夏の大演劇祭・前日Bアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
1人
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期間 |
08/14〜08/18
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●本文
本格的な夏の暑さがやっとやって来た東北の地。そこで行われる一大イベント。
『夏の大演劇祭in東北』
毎年、東北の都市を順番に会場とし行われてきたそのイベント。その地域のアマチュア劇団から、幾つかのプロの劇団まで参加する舞台演劇のいわば祭典。数多くの参加団体に、大きな劇場、広い会場。その開催が近づいてくると、いやでも街は活気づいてくる。
そんな大きなイベントだからこそ、何かしらのミスも起きやすいし、ちょっとした事件も起こってしまう。
・ ・ ・
「‥‥何だって?」
「会場内に、NWが入り込んだようです。幸い、ここで作業してるスタッフはほとんど獣人ですし、人間のスタッフは配置を変更して外の仕事を割り振ったので、感染の心配は少ないですし、殲滅の際も獣化は可能です」
演劇祭の会場となる劇場のロビーで、ヒソヒソ話をする二人。
「そのNWの形状は?」
「それが‥‥カブト虫、です」
NWの情報を持ってきた女性スタッフが言うには、劇場に入り込んだNWはカブト虫のような外見なのだという。サイズもカブト虫。角もカブト虫。羽もカブト虫。数は2匹。
「どこに潜んでるか分からないそれを、本番までに見つけ出して退治‥‥となると、スタッフの他に人を呼んだほうが良さそうだな」
「ええ、スタッフの仕事の予定は本番まで全て組み立てられていますし、そこにどれだけ手間がかかるか分からない仕事を追加するのは危ないと思います」
「無駄な仕事も増えたようだしな」
もう一人、イベントの責任者らしい男の視線の先には怒鳴られている別のスタッフの姿。
「分かった、確実に仕留められるよう、デキる奴を呼んでくれよ。かかる金は‥‥予算として上に掛け合ってみる」
●リプレイ本文
●飛び回る大捜査線
「楽屋の1番から6番にはいなかったわ。施錠は完了、次に行くわ」
竜華(fa1294)が演劇祭スタッフから借りた無線で報告をし、歩き出す。獣人を捕食するNWをおびき寄せるため、彼女は現在半獣化形態で行動している。が、チャイナドレスに付け耳付け尻尾。どこぞのゲームに出てきそうな出で立ちである。おまけに、NWがカブトムシということで蜜の入った壷を持ち歩きながらの捜索だ。NWの実体化前、カブト虫の本能が残っている可能性があることを利用しようとする作戦であるが、あまり人に見られたい光景ではない。ちなみに、竜華の他に特製蜜タレを持った晨(fa2738)とスイカを持ったDarkUnicorn(fa3622)も劇場内を歩き回っている。
「楽屋近くのトイレ、クリアー。‥‥なんつって」
そう言って女子トイレから出てくる蕪木薫(fa4040)。蕪木は囮として動く竜華に同行する形で劇場内を回っていた。NWに襲われたとき単独では危険だという観点からである。しかし時間は無く、少ない人数で探索しなければならない範囲は広い。手分けしての捜索は避けられず、折衷案として2人一組での行動である。
少し先を歩く竜華が振り返り尋ねる。
「男子トイレの方はどうだった?」
「いませんでしたよ」
コレはこの際仕方無いということで。
・ ・ ・
ムシャ。
ムシャムシャ。
‥‥‥‥‥‥‥‥
「どうじゃー、ドラコ? カブト虫はおったかのッ」
「っていうかぁ、ユー何スイカ食べてんのよっ!」
「オヤツの時間じゃッ」
怪獣の着ぐるみの背中を開け放ち、そこから窮屈そうに翼を出し飛んでいるドン・ドラコ(fa2594)。『宙乗り』を使った機械のテストという触れ込みでホール内を飛び回り、普通なら手の届かないところに潜んでいるかもしれないNWを探していたのだ。
空中から降りてくるドラコ。そろそろリハーサルや準備の為に大演劇祭に参加する劇団がやって来る。
「しかし、早く見つからんものかの。見つけたら、このハリセンでスパーンと一発! なんじゃがなッ」
「っていうか、劇場のホール内は飲食厳禁だしぃ!」
ハリセンを奪い、NWより先にDarkUnicornに一発見舞うドラコ。
しぶしぶ、食べていたスイカを片付けるDarkUnicorn。そこに、普段は聞かないような妙に大きな羽音。
「‥‥NWなのぉっ!?」
ハッと見上げたドラコの視線の先には、今まさに変容を遂げ終わった昆虫にしては巨大なカブト虫。全長は30センチほど、その半分が先の鋭く尖った角であった。
「連絡、連絡じゃッ!」
劇場から借り受けたトランシーバーで近くにいる仲間を呼ぶDarkUnicorn。その傍らで、高速で突っ込んでくるカブト虫NWを何とか回避するドラコ。
「NWは!?」
DarkUnicornの連絡から間も無く、竜華と蕪木がやって来る。彼女らがさっきまで調べていたのはこのホールのすぐ裏の楽屋だったため、即座に到着できたのだ。
「そこのデカいカブト虫じゃッ! わしのスイカにまんまと吊られて来おったッ!」
本当にそうかは分かりませんが。
「これで、捕獲をっ!」
探索中ずっと持っていた箒のようなもの、そのカバーを外す蕪木。目には目を、虫には虫取り網を。捕獲用に補強した虫取り網。
攻撃対象を変え突っ込んでくるNWに狙いを定め、ブン! と網を振るう蕪木。網の中に確かに捉えた手ごたえと共に、ブツッという音、急に抵抗の無くなる網。
「ホンマかいなっ!?」
つい素の関西弁が出る蕪木。彼女の手に残ったのは突き破られて穴の開いた虫取り網。
俊敏脚足を使用しDarkUnicornがNWを追い掛けまわすが、高速移動する小さな対象にハリセンのツッコミはヒットせず。
「ただのハイカラなカブト虫のくせに、すばしっこい奴じゃの‥‥流石は虫の王様‥‥」
「羽を狙うのよ! 地面に落ちれば敵じゃない!」
「わかってるしぃ!」
竜華の言葉に、ドラコが波光神息を放つ。回避されるも、客席側空中に向かって撃ったため劇場に被害を与える前に光は消える。
舌打ちの後、放たれる2発目。今度のそれは目標をしかと捉え、急速度で回避するNWを逃がさず包む。羽が焼け焦げ、浮力を失うNW。
「よし、チャンス!」
金剛力増で力を増し、落ちるNWに駆け寄る竜華。能力使用と能力使用の間の空白時間を待って、細振切爪の能力を使用。高速振動する爪でゆっくりと歩行するしか出来ないNWをバラバラにする。
「‥‥逃げられなくてよかったですね、ここは記録媒体の宝庫だったのに」
見回す蕪木。NWは記録媒体になら何にでも溶け込める。電話やパソコン、芝居の台本にでも。
発見次第、即刻処理。それが対NW戦における原則のひとつでもある。
●歩き回る大捜査線
『施錠は完了、次に行くわ』
「わかった、よろしく頼むぞ」
無線機を懐にしまうと、劇場内の部屋などを記した紙にバツ印を幾つか書き込む鬼王丸・征國(fa0750)。
「それにしても、カブト虫か‥‥勿体ない」
「何が勿体ないのじゃ?」
「最近昆虫ブームですから。カブト虫とかクワガタとか、結構高い値段で売られてるんですよ」
鬼王丸の問いに答えるのは晨。
「虫の王様を決めるとかいうゲームか」
「ゴキブリとかムカデは出場しませんけどね」
周囲を見回しながら歩く二人の額には汗の玉が浮かぶ。劇場内は一部の部屋以外はほとんど冷房が効いていないのだ。晨は今回の仕事をするにあたって、カブト虫の過ごしにくい環境を作るために冷房のフル稼働を提案したが、けち臭いことに電力節約のため全開とはいかなかった。
と、そんなところに突然響く声。遅れて無線機からもノイズ混じりの同じ声が続く。
「‥‥販機前からロビーに向かってる!」
『‥‥‥‥販機前からロビーに向かってる!』
・ ・ ・
各チームとの提示連絡を終え、無線機をしまう桐生董也(fa2764)。夏姫・シュトラウス(fa0761)はたった今確認し終えた部屋にカチャリと鍵をかけ、劇場案内図に確認済の印をつける。
「にしても、見つからんな」
「そ、そうですね」
桐生の問いにおどおどした受け答えの夏姫。こんな感じで本当にレスラーなのかと疑ってしまうが、自己暗示をかけた彼女は実は相当に強い。
「今のうちから、マスクかぶった方がいいんじゃないのか」
「いえ、恥ずかしいですから‥‥でも、NWと突然遭遇したら危ないんですね‥‥」
一人脳内会議を始める夏姫をよそに、改めて周囲を見渡す桐生。何となしに目についたのはスタッフ用休憩所の一角に設置してある紙コップの飲料の自動販売機。
(「そういや、カブト虫って甘いもん好むんだっけ‥‥?」)
スタスタと自販機に歩み寄る桐生。すると見えてくる、紙コップ専用のゴミ箱の上に乗っている、黒くてデカい物体。自身の体長と同じくらいの長さの角を持った俗に言う虫キング。
ぶわ、と羽を広げ、桐生の頭上を飛び越える巨大カブト虫。
「NWだ! 夏姫、連絡を‥‥」
「よーしっ、無事に逃げ切れるなんて思うなよ、カブト虫風情が!」
飛び去るNWを追い桐生の目の前を走っていくのは虎の人。夏姫・シュトラウスいやホワイトタイガーマスク。
「‥‥皆、NWを見つけた! スタッフ用休憩所の自販機前からロビーに向かってる!」
・ ・ ・
ドタドタドタという足音と共に、鬼王丸と晨の前に姿を現したのは夏姫と桐生。その視線の先には大きな羽を広げて飛ぶカブト虫。
「よぉし、挟み撃ちだ! 覚悟しろよ!」
「この先はロビーだ、一般人に見られるかも知れん! 逃がさないでくれ!」
桐生の無線連絡の直後から完全獣化を始めた鬼王丸だったが、まだ一分経たない。集水流弾での迎撃は間に合いそうも無かった。と、目の前に走りこむ晨。
「これでっ!」
ブンと虫取り網をNWに向けて振り下ろすが、ただの虫とは違いNWとして実体化したカブト虫は速かった。空を切る虫取り網。
ロビーに向かう真っ直ぐの通路を背に、完全獣化の完了した鬼王丸は即座に集水流弾を複数発撃ち込む。まずはNWの機動性を奪ってからだ。
NWの体を掠める水の弾丸。その攻撃を恐れたかNWは急に進行方向を変えると、夏姫いやホワイトタイガーマスクに鋭い角での体当たりを仕掛ける。
「遅い遅いっ!」
鋭敏視覚の能力を起動し、突撃をひらりとかわす覆面白虎。
「的が小さいと狙い辛いな‥‥」
突撃をかわされたNWの行く先には、骸骨仮面桐生が待ち構えていた。いっそ巨大化してくれたら発見も楽なのにと思いつつも、本当に巨大化されて飛び回られては劇場関係者が泣く。演劇祭本番まであと数日。
ガギィン!! と高い音が鳴って、弾かれる桐生の腕。ヴァイブレードナイフはNWに直撃したが、当たった部位は長い角。薄い羽や細い足は貧弱そうだが、角だけはひたすら強力らしい。
桐生と衝撃を分けた形のNWは壁にぶつかりその動きを止める。と、そこに思いきり直撃する夏姫の拳。床に落ちるNW。
「好機じゃな。一気に仕留めるのだ!」
駆け寄った鬼王丸が残る力を振り絞った全力の集水流弾を叩き込むと、再び飛び立とうとしていたNWは強い衝撃に体を打たれ動きを止める。警戒しながらも近寄る桐生。
「核を潰さなきゃならないんだよな。小さいとやり辛いな‥‥」
「こうしたらいいんじゃない?」
NWのコアをナイフで砕こうと恐る恐る探す桐生の横にしゃがんだ晨が、伸ばした爪でNWの首を落とす。
「これでゆっくり止めがさせる」
そう、NWを完全に倒すにはコアを砕かなくてはならないが、例えコアが無傷でもコア単体にしてしまえば何も出来ない。あとは煮るなり焼くなりお好きなようにである。
●夏の匂い
「後片付けしたら終わりだな。演劇の準備を手伝いに行きたくてな」
と、桐生が言う。そこに入る無線。
「‥‥ホールがスイカくさい、じゃと」
「スタッフさん、ごめんなさい‥‥」
とぼとぼ歩いてホールのメンバーと合流しに向かう4人。くれぐれもホール内では、携帯の電源オフ、禁煙、そして飲食厳禁のルールをお守り下さい。