ミュージカル作ろ。企画南北アメリカ

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/21〜08/25

●本文

 ラララ〜。
 ララララ〜。

 ‥‥‥‥

「ダメっ! ダメだわっ! これじゃ笑いものになるだけよっ!!」
 自宅で一本のビデオを見ながら、エメリン・シゼットはデリバリーピザを喰いちぎる。
 彼女が今見ていたのは、以前自分がプロデュースした舞台の映像。今度新しい舞台を作るためその参考にしようと見直していたのだが、過去映像と今回の自身の企画書を見比べても進歩を見出すことが出来なかったのだった。
 今回彼女が行おうとしたのは、何十年か前に作られ、未だ人気衰えない名作と言われるミュージカル。有名な、悪く言えば誰もが話を分かりきっている舞台。名作を名作たらしめている原因を残しつつ、新しい刺激を盛り込まなければならない。
 配役にサプライズを? そんな小手先、誰だってやれるだろう。
 派手な演出効果でお客にアピールし続ける? それだけのお金、どこから出てくるのか。
 これまでこんなことで悩むことは無かった。だが、躓きかけている。彼女は今、いわゆるスランプに陥っていた。
「こういう時は‥‥こういう時は、どうすればいいのかしら」
 机に並べられている本の中から、適当な本を一冊手に取る。何か参考になるものはないかとパラパラとページをめくってみるが、そうそう見つかるものではない。
 と、思いきや。エメリンの手があるページで止まった。
「ブレインストーミング? そうか、そうね、そうだったのよ、うふふふ‥‥」

 ・ ・ ・

「何ですか、コレ?」
「台本よ。丁寧に用意してあげたんだから、ありがたく受け取りなさい」
 エメリンが自分のプロダクションの所員に渡した分厚い紙束。紙面は文字でびっしりと埋められ。
「その台本の通りに、他のプロダクションに電話をかけまくりなさい。集まったメンバーに色んな案をたくさん出してもらって、そこから既製のものに強くは囚われない新しいミュージカルの脚本を書くのよ。うふふのふ〜」
 笑いながら去っていくエメリンを見送ってから、所員が紙を再び見る。想定される質問への回答や、断られた場合の食い下がり方などが事細かに書いてある。
「‥‥まずこれを読んで頭に入れなきゃ、電話もかけられないな」
 各プロダクションへ案内の電話が入ったのは3日後のことだった。

●今回の参加者

 fa0669 志羽・武流(21歳・♂・鷹)
 fa1737 Chizuru(50歳・♀・亀)
 fa1804 沢渡 操(27歳・♀・蝙蝠)
 fa2378 佳奈歌・ソーヴィニオン(17歳・♀・猫)
 fa2544 ダミアン・カルマ(25歳・♂・トカゲ)
 fa3081 チェリー・ブロッサム(20歳・♀・兎)
 fa3569 観月紫苑(31歳・♀・熊)
 fa3797 四條 キリエ(26歳・♀・アライグマ)

●リプレイ本文

●印象転換
 普通なら家主が訪問者に持て成しをするところ、ここでは逆転してChizuru(fa1737)がエメリンにお茶を出していた。
「まずは気を落ち着けることが大事です。お酒も宜しいですけど、飲み過ぎはいけませんよ」
 Chizuruの提案するミュージカル案は、まずはステージの構成についてから。
「劇場によるかもしれませんが、奥行きと広さの二面だけでなく、高さも使って表現が出来ないかしら?」
 確かに、高さを舞台に設定しなければ、役者の頭上にあるのは背景としてのセットや照明の明かりのみで少々勿体ない。ワイヤーなどを使った高さの表現は大掛かりな装置が必要になり、エメリンの謳う『オフブロードウェイ』での公演には厳しいかもしれないが、二階以上のセットを作るなどする程度であれば充分可能だ。
「思考が煮詰まった時は、まずそれを全部忘れてしまいなさい。初心に返った上で余裕を持ってことに当たれば、ふと何かが浮かぶこともございます」
 Chizuruは既存作品のアレンジなら主役の変更を行うのはどうかと提案した。元々のストーリーでは脇役だった役の視点で見た舞台。観客に世界観を把握してもらいやすく、また新しい解釈を作りやすい。

 ・ ・ ・

「そうだなぁ、何に対しても『視点を少しずらしてみる』事で新しい発見があるかもね」
 と話すのは四條 キリエ(fa3797)。スランプだというエメリンに、それに陥るにはその前にそれなりの結果を持っていることが前提だからと羨ましい悩みだと語る。
「そんなこと無いでしょう。あなただって、これまで色々な『結果』を出してきたから今のあなたになったんでしょ? 『結果』というのは、世間に認められるということだけを指すものではないのよ」
 四條の提案する内容は、『視点をずらす』ということに基づいた多種多様なアレンジの方法。中世を舞台にしたものを現代版にするなどの時代設定の変更によるアレンジ。南北アメリカ・アジア・オセアニア・ヨーロッパ・アフリカ‥‥国や場所を変更することによるアレンジ。特に場所のアレンジに関しては、元のストーリーでは常識であることがそうでなかったりなど事案には困らず、様々なパターンのアレンジが出来る。
 ストーリーのアレンジの他にも、音楽やセットの工夫についても四條は提案。BGMを奏でる楽器の変更や、セットを抽象的なものにして観客に想像させるというもの。中には舞台上にミュージシャンを配置するという突飛な案もあったが、実際にやった前例もあり不可能なことではない。もちろん採用は「実際の裏方の腕の見せ所」という四條の言葉通りだ。

 ・ ・ ・

「自分の作品に満足できなくなるのは、たぶん成長している証拠だと思う。過去の自分の技量を客観的に見て評価できるようになったっていうことだからね」
 そうエメリンの現状について話すダミアン・カルマ(fa2544)。
「ふふ、あなたみたいに若い人にそういうことを言われるとは思わなかったわ」
「すいません、僕みたいなヒヨコが‥‥」
「いいのよ。あなたはヒヨコなんかじゃない。そういうことが分かってて、言えるって事は、あなた自身も何度かそういう状態を経験してるってことだろうから。自分の仕事を客観的に見て優れたものにしていこうとする姿勢を持つのがプロ。自分の成果を押し付けようとするのがヒヨコよ」
 微笑むエメリン。
 ダミアンがもって来たのは一枚のDVD。それは日本の伝統芸能『歌舞伎』の映像だった。
「これに『早変わり』という技術があって‥‥」
 と問題のシーンを再生するダミアン。映像内では、一瞬舞台のセットに隠れた役者が次の瞬間には全く違う衣装で登場する。
「歌舞伎の衣装って、着るのに時間がかかるものじゃないの?」
「これには、タネがあるんだ」
 ダミアンが白いドレスを着た人形をテーブルの上に置く。その白いドレスから出ている紐を引っ張ると、あっという間に縫い目が解けドレスが落ち、中に着ていた別の衣装が姿を現す。
「これなら大掛かりな仕掛けも何も使わずに『変身』できる。もっと手軽な変身は半獣化かもしれないけど。両方を併用したり、『早変わり』を複数回仕込んだり。観客はきっと驚いてくれると思う」

●コンセプト
「ブレインストーミングで作る話なら、せっかくだからコンセプトミュージカルはどうかな」
 普段はミュージカルに出演する側のチェリー・ブロッサム(fa3081)。幼い頃見たミュージカル俳優に憧れてこの世界に飛び込んだ彼女は、情熱に加えて知識も豊富だ。何のミュージカルをはじめやろうとしていたのか尋ねるチェリーに、カウボーイと農家の娘の恋の話だと答えるエメリン。お互いに見てみたいミュージカルや好きな俳優など語り続けること1時間。
 『コンセプト・ミュージカル』とは、簡単に言えば『ストーリーの無いミュージカル』。チェリーが挙げた「各々案を出し合ってるこの姿やその案の話をそのままミュージカルにする」となると、例えば以下のような感じになる。

――エメリン(役)はミュージカルの脚本の案が浮かばず、何人かの知り合いを集めて案を出し合うことを考えた。
――幕が上がり、そこは会議をする部屋。集まるメンバー、始まる会議。各人が自分の案などを(歌と踊りで)披露していく。
――ある者は過去作品のリメイクを歌う。ある者は新しい作品の案を踊る。
――全員の発表が終わり、最終的に決まったミュージカルの内容は‥‥

 ・ ・ ・

「ストーリーを一から考えると少し難しいですね‥‥リメイクかオリジナルかでも違いますし」
 明るく楽しい物をどちらかといえば作りたいというチェリーと意見を同じくする志羽・武流(fa0669)は、過去の名作の主人公、厳格な家庭にやって来た家庭教師の女性を男性に変え、専業主夫としてみたいと提案した。
「雇い主が子持ちのキャリアウーマン、家政夫としてやって来た主人公に少しずつ恋をして、自分を変えてみようか‥‥と思うようになる、という話を考えたのです」
「単純な恋愛だけじゃなく、子持ちってところから昔の男が来てドロドロ‥‥そんな展開もまた出来そうで面白そうね」
「観客のことを考えると、時にはシリアス、時にはコメディが観賞しやすいのではないでしょうか? 舞台装置や音楽は、コミカルなものの方が作りやすいとは思います」

 ・ ・ ・

 観客に最初から最後まで楽しんで観てもらえる舞台。その志羽の思いが伝わったからなのかどうかは分からないが、観月紫苑(fa3569)の持ってきた案は文字通り『最初から最後まで』楽しんでもらうための案だった。
 観月の案は、シナリオに残った謎がミュージカル自体の外で解ける。例えば劇中で明かされた事件の真相・真犯人がパンフレットで明かされるなどの趣向だ。
「何だか上手く言えなくてすいません。こういったものを実際にやるための案を私が提案しなきゃいけないんでしょうけど‥‥」
「いえ、大丈夫よ。それ自体はとても面白い案だと思うわ。それを他の人の案と組み合わせてみると、上手く活用できるかもしれない。例えばチェリーさんの案。パンフレットは普通に作って普通に配るんだけど、舞台が終わって会場を出るお客さんに、もうひとつ別のパンフレットを配るの。そこには、劇中で提案されていた案のうち採用されたもののキャスト名やストーリーが書いてある。どれが採用されて上演されたのか、それを見れば結末が分かるっていうことね」
 他にも色々な案について話した後、エメリンのスランプについての話も出た。観月は自分がスランプに陥ったときは、色んな作品を観るように心がけているのだという。既存の作品に影響されてしまう可能性はあるが、自身の休息、様々な見方の習得などメリットは多い方法である。

 ・ ・ ・

 佳奈歌・ソーヴィニオン(fa2378)の提案したストーリーは、ネコとイヌの縄張り争いというもの。ネコたちが暮らしていた縄張りに突如やって来るイヌたち。双方の間で争いが始まるが、お互い本気で真剣なのにやっていることは人間の子どものケンカのよう。遠くからそれを見ている頭の良いカラスは呆れ、縄張り付近に住むネズミたちにはいい迷惑。
 こういったストーリーだと、歌や踊りを盛り込むことはもちろん、戦いのシーンなどシリアスなものも挟んだコミカルで明るく楽しい舞台を展開できる。また、佳奈歌が意図していたかどうかは定かではないが、ネコ、イヌ、カラス、ネズミなどなど多種多様な種の動物が出てきて話をしたり争ったりというのは、現代の人間社会における人種・国籍・性別の違いによる意見の違い・対立といった構造さえも浮かび上がらせ、描くことも出来る。
 採用されないだろうけど、などと言うものではない。人によって話の受け取り方や価値の置き方は様々。案外言ってみると上手く歯車が回っていくものだ。

●展望
「ありがとう、皆。おかげで色んな案が湧いてきたわ。ただ、どの案をどういった形で、どういう風に作っていくかは、少し考える時間が要るから待ってほしいわ」
 お茶の入ったカップを片手に微笑むエメリン。
「私自身も、しっかりエネルギーを溜めて臨まないといけないわね。‥‥もしまた一緒に仕事をすることがあったら、その時はよろしくお願いするわね」