狩人、その剣ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
フリー
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獣人 |
4Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
11.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
1人
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期間 |
08/19〜08/22
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●本文
「やぁ。集まってくれてありがとう」
突然送られてきた手紙。その召集に応じた面々を出迎えたのは、怪しい笑顔の黒髪の男。
「早速だけど、手短に用件を話すよ。ちょっと前に見つかった遺跡があるよね。今WEA預かりの。僕はそこで大量発生しているNWと遊びに行こうと思うんだ。それに、君たちもついて来ないかい? っていうお誘いだ」
手振りを交えながら話を続ける男。
「別に、NWの群れの中に一人で行くのが怖いわけじゃないんだけどね。ちょっと、強くて信頼の置ける『仲間』が入り用なんだ。その『仲間』を作るために、戦闘訓練でもって」
はい、と、男は皆に一枚の紙を渡してまわる。そこには簡潔な一文。どこかの住所のようだ。その後に続く『御影 永智』というのは男の名前だろうか。
「一緒に来てくれる気があるなら、そこに来てよ。歓迎するから」
終始、笑顔は崩さず。
「人間には無駄なしがらみが多い。獣人に生まれることが出来てよかった。そう思えるような瞬間を用意してあげるよ」
男はひらひらと手を振りながら、用は済んだと踵を返す。しかし数歩歩いたところで振り返り。
「ちょっとだけ、注意。武器を持って来るのはアリだけど、銃はナシ。あんな物使ったら、つまらない人間と同じになっちゃう。‥‥お祭は楽しく、ね」
そう言って、今度こそ振り返る事無く。男は去っていった。
●リプレイ本文
●1日目
「人を遊びに誘うのに、色気も何も無い場所ですね。そんなことだからフラれるんです」
「シャルロに、かい? ‥‥デートは場所じゃなく、気持ちの持ちようだと思うけどね」
シャノー・アヴェリン(fa1412)の皮肉に、黒髪の男‥‥御影は視線を逸らし笑った。疚しいことがあったわけではなく。視線の先にはラブラブべったりの緑川安則(fa1206)と日向 美羽(fa1690)。
「それにしても、これだけのNWが一度に発生するなんて‥‥」
「いいじゃないか。退屈しないで済む。人間は生き物としての闘争本能を慰めようとする時、その刃を同じ人間に向ける。どんなに高らかに正義を謳っても、互いに理屈はあり、義理はあり、家族はあり、恋人はあり。殺しても100%の満足は得られず、一方からは讃えられようとも一方からは恨まれる。それに対して獣人は良いだろう。明確な敵がいる。殺せば殺すだけ讃えられる。闘争本能の捨て場所にこれほど適したゴミがいる」
「‥‥」
「さあ、そろそろ戻ろうか。作戦会議、だ」
小さく笑いながら御影は歩き出す。
・ ・ ・
「‥‥といったところでしょうか」
泉 彩佳(fa1890)の話すのは戦闘時の隊列、ローテーションについて。全員がバラバラに思いのままに戦っていては全滅の危険があると、安全な方法を選択した。尤も、一番安全なのは戦わないことではあるのだが、それではこの場所まで来た意味が無い。
前衛、前衛の補佐、後方援護、休息と2人ずつ配し、後方援護以外の人員が入れ替わり戦闘を続けるというシフト。
「でも、困りましたね」
NW戦の経験が無く、今回が訓練を兼ねた初陣である辰巳 空(fa3090)が言う。というのは、後方援護に就ける者が少ないのだ。もともと御影が銃器を禁止しているため、長距離攻撃をするには獣人能力しかない。だが、飛び道具と言える能力、波光神息は放てば仲間を巻き込んでしまう。シャノーが飛羽針撃を持つが、それでもシャノーのみだ。結果、御影がその担当に入り、ローテーションの一角が3人になることとなる。
「4日間の戦闘というのは並大抵のことではありません。初日は少し控えめにして、3日目にピークが来るようペース配分をして臨みましょう」
辰巳の提言に、多数が頷く。妥当な案だった。
「ところで‥‥」
話し合いも一区切りついたところで、九条・運(fa0378)が口を開いた。
「銃器が没なのは了解したが、飛び道具は如何なんだ?」
九条が言う飛び道具とは、拳銃や機関銃ではなく、マニア好みのロケットアームや八握剣のような投擲用器械等だ。
「非力な人間が、己の分も弁えず非力さをカバーするために作ったものが銃だ。そういう『人間の持ち物』でなければ、使うのは構わないよ」
とのこと。
「撤退条件は、負傷や能力の使いきりの他、夜になったら、でしょうか」
「そうですね。わざわざ、相手に有利な時間帯に戦う必要はありませんからね」
泉の言葉に日向が賛同する。と、そこに御影の声。
「どうして、夜だとNWに有利だと思うんだい?」
え? と思ってもみなかったところからの思ってもみなかった言葉に驚く二人。続ける御影。
「NWがNWたる所以は、奴らが行動するのが夜の方が多いからだ。でもそれは、夜だと自分たちが強いからではなく、夜だと見つかり辛く、警戒され辛く、駆除され辛いからだ」
御影は軽く笑って「でも、明るい方が戦いやすくはあるけどね。僕らには」と、口を閉じた。
●2日目
「おおおおおぉぉぉっ!!」
人間達に幻想とされてきた獣、竜。人の形を取ったそれは背の羽で空を飛び、両手に構えた剣で化物を両断する。自身の腕試しをするという目的でやって来た牙龍(fa3034)は、今日3体目のNWを仕留めた感触に少し頬を緩める。
その横では同じく前衛、1日目は移動や作戦会議があったため短かった戦闘に不完全燃焼していた九条が両手の剣を縦横無尽に振るい立ち塞がる障害を薙ぎ倒す。
「‥‥‥‥」
周囲の様子全てを油断無く窺いながら、必要に応じて空を飛び戦うシャノー。その注意はNWだけでなく、御影にも向いていた。以前会った時に言われた『見たことの無い世界』という言葉。それが引っかかっていた。
(「‥‥でも」)
見たところ、御影は常に薄い笑みを浮かべている他は不審な行動をとろうとしない。援護すべき時には援護するし、不意打ちをかけてきたNWについて、警告を発しもする。
この男は一体何を考えているのか。
ガキン!!
ふと聞こえた硬い音にシャノーが目を向けると、NWの振り下ろした硬質化した爪を、九条が左手の七支刀で受け止めていた。他のNWの相手で手を離せない牙龍に代わり、前衛補佐の位置にいた日向が無防備になったNWの腹部に土竜の槌を叩き込む。戦闘不能になり動きを止めるNW。息の根を止めに向かう七枷・伏姫(fa2830)。
戦闘は、ここまででは概ね獣人たちが優位に続けていた。出会うNWが下級のものばかりでそれほど強力でない他、獣人たち自身の強さもスムーズなNW駆除を助けていた。
突出しないよう、最低限の陣形を押さえつつ、ひたすらに戦い続ける。九条と牙龍が前衛から退いたあとは、日向と七枷が次々に現れる敵を次々に叩き潰し、貫き穿つ。巨大な攻撃力を持つ一行はコアを狙わずとも敵を戦闘不能に追い込み、コアを潰す作業は後始末レベルに落ちてしまう。
1日目の不足を補うように、長く激しい戦い。ローテーションが何度かまわり、交代までのスパンが短くなってきた頃、後退の目安である夕暮れがやって来た。
「そらぁっ!!」
今回集まった獣人たちでもトップクラスの力を持つ九条。何度かしぶしぶ補佐や休憩にまわりつつも、やはり映えるのは最前線。最早体力の限界が目の前にあるだろうと思われる中でも、剣を振るう彼の口元には笑みが浮かぶ。
「そろそろ後退するぞ。撤退準備!」
緑川の声に、さっと戦闘を中断し引き始める一行。追い縋るNWには奇跡の体力を誇る日向が金剛力増の能力を使用して槌をブン回し、皆の撤退を助ける。
「これは本当に、予想以上に面白い人材が集まったな」
誰かの眼を憚ることも無く、御影はクックッと小さく笑った。
●3日目
「くそ‥‥やはり銃に頼っていたからな。白兵だけだと流石にきついか」
「これを使えば、戦いは楽になります。緑川さんは、交代して少し休んでください」
前衛としてすでに長い間戦い続けている緑川。どれだけのNWを始末したかなどもう覚えていないが、転がる死骸の山が両手では足りぬと答えを教える。切り刻んでも血の飛び散ることの無いNWであるから刀の切れ味が鈍るということは無かったが、それでも斬撃は時と共に鈍っていく。刀のせいではなく、長い戦闘により積み重ねられた疲労とダメージによって。
泉が取り出したのは『黄金の枝』。使用すれば1時間の間NWの行動を鈍くする結界を張ることが出来るオーパーツ。しかし使用回数は一度きり。枝を地面に刺そうとした泉の手を、後ろから御影が掴んで止める。一体何事かと集まる視線。
「貴重な品だ。もう少し救いの無い場面のために取っておくといい。僕の遊びにそこまで真剣になってくれなくても構わない。‥‥少し、休憩としようか」
「遊びか‥‥随分と大層な遊びだな」
肩で汗を拭う緑川。緑川さん大丈夫? と、日向が持ってきた水筒の中身を渡す。
「仕事では、ないだろう? 今僕たちは自分たちの意志でNW狩りをしている。WEAなんかに仕事を押し付けられて使われる、意志の無い剣なんかじゃない。意思持って剣を用いる狩人だ」
と、周囲を警戒していた辰巳が得物を抜き放ち、戦闘体勢に入る。
「あまり休ませてはくれませんね、やっぱり」
両腕のナックルを打ち合わせ、辰巳の援護に走る泉。
この日も、日が落ちるまで戦闘は続けられた。
・ ・ ・
深夜。休息と睡眠のためだけに用意された小さなホテルの外に、2つの人影があった。七枷と、御影。
「手合わせを願いたい」
「うん、いいよ」
そんな軽い会話でやって来た人気の無い駐車場ではあるが、満ちるのはただひたすらに濃い『殺気』。
御影 永智はダークサイドの獣人であろう。それが七枷が今までの経験から出した結論だった。1日目、2日目と様子を見、分かったのは彼が狸の獣人だということだけ。全く自身の手の内を見せず、ただ素手で戦っていた御影。
「‥‥では‥‥参る!」
走る。一瞬にして間合いを詰め、いつもは細くしか開かれていない目が一杯に開かれる。一直線に奔る突き。回避するどころか驚くことも難しいほどの高速。
一撃で屠る。それが七枷の目的。
「‥‥‥!?」
「うん、いい突きだ」
七枷のすぐ頭上から聞こえる御影の声。渾身の力で放った突きは、御影のすぐ右側を通過したところで停止した。掴まれている七枷の手。刀を持った手。どれだけ力を込めても、押すも引くも叶わない。
「いいね。それでこそ狩人たる資格があると思うよ。君は素晴らしい」
すっ、と緩められる力。刀を構えたまま、間合いを取る七枷。
「君は、僕がダークサイドだと思っているようだけど、残念ながら違う。僕はいたって普通の獣人だよ。信じられないかもしれないけれどね」
ひらひらと片手を振りながら、去っていく御影。途中で立ち止まると、中空を見上げて言う。
「ダークサイドなら、僕じゃなく他のお友達に聞くのがいいと思うよ。きっと、楽しい反応を見せてくれると思う」
ホテルの中へと姿を消す御影。
「まさか、シャノー殿が?」
七枷の言葉の先には、ホテルの開け放たれた二階の窓から見ていたシャノーの姿。翼を広げ、ふわりと降りてくるシャノー。
「さっきの言葉は、きっと私に言ったものです‥‥他の、お友達‥‥?」
●4日目
4日間に渡る戦闘も夕暮れと共に終わりを告げ、泉がソニックナックルの能力を解放した一撃で見える範囲にいる最後のNWを粉砕したところで撤退が決まった。
「‥‥で、御影さん何て言ってたの?」
一時的に音が聞こえなくなっていた泉が、皆に尋ねる。
「ただ、楽しかった、と。また機会があったら、是非来てもらいたいと言ってました」
辰巳が、御影が車で去っていった方向を見ながら言う。同じようにその向きを見ながら、九条。
「こういう、ただやりたいようにやれる仕事ってのはいいものだけどな」
「『地獄か牢獄行きの片道切符を受け取る可能性がある』」
「え?」
「いえ‥‥」
呟くシャノー。結局真意を見抜くことは出来なかったが、思い当たることは幾つかある。
切符を買わないかと誘われた獣人たち。そして彼女だけは、既に切符を片手に改札の前に立っている。