僕が貴女で貴女が君でアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/17〜07/23
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●本文
●何とも悲惨な光景・その1
それは、やけに流れ星の降る夜が明けた朝。いつものように目覚まし時計の喧しい音で目覚め、いつものようにリビングへ行き、いつものように家族と顔を合わせる。
そしていつものような朝食を‥‥とはいかなかった。
新聞を広げコーヒーを飲む妹。
キッチンから朝食の皿を運んでくる父。
身を乗り出してご飯まだー? とごねるばあちゃん。
シュールだ。
呆然と見ている自分に、背後からかけられる声。聞いたことのあるような無いような、違和感のある声に振り返ると、そこには寝癖の残った、寝ぼけた顔の自分。
急ぎ洗面所に行き、鏡を見る。そこに映っているのは姉。
人々の心と体が入れ替わり、自分を除いてその事に不信感を抱かないこの状況。
夢だ、これは絶対夢だ。ほらその証拠に、頬を抓れば‥‥‥‥痛い。
●何とも悲惨な光景・その2
それは、やけに流れ星の降る夜が明けた朝。いつものように目覚まし時計の喧しい音で目覚め、いつものようにリビングへ行き、いつものように家族と顔を合わせる。
そしていつものような朝食を‥‥とはいかなかった。
自分に、背後からかけられる悲鳴。聞いたことのあるような無いような、違和感のある声に振り返ると、そこには寝癖の残った、寝ぼけた顔の自分。
自分と自分の姿をしたその人が急ぎ洗面所に行き、鏡を見ると、そこに映っているのは自分と姉。つまり、姉と自分が入れ替わったということか。
次々起きだしてくる家族。その皆がごちゃごちゃに入れ替わっていて、大混乱。
夢だ、これは絶対夢だ。ほらその証拠に、頬を抓れば‥‥‥‥痛い。
●ヤバい世界への招待
「っていうのが、考えてる大体の案だね。誰がどう入れ替わってるかは、参加してくれる役者さんに合わせて変更しようと思ってるけど。一番悲惨な役になるように」
ニコニコと、非常に楽しそうな笑みで話すのは劇団『gathering star』主宰の円井 晋。
案が2つあるのは、役者達の意向に合わせようという意図だ。その1の案であれば、芝居の中心人物は『自分』となり、この事件が起きた原因を探ったりするのがメインの劇になるだろう。対してその2の案では、芝居の中心人物は『全員』で、普段とは全く違う日常を送る人々を描くコメディに近くなる。
「最終的には、一日の終わりに事件を引き起こした原因が分かって、全員が元通りになる。そして、普段の自分たちの持っていた悩みや何かが解消される、っていう流れにしたいと考えているよ」
どんな舞台になるか、本当に楽しみだよ。円井の笑みは他人事だからこその余裕の笑み。
●リプレイ本文
●開幕前〜パンフレット〜
星川家
斎(伊達 斎(fa1414))
昴(蘇芳蒼緋(fa2044))
朋美(谷渡 うらら(fa2604))
鈴(千音鈴(fa3887))
竜之介(竜之介(fa1136))
愛理(アイリーン(fa1814))
裕哉(月岡優斗(fa0984))
あかり(愛瀬りな(fa0244))
●土曜日
「何で、ケンカなんかしちゃったのかなぁ」
それは、やけに流れ星の降る夜。星川家の娘、朋美はいつもより少し夜更かしをして、夜空を見上げながら、昼間のことを思い出していた。
「相手の気持ちが分かる人間に、か。一度でいいから別の人間になれれば、分かるようになるのかな」
それから流れ星を幾つか見て、カーテンを閉める。電気を消せば、あとは世界は勝手に朝へ進んでいく。星の降る夜が明ける。
●日曜日(朝飯前)
いつもどおりに訪れた朝食の風景は、大荒れの様相を呈した。
「え‥‥私‥‥おと‥‥さん‥‥えぇっ!」
少女口調でうろたえる父、斎が大混乱し。
「どういうことだ、僕がそこにいて、僕が竜之介君で‥‥」
食卓で斎の定位置に座った甥、竜之介が斎を凝視。
「美しい僕を間近に見るのも悪くない! よって無問題さ☆」
いわゆるナルシー口調で竜之介を見るのは祖母、鈴。口元の笑みがひたすら怪しい。
「大変な事件だけれど‥‥ああ、なんて動きやすいんでしょう」
軽くターンしてみせる昴は一家の長男。混乱の最中でも朝食を作り始めるその姿は祖母の背中。
「こんな姿、愛理に見せられないぞ‥‥」
洗面所で鏡を前に立ちすくむのは朋美。しかし使用するタオルは昴愛用アントーニオの赤タオル。
皆が慌ててばかりでは一行に状況が分からないので‥‥
「「「いただきます」」」
とりあえずはいつもどおりの朝食を前に合掌。
「それにしても、今日が日曜でよかったよ。平日だったら会社に行かなければならなかった」
竜之介が‥‥いや、竜之介の姿の斎が話す。その言葉に、うんうんと頷くのは斎‥‥じゃなくて、斎の姿の朋美。
「私も学校休みでよかった‥‥って、忘れてた!」
男性声でガビーンと地団太踏む朋美。実は今日、隣人で朋美の同級生である日向裕哉が星川家へやってくるのだ。そのことを忘れていた。と、同時に。
タ〜〜ラ〜ラ〜〜タ〜ラ〜〜ラ〜ラ〜♪
朋美の姿の昴が携帯のメール着信を確認。一通り読み終えてボソリと
「げ、マジかよ。バッドタイミングだぜ、愛理‥‥」
昴の恋人の訪問予定メール。さらに悪いことは続くもので、
「そういえば、今日は家庭訪問じゃなかった? 朋美の先生が午後に」
慌てる一同の中で楽しそうなのは昴になった鈴ばあちゃん。何事でもないように事件の予感をさらりと告げる。
「とりあえず、作戦会議は後にして朝ごはんを食べないかい? 僕の美しさを保つために、3食きちんととらなければね。‥‥いや、3食きちんととってもらわないとね」
言いながら味噌汁をすする鈴ばあちゃんの中身は竜之介。彼のこの落ち着き様に一家が今ほど頼もしさを覚えたことは無かった。
「もしかして、私が昨日願ったから‥‥ううん、そんな訳‥‥ないよね?」
●日曜日(午前沈黙編)
ピンポーン。
『はい、星川です。どちらさまですか?』
「姫野です、昴さんはいらっしゃいますか?」
『ああ、愛理か。俺だ。今開ける』
ガチャリと鍵が開いてドアが開く。彼氏の自宅訪問など初めての愛理は、家族にも会うんだと緊張。
「よ、よう、おはよう」
「?」
愛理は少しぎこちない昴に案内され、家の中へ。もちろん、昴の中身はまだ鈴ばあちゃん。
「あ、あの‥‥えっと、初めまして。ひ、姫野といいます」
「初めまして、わた‥‥僕は昴の父の斎といいます。今日はようこそ」
とりあえず勧められた椅子に座って、彼氏の父親と‥‥お兄さん? な感じの二人と対面する愛理。横目で見る彼氏は今現在台所で洗い物中。
「なんかすごく手馴れてる‥‥」
ボソリと呟く愛理。手馴れてるのも当然、ばあちゃんだし。
「お兄ちゃんすごいね、家事万能だよ」
傍らに座る朋美に言う愛理。しかし朋美(中身昴)は、
「愛理、あれ俺じゃねーから‥‥‥‥ううん、なんでもない」
部屋を沈黙が支配。水の流れる音が寂しさを誘う。
「‥‥あ、あのっ! 私、今日はこれで失礼しますね」
どれだけ時間が経ってからか、愛理が立ち上がって言った。「え? もう?」とか「ゆっくりしていきなさい」とか言いたくても言えない立場の家族は仕方なく見送り、昴(ばあちゃん)は玄関先まで愛理を送る。
「じゃ、明日大学でな」
「ねえ‥‥その、ゴメンね、私まだ家事とか全然駄目で‥‥あれじゃ、恥ずかしいよね。私、これから家事とか勉強して家族に自信を持って挨拶できるようになるから」
昴にそう言う愛理。恋人の家事万能ぶりに、対して自分は何も出来ないと思い知ったのだった。
「それじゃ、私帰るね。‥‥いつか、大学のお昼に二人分お弁当持って行けるようになるから」
「おばあちゃん、愛理は?」
「帰ったよ」
部屋に戻った昴ばあちゃんに、朋美兄ちゃんが訪ねた。さっきまでぎこちない微笑みだった昴の顔に、柔らかい笑みがあった。
「どうしたんだ?」
「いや、いい子を見つけたねえって」
●日曜日(昼食動乱編)
「おじさん、なんか今日の朋美の様子おかしくない?」
「そっ、そうかな?」
(「‥‥おじさんもおかしいな」)
親が出かけているということで、昼食の約束をした星川家にやって来た日向裕哉は、朋美のクラスメートである。
昼食を終え、昴ばあちゃんがお茶菓子を見ていると
「あら、お茶菓子が足りなくなりそうね‥‥斎、ちょっとお使いに行って来てくれない?」
「はーい」
(「はーいって何!?」)
斎(朋美)が出かけて行き、そこには裕哉と朋美(昴)だけが残され。裕哉は、今日言おうと思っていたことを朋美に告げる。
「昨日は言い過ぎた。それとあいつらから守りきれなくて、ごめん」
昨日とは、朋美をいじめる集団と裕哉が土曜に対決した事件を指す。そのあと、裕哉は朋美に「お前も言い返せよ」など言っていたのだった。
が、しかし。朋美の中の昴にはそんなこと知る由もなく。
「ちょっとお前に言い過ぎたじゃん、結局いじめられたしな‥‥忘れた? それはそれで便利な特技だけど」
すっくと立ち上がると、ドタドタと二階の朋美の部屋へ走っていく朋美昴。学校用のカバンを開けると‥‥
「ただいまー。最中で良かったよね?」
「朋美クン、何故この僕を頼ってくれなかったんだい!」
帰ってきた斎朋美の目の前に立ち塞がる、何故かキメポーズの竜之介ばあちゃん。
「朋美、これから先生来るよな。先生に言って、解決してもらおう」
男口調で話す朋美昴。
「え、えーと?」
混乱する裕哉。
・ ・ ・
ということで。
「え? おじさんが朋美で、朋美が兄ちゃんで? 鈴ばーちゃんが竜之介さんで、んで‥‥はぁ?」
「とりあえずそういうことなの。先生が来るまで時間が無いし、別の都合もあるから納得した事にして!」
「おじさ、じゃなくて朋美、分かったけど別の都合って」
「それは考えちゃダメ」
閑話休題。
「ようこそ! マドモアゼ‥‥いえ影村先生」
教師一年目の影村あかりは、礼儀正しく星川家へあがると、祖母の微妙な様子をコントのように気付かずスルーし、そのまま面談へと入った。
四角のテーブルの一辺にあかり先生、残りの二辺に斎・鈴・竜之介・朋美(の姿の人たち)が座り、話をする。残りの一辺が空白なのは都合上である。
「朋美ちゃんはとても優しいですね。ただ、もうちょっと積極性があればいいな、と思いますのと‥‥あと、非常に忘れ物が多いのが‥‥」
先生の話が進むにつれ、項垂れる斎。いや、朋美。
「マドモ‥‥先生、それはたぶん忘れ物じゃありません。これを見てください」
竜之介ばあちゃんが変わり果てた朋美の文房具を見せ、斎入り竜之介と共にいじめだろうと話をする。裕哉の話がその裏付けだった。話が進められるにつれ、先生の顔も強張っていく。
「自分がもっと早く気づいてあげることが出来ず‥‥本当にごめんなさい、朋美ちゃん!」
先生は立ち上がると、朋美(昴だけど)に深々と頭を下げ謝った。その後、他の家族にも真剣に謝る。
「では、よろしくお願いしますね」
斎入り竜之介が玄関先で先生に言う。その言葉に、先生も淡い笑みを浮かべて、
「はい、必ず。今回のことは本当に申し訳ありませんでした」
と改めて深く頭を下げた。その先生の表情にLOVEの竜之介ばあちゃん。
「その微笑、僕より美しい! プリーズ、マイエンジェル☆」
「次のお家がちょうど朋美ちゃんにイジワルをする子の家ですので‥‥話しあってきます!」
手を握ろうと飛び出した竜之介ばあちゃんを完全スルーして撤退するあかり先生。一人として竜之介ばあちゃんを心配しない家族一行。
「失敗するなんてなんてことだ‥‥鈴ばーちゃん、動き難っ!」
●日曜日(番外編・腰痛戦争)
竜之介ばあちゃんは玄関への墜落により鈴の部屋へ強制送還。布団に横たわり暇な時間が始まった。
「こういう時に鏡があれば‥‥いや、今僕は鈴ばーちゃんだったんだ、見てもしょうがない」
することなく横になったまま、視線をめぐらす竜之介ばあちゃん。と、近くの机の床との隙間に、何かを見つけた。
「これは‥‥ずいぶんと古いノートだね」
息を吹きかけて軽く埃を飛ばし、ページを捲る。
「鈴ばーちゃんの、日記?」
日記はかなり古いもので、所々字が擦れて読むことができなかった。それでも、多少は解読できるページもあるわけで。
「へぇ‥‥鈴ばーちゃん、駆け落ちしてたんだ」
と、竜之介の知る新事実。鈴ばーちゃんは周りから相手との結婚を認められず、それでも諦めずに想い続け、そして駆け落ちという形で自らの想いを成したのだ。
「‥‥‥‥」
竜之介には夢がある。役者の道である。しかし、芽が出ない。周囲には「僕の魅力を理解できないなんて愚かしい」などと言いながらも、内心は不安だったのだ。
だが。
諦めなければ、いつかきっと夢は叶う。叶わずとも、何かを学べる。報われることができるはずだ。
「‥‥僕も諦めないよ」
日記を元あった場所に戻し、ごろりと天井を仰ぐ。
「痛っ! 腰、腰がっ!」
竜之介ばあちゃんが搬送された自室を遠くに見つつ、昴の体の鈴ばあちゃんは思う。
「ひょっとしたら、普段の私は‥‥こんなに動くことが出来てなかったのね‥‥」
●日曜日(騒乱終結編)
「自分が仕事ばかりに打ち込んでいたばっかりに‥‥朋美、すまなかった」
斎入り竜之介が、仕事にばかり没頭し家族のことを見なかった自分を後悔し、娘を抱きしめた。朋美は斎の中に入っているから、絵的には斎と竜之介の抱擁シーンだが。どうしてだろう、感動的な場面のはずなのに笑いがこみ上げてくる。
「お父さん、あのね‥‥ひょっとしたら‥‥」
ひょっとしたら、流れ星が原因かもしれない。朋美がそう話す。まさかそんなことが、そう思えるが、しかし自分たちが入れ替わっていることも『まさか』の範疇。
その日の夜。朋美(まだ斎)は、まだ降り続ける星たちに願いをかけた。そして。
「皆心配してくれてる。私もこのままじゃいけないんだよね‥‥うんっ」
●月曜日
『愛理、意外とお前家族ウケ良かったぞ』
朝早くから部屋でメールを打つ兄。
「私もそれなりの歳でしたね。分を弁えず御免なさい、そして有難う」
「大丈夫だよ、ばーちゃん。あれでも結構派手に動けるしね。‥‥おっと時間だ、影村先生の登校時間、突撃計画スタート☆」
ばあちゃんに改心したような言葉を吐きつつやはり今までどおりな甥。
「じゃ、行ってくるよ」
今までの朝の風景には無かったワンシーン。出勤前に娘の頭を優しく撫でる父。
そして。
「お前雰囲気変わったな‥‥今は本人だよな?」
「元に戻ったよ! わたし、もう泣いたりしない。頑張るよ!」
朋美に戻った朋美。その表情には意志が見えて。
やけに流れ星が降った、その翌朝。皆は確かに元に戻って、しかし皆は確かに変わった。