夏の大演劇祭・当日Aアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 10.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/15〜08/21

●本文

 本格的な夏の暑さがやっとやって来た東北の地。そこで行われる一大イベント。

 『夏の大演劇祭in東北』

 毎年、東北の都市を順番に会場とし行われてきたそのイベント。その地域のアマチュア劇団から、幾つかのプロの劇団まで参加する舞台演劇のいわば祭典。数多くの参加団体に、大きな劇場、広い会場。その開催が近づいてくると、いやでも街は活気づいてくる。

 ・ ・ ・

「暑いな‥‥」
「暑いですね‥‥」
 ベタベタ、ムシムシするお昼時。劇団『gathering star』の川上 雄吾と小杉 厚志はペットボトルのお茶を傍にぐったりと床に寝そべっていた。
「そうしてると、まるで兄弟みたいだね」
 いつもの微笑で二人に声をかけるのは劇団主宰の円井 晋。一体どんな魔法か彼は汗ひとつかいていない。
「円井さん、暑くないんすか」
「暑いね、この部屋は。僕はさっきまでミーティングにスタッフルームにいたから。冷房ギンギンの」
「俺も行ってきます‥‥って、用も無いのに行くのはダメっすよね」
 そんな川上の横でお茶を飲む小杉。「温っ!」と響く悲鳴。
「じゃ、そんな川上君に涼しくなる話をしてあげよう」
「どんな話っすか?」
「学校の階段で怪談」
 凍てつく楽屋。



「‥‥まぁ、大丈夫。きっと今回の公演を見れば、涼しくなれるよ」
「もう練習段階で何度も見てるっすけどね」
「本番だと、また雰囲気も違うものさ」

●『学校の階段で怪談』舞台設定
 舞台中央から舞台上手側奥に向かって、(学校の)階段がある。それ以外は基本的に素の舞台。
 舞台両袖にドライアイス噴出マシン準備済み。操作人員手配済み。

●今回の参加者

 fa0824 ベクサー・マカンダル(13歳・♀・鴉)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2396 海風 礼二郎(13歳・♂・蝙蝠)
 fa3092 阿野次 のもじ(15歳・♀・猫)
 fa3172 浪井シーラ(26歳・♀・兎)
 fa3502 水無月鈴(16歳・♀・小鳥)
 fa3577 ヨシュア・ルーン(14歳・♂・小鳥)
 fa3822 小峯吉淑(18歳・♂・豚)

●リプレイ本文

●パンフレット
テケテケ様/死神さん‥‥阿野次 のもじ(fa3092)
二葉‥‥あずさ&お兄さん(fa2132)のあずさ
カトル‥‥ヨシュア・ルーン(fa3577)
那月‥‥水無月鈴(fa3502)
山田‥‥ベクサー・マカンダル(fa0824)
海風‥‥海風 礼二郎(fa2396)
橘先輩‥‥小峯吉淑(fa3822)
夏木先生/ナレーション‥‥浪井シーラ(fa3172)

●学校の七不思議、一から六。
 ぼんやりと、しかしはっきりと、暗闇に映る光。その光の円のなか語る白尽くめの女性。その口がゆっくりと開かれ、よく通る声で、物語は紡がれ始める。
「昼間、生徒達はこの学校にまつわる七不思議の話をしていました。面白がる生徒もいれば、怖がる生徒、強がる生徒も‥‥」
 他方に映るのは6人の子供達。元気な子、怖がっている子、つまらなそうな子。
「その話は、実際に見て確かめてみようという結論に達しました。こっそり校内に忍び込み、生徒達は六つの不思議を見に行きましたが何も起こらず。全てはでまかせ。」
 子供達がたどり着いたのは、七つ目の不思議の場所。学校の階段。
「生徒達は、そのまま七つ目の不思議を暴きに向います。さて、七つ目もでまかせなのでしょうか?」

●学校の七不思議、その七。
――昼間は12段、真夜中に数えると時々13段になる階段。
――そこで上り下りすると、死神さんが来て願いをかなえてくれる。
――だがもし失敗すれば、怒った死神が‥‥

 ・ ・ ・

「全然大したことなかったねっ!」
 明るい調子で二葉が言う。その後ろにビクビクしながらついてくるのは眼鏡の留学生、カトル。怖い話などは苦手なのか、七不思議六番目の場所の理科室では誘われてやって来た中学校OBの橘に後ろから肩を叩かれ大泣きしていた。
「でも、ありささんも海風くんが転んだ時、物凄く動揺していましたよね」
「あっ、あれは音にビックリしたんだよ!」
「転んだ話はもういいだろ〜」
 那月の言葉に二葉は慌てて取り繕い、海風は再び顔を恥ずかしさで染める。暗闇のせいで海風が躓き転び、二葉がビックリし、カトルの肩を橘が不意打ちし絶叫の嵐。見事なコンボだった。
「あなた達、何をしてるの?」
 突然一行の頭上から降ってくる声。驚きつつもそばの階段の上の方を見上げると、白いブラウスと水色のスカートが暗闇にぼうと浮かび上がっていた。
「もう下校時間は過ぎてますよ。親御さん達も心配なさってるでしょうから、早くお帰りなさい」
 階段を一段、二段とゆっくり下りてくる服。近づいて全体が見えるようになってくると、それは皆(橘先輩除く)の担任の夏木先生だった。
 きちんと生徒一人ひとりの目を見、改めて気をつけて帰るよう言うと、夏木先生は職員室の方へと歩いていった。
「‥‥びっくりしたー‥‥」
「もしかして、今日教室で七不思議の話してたから、見回りに来たのかな?」
「夏木先生だったから注意で済みましたけど、他の先生だったら無理矢理連れて帰らされましたね」

●階段のテケテケ
「ねー。やっぱり12段だよ?」
「ほ‥‥ほら、見ただろう、やっぱり怪談話なんて非科学的なもの、この世には存在しないんだ」
 二葉や他の面々が何度か階段を上り下りしてみても、時々13段になるという階段はいつまでも12段のままで。カトルが勝ち誇ったようなセリフを震えた声で言う。
「おかしいですね‥‥もう一往復だけ、してみませんか?」
 という那月の言葉に、今度は橘が階段を上っていく。
「10、11、12。やっぱり変わらないな。降りるぜ」
 と、すぐ引き返してくる橘。一応段数は数えている。
「‥‥何か、寒気がする」
 ポツリと、山田が言う。その言葉に何人かが気を取られた時、橘が階段を降りきった。
「13‥‥‥‥え?」


 呼んだ?


「な、なに? 今の声」
「かっ、風だよ、単なる風さ」


 うん、呼ばれた
 乞うご期待


「やっぱり声だって!」
「風だよ!」
 言い争う子供達をよそに、階段の上の方からは白い煙が黙々と噴き出し、何やら妙な音も聞こえてくる。
「まさか、本当に‥‥?」
「本当に、死神が出てくるの?」
「誰かが発炎筒を持ち出したんだろ!? た、性質の悪い悪戯だ!」
 そんなカトルの言葉をかき消し、響く音色。エレキギター。‥‥エレキギター?

  万歳万歳万歳(万歳万歳万歳)
  呼ばれて飛び出て
  BABABABAN〜(赤BABABABAN)
  こちらは死神☆
  君らは人生お手上げTKTK

 ジャジャーン!! とエレキギターをかき鳴らし登場したのは真っ黒ゴスロリ服の少女。ただし上半身のみ。
「テッ‥‥」
「テケテケ様っ!?」
 驚く一行をかき分けてゴスロリの前に走っていく那月。校内でも指折りのオカルト好きの彼女は上半身のみのゴスロリの正体に心当たりがあった。
「テケテケ様ですよねっ!? あの‥‥サイン頂けませんか!?」
 一同、ズッコケ。
「‥‥で、テケテケって何?」
 正体不明のゴスロリ上半身お化けが出てきた瞬間に卒倒した海風や、海風を盾にして様子を窺う山田よりも早く立ち直った二葉、ここでお約束の質問タイム。
「テケテケ様っていうのはね、脚の無い、その話を聞いた人のところに数日以内に現れるっていうお化けなの。テケテケ様の襲撃を回避するには、目の前に現れたときに呪文を言う必要があるんだって言われているわ」
 と、何でテケテケ様を知らないの!? とばかりの勢いで那月が解説する。
「あれ? でもここは死神が出てくる場所じゃないの?」
「そういえば‥‥テケテケ様は四つ目の不思議の旧校舎の廊下で走って来るはずなんですけど」
「それはね‥‥話すと長くなるんだけど」
 二葉の次の質問には、テケテケ様が口を開いた。固唾を呑んで耳を傾ける一行。
「実はこの前死神さんを呼んだ奴がヘタクソで、半分だけ召喚されちゃってさ。帰りたいけど帰れない、どうしようもないから妖怪のマネして遊んでたのさ」
 長くなかった。
「じゃあ、テケテケ様じゃなく‥‥」
「そー、死神さん。悪いねぇテケテケのサイン書けなくて」
 けらけらと笑うテケテケ様改め死神さん。と、一瞬気を失って盾にされていた海風が突然声をあげる。
「助けてあげよう!」
「え?」

●召喚の儀式
 死神さんの身の上話を聞いた海風、気の毒だと思ったらしく助けてあげようと提案。死神さん曰く、死神の召喚の儀式をここで行えば、残りの半分が召喚されて繋ぎ合わせられるはずなのだという。
「まずは、他の死神じゃなくこの死神さんを召喚するために、この名刺に描かれてる紋様を床に描くんだ」
「はい、わかりました!」
 目の前の動くオカルトに興奮しているのか、いつもより格段に動きのよい那月が死神さんの紋様を描き始める。
「で、こっちが終わったらフツーに階段の段数を数えながら階段を上ること」
「はーい」
 こちらは階段のスタート地点で待機完了の二葉。死神さんが注意事項を幾つか並べているようだが微妙に動転しているような雰囲気、耳に届いているのかどうか。
「ってぇ、そこ! 紋様一個でいいの! なに5個も6個も描いてんの!」
「すっすいませんっ!!」
 お仕置きだお仕置きーなどと騒ぐ一団を見て、橘先輩は溜め息ひとつ。こういった話を全く信じていない橘は至極冷静。その傍らでは同じく冷静なつもりのカトルが必至に死神さんの体からチャックを探し続ける。

 ・ ・ ・

「1、2、3‥‥」
 ゆっくりと、段数を数えながら階段を上っていく二葉。それを見守る一同の中でただ一人、山田が自分の両腕やポケットを探って。
「8、9、10‥‥」
「ごめんありさちゃん、今何時?」
 と尋ねられた二葉は腕時計を見て、
「え? えっとね、9時だよ。どしたの?」
「真夏の怪談SPっていう番組が今日の9時からだったから」
「じゃ、早く帰らなきゃだね。‥‥えっと‥‥? きゅ、きゅう?」
「ちっがーうっ!!」
 一歩踏み出す二葉。叫ぶ死神さん。
「11! 十一! じゅういち!! それに上ってる最中は振り返らない! 聞いてなかったの!?」
「あ、ごめん。聞いてなかった」
 再挑戦。

 ・ ・ ・

「ななぁ、はちぃ‥‥」
 息を切らしながらまた階段を上る二葉。死神召喚の儀式は一度失敗したら階段5往復ランニングをしてからじゃないと再挑戦は出来ないなどと死神さんが言いやがったからだった。ちなみにウソ。
「じゅういち、じゅうに、じゅうさんっ!」
 と、死神さんが現れたときのように噴き出す煙、おどろおどろしい音。驚いた二葉が階段を駆け下りてくるのと逆に死神さんは階段を駆け上がって‥‥浮いて上がっていく。
 そして‥‥
 ジャジャーン! とエレキギターをかき鳴らし、ゴスロリ死神は完全体に。
「併せ業で成功のようだね、うんこれで完璧、人生お手上げ万歳の少年少女、ご贔屓に。さあ刈り取りたい魂はどこかね?」
 ハイテンションで何かの曲を喧しく弾く死神さん。「ちなみに失敗だったら君達の魂貰ってたところだけどね、きゃは」という追記が一緒に喜んだ子供達のテンションを地に叩き落したが。
「‥‥って、アレ」
「‥‥ん?」
 海風の呟きに何が起こったか気付く子供達。遅れること10秒、気付く死神さん。
 お尻が前にあります。





「ふう、人生の進級試験に失敗したね君達。いたーだきます」
 先の追記どおり、一瞬にして恐ろしい形相になった死神さん、魂を狩ろうと子供達に襲いかかる!
「っておうあ!」
 ゴンゴロゴロドンガラガシャン!!
 いつも通りの感覚で前に向かって走り出そうとした死神さん、後ろに向かって急発進。バランスがとれずずっこけ階段を踏み外しそのまま12段だか13段だか分からない階段を一番下まで転げ落ちる。
「ええい、なんて不便な‥‥あれ、戻った。あちゃ契約成立?」
 階段を転げ落ちたショックでか、前後逆だった身体が元通りになった死神さん。ちょっと残念そうでもあり、ちょっと嬉しそうでもあり。

 ・ ・ ・

「ま、今のところ用はないみたいだけど、必要があれば呼びなよ。コレ名刺ね」
 死神さんが那月に渡した名刺。見てみるとそこには、
「死神検定3級、ザラギ・ザギ‥‥?」
「そうそうMP合計で11消費って‥‥誰が死の呪文だ。じゃ、帰るぜ」
 死神さんがそう言うと、その身体が一瞬にして光に包まれ。
 その眩しさに目を瞑る子供達。

●学校の七不思議、その七。
 目を開けると、そこには何もなかった。死神さんもいなければ、召喚に使った紋様も消えていた。
「‥‥夢?」
「でも、皆で同じ夢を見るなんてことは‥‥」
「では、今までのことを合理的に説明しよう。これはなんと集団ヒステリーだったのだ!」
 カトルの言葉をよそに、一人別の方向を見たままの那月。その手には七つ目の不思議があった。

 検定3級、見習い死神の名刺が。