夏の大演劇祭・前日Aアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/14〜08/18

●本文

 本格的な夏の暑さがやっとやって来た東北の地。そこで行われる一大イベント。

 『夏の大演劇祭in東北』

 毎年、東北の都市を順番に会場とし行われてきたそのイベント。その地域のアマチュア劇団から、幾つかのプロの劇団まで参加する舞台演劇のいわば祭典。数多くの参加団体に、大きな劇場、広い会場。その開催が近づいてくると、いやでも街は活気づいてくる。
 そんな大きなイベントだからこそ、何かしらのミスも起きやすいし、ちょっとした事件も起こってしまう。

 ・ ・ ・

「ちょっと待て、手配出来てないってどういうことだ」
「すいません、担当のやつがファックス送ったつもりで送ってなかったらしく‥‥」
 イベントを目の前に控え、急ピッチで最後の仕事が進められていく劇場内。そのど真ん中で交わされる会話。
「とりあえず、どこでもいいから声をかけまくれ。最低限人数と最低限の常識さえあれば何とかなる仕事だろう」
「そうですね、ポスター張りまくったりビラ配りしたり、受付とか看板の設置とか警備とかそんな程度ですから。あ、あと下見に来るスポンサーのお偉いさんの接待ですか」
「接待だけは注意だな‥‥まあ、とにかく一分一秒でも早く人を集めて来い。集まらなきゃ、お前とファックス忘れた担当者に10人分ずつくらい働いてもらうからな」

●今回の参加者

 fa0189 大曽根ちふゆ(22歳・♀・一角獣)
 fa2671 ミゲール・イグレシアス(23歳・♂・熊)
 fa3109 リュシアン・シュラール(17歳・♂・猫)
 fa3635 甲斐・大地(19歳・♀・一角獣)
 fa3652 紗原 馨(17歳・♀・狐)
 fa3871 上野公八(23歳・♂・犬)
 fa4203 花鳥風月(17歳・♀・犬)
 fa4263 千架(18歳・♂・猫)

●リプレイ本文

●日陰(てんごく)と日向(じごく)の狭間で
「うぅ〜重い〜‥‥何が入ってるんだろ、コレ?」
 丈の長いジーンズに半袖Tシャツ、演劇祭スタッフの制服でもある専用はっぴを着て、紗原 馨(fa3652)が今回出場する劇団の荷物を運搬する。
「ま、いっか」
 少しの間眺めていたが、その中身を推測するのが仕事ではないので次の仕事へ向かう。今回出場する劇団は多く、劇団の荷物もダンボール一箱程度のところもあれば家でも建てるのかというところもある。
「‥‥あっ! 上野さん、暇なら手伝って下さいよ」
 次の荷物のところへ行こうとした紗原の目に映ったのは、日陰でだらりと溶けている上野公八(fa3871)。彼の仕事は劇場内外への看板設置のはずだが‥‥
「いや、ハチは暇じゃないですよ〜。こうして看板を上手く見せるにはどうしたらいいか、様々な角度を計算してるんですよ」
 確かに、上野の視線の先を見ると2、3個の看板が正面だったり斜めだったりを向いて立っている。しかし、紗原が劇場に来た時もあの角度だったような気もしないでもない。
「よし、決めた。正面に看板立ててきまーす」
 もそりと立ち上がると看板へ向かう上野。日陰と日向の境界を踏み越えた瞬間、照りつける日差し。
「‥‥あづーい。あづーい〜‥‥」
 よろよろと歩み寄り、運ぼうと看板を手にした瞬間。
「あづーいっ!!」
 長時間日差しに当てられた金属製の看板。表面は紙で覆ってあるとはいえ、脚の部分や裏側は露出したままだ。
「あづーいっ! あづーいっ! あづーいーっ!!」
 お疲れ様です。

「そろそろ1時間ちょっと経つやろ。少し休憩しとき」
 超重量級と格闘中の紗原に手を貸すのはミゲール・イグレシアス(fa2671)。力仕事も出来るええ男と公言して憚らないが、その辺の評価に関しては各人の意見に任せようと思う。
 重くて紗原一人では持ち運べないような荷物だったが、荷物よりも巨大なミゲールが加わったことであっさりと運び終わり、さっきまで上野が溶けていた日陰に入り一時の休憩となる。
「いやー、格闘家にはなかなか仕事がないさかい」
 スポーツ飲料とミゲールから渡された(押し付けられた)岩塩を摂りながら休む紗原が、ミゲールとの会話中に聞いた話。しかし、仕事に関しては格闘家でなくとも困ることはあり得る。例えば紗原はマルチタレントだが、芸能界はその名の通り芸や能力で生きていく世界。広く浅くでプロの中に埋もれるよりは、狭く深くでどこかに秀でた方が仕事が受けやすい。ミゲールも仕事が無いと言いつつもプロとして相応の仕事を受けている。広い分野に対応出来ることは稀有な才能ではあるが、バラエティ色の強いトーク、七変化百面相の芝居、声や外見を活かした歌唱。何にでも対応できるよう勉強するのと共に、自分の強い分野を持つことが大事になるだろう。

●外回りは大変です
「こっちがポスターで、こっちがビラです。ポスターは貼るところ決まってますけど、ビラは特に決まってないのでじゃんじゃん配ってください」
 そう言ってニッコリ微笑むのは大曽根ちふゆ(fa0189)。自身のパソコンで完成させたポスターとビラを外回りの花鳥風月(fa4203)と千架(fa4263)に手渡しし。
「‥‥随分とあるな」
 花鳥が両手に持つのは、ビラを20枚ずつ束ねたものが30セット入った紙袋4つ。
「もう掲示許可は取ってあるんだよな?」
「うん。それに関しては間違いなく取ってあるって、スタッフさんが」
 丸めたポスター30本の入った紙袋と、こちらも多量のビラが入った紙袋1つ。千架の確認に大曽根が答えた。
「抜けてたのは俺らの仕事の担当者だけか。ま、おかげで仕事が回ってくるんだけど」
 そう言いながら、劇場の外へと出て行く2人。
「さて、あたしはあたしで自分の仕事をしなくちゃね」
 自分のバッグにポスターを数枚入れ、外出する準備をする大曽根。彼女はこれから地元のテレビ局へ向かい、ローカル番組に生出演して宣伝するのだ。
「あづーい、溶けそうですよ‥‥大曾根さん、手、空きましたんで何か日陰で出来る仕事下さい」
「じゃ、このビラ置きにコンビニまわりお願いしますね」
「えと、日陰で出来る仕事がモアベター‥‥」
「コンビニまわりお願いしますね」
「日か‥‥」
「ね?」
「はい」
 お疲れ様です。

 事前にある程度の宣伝がされていたせいか、ポスター貼りは全て順調、ビラ配りもわりとスムーズに進んでいた。個人商店に置いてもらったり、街頭で配ったり。花鳥が心配していたような事件は起きずに済みそうである。
 とはいえ、事件にはならずとも快く思わない人というのは存在する。こういう仕事を気に食わない人は、誰が何をやっていても気に食わないものだ。他にも、カップル相手に二人の世界を壊してしまった時など危険である。千架はモデルの仕事も行う容姿の持ち主。今回はビラ配りに有利だろうとそれを利用した配り方をしている。女性に気に入られてしまった時、男性に女性だと勘違いされた時などはカップル崩壊の危機である。また、千架の傍に控える花鳥も女性にしてはスラリと高い身長に引き締まった表情で、道行く若い男性陣の視線の的になっていたようだ。
「今日の分はこんなところでいいかな? 一応明日も配るんだろ?」
「そう聞いてる。ところで、帰りに弁当屋で弁当を受け取って帰ってほしいそうよ」
 花鳥が自分の携帯に届いたメールを確認しながら言う。
「弁当って、スタッフ何十人居るんだ? 持ち帰れねぇじゃん」
「大丈夫、あたし達臨時で入ったスタッフの分だけだっていうから、8つだけで済む」
「そりゃ、助かったぜ」

「ということで、夏の大演劇祭in東北、お時間のある方はぜひいらして下さいね。よろしくお願いします」
 満面の笑顔でぺこりと頭を下げる大曽根。少しの間があって、CM入りましたという声。
「ありがとうございました。それでは、次の仕事がありますので失礼しますね」
 と、丁寧に礼をし、番組の邪魔にならないように退散する。スタジオから出てロビーの時計を見ると。
「そろそろ、スポンサーさん達が劇場に来ますね」

●対人戦
「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」
 今回の大演劇祭のスポンサー企業の人や協賛のテレビ局から来た人などが続々とやって来る。甲斐・大地(fa3635)は彼らをとりあえず片端から控え室へ叩き込むと、接待を主に担当するリュシアン・シュラール(fa3109)にバトンを渡した。
「それにしても暑いな〜」
 夏場と言えども汗だくだくでの受付は客も自分も不快だろうと、服の下に温度の低い物を仕込んであまり汗をかかないように工夫していた甲斐。それでも暑いものは暑かった。受付嬢専用の制服は無いのだがスタッフ専用のはっぴは羽織らなければならず、それ1枚でも結構暑さは増大する。
 受付が設置されているのは劇場の入り口付近。エアコンを効かせても外の暑さが絶えず流れ込んでくるため効果が無いと、電力節約にここは冷房が入っていない。
「控え室に行きたーい」
 ぽつりと呟く甲斐。それはコンビニまわり中の犬の人が一番切実に願っているだろう。

「今回の演劇祭のメインの舞台である大ホールは1300人収容の大きなものです。サスペンションライトが4列、ピンが4台、各種特殊効果用のマシンも一通り揃っており、東北でも指折りの施設となっています」
 劇場の規模や演劇祭の準備の進行具合など、スポンサー達の質問にひとつひとつ丁寧に答えるリュシアン。これも事前に説明が出来るよう下調べ、勉強しておいたおかげだ。
 リュシアンは、本業は俳優である。彼の話にはその経験も含まれ分かりやすく、スポンサー達に本来退屈であるだろうはずの説明も楽しんでもらえたようだ。
 また、リュシアンが逆に驚かされたこともあった。演劇祭の協賛のテレビ局から来た人というのが、彼が以前受けた舞台演劇の仕事のプロデューサー、織石だったのである。彼によって「演技力は折り紙つき」と言われ皆から拍手を送られたリュシアンは、照れながらも笑顔を見せた。

●皆まとめて休憩時間
「弁当、もって来たぜー」
 千架が手のビニール袋を掲げると、待ってましたとばかりに声があがり視線が向く。
「暑さのせいもあると思うけど、大変だー。もう動けないよ」
 苦笑いで言う紗原。それとは対照的に立ち上がって弁当の袋を受け取りにいくミゲール。
「お手伝い、おてつだいー、○化放送」
「それは、お付き合い、ですね」
 とネタに反応する大曽根。そう、それが正解。
「ど付き合い!?」
 上野、イエローカード。
「丁度良い冷たさですね。冷たすぎると夏場は体調不良を起こしますし」
 甲斐がそう言って、リュシアンが少し安く仕入れてきたペットボトル飲料から水分を補給する。同じく、劇場に戻ってくる前から持っていた残り少ないペットボトル飲料を飲み干す花鳥。これは千架が道行く人々の善意をねだり(?)頂いた差し入れの片方である。もう片方は既に飲み乾されinゴミ箱。
「足らねぇ‥‥俺普段5人前は食うからな」
 体のどこに入っているのか、食べまくる千架。そこに差し出されるのはリュシアンの作ってきたおにぎりに大曽根の水羊羹。
「こういう暑い時は、ビタミンとミネラルが大切やでー。豚の焼いたのもええで。ブタミンなんてなぁ」
 笑いの中和気藹々と流れていく時間。こうして、夏の大演劇祭in東北の準備は順調に進み、完成するのだった。