石板に迫る魔手中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
9.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/27〜07/01
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●本文
「少しばかり面倒な仕事だ。それを君達に頼みたい」
シャルロと名乗った、黒いサングラスの東洋系の顔立ちをした女性。テーブルの上に広げられたエジプト国内、カイロ美術館周辺の地図に、幾つかの図。
「カイロ美術館に収蔵されている幾つかの美術品が、別の美術館へ移送、そこで展示されることになった。その移送の護衛を頼みたい」
まず地図を指し、輸送車両の移動ルートを示すシャルロ。輸送車は夕暮れにカイロ美術館を出発し、翌日昼前に目的地へと到着する。
「単なる金銀財宝の類なら奪われようと砕かれようと構わないのだが、今回運び出される品の中に重要な石板が含まれている。まだ見つかっていない重要な遺跡の手がかりが記されていると推測されている物だ。移送先の美術館でその調査が行われる予定だが、襲撃が予想されている」
図を示すシャルロ。ひとつは輸送される美術品のリストで、もうひとつは石板と思しきものの図。大まかなサイズが記されているようだ。
「この通り、人間が一人で運べるサイズではない。積み込みも運び出しもフォークリフトで行わなければならないものだ。コソ泥に盗み出せるものではないが、車両ごと奪われる可能性はある」
言い終えると、シャルロが部屋の扉を開け二人の男を招き入れた。シャルロと同じ黒いサングラスの、体格の大きな男たちだった。
「これが輸送車の、そっちが君達に乗ってもらう車両の運転手だ。二人とも勿論獣人だから、色々と誤魔化す必要は無い。今回の護衛の仕事にはこの二人と、私が同行する」
シャルロは一同を見渡し、
「どんな事件が起こるか分からないが、手を貸してはもらえないだろうか?」
●リプレイ本文
●出発
「おはようございます‥‥と言うか、もう「こんばんは」ですね」
横田新子(fa0402)が目を擦りながらカイロ美術館搬出口へとやって来る。今回の石板の搬送、そしてその護衛は夜中に行われるため、彼女は先立って仮眠をとっていた。
「まだ眠そうだな。日本食が無いとエンジンがかからないか?」
メンバーが集まって来たのを見て、他の男たちと作業をしていたシャルロがやって来る。
「残念ながら手元には米も味噌も無いが、純米酒なら用意できるぞ」
「いいねぇ。お仕事が終わったらもらおうかな」
酒豪の鳥羽京一郎(fa0443)が横から。鳥羽は今回のエジプト行きの際新婚旅行がどうのと嘆いていたが、彼の恋人との結婚は日本では認められていない。まずそのあたりから考慮が必要なようだ。
「輸送車とワゴンのタイヤは、防弾に出来ないのかしら?」
ベアトリーチェ(fa0167)がシャルロに尋ねると、シャルロは口元に薄い笑みを浮かべて、
「そういった提案をしてくれるのはとても嬉しいよ。仕事を依頼した相手が熱心に任務を遂行しようとしてくれるのは」
言って、おもむろに拳銃を取り出すシャルロ。銃口をワゴンの予備のタイヤに向け、発砲。タイヤに穴は開かない。
「説明していなくてすまなかった。これも防弾だ」
「シャルロさん」
「千客万来だな。質問攻めは何年ぶりかね」
苦笑するシャルロを呼んだのはChizuru(fa1737)。石板の文字などを事前にビデオに撮影しておけないだろうか、という相談だった。盗まれてしまった場合の控えにするのだ。
だが、石板は移送用に厳重な梱包がなされ、輸送車に積み込まれた後。今から控えに出来るレベルの撮影を行うには輸送車から降ろし、照明機器を用意し、梱包を解かなければならない。そんなことをしていては出発が半日は遅れてしまう。結果、撮影は却下となった。
一行は出発前にしっかりと周辺地図や輸送ルートを頭に叩き込み、護衛車両であるワゴンに乗り込む。輸送車には運転手の男とシャルロが乗った。
ややうるさいエンジンがかかり。乗客の肩と横田にぶら下がった懐中電灯を揺らして車は走り出す。
長い夜の旅の始まりだ。
●移動
「‥‥何かドライブ中のBGMでも無いもんかね?」
と、こぼしたのは鳥羽。確かにワゴン車に8人詰め込まれ、おしゃべりも少なく居眠り厳禁とあっては退屈だ。そういう仕事だから仕方ないが。
「風景を見飽きたんなら、星でも見てたらいいんじゃないか? 星を見飽きたら、今度はまた風景に戻って来い」
沢渡 操(fa1804)がそう返すと、鳥羽ではなく横田の首が斜め上へ向く。
「さすが、中東。日本とは星の見え方が違いますね」
その横田の言葉に、しばし一同天体観測のお時間。そんな皆が余所見をしている時に物陰からロケットランチャー、ということは幸いにも無かったが。
そんな中でも一人、ベアトリーチェは周囲の警戒を続けていた。時折後ろを振り返り尾行してくる車などが無いか確認しているが、今のところそういった雰囲気はない。夜中のアスファルトを走るのは2台の車両だけだ。
ベアトリーチェと同じく車内で完全獣化して待機しているのはChizuru。襲撃者がダークサイドだった場合、完全獣化を全員が止められてしまっては厳しい戦いとなることを予測してのことだ。
「某会社の新型防弾シャツとか、美術館で着ぐるみショーとか」
というのが、今の姿を一般の人間に見られたときの言い訳だ。
「ガラパゴスで戦争でもしなければ需要が無さそうだな」
とは矢車(fa3207)の弁。
「できれば何も出てきて欲しくないんですけどね‥‥」
星空から視線を落とし、窓から周囲を警戒する宮間・映(fa0082)がぽつりと。窓から外の風景を見るその姿は、年齢も相まって家族旅行に来た子どものようだ。ただ、運転手のガラが悪過ぎるので見方によっては誘拐事件だが。
一向に襲撃者の現れる様子は無く、また移動中鋭敏嗅覚で警戒していたChizuruの鼻を潰すような珍事も残念ながら起きなかったが、とりあえず2台の車両は途中の休憩地点へと到着した。
●襲撃
2台の車はゆっくりとスピードを落とし、無人の空き地に停車する。
「とりあえず、ここまでは襲撃は無かったな」
輸送車から降り、沢渡が言う。
明かりを頼りに周囲を軽く警戒する。が、誰かが隠れているような様子は無い。物音はただ、自分たちの足音だけ。
そんな中。
ドゴォォォン!
突然に響く大音響。音はワゴンの方から。
「NWだ! 対応しろ!」
叫ぶシャルロは半獣化すると、NWの前に立ち塞がる。
俊敏脚足で、半獣化状態で駆けつけた宮間が見たNWは、異形を通り越した、やはり異形の姿だった。肉塊。それが一番正しい表現の気がした。
横田に矢車が加わり3人でNWに打撃を叩き込むが、暖簾に腕押し、全く効いている様子が無い。
ダン! ダン!
ベアトリーチェと沢渡が拳銃で銃撃する。一点に圧力の集中する銃弾はNWの表皮に穴を開け、ぶよぶよした体内に鉛をねじ込むが、それでもNWの脈動は弱まらず。
「何なのコイツは!」
叫ぶベアトリーチェに、肉塊からだらりと下がっていた触手が振るわれる。が、その触手は根元から切断され、制御を失いどこかへ飛んでいく。
「半獣化のヤツは一度下がって獣化しろ! 俺がその間時間を稼ぐ!」
完全獣化を済ませ戦線に加わったのは鳥羽。打撃が効果を持たないと見て取り、アサイミーでの斬撃を主体に置く。
鳥羽がひとりで肉塊と対峙しているその時、輸送車には他の脅威が迫っていた。さらに2体のNW。
「あっちはアレで手一杯か。つまらんな‥‥ジェリコ、完全獣化を許可する。とりあえず見せておけ」
シャルロが言うと、護衛車両の運転手の男が完全獣化を始める。
肉塊の触手をほとんど叩き落し、切り落とすと、鳥羽は拳銃持ちの二人と止めに入る。最後の攻撃手段になるだろう体当たりにだけ気をつけて、NWの体を切り裂き、穿つ。最後の抵抗をするかと思われたNWだが、その気味の悪い体を蠢動させながら逃亡を始める。
「追うか‥‥いや、それどころじゃないな」
敵の殲滅より護衛。沢渡の判断で、3人は他の敵の対処に戻る。
宮間と横田、矢車は完全獣化したあと、輸送車に近づくNWへ向かった。打撃の効かない肉塊を相手にするのでは自分たちは役に立たないと考えたからだ。
ブォン! と振り回される腕を回避し、殴り、蹴る。直撃を食らえば横田の重量でもどこまで飛ばされるか分からない怪力のNW。
「‥‥分が悪いな。輸送車だけ先に単独で逃がす。構わないな?」
シャルロがそう言うと、誰の返答も待たず輸送車の運転手が輸送車へ乗り込み、エンジンをかける。
ゆっくりと走り出す輸送車。だが、その前にもう一体の、異様に巨大なNWが立ち塞がった。
「ジェリコ。勿体無いが許可する、潰せ」
巨大なNWとひとりで戦っていたジェリコという男は、一瞬の溜めの後拳を叩き込む。すると、NWの片足が砕け散り、バランスを崩して倒れる。特殊能力を連続で使うのか少しの間をおいてから、繰り出された蹴りがNWの頭部を胴体から切断する。脅威が消え去り道の開いた輸送車は走っていく。
最後に残ったNWは、狙っていたのだろうと推測される石板を逃しても逃げ去る様子を見せなかった。
シャルロらの射撃を援護に、横田と矢車がNWを挟むように移動。注意がどちらか一方に偏ることの無いようにしながら、細かく位置を変えつつ打撃を与え続ける。
NWの認識の中から完全に敵の一人が消えたとき。俊敏脚足の能力で高く跳躍した宮間がNWの首筋に跳び蹴りを叩き込む。
崩れ膝をついたNWに、獣人たちが殺到する。戦える体勢ではなくなったNWは、そのままコアを砕かれ消滅した。
●到着
NW殲滅後、一向は護衛車に乗り込み急ぎ輸送車を追った。遅れはそれほど大きくなかったためすぐに追いつくかと思われたが、しかし道中で輸送車を見つけることは出来ず。結局移送先の美術館へ、護衛車が先に到着してしまった。
「まさか、襲われてしまったということは‥‥」
何も無かった場合の到着予定時間を数時間過ぎ、横田の呟きが真実味を帯びてきた頃。輸送車が美術館へと到着した。
「申し訳ありません、道中で一度襲撃を受けたため、ルートを大きく変更しました。この遅れはそのためです」
輸送車の運転手がシャルロにそう説明するのを聞き、そういえばとChizuruが
尋ねる。
「ダークサイドが遺跡関連の資料を狙っているという話は聞いたことがありましたが、なぜNWが石板を狙うのでしょう?」
「奴らを使ってでも何かをしたい、そんなことを考える奴もいるのさ。そして実際に実行しても平然とした顔をしたまま、な」
シャルロは運び入れられる石板を眺めながら、無表情でそう答える。
梱包を解かれた石板が、美術館内に置かれた。専用の台に横に置かれ、透明なケースがかぶせられる。通常の展示品として展示しながら、研究や解読が行われるとのことだ。
興味がある、とベアトリーチェは石板を観察させてもらった。が、全く読むことができない。やはり解読を待つしかないのだろう。
ただひとつ。シャルロから聞くことが出来た情報があった。
「全体の文面はまだ分からないが、この石板の文には何箇所か、『呪い』という語が使われているそうだ」
謎は解かれず。ただ生まれていくばかり。