たくさんの雨傘アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/03〜06/09

●本文

「またボランティア公演ですか?」
「そうだ。これまでのオムニバス形式の公演が好評でな。スポンサーも宣伝効果が高いから、しばらく続けたいとの事だった。それで、今回の場所なんだが‥‥青空演劇になる」
「ええっ? 外ですか!?」
 ディレクターの小関と田名部の問いに、局プロデューサー織石が答える。
「うむ。小学校の校庭だ。とりあえず観客の座るスペースにはテントを用意するから、雨が降っても大丈夫だ。必要であれば舞台のほうにも設置できる。それから、公演の費用がある程度広告主から出るというのは前回同様だ」
 織石によれば、青空演劇なので舞台として使えるスペースは無限大、テントを使用するなら幅10m、奥行き2mとのこと。袖幕は無いが、要望があれば衝立を出して隠れられるようにするらしい。
「それと、今回音響機器は使用できる。小学校の外のスピーカーから流す形だが」
「音の効果が普通の舞台とは全然違いますね」
 織石は机の上に置いていたカップを取り、紅茶を一口含んでから続けた。
「今回のテーマは『梅雨』だ。オムニバス形式で、1本10分から30分くらいの尺で、2本から4本程度上演というのは変わらない」
 わかりました、と動き始める小関と田名部に、織石が声をかける。
「ボランティア公演だが、今回も出演してくれたキャストやスタッフにはいくらかの謝礼が出る。そのことも募集の際には伝えておいてくれ」

●今回の参加者

 fa0352 相麻 了(17歳・♂・猫)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa0858 シャミー(15歳・♀・猫)
 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa1609 七瀬・瀬名(18歳・♀・猫)
 fa2820 瀬名 優月(19歳・♀・小鳥)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

●Black Rain
・キャスト
ジョーカー‥‥相麻 了(fa0352)
シャーミ‥‥シャミー(fa0858)
謎の女‥‥七瀬・瀬名(fa1609)

 人体に悪影響を及ぼす未知の物質が含まれる、黒い雨『Black Rain』。それは地球で製造された新エネルギーの失敗によって引き起こされた。地球では長く黒い雨が降り続き、浴びた人々を狂気に冒した。
 一部の地球人は宇宙へと脱出。自らを『ワイズマン』と呼び、地球の監視・観測を始める。

 それから100年。

 地球の大地に降り立ち、ジョーカーはあたりを見渡す。ジョーカーは『ワイズマン』の中では下層に位置する監視員の一人であり、地球の雨や土壌、大気の成分を調べるために定期的に地上に降りるという、危険な任務を負っている。今は採取した各種サンプルを検査用の機器にかけている最中。その時間を利用して、課せられたもうひとつの任務‥‥人体サンプルを見つけるという仕事に出る。
 しばらくして見つけた捕獲対象。それは怪我をして倒れている一人の少女だった。
 少女は、ジョーカーが近づくとその顔に恐怖の表情を浮かべた。ジョーカーが何者なのか知らない。だからこその恐怖。その表情を見て。
「似ている‥‥」
 呟くジョーカー。その少女に、病気で亡くした自身の恋人の影を見たのだった。
 ジョーカーは少女を自身のシャトルへ運び、手当てをすることを決めた。

 『ワイズマン』の設備を用いた治療で、少女‥‥シャーミは順調に回復していった。ジョーカーの言葉から覚えたのか、それまで一切話さなかったシャーミだったが少しずつ言葉を発するようになった。ジョーカーが自分に危害を加えるものではないとシャーミは感じたようだ。対して、シャーミに対するジョーカーは‥‥
『被検体の治療が済んだのなら、すぐにこちらへ運べ』
「被検体なんかじゃない! 彼女は‥‥彼女は人間だ!」
 ジョーカーは本部との通信を乱暴に切断する。あくまでシャーミを物としてしか見ない『ワイズマン』に嫌気が差したのだ。それに、彼にとってシャーミは‥‥

 暫らくぶりの晴れ間。ジョーカーはシャーミを連れ外へと出た。どれだけ続くか分からない好天。シャトルへ戻ろうとしたその時。二人の前にひとりの女性が立ち塞がった。
 ジョーカーの影に隠れるシャーミ。それを見て女性はシャーミの敵であろうと推測したジョーカーは、突如として襲い掛かってきた女性の攻撃を何とか防ぎ、かわすと、戦闘へと突入する。
 女性は思いのほかに強かった。押されるジョーカー。だが、段々と女性の攻撃が緩く、散漫になっていく。それを不審に思っていると、頭の中に響く声。
『その子を返して。その子は私の可愛い妹』
 はっ、と女性を見るジョーカー。女性は、戦いながらも常にシャーミを気にし、庇おうとする態度からジョーカーを敵ではないのかと思ったようだった。そして、彼女の持つテレパシー能力で話しかけてきたのだった。
『妹を返してくれれば、私はあなたと戦わない』
「‥‥わかった。シャーミは返すよ」
 ジョーカーは言って、シャーミの手をとる。シャーミと女性は少しの距離をおいて何かしらの会話を行うと、双方に笑顔が戻った。
『あなたは、これからどうするの?』
 女性の声。視線は、シャーミが離さないジョーカーの手に。
「俺は、シャーミといつまでも一緒にいるさ」
 そう答えて身に着けていた浄化装置を外すジョーカー。それによって、彼は二度と『ワイズマン』の本拠へと戻る事の出来ない『地上人』となった。
 降り出した雨。先までの晴れた空が嘘のように雲に覆われる空。しかし。
 降ってきた雨は、青年の心を反映したかのような透明の雨だった。

 女性がシャーミを連れ自分達の住処へと戻った後。ジョーカーは自分の荷物などをまとめにシャトルに戻った。そこで。
 ジョーカーの胸を貫く銃弾。裏切者、離反者の粛清を行う『ワイズマン』のクリーナー部隊。彼らも地上に降り、ジョーカーを待ち受けていたのだった。
「愛してる‥‥」
 最後にその一言だけを残し、ジョーカーは息絶えた。
 それから、降り続いた雨は‥‥

●雨はいつか上がる
・キャスト
楊・玲花(fa0642)

 しとしとと静かな雨音が辺りを包み。天気とも手に持つ開いた傘というアイテムとも不釣合いに、一人ブランコに揺られる玲花。
 ふと誰かの近づく気配に顔を上げる。男。玲花の悪友の一人だ。

「‥‥何? 私、今あなたと話すほど暇じゃないんだけど」
 ブランコで一人ぼうっとしてる奴のセリフじゃねぇだろ。何でこんなとこで。
「何でですって? 知ってて言っているんでしょ」
 ‥‥あの男の話だろ。振られたっつー。
「ええ、そうよ。「君は強い人だから、僕が居なくても平気」だってさ」
 ‥‥‥‥
「‥‥馬鹿よね」
 何が馬鹿なんだよ。
「もしかして、私を慰めに来てくれでもしたの? 似合わな〜いわよ」
 誰が慰めたりなんかするかよ。振られ女の顔を見に来てやっただけさ。
「はぁっ!? あんたって男は! 少しはデリカシーってものはないの!」
 あるように見えるか?
「見えない」
 だろ。‥‥少しは元気出たか?
「‥‥ま、おかげさまでね。‥‥そういう捻くれた性格直さないと、いつまで経っても恋人の一人も出来ないわよ」
 余計なお世話だ。全く、立ち直ったかと思えばすぐこれか。
「‥‥でも、ありがと」
 ん? 何だって?
「あら。いつの間に雨が上がっていたのかしらね」
 ああ、そういえばそうだな。
「今日は記念にパーッとやるわよ。あんた、付き合いなさいよね」
 何の記念なんだか。いいぜ、何にだって付き合ってやる。

 水溜りを軽く飛び越えながら、玲花は悪友を連れ歩いていく。
 雨上がりに聞こえてくる小さな雀の鳴き声は少しノイズ混じりで、観客に少し懐かしいような、温かい印象を与えて。

●雨宿り
・キャスト
 清之介‥‥諫早 清見(fa1478)
 早紀‥‥瀬名 優月(fa2820)
 音次郎‥‥深森風音(fa3736)
 碧子‥‥槇島色(fa0868)

「こんにちは。恵みの雨ですが、なかなか仕事の方は捗りませんね」
 ある強い雨の日。道中降られた二組の男女は出会った。
「そうですね、少々困ります」
 雨宿りの木の下で、互いに軽い挨拶を交わす清之介と音次郎。二人には、それぞれ連れが居た。金糸のような髪に名と同じ色の瞳の碧子と、着物の模様とも重なって雨の中香る紫陽花の如き早紀。
「でも、雨って嫌いじゃないわ。外はどしゃ降りでも、清之介さんの傘の中やこの木の下なら濡れることは無い。小さな空間だけど、ここだけは守られてる。この感覚、私はとても好きよ」
「そうなのですか‥‥私は、雨はあまり好きではありません。いい思い出が無くて」
 傘の外に手を出し、微笑みで話す早紀に、碧子は対照的に沈んでいて。でも。
「でも、音次郎さんと出会ったのも雨の日だった‥‥」
 それだけは、大事な記憶だと。
「お二人はご夫婦なのですか?」
 そんな碧子を見て、音次郎に尋ねる清之介。
「いえ、私達は‥‥私達は、好き合ってはいるのですが、夫婦となることを認められていません」
 音次郎の答えに、どういうことかと尋ねる清之介と早紀。それに碧子が答えた。
「私は、見ての通り異国の者です。ある時、浜に打ち上げられていたのを音次郎さんに助けて頂いたのです」
「碧子さんは、その時以前の記憶を失っていました。ですが、記憶‥‥思いでは、無くしたのならまた作れば良いと。‥‥私達は次第に好き合うようになりましたが、周囲に碧子さんが記憶喪失である、異国の女性であるからと反対する者がいて、悩んでいます」
 二人がそう自分達の身の上を明かすと、清之介はしっかりした口調で、しかし優しく諭す。周囲の声など、国の違いなど、些細な事だと。自分達の強い想いさえあれば、それで全て決まるのだと。
「諦めちゃいけません。お二人の気持ちが本物なら、恋は実るわ」
 早紀が言う。
「私は、例えばこんな雨の日に彼女の側にいる役を誰かに譲るなんて考えられなかった。貴方の心も決まっているのではないですか?」
 最後に告げられた清之介の言葉に、音次郎ははっとした。人は悩んでいる時、既に答えは決まっているものだという。周囲の反対がありながら、悩みながらも音次郎は碧子のことを未だ愛している。
「そう‥‥ですね。ありがとうございます。相談に乗って頂いて」
「構いませんよ。私達も、同じ様に悩んだことがあるのです。‥‥雨、止みましたね」
 清之介の言葉に他の3人も空を見る。暗く、重く天を覆っていた雲は所々途切れ、明るい空が見え出す。それは、悩み曇り、泣き出す程に苦しんだその気持ちが払拭された証か。
「話を聞いて下さって有難う御座います。‥‥これからは、私も雨が好きになれそうです。‥‥行きましょうか、音次郎さん」
 穏やかな微笑み。碧子は音次郎の手をとり、一面を日の光が照らす道を歩いていく。
「私達もあの二人と同じ問題を乗り越えたのよね」
「ああ。好き合っていれば種族の壁だって越えられる‥‥あの二人はきっと大丈夫だ」
 清之介が布をかざしながら一回転する。再び見えたその頭には犬のような耳。ふと気付けば、早紀の背中には白い翼。
「ええ、あの二人なら大丈夫。止まない雨なんて無いんだもの」