新人強化合宿☆長月アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/08〜09/12
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●本文
「君たちには、オペレーションJの実行を依頼する」
重苦しい雰囲気の中、黒縁眼鏡の男がそう告げた。ざわめく室内。集められた面々の後ろの方で、誰かが立ち上がる音。続く声。
「しかし‥‥しかしそれではリスクが高すぎます! せめてオペレーションSで妥協すべきではないですか!?」
「危険はJでもSでも‥‥いや、今回提示された全てのパターンにおいて共通だよ、近藤君。どのみち、失敗の可能性は同じだし、失敗すれば責任を追及される。だからといって何もしないというのは、このまま『トラクター』が滅ぶのを待つのと同義」
黒縁眼鏡の男は近藤の意見を切り捨てると、立ち上がり、自分のデスクの前に立ち並ぶ一同に言い放った。
「もう一度言う。オペレーションJ実行を依頼する。直ちに作業に取りかかってくれ。なお、遂行中はオペレーションJという呼称は避け『とつげきライブ☆アクター取材企画』、略して『トラクター企画』として公表する様に。以上、解散!」
・ ・ ・
(以下、『トラクター企画 企画概要』本文要約)
1.トラクター企画の目的
今月末に公演を予定している3つの劇団の主宰や演出、舞台出演者へのインタビューと、取材内容に基づいた雑誌記事、レイアウト案作成。またその素材の収集。
2.トラクター企画の取材対象
地元の劇場にて連日稽古を行っている『アクターズスタジオ・風』。団員52名。
自劇団の事務所兼稽古場にて泊りがけ練習中の『gathering star』。団員37名。
近場温泉旅館にて合宿中の『劇団ラッパ企画』。所属164名、今月末公演参加者34名。
3.取材について
インタビュー内容の設定は自由。但し、公演する演劇に関する質問を最低1つ含むこと。また、雑誌掲載用に写真を数枚撮影してくること。
4.注意事項
インタビューは対象者を別室へ招き、他の団員とは離して行うこと。また、各劇団で注意しなければならない点は以下の通りである。
(1)アクターズスタジオ・風
主宰で演出の松江 里佳子(53歳・女性・狐獣人)が取材嫌いで有名。決してカメラに笑顔を向けないと言われている。主演は増田 あいこ(9歳・女性・猫獣人)
(2)gathering star
演出は吉田 唯麻(26歳・女性・人間)。主宰の円井 晋(30歳・男性・亀獣人)は頻繁に外出し取材をしようにも中々捕まらない。
(3)劇団ラッパ企画
主宰は鷹見 和昭(58歳・男性・鷹獣人)。演出はその息子、鷹見 博昭(35歳・男性・鷹獣人)。月末公演参加者以外の団員の一部も合宿に参加しているため、取材時は間違えないよう注意すること。
という、建て前。
・ ・ ・
(以下、『オペレーションJ』本文要約)
取材へ向かうメンバーには、予めキーワードを設定して臨んでもらう。取材用の部屋にはスタッフが隠れて待機、罠を仕掛けている。
取材メンバーは取材対象へ巧みに質問を行い、自らはキーワードを直接には言わずに対象にキーワードを発言させてもらいたい。そのキーワードを対象が発言した瞬間、関連したドッキリトラップが発動する。すなわち、ドッキリカメラである。
怪しまれず上手く誘導し、芝居を生業にする者たちの、芝居をしていない素の表情を激撮してほしい。
●リプレイ本文
●アクターズスタジオ・風
ちょこんと大人しく椅子に座って質問を待つ増田 あいこに、一回りや二回りでは済まない程年上の護国院・玄武斎(fa4159)は大人気無いだろうかなどと罪悪感に苛まれつつ取材を始めた。
護国院が設定したキーワードは『お化け』。このワードが出ると、お化けの仮装をしたスタッフが飛び出て脅かす。ちなみにお化けに扮したスタッフたちの合言葉は『マジで泣かす勢いで』。実に大人気ない。
護国院はまず手始めに、今度の舞台での役どころ、公演後の予定などを質問していく。
取材を受ける増田は非常に大人びた話し方をする少女だった。語尾はですます調だし、劇団の先輩などの話題になると話の中で先輩を持ち上げたりもする。
「何か嫌いなものや怖いものはあるかい?」
護国院がキーワードへの誘導を開始する。劇団の話題から増田個人の話、休日の過ごし方など違和感無く話を展開させていく手腕はなかなかのものだ。
「高いところが嫌いです。だから、展望台とか観覧車はちょっと怖いです」
「観覧車といえば、遊園地には遊びに行ったりするかい? 遊園地のアトラクションと言われたら、何が思いつく?」
「えーと‥‥観覧車、ジェットコースター、『お化け』屋敷‥‥」
バチン! と部屋の照明が落ちる。それと同時に部屋のロッカーから、天井から、床の下から、恐るべき安物お化け集団が襲い掛かる。
明かりが消えるなんてのは聞いてなかったぞ、と思いながらも懐からカメラを取り出し増田の様子を見る護国院。驚いたような悲鳴は全く聞かれなかったが。
硬直していた。
口が開いたまま、目が見開かれたままお化け襲撃の瞬間の表情のまま静止している増田。ともあれ好機ではあるので写真をパチリ。
「すまないね、お嬢ちゃん。驚かせてしまったようで」
と、ドッキリの看板を持ったスタッフがそれを高々と掲げて見せる。
「お詫びに何か奢ってあげるから、スタッフ共々勘弁して貰えないかね?」
やっといつもどおりに戻った増田に、護国院がそう言って謝る。すると。
「じゃあ、フォアグラを奢ってください」
不必要なところまで大人びていた。
●gathering star
「円井さんですか? さっきコンビニ行くって出ていきましたけど」
「え? コンビニからはさっき電池買って帰って来なかった? 多分トイレだよ」
「外履き無いよ。たぶん自販機にお茶買いに行った」
「全員分買って来るよって言ってた気がするけど。やっぱコンビニだって」
錯綜する情報。時折見え隠れする眼鏡の男の影。劇団『gathering star』主宰の円井 晋は噂どおりに神出鬼没だった。
「行きましょう、三島さん!」
「は、はいぃ‥‥」
劇団の稽古場を飛び出していく、円井の取材役である立花 奈保子(fa4466)と撮影役の三島 麗華(fa4463)。さっきから似たような出入りの連続で二人はだいぶ疲労していた。
そんなドタバタ状態を背に、敷島ポーレット(fa3611)は演出の吉田 唯麻への取材を開始するため、ターゲットを別室へと呼び込んだ。
「こんにちは〜。『とつげきライブ☆アクター取材』でインタビューに来ました敷島ポーレットです。今日はよろしゅうお願いします」
と笑顔で話す敷島。このオペレーションJ、隠れ蓑としている企画の方もしっかりやらなければいけないため、心象を悪くしないための気配りも大事なのだ。Jとトラクター両方を載せることで本性と仮面の落差を暴露するのが企画目的である。
吉田へのキーワードは『ねこ』。今回は同劇団内の猫獣人たちにも協力を要請し、集められるだけの猫を集めて部屋に待機させている。動き回って物音を立てたり退屈で欠伸をしたりしないかは、猫たちの魚肉ソーセージへの愛情の度合いで決定される。
吉田へのインタビューは、舞台のテーマや、演出を行うにあたって苦労したところ。そういった定番の質問から入り、徐々にキーワードに近づくための質問へと移っていく。
「自分の性格を何かに喩えるなら、何ですか?」
「そうね‥‥トランポリンかしら」
「とらんぽりん?」
「そう。誰か他の人が高く跳び上がるための手助けをするの。跳ぶ気持ちのある人は、力強く高く跳ぶ。でも、跳ぶ人が飛ぼうと思わないと高くは弾まない。だからトランポリン。演出としてはツッコミどころ満載だけど」
と、意外な答えにほけっとしつつも、都合よく舞台の内容が動物を扱ったものであることから「もしペットを飼うとしたら何がええですか?」と次なる質問を繰り出す。返ってくるのはまたも意外な答え。
「そうですね‥‥亀なんか良いですね」
「かめ?」
「はい。のんびりしててマイペースで可愛いじゃないですか」
返ってくる答えは犬か猫だろうと期待していた敷島はちょっとがっかり。
「でもマイペースといえば『猫』も可愛いですよね」
ゴーサイン。システムオールグリーン。発射。
すちゃっと吉田の頭の上に着地する何か。確認したくても見上げることの出来ない吉田。その頭の上に乗っている物体が「にゃー」と合図を発すると共に、多数の猫が物陰や窓の外から大挙して押し寄せてくる。
猫の一匹や十匹くらいなら、まだ可愛いで済むかもしれない。だが、一斉に飛び掛られると人間が埋まるほどの数が揃うとそんな場合ではない。大量の動く毛玉に埋め尽くされる吉田。
「ちょ、これじゃ撮れへんがな‥‥」
しばらくして吉田の顔面から猫の波が引いたところで、カメラでパチリ。驚いたというよりは放心状態といった表情だったが。
・ ・ ・
「初めからこうしていればよかったですね」
立花の言葉に三島が心から頷く。むやみやたらに追い掛け回すより、稽古場の入り口に隠れて待ち伏せるほうが労せず目的を果たすことが出来るはず。何故か包帯ぐるぐる巻きの姿で外の様子を窺う姿は稽古場の中にいる劇団員たちからは事情を知らなければ絶対に不審者として認識されていただろう。
「‥‥来ましたよ」
三島の言葉に、体を小さくして隠れる立花。近づいてくる足音と影を頼りにタイミングを計り‥‥
「うおぁーっ!!」
若い女の子にはあるまじき雄叫びを上げて飛び出す立花。その瞬間の円井の表情を撮ろうと三島がカメラを向ける。が。
「ああ、取材に来ていた方ですね。ご苦労様です」
にっこりスルーされる。そしてそのまま中へ入っていってしまう円井。
「しかももう言われちゃったし!」
キーワードは『ご苦労さん』。取材用の部屋に向かう前に言われてしまったが、ここはしっかり気を取り直して再チャレンジを。
だが結局、思ったとおりの結果を得ることはできなかった。普通のインタビューを隠れ蓑にして本当に驚かすことが目的なのに、驚かせる手段があまりにも見え透いた物過ぎた。これでは外行き用の驚いた表情を準備してくださいと先に言っているようなものである。
●劇団ラッパ企画
パチリ、パチリと要所で様々な角度で撮影していくシェーシャ・ナナク(fa4449)。小野田有馬(fa1242)の鷹見 博昭へのインタビューにて静かにカメラマンを務めていた。
「劇のタイトルと粗筋」「役者さんの意気込みについて」とやはり他の取材者と同じく手堅い質問からはじめる小野田は、キーワードを『芸術』としていた。芸術の秋と答えてもらうことを想定していたが、スタッフの準備が整ってから難易度高かったかもと遅い後悔をしていた。
劇はこれまでのラッパ企画のものと雰囲気は近く、躍動的なダンスを取り込んだ舞台であるということだった。
「秋、少し肌寒さを感じ始めた頃に心が熱くなるような舞台ですね。楽しみにしています」
と、事前にしっかり予習をしておいた小野田の言葉に笑顔の鷹見(子)。
「ところで、食欲の秋、スポーツの秋等と言いますが、鷹見さんにとっては何の秋ですか?」
上手く秋から質問を繋げる小野田。キーワード狙いの質問だったが。
「僕の場合はダンスの秋ですね。ラッパは殆どの舞台にダンスが入っていますし、練習前のウォームアップにも踊っていますから」
「そうですか。だからラッパ企画の役者の皆さんは秋冬の寒さとは無縁の熱い舞台を繰り広げられるわけですね」
と心の中では悔しがりながらもちゃんとコメントを返し、次なる一撃を見舞う小野田。
「それでは、お父様の場合は何の秋だと思われます?」
「父の場合は‥‥読書、いやもっと広くて『芸術』の秋ですかね?」
ドン! と突如乱暴に開け放たれるドア。そして全身カラフルに絵の具まみれな謎の集団が押し寄せる。
「なっ、何だ、おい、ちょっと」
芸術は爆発だ! 芸術は爆発だ! と連呼しながら鷹見(子)にまとわりつく絵の具人たち。カンバスと絵筆を持った彼らだが、まず見た目の異様さにそこまで気が回らない。ちなみにカンバスには『ドッキリ』の文字が。
驚く鷹見(子)の表情をシェーシャが何枚か撮影していく。そしてある程度乱戦が静まり、鷹見(子)もドッキリだと把握した瞬間。
「「あ」」
無意識に臨戦態勢になっていた鷹見(子)、背中から羽が生えていた。
とりあえず羽が映っていない写真はあったので撮影自体はセーフ。スタッフが皆獣人でホントによかった。
・ ・ ・
鷹見 和昭のもとには、二人の来客があった。
ひとりは『とつげきライブ』の取材でやって来た叢雲 颯雪(fa4554)、そしてもう一人は劇団を見学に来たという雨宮カナタ(fa4142)である。
雨宮と話をしていた鷹見(父)だったが、取材のほうを優先しなければならないだろうと判断して先に叢雲との対談となった。
叢雲が設定してきたキーワードは『ラッパ』である。劇団名の一部でもあるこのワードが発言されると、室内至る所に設置された機器と外で待機しているスタッフによりラッパの音が一斉に吹き鳴らされる。
今度の舞台の演目から物語の見所についての質問などから入り、質問は徐々に劇団そのものについてへ。団員数や入団の基準など、そして‥‥
「劇団の、名前の由来は何ですか‥‥?」
人見知りする叢雲、口調はたどたどしいが初めほどではなくなっていた。鷹見(父)は見た目怖そうなおじさんだが話してみると意外とそうでもなく。
「由来はね、音と形からだな。遠くにも音がよく聞こえるから、遠くの人にも気付いて見に来てもらえるように。『ラッパ』の先のようにどんどん大きく成長していけるように」
プワーーーーーーーーーー!
「何だ!?」
「うるさーい!!」
驚く鷹見(父)に加え想像以上の騒音に叢雲までも耳を塞ぐが、それでも何とかカメラを取り出し撮影する。そして取り出すドッキリの看板。
「びっくりしましたね」
「全くだ」
取材の場に同席していた雨宮の言葉に、鷹見(父)が同意する。ドッキリ企画が終了して、やっと落ち着いた会話の時間となる。
はずだった。
「この時期、食べ物も美味しいですし、祭もあって楽しい時期ですよね」
劇団の話題から徐々に雑談に入り、そんな話題を振られた鷹見(父)は。
「そうだな。祭は最近観にいっていないな‥‥私の地元は山車や『神輿』が豪勢で‥‥」
「「「わっしょい!! わっしょい!!」」」
鷹見(父)が神輿と言った途端、さっきラッパを持ってきた男たちが今度ははっぴ姿で入ってくる。そして鷹見(父)を座っている椅子ごと担ぎ上げると、そのまま部屋の外へ。
「まさか、これもドッキリか!? 手の込んだことを‥‥」
言いながら雨宮の視界から消えていく鷹見(父)。そう、雨宮もドッキリ企画の一員。キーワードは『神輿』だった。
「あ! 写真!!」
思い出して走っていく雨宮。そして誰もいなくなった取材部屋。遠く祭の音が聞こえる。
●ところで
黒縁眼鏡の男は立ち上がると、近藤に向かって言った。
「ところで‥‥一人分足りなくないかね?」
「うぐっ」