa1435))

●七色のドロップ
 『七色のドロップ』。それは、お菓子の国を舞台にした絵本のタイトル。その絵本の持ち主の男の子は、その絵本のページを開いたまま夢の世界へ。
「あらあら、本を読みながら眠っちゃって」
 母親は苦笑しつつも、布団を男の子の肩までかけてあげる。読みっぱなしの本も一緒に。楽しい夢が見られるように‥‥

●男の子とドロップウィスパー
『彼女はドロップウィスパー。吐息のようにそうっと優しく、ドロップを片付ける、お菓子の国のお掃除屋さんです』
 掃いても、掃いてもまた降ってくる。ドロップウィスパーのリーナは楽しそうに掃き掃除をしながらも、しかし、空を見上げ首を傾げる。
「うーん、今日はどうしたんでしょう? 掃いても掃いてもきりがありません‥‥あら?」
 リーナの視線の先には、不思議そうに空や周囲を見ながら歩いてくる男の子。
「こんな飴の時間に傘もささずにどうなさったんですか?」
 リーナがそう尋ねるも、男の子は自分がどうしてここにいるのか、まだ把握できておらず答えられない。そんな男の子にリーナはにっこり微笑むと、レインコートを取り出す。
「そのままでは、飴に当たって痛いでしょう。こちらのコートをどうぞ」
 水色のレインコートを男の子に着せてあげると、
「申し送れました、私はドロップウィスパーのリーナと申します」
 と自己紹介した。
 その時。二人の背後遠くに何か光り輝くものが空から落ちてくる。それは小さいが人のような形で‥‥

●落ちてきた落ちこぼれ
「お前が爺さんを怒らしたからじゃねーか!」
「てめェがあんなところで玉蹴りしてるからだろ! くっそ、あのジジイいつか絞める!」
 飴に埋もれながら言い争っているのは、落ちこぼれ天使のラルクとシエル。その言い争っている場面へとやって来る男の子とリーナ。
「‥‥! あ、シエル君は天界から落とされた天使なんですよぅ」
「また猫被りやがっ‥‥ん? って事は‥‥」
 やって来た二人を見て一瞬にして豹変するシエル。そのシエルの行動で二人の存在に気付いたラルクはシエルへの応対をすっぱり捨てると、リーナたちのほうへ向き直った。
「おい、そこのお前ら! ちょっと手ェ貸せよ」
「え?」
「シエル君たち、落としちゃったドロップ集めないと帰れないんですぅ」
 シエルたちは男の子とリーナに事情を説明する。どうやら、天界にある七色のドロップの内いくつかが地上に落ちてしまったため、飴が降り止まないという今の状況になっているということらしい。
「協力しやがれですー。シエル君たちがドロップ集めないと、飴も降り止まないですし〜」
「口調が気になりますが、緊急事態ですからスルーです」
「ドロップは妖精の森のほうに落ちたって聞いたけど、その森ってどこにあるんだ? 案内しろよ」
「‥‥飴、溜めてしまうと後でお掃除が大変なのですが、仕方ないですよね‥‥森はこちらです」

●妖精の森といじわる魔女
「このひどい飴、何とかならないかしら? こんなに降って貰っても困っちゃうわ」
 深緑のワンピース、森の妖精ローゼが葉っぱの傘の下から覗き込むように空を見る。ここのところの飴の降り方は確かに多すぎた。
「妖精さん今日は」
 リーナと男の子、天使のラルクとシエルがやって来たのを見て、驚くローゼ。天使がやって来ることなど初めてだ。
 天使たちは、飴が降り止まない理由と、七色のドロップがこの森の方に落ちたらしいという話をローゼに説明した。
「森のことなら妖精さんにお聞きするのが一番だと思いまして」
 そう言うリーナの判断は間違っていなかった。ローゼはポケットを探ると、
「もしかしたら、これのことかしら? 木に引っ掛かってたのよ」
 とひとつのドロップを差し出した。
「おぉ! これだぜ、これ!」
「他にはなかったですかぁ? さっさと天界に帰りたいんですぅ」
 そのあとシエルがぼそりと「あのジジイ絞めねぇと」と呟いたのを聞き逃さなかったラルクだが、そこは生暖かくスルー。
「私は知らないんだけど、魔女なら知ってるかも。でも、あの人ちょっと意地悪で有名なのよ」
「意地悪な魔女さんの事は知っていますけど、意地悪だそうなのでお家に行ったことはないんですよね‥‥妖精さん、どこに魔女さんがいるか知っていますか?」
 リーナの問いにローゼは少し考えてから、
「あまり会いたくないけど、飴は止んでほしいし、案内するわ」
 と答えると、一同の先頭に立って案内し始めた。

「ドロップ? ふーむ、知らないと言えば知らないし? 知っていると言えば知っているねぇ? しかし、『飴』が長く続くといいキノコが生えるんだ、教えてやる訳には、いかないな」
 黒いローブに身を包んだ意地悪だという噂の魔女は、やはり意地悪だった。リーナたちが聞いても、はぐらかしてばかりで教えてくれない。
「魔女さんはシエル君をいじめるですか?」
 ウルウルした瞳で、シエルは魔女に訴えかける。がしかし、魔女はどこ吹く風。
「‥‥そうだ、お前さんのその猫かぶりで思い出したんだが。ちょうどクスリの材料に天使の涙が足りなくてねぇ。どうしてもドロップの場所を知りたいんなら、天使の涙をこの小瓶に入れて持って来たら、教えてやってもいいよ?」
「天使の涙‥‥」
 呟いてリーナが二人の天使のほうを見ると、
「俺より涙出そうなのいるだろ」
 とラルク。移る視線。
「な、なんで皆一斉にシエル君を見るですかぁ!?」
「なんでって‥‥ねぇ?」「なぁ?」「ですよねぇ?」「うん」
 ということで、多数決により決定。
 ゴン!
「痛ってえだろてめェ! いきなり何し‥‥何てことするんですかぁ!」
「ほら、騒いでる暇あったらその滲んだ涙を寄越せ」
 シエルを強引に押さえつけると、魔女がさっき渡したばかりの小瓶にその涙を流させるラルク。
「ずいぶんと無茶なことをするねぇ。嬉し涙のほうが甘いクスリになったんだが、涙は涙だ。仕方が無い」
 シエルの涙が入った小瓶を受け取ると、魔女はゆっくりと話し始める。
「ドロップは、あたしは持ってはいない。だが、探してやることはできるよ‥‥少し待ってな」
 奥から水晶玉を持ち出すとテーブルの上に置き、占いを始める魔女。怪しげな呪文と手振りに、うっすらと水晶玉が光を放つ。
「ふふふ、何だ、極々近くにあるよ。飴の掃除屋さん、ちょいと身だしなみを整えてみなよ?」
 魔女のその言葉に困惑しながらも、リーナが服装を整えてみる。すると、ワンピースとエプロンの間からひとつの玉が零れ落ちる。
「あっ! ドロップ!」
「リーナさんが隠し持ってやがったんですねぇ。よくも歩き回らせてくれましたね」
「えっと、誤解です、隠してたわけじゃなくて‥‥」
「やれやれ、見つけてやらなかったほうが良かったかねぇ?」
 それからしばし、大騒ぎの魔女の家。
 いいから飴を止めてくれ。

●各々の帰り道。
 魔女の家から出ると、そこには大きな虹が出ていた。
「じゃ、俺たちは帰るから」
 シエルとラルクは、この虹を渡って天界へと帰るのだという。
「寂しがったりしないでね」
「大丈夫です、また会いたくなったらドロップぶちまけますから♪」
 ローゼの言葉にシエルがそう返すと、ラルクが一発小突いて、
「二度とゴメンだ面倒臭ぇ」
「てめェいちいち痛ェんだよ! ‥‥じゃ、シエル君たちは帰りますね。さようならー!」
 口喧嘩をしながら帰っていく二人の天使。その姿を見送ってから、
「皆、飴を止めてくれてありがとう! 私も森に帰るわね」
 くるりと服のチュールを靡かせてターンし、笑顔でローゼは森へと帰っていく。
 そこに残ったのは男の子とリーナ。
「さて、これでお別れですね。一緒に探してくれてありがとうございました」
 リーナがかける男の子への言葉。その言葉が一文字一文字進むに連れて、男の子には眠気がやってきて‥‥
「さあ! お掃除再開です!」

●絵本の中の冒険
 ふと気付くと、男の子はベッドの上だった。肩までかけられた布団、手元には開いたままの絵本。
「お母さん! 僕ね、絵本の中で冒険をしてきたの! 飴を、皆と一緒に止めてね、それでね!」
「ふふ、楽しい夢を見たのね」
 男の子の説明にも、母親は信じてくれない。
「本当なんだってば!」
 男の子がベッドから出て母親を追いかける。その後ろで、静かに。

 お菓子の国のドロップがぽろりと『落ちて』来た。

●ピンナップ


森澤泉美(fa0542
PCツインピンナップ
睦月一七