夏の大演劇祭・当日Bアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
8.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/15〜08/21
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●本文
本格的な夏の暑さがやっとやって来た東北の地。そこで行われる一大イベント。
『夏の大演劇祭in東北』
毎年、東北の都市を順番に会場とし行われてきたそのイベント。その地域のアマチュア劇団から、幾つかのプロの劇団まで参加する舞台演劇のいわば祭典。数多くの参加団体に、大きな劇場、広い会場。その開催が近づいてくると、いやでも街は活気づいてくる。
・ ・ ・
「ちょ、ちょっと待ってください、それヤバいじゃないですかっ!!」
新設劇団『AVANCEZ』の団員、織石 薫が携帯電話での通話中にあげた大きな声に、小道具の最終確認をしていた高橋 夕季と橋本 真子が驚いて顔を上げる。
「はい‥‥はい‥‥分かりました。はい。でも、来られそうだったら間に合って来てくださいよ?」
「一体何があったんだい?」
通話を切る織石に、今回の演劇祭公演の助演出である富士 孝明が尋ねた。
「事故だか何かで電車が遅れてるみたいで、窪田先輩たち本番前のリハーサルに間に合わないそうです」
「本番には?」
「最高に運が良くて、開演時間に駅に着くくらいだそうです」
「駅から歩いて10分‥‥間に合わないね」
両腕を組んで思案する富士。
「絢ちゃん、ちょっと運営スタッフに助けを求めてきてくれないかな。確かこの演劇祭、裏方に関してはオペレーター用のシートがあればスタッフに仕事を頼んでもいいはずだから」
「わ、分かりましたっ!」
慌てて控え室から走って出て行く守末 絢。それを見送って。
「大丈夫でしょうか?」
「役者は全員揃ってるからね。一応僕も演出はつけられる。リハーサルの時の練習だけで、スタッフに頑張ってもらうしかないよ」
●演劇祭公演『暁の前に』あらすじ
戦国末期。名のある武将同士の間で大きな戦があった。
孝網(たかつな)は東国一とも呼ばれるほどの剣の達人。その技をもって数多くの敵を葬るも、一人で戦況を動かすことは適わず、彼の国は敗北した。孝網は自国へ戻るべく歩き出す。
夜の帳が下りていく中、孝網は多くの追っ手との戦いの最中手傷を負ってしまう。命に関わる傷ではないものの、以前ほど巧く剣を振るうことが出来なくなった。怪我をおして歩き続ける孝網だが、道中で意識を失ってしまう。
孝網がふと目を覚ますと、そこは見知らぬ家の中。戦で家族を亡くした若い娘、お柚(おゆう)が倒れている孝網を見かけ、彼も戦の被害者だろうと連れ帰り看病していたのだ。
お柚との会話の中で、戦が如何に無益であるかを心から悟る孝網。始めは言い争いもあったものの、次第に引かれていく二人。
しかし、お柚の家は孝網を追ってきた刺客によって取り囲まれていた。襲い掛かってくる刺客に、満足に戦えない体で応戦する孝網。
闇の中の混戦。その中でも必至でお柚を守り、逃がすことに成功する孝網。しかし、一瞬の油断で彼は刺客の手にかかってしまう。
薄れていく意識の中で孝網が見たものは、夜明け。暁。これで自分は愚かな戦というものから永遠に解き放たれるのだと、最期に呟く孝網。
陽の光差し込むそこは、孝網が十年以上も前に出た故郷の村だった。そういえば、幼い頃よく遊んだ、片想いだと思っていた娘の名は‥‥
●リプレイ本文
●楽曲調整〜嵐のように〜
音響と照明を担当するスタッフ達はリハーサルの前に助演出の富士のところへ集まり、自分達の作業についての確認を行った。
「あたしなりに考えてみたんだけど‥‥これでいいかな?」
音響の中でも効果音をメインに担当する門屋・嬢(fa1443)が、自身のプランも書き込んだ紙を富士に見せ、オッケーをもらう。
「殺陣シーンが多いから、効果音のタイミングは気をつけんとならんな」
そう、今日来たスタッフのうち一人目の『かなで』時雨・奏(fa1423)が話す。観客が受け取れる情報の少ない、照明が薄暗い中での効果音などは非常に目立つ。ほんの一瞬のズレでも致命傷になりうる。
ちなみに、現在小道具の最終チェックを終えた団員、橋本が時雨のバイクで駅に向かっている。裏方のチーフだけでも念のため迎えに行っておいた方がいいと時雨が言ったためだ。だが若いメンバーばかり、団員の半数以上が10代で最年長である富士でさえ22歳のAVANCEZ、免許持ちがそもそも少なく。橋本が乗れたのは幸いだった。
時雨は音響の準備が終わったら人数不足の装置移動のほうに回ることになっていた。その後は音響機材の操作を担当する二人目の『かなで』Kanade(fa2084)と、照明の操作を担当するエミリオ・カルマ(fa3066)を加え、入りのタイミングや止めるタイミング、役者と音響照明、音響と照明の合わせて動かすところの確認などを行い、リハーサルへと向かう。
●役者変身〜はじめてのメイク〜
楽屋では人の出入りが怒涛のように行われていた。
10人は余裕で入れるサイズの部屋であるはずなのに、本番前となると6人でも手狭になる。衣装が並べられ、メイク道具が広がり、手持ちの小道具が置かれ、各種チェック用の用紙が散らばり。
そんな戦場さながらの楽屋で、木之下霧子(fa0013)はあっけにとられつつも自分の仕事を精一杯こなしていた。
舞台用メイクは、いわゆる普通のメイクとは似ているようで違う。普通のメイクは自分をより良く見せたり、欠点を隠したりするためのものであるが、舞台用メイクは役者の表情が観客によく見えるよう、役の特徴が表に表現されるように行うものだ。自然、コテコテになっていく。
木之下は演劇の裏方に参加するのは初めてでメイクの仕方は始め覚束なかったが、そこはほとんど役者陣が自分で自分のメイクをこなせたので問題はあまり起きなかった。普段AVANCEZのメイクは理美容の専門学校生でもある倉篠 アキという子が行っているが、一時期NW関連の事件で怪我をしメイク作業が出来なかったことがあった。その穴埋めに役者達が自力でメイクできるよう練習したのが幸いとなった。
衣装の着付けに関しては、木之下の経験が活かされた。戦国時代との微妙な違いに気をつけつつ、振袖の着付けを行っていく。
後学のために、という目的も兼ねて参加した木之下だったが、得たものは多かったようだ。メイクのやり方のほか、衣装もただ着るだけではなく、いかに機能的に、いかに役が分かりやすいよう着るか。そういったものは日常の生活ではあまり気にしない、身につかないものである。
リハーサルのため役者達が出て行くと、楽屋に一人残った木之下は軽く息をつき。
「‥‥慣れない仕事はやっぱり緊張しますね‥‥」
●装置確認〜人は足りてる?〜
「舞台の裏方なぞ、学生以来じゃの」
各務・皐月(fa3451)が舞台袖から舞台上へと平台を運んでくる。リハーサル前の舞台設置だ。ちなみに、平台は出来るだけ2人で持ちましょう。反対側を持つのは常盤 躑躅(fa2529)。パンダ覆面のいかしたスタントマンだ。覆面レスラー志望のため顔出しNG、なのかどうかは定かではない。
各務はこの装置設営の前に台本をしっかりと読み込み、どのタイミングで、どの装置を、どこに、どのように動かせばいいのかを全て確認していた。それらを自分の台本にメモ書きし、本番でのタイミングミスや操作ミスがしないように配慮もする。あとは、役者達の実際のリハーサルに合わせて動き、頭の中でのイメージと実際の動きとのズレを修正するのみである。
アディラ・エイト(fa3701)は緞帳を開ける際のタイミングを確認したり、大掛かりな装置以外の小道具類、その中でも役者の手持ちではなく舞台袖においておく物のチェックに舞台袖を行ったり来たり。チェックシートに従って、ひとつひとつチェックをつけていく。
今回のこの夏の大演劇祭in東北、スタッフの全てが舞台演劇のプロフェッショナルというわけではない。各務や常盤のような者もいれば、物の出し入れのために召集された地域の高校の演劇部員もいる。そういった場に不慣れな者にアドバイスをし、全体の作業効率を高めるのもまたアディラが行った仕事のひとつである。
役者達が到着し、リハーサルが始められる。リハーサルは主に音響と照明のタイミング合わせ、殺陣の際の効果音合わせ、そして舞台装置の転換に充てられた。
冒頭の戦のシーンが終わり、お柚の家のシーンに転換。戦場用の背景を常盤やその他力自慢のスタッフが袖へと引きずり込み、アディラや各務が布団や盥などを移動させる。可能な限り手持ちでもおかしくないものは役者に持たせ、出し忘れや暗転中に出し切れないなどということが起きないように注意する。
時間は飛び襲撃のシーン。袖に戻ってきた役者が小道具探しで困らないよう、戻ってきた順に机の端から小道具を取っていけばいいだけの配置を予めアディラが用意し、装置の転換や役者の入れ替えはスムーズに行われた。
リハーサルの時間は終わり、夏の大演劇祭in東北はついに開幕した。そして、あっという間にAVANCEZの公演の番となり。
●本番開始〜光と音の演出〜
舞台袖に集まっている役者達のところに、門屋が顔を出す。そして、役者達へ激励の言葉を。
「皆で頑張って、演劇を良いものにしようね。あたしも頑張るから」
そう言って、調整室(音響や照明を操作する装置のある部屋)へ小走りで向かっていく。これから間も無くして、幕は開く。
「よぉし、やってやるぜっ!」
常盤の入れた自分への気合。漏れる苦笑。余計な肩の力は抜け、いよいよ本番モード。
流れる音は戦乱の世。もう既にここは現世ではなく。よって開演のベルなどあろうはずもなく、ただ、ひときわ大きな陣太鼓の音が響く。
戦国末期。暁の前に。
流れ行くは和鼓と龍笛。刀が鎧を貫き、斬撃の音の度に一人、また一人倒れ行く。
戦場を染める赤い夕日が、戦い続け倒れた剛の者を照らす。その赤はまるで戦場に流れた血のようで。
孝網が意識を失っていた間、時は流れ所は移り。そこは一軒の小さな民家。弦楽器と神楽鈴の清らかな、穏やかな音色が聞く者の耳を癒す。
薄暗い蝋燭の明かりの中、水音で目が覚める。お互いの素性を知らず、しかし次第に惹かれあい、同じ思いを抱く二人の間には、龍笛と琴の重なり、引き立てあう、しかし微かな心音のようなメロディ。
ふと、不穏な雑音。
未だ確かには握れぬ得物を持ち外に飛び出ると、周囲を取り囲む殺気。青き夜。深き夜。大事なことを教えてくれた相手を守るために戦う孝網、疾風の如く駆ける龍笛は彼の剣の軌跡か、それとも上がる彼の呼吸か。次第に早まる低音は彼の心音、表すは気の昂ぶりか、焦りか。
ひときわ大きな、刀が身を貫く音。これまで聞いたことがないほど大きく聞こえたのは、その音がわが身を貫いた刃から出た音だったからか。
青は次第に薄くなり、代わって濃くなっていく赤。『血』の赤。死の赤でなく、生の赤。夜明け。暁。音の無い世界。
夢幻のような風景、時間の中、最期に呟く孝網。
陽の光差し込むそこは、孝網の故郷。そういえば、幼い頃よく遊んだ、片想いだと思っていた娘の名は‥‥
「‥‥お柚」
久しぶりに見たような気がする、鮮やかな赤い朝焼け。それは優しく包み込み、懐かしき記憶を蘇らせる。
きっと彼の瞳には、幼馴染みが映って。
・ ・ ・
幕の下りる音が、短い時間旅行の終わりを観客に告げる。
戦国末期の暁の前から、現世へと。今まで見ていた過去の映像は、夢幻か、現実か。
●打ち上げ〜テンションは宇宙まで〜
「よっしゃー! 終わったで〜!! 寿司に焼肉、定番やからこそ楽しいもんや!」
「私、こう見えても結構食べますからネ! 皆さん覚悟してください」
時雨が注文した出前の料理がずらりと並び、たくさんの歓声と共に打ち上げパーティが始められる。
「なんじゃ、酒もビールも無いのか!? 汗をかいた後の一杯は格別じゃというに‥‥」
「ほら、ビールならあるぜ」
各務に常盤が渡したのは、確かに茶色の瓶。しかしラベルには。
「こ・ど・も・びぃる〜!?」
「大して変わらないだろ」
「大違いじゃ〜!」
大騒ぎの各務に「未成年もいるんだから、私も含めて」とアディラが釘を刺す。
「お疲れ様ー! いやぁ、よかったよ無事に終わって!」
本番終了直後からテンション高めだった門屋はここでさらにフィーバー。性格は男勝り、食料摂取量も男勝りか?
「何か弾こうか? ギター持ってきてるし。こう見えても色んなジャンルに手を出してるんだ、リクエストをくれよ」
「じゃあ、俺タンゴ踊るから、何か良さそうな曲弾いてよ」
Kanadeの言葉に、エミリオがそうリクエスト。
「タンゴか‥‥よし」
「それじゃ、あまり上手くないけど、一人タンゴ頑張ります」
無事に公演も終了し、夏の大演劇祭in東北も幕を閉じた。暑い夏の大イベントはこうして、大成功で終了したのだった。