暗闇のケモノ中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
6.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/31〜06/02
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●本文
「完全に我々の失態だ。それを否定するつもりはない」
シャルロと名乗った黒いサングラスの人物。フランス人男性の名だが、目の前にいるのは東洋系の顔立ちをした女性である。偽名だろうという結論に達するのに時間はかからなかった。
「今現在動くことの出来る我々の手勢は残っていない。全てアレに病院送りにされている。墓場送りがいないのが、唯一の幸いといったところか」
シャルロが持ちかけてきた話題。それは、人間に感染し、実体化したNWの排除。数は一体で、巨大な顎と硬い皮膚を持つNWだという。
NWが実体化した直後にシャルロらは捕捉し、その撃破に動いた。だが、4対1という状況に一瞬の油断が混じり、止めを刺せず逃してしまったのだ。
「おそらく、アレは既にコアの分解をしようとしているだろう。そうされて逃げられる前に止めを刺してもらいたい」
シャルロが一枚の紙を机上に広げる。市街の地図だ。
「アレは、この建物‥‥小さな劇場だが、この中へ逃亡した。この劇場は地上に大ホール、地下に小ホールがあるが、地下のほうに潜られた」
続いて広げられる、小ホールの平面図。
「この広さなら、突入すれば発見も撃破も容易い。アレは既に瀕死でもあるしな。だが問題なのは、この地下のホールには明かりが無いということだ」
シャルロの指が、小ホールの外の一箇所を指す。
「地下ホールの電気系統一切が集まっている場所だ。まさか狙ったということはないだろうが、逃亡の途中アレはこいつを破壊していった。よって、地下は完全な暗闇になっている。この照明の復旧には2日程かかる。また、戦闘の結果地下へ下りる階段は大きく損壊し、大きな照明機材を運び入れることも出来ない」
サングラスの奥から、真意の見えない視線でその場にいる者たちを見渡すシャルロ。
「暗闇で手負いのケモノを相手にすることになるわけだが‥‥君達の力を貸してはもらえないだろうか? 報酬は多めに出そう」
●リプレイ本文
「コアの位置は喉元だそうよ」
ベアトリーチェ(fa0167)がシャルロから仕入れた情報を皆に伝える。相手は手負いと言えどもNW。油断は死に繋がる。あらかじめ敵の弱点とも言える箇所を調べておくのは基本だ。
「俺は前に立って、NWを誘き寄せる。半ば囮になるような感じだ。止めをさすのは任せる」
煙草を燻らせながら敷島オルトロス(fa0780)が自分の考えを伝え、皆も入った後の陣形や講堂について各々の考えを述べ合う。
そして、全体の動きを全体が把握したところで、皆立ち上がる。装備は既に確認済み。
狩りの時間だ。
●深淵への訪問
「おいおい、本気で真っ暗じゃねーかよ」
一般入り口は待ち伏せの危険性がある‥‥ジェイリー・ニューマン(fa3157)の提案でスタッフ用通路から地下劇場内に入った一行。草薙 龍哉(fa3821)が中を覗いてそう呟く。
ここに通じていた通路は、地上からの明かりが少し差し込みまだ壁くらいは見えたが、重い防音の扉を二枚開けた先のその空間は完全な暗闇だった。
「ヘッドランプの明かりをつけよう。いつ、どこから襲われるか分からん」
タケシ本郷(fa1790)はそう言うと、まず自分の頭の明かりをつける。続いて増えていく光源。ヘッドランプの他、敷島の左手には光の玉が浮いている。
「アルケミストさんはどこに?」
「私はここに‥‥」
アルケミスト(fa0318)の声の方向に顔を向ける越野高志(fa0356)。しかしそこには姿は無く。光学迷彩の能力だ。
「もう消えていましたか。護衛は私が務めますので」
「では‥‥後ろをついて‥‥行きます」
スタッフ用通路から入ったこの場所は、舞台の下手袖と呼ばれる場所だ。まずはその付近を、不意打ちに備え固まりながら探す。
「私たち以外に動いている物は無さそうだね」
鋭敏聴覚を使ってNWの居場所を探ろうとしたトーマス・バックス(fa1827)だが、それらしい物音を感知できなかった。聞こえたのはただ自分たちの息遣いだけ。
「ねぇ、これ‥‥人間の死体があるわ」
ベアトリーチェの視線の先には、舞台袖の機材に背をつけてがっくりと倒れている人間。左腕が肩口から根こそぎ無くなっている。
「喰われた‥‥か?」
その動かないモノから視線を外し、舞台上へと移動を始めようとする一行。しかし、その場にジェイリーだけが残った。
違和感。片方の腕を失った人間。ここで喰われて死んだ。なら。
「何で血が流れてない?」
『ギシャォォォッ!』
ジェイリーの疑問が皆に伝わる前に、目の前の人間が変態した。顔は口元が醜く膨張し、全身が盛り上がる。
「化けていやがったかっ!」
拳銃を取り出し即座に一発撃ち込むジェイリー。しかし硬い表皮に阻まれ大きなダメージは与えられない。
大顎を向けて飛び掛ってくるNWを何とか回避するジェイリー。対象を失ったNWに最も近くにいた草薙が襲い掛かる。コアの位置は、事前にベアトリーチェから聞いている。喉元へ向けて波光神息を‥‥
「‥‥っ、畜生っ!」
NWにしがみつき、波光神息を放とうと口を開いた草薙の視界いっぱいに、開かれたNWの大顎があった。
ベキッ!
必死に下顎を押さえつけ、首から上を持っていかれないよう抵抗する草薙。牙のめり込むヘッドランプに無数の亀裂が入る。
(「‥‥撃てない」)
空圧風弾による支援射撃を行おうとするアルケミストだが、草薙やNWの周りに殺到する味方が壁になり撃つことができない。
「本郷手を貸せ!」
「おう!」
敷島がNWの大顎を力技で開き、本郷がNWのボディを殴り続ける。今の獲物に執着し過ぎるのは危険と思ったか、NWは草薙を離し、逃亡に移る。
「逃がさないよ!」
鋭敏聴覚の能力を活かし、暗闇へ逃れたNWをトーマスが追う。がしかし、自分の明かり以外届かない暗闇へ逃げられては、足元の不安や孤立という危険があるため、追撃を断念する。
「草薙さんの治療もあります、今は一度引き上げましょう!」
越野のその言葉で、初日の作戦はひとまず終了となった。
「全く、やってくれる‥‥」
●再突入
幸い、草薙の怪我は大したことはなかった。日が変わるのを待たずして血も止まり、痛みも引いた。だが、ヘッドランプはもう使い物にならなかった。
「私の‥‥ランプを‥‥貸します。使いません‥‥ので」
アルケミストの差し出したややサイズの小さいヘッドランプを装着すると、草薙は立ち上がり。
「よし、もう一度入って今度こそ仕留めるぞ!」
敷島が右手の刀をブンと振るい、再突入の音頭を取る。
周囲の構造を既に把握してあるということで、初日と同じくスタッフ用通路から舞台へ入る一行。下手袖で一度立ち止まると、ジェイリーが超音感視の力を発動させる。
「‥‥見つけたぞ。客席、手前から3列目。奥から6席目のところに居る」
ジェイリーの報告を元に、少しずつそこを囲むように移動する。皆がほぼ予定の位置に着き、ベアトリーチェが銃の遊底を操作した時。
『ギシャァァァッ!』
客席に潜んでいたNWが立ち上がり、鳴き声を響かせた。そして逃走を図ろうとする。
「ちぇすとぉ!」
空中からアルケミストが空圧風弾を連射し、NWの行動を妨害する。軽く怯んだNWの姿を好機と見、ベアトリーチェが間合いを詰める。
「くっ!」
NWがその大顎を振り回し、勢いの乗った一撃をベアトリーチェに見舞う。事前に霊包神衣を使用していたおかげでダメージは少なかったが、受けた衝撃は消せず客席後方へ飛ばされるベアトリーチェ。
「今度は逃がさない!」
駆け寄ったトーマスが数発の拳をNWの顔面に、胴体にぶち込む。ベアトリーチェと同様にNWは弾き飛ばそうとするが、背後から押さえにかかった本郷がそれをさせない。
「このまま圧し折ってやる!」
全力でNWをホールドする本郷。殴り続けるトーマスに草薙も加わり、二人でNWをサンドバッグ状態で殴りまくる。二人ともコアを狙いたいが、大顎が邪魔をして狙えない。
NWも最後の力を振り絞ったか、押さえ続ける本郷の両腕に今までに無いほどの力がかかる。必死で押し込めようと力を込めるが、ついに本郷が振り払われる。
雄叫びと共に大顎でトーマスを弾き飛ばし、草薙に襲い掛かるNW。そこに、降魔刀を構えた敷島が割って入る。
「いい加減にくたばりやがれっ!」
金剛力増で筋力が増した敷島の一撃は、NWの残っていた右腕を斬り飛ばす。
『 ッ!』
形容しようの無い悲鳴とも鳴き声ともつかぬ音を上げて、舞台上へと一直線に向かうNW。その通り道にちょうど居た敷島に勢いと力任せにぶち当たる。
「ぐぅっ‥‥!」
弾き飛ばされこそしなかったが体勢を崩され、脇を抜けられる敷島。NWはそのまま舞台上へ。
「‥‥! そうだ、アレを‥‥」
越野がクリスナイフ片手に舞台袖へと一人走る。NWは既にまともな思考など出来ないのか、舞台奥の壁に数箇所穴をぶち開けつつ、下手袖へよろめく。
「退治が依頼ですからね‥‥後始末のことは考えないことにしましょう」
下手袖でNWを待ち受ける越野。その手のナイフで一本の太いロープを切断する。
‥‥ゴォォォォォォォォッ‥‥!
NWの視線が、自分の行く手を阻む最後の敵として越野を捉えたその瞬間。舞台上には大音響と共に、無数のライトが吊るされた数トンの鉄の棒が落下した。
粉塵舞う視界。それらが落ち着くと同時に客席の明かりが一斉に点灯する。舞台上には大重量に頭部を押し潰された、両腕の無いNW。それはもう微塵の動きも見せず。
「とりあえず、念のために。止めね」
照明によってつぶれなかった喉もとのコアを、ベアトリーチェが何度か強く踏みつける。
4度目の衝撃で、NWのコアは砕け散った。
●地上への帰還
一行が地上へと戻ると、ちょうどシャルロがやって来た。
「今度はもっと大物を用意しておいてくれよ」
「ということは、無事にアレを始末してくれたようだな。感謝する」
煙草をふかしながら不敵な笑みで言う敷島に、シャルロも口元に小さな笑みを浮かべて答える。
シャルロが無線を通じて何かしらの指示をすると、一分もしないうちにシャルロと同じような姿をした男たちが10人ほど、劇場へと入っていく。
「後始末に関しては我々が行う。君たちは報酬を受け取って、ゆっくり休んでくれ」
シャルロはそう言って、自身も劇場内へ入っていこうとする。それをアルケミストが呼び止める。振り返るシャルロ。
「手勢は‥‥残って‥‥いなかった‥‥のでは?」
「‥‥さあ? そんなことを言ったような気もするな」
シャルロは先ほど敷島に向けたのと同じような笑みをまた浮かべて。
「また何かあれば仕事を頼むかもしれない。その時はよろしく頼むよ。今度は手負いの雑魚じゃなく、ちゃんとした『大物』をな」
劇場の地下へと消えていくシャルロ。それからすぐに劇場は封鎖、立ち入り禁止となった。事件に関わった彼らでさえも。