演劇習慣続けよう・金曜アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 4.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/30〜10/06

●本文

 企画『演劇習慣始めよう・劇を忘れた古い日本人よ』略して『演劇習慣』。それは5月に(遊びに)来日したドイツの劇作家で演出家のヘラルト・リヒタが日本の劇団主宰円井 晋とタッグを組んで行った、一週間(平日)を通し連続してそれぞれ別テーマで公演を行い、人々に芝居を見る習慣をつけてもらおうという企画である。ちなみに、週間と習慣がかけられている。
 ヘラルトが帰国した後も円井は密に連絡をとり、演劇習慣の第2弾を計画していた。ヘラルトは『向こう』での演劇習慣開催のための準備に追われているということで今回は日本に来ず、円井単独での開催となる。

 前回の演劇習慣では各曜日にそれぞれテーマとしてひとつの単語を与え、その単語に基づいた、或いは単語から連想される舞台を公演したのだが、今回の演劇習慣では少しテイストが違う。今回各曜日に与えられるのは、ひとつの『問いかけ』。舞台で観客にその問いを投げかけても良し。舞台でその問いに悩んでも良し。舞台でその問いにひとつの回答を出しても良し。
 円井的には難問を用意したつもりだということだが、果たして‥‥

●演劇習慣続けよう・金曜
『男女間に純粋な友情は成立し得る』‥‥是か非か。

ストーリー例:
 高校の部活動で、先輩後輩として二人は出会った。部員数が少ない部で、夏の大会が終わり3年生が引退してしまった後には、部には二人しか残らなかった。
 二人はそれでも一生懸命部活をし、次の年度には多数の新入生を迎え、数少ない先輩として協力して後輩たちの指導にあたった。その姿は他の生徒から見れば恋人同士以外の何者にも見えず、部の後輩たちから見れば自分たちの兄と姉のように感じられた。
 次の年、先輩だった男は大学に進学した。だが時間を見つけては3年になった女と電話やメールで連絡を取り合い、相談に乗ったり、アドバイスを与えたりしていた。夏の長期休暇には受験対策の手伝いをしに地元に戻ったりもした。
 次の年、後輩だった女も大学に進学した。同じ大学同じ学部で、住むアパートも同じ、部屋は隣同士だった。お互いに勉強にサークルに忙しかったがメールで相談をしたり、互いの部屋に行って話をしたり、そのまま朝日を見てしまった日もあった。
 女は男のことを本当の兄と慕っていた。下に弟がいるだけの女は、頭がよく行動力もある男に甘えられたし、時に情けない男の面倒を見るお姉さん気質も発揮していた。
 男は女のことを本当の妹と想っていた。男兄弟しかいない男は、可愛らしい女を自分が守っているという気持ちに浸れたし、責任感があり芯のしっかりした女を心から信頼していた。
 二人はお互いにそう思いあう、血は繋がらないが心で繋がった兄と妹。だと思っていた。
 女は、本当に心から男の事を兄だと思っていた。だが男は、女のことを愛していた。部員が少なくても全力を尽くしたのは女のため。後輩の育成を頑張ったのは部活動の成績を女のために上げたかったから。女が望む道のために無理をして自分の時間を割いたし、自分の何をおいても守ろうと心に誓った。
 だが同時に、そこまで想っているからこそ分かってしまうことがあった。女は、男を本当の家族として見ている。女にとって男は恋愛対象になり得ない。
 そのことを確信してしまった男は、女にあることを告げた。

●今回の参加者

 fa0213 一角 砂凪(17歳・♀・一角獣)
 fa0413 フェリシア・蕗紗(22歳・♀・狐)
 fa0542 森澤泉美(7歳・♂・ハムスター)
 fa1414 伊達 斎(30歳・♂・獅子)
 fa1435 稲森・梢(30歳・♀・狐)
 fa3651 海鈴(16歳・♂・猫)
 fa3652 紗原 馨(17歳・♀・狐)
 fa4564 木崎 朱音(16歳・♀・犬)

●リプレイ本文

●パンフレット
杉浦こころ‥‥木崎 朱音(fa4564)
高原将人‥‥海鈴(fa3651)
成瀬悠香‥‥一角 砂凪(fa0213)
鈴野光‥‥紗原 馨(fa3652)
有坂智子‥‥稲森・梢(fa1435)
相模良輔‥‥伊達 斎(fa1414)
有坂美夏‥‥フェリシア・蕗紗(fa0413)

●仲良しグループ
「えっ? こころちゃん正人君のこと好きなんだ?」
 とある日とある学校のとある休み時間。杉浦こころはその胸の内を一瞬にして周囲に悟られた。
「え、あー‥‥うん。な、内緒だよ!」
 こころと成瀬悠香、鈴野光、加えて今トイレに行っている高原将人はいわゆるクラスの仲良しグループ。男一人に女三人とは珍しい組み合わせだとつい最近やってきた教育実習生有坂美夏にも言われた。
 珍しいということは、それが成立する可能性が低いということだ。にも拘らずグループが成立し、かつ現在まで続いているのは、成立しなかった、あるいはすぐに崩壊してしまったグループに比べ何らかの気持ちの結びつきが強かったということだろう。この構成員の気持ちの結びつきで出来ているグループは、その繋がりの弱体化に当然のことながら弱い。
 こころは、皆と仲良く、このまま過ごしていきたいと考えている。だが同時に、悠香や光が将人と楽しそうに話しているのを見ると嫉妬を感じてしまう。それによって、今までの関係を壊してしまうのではないか。こころは怖かった。
「そっか‥‥私、応援するよ」
 光が言う。今の関係が変わってしまうんじゃないか、そういうことも考えたが、しかしこころの恋は応援してあげたかった。
 悠香は一人黙っていた。他の二人と同じく変化は予想できたが、どうなっていくのか、それが良いことなのか悪いことなのか、見当も付かなかった。

 同時期。将人は担任教師の相模良輔に会っていた。
「俺どうしていいか分かんないんスよ‥‥」
 こころと将人、二人は知らなかったが、二人は両想いだった。だが将人は心への感情を自分の内側だけで解決できず、身近な信用できる大人の男として相模を相談相手に選んだのだった。
「こころのことが‥‥その、好きなんだけど、告白とかしたりなんかしたら今の関係が壊れそうで‥‥」
「‥‥そうだな、智子先生に聞いてみたら、答えは出るかもしれないな」
 自分の過去の恋愛遍歴をまず語った相模だったが、今ひとつ役に立ちそうにないと分かると友人教師に話を振った。有坂智子は校医、いわゆる保健室の先生で、なんと実習生の美夏先生の姉である。
「有坂先生? でもどうして?」
「いやな、高原のような悩みは、智子先生が一番上手く解説できそうだからな」
 と、いうところで、チャイムが休み時間の終わりを告げる。
「分かりました先生、行ってみます」
 そう言って将人は教室へと走っていく。その後姿を見ながら相模は心の中でとも子に頭を下げる。説明役を押し付けたことに関して。かつての、学生時代の自分達の状況についての説明を。

 学生時代、相模と智子は付き合っていた。智子の妹である美夏とも、この時から相模は知り合いだった。相模と智子はその後紆余曲折あって別れることになったが、今は良き友人として過ごしていた。美夏はこの別離劇により相模を、男女間の純粋な友情を疑っているのだが。

 ・ ・ ・

 授業が全て終わり、悠香は新しく本を借りようとして図書室を訪れた。と、いつも人のいない(図書委員すらいない。職務怠慢だ)図書室には先客がいた。実習生、美夏だった。
「あの‥‥美夏先生」
 悠香は何やら分厚い本を持った美夏に話しかけた。話は、こころと将人に関する話について。
「男女で友情は成立するか? 何だか難しい話を持ってきたわね」
 美夏は笑いながら言った。どうしたのという問いにも「ちょっと」としか答えない悠香を見て「こりゃ似たような状況に陥ったのね」と昔を思い出す美夏。姉と相模の関係。そしてもしかすると自分と同じ状態もまた有り得るかも知れない。
「そうね‥‥始めのうちは特に変わったことは無いと思うけど、次第に他の友達との付き合いが悪くなったりするだろうし、もし別れたりなんかしたらすごく気まずくなるかも」
 そう美夏は答えた。そうですか、と見るからに落ち込んだ様子で悠香は帰っていく。図書室に来た元々の目的も忘れて。
(「少し、意地悪な答えだったかしら?」)
 その背中を見ながら、美夏は少し反省した。

●それぞれの結論
「あら、どうしたの?」
 校医の智子は、放課後に三人の来客という珍しい出来事に驚いた。
「悠香ちゃんが気分が悪いって‥‥」
 とこころが説明する。確かに悠香の表情は少し青いようだ。
「少し休めば大丈夫です」
 話す悠香。彼女が調子悪くなったのは、美夏の言葉が少し影響していた。今の友達関係が崩れるのが嫌だから付き合わないでくれ。そう言うのも結局関係を壊しそうだ。こころちゃんは将人君が好きだけど、将人君の方が好きじゃなかったらどうなってしまうんだろう。色々悩んでいるうちに気分が悪くなってしまったのだった。
「そう。二人ともちゃんと付き添って、仲が良いのね」
「ねえ、先生。友情に性別って、関係するのかな?」
 智子の言葉をきっかけに、光が尋ねる。それに「あたしも気になるー」とこころも便乗する。光の意図が掴めたからだ。
 と、一瞬考えた表情を見せた智子が逆に聞いた。
「将人君かな?」
 何で分かったの? という顔の悠香と光に、思いっきりビくっとするこころ。その反応を見てある程度事情を飲み込んだ智子は、こころの目をまっすぐ見て言った。
「杉浦さんは高原君のことが好きだけど、成瀬さんと鈴野さんのことも好きなのね。三人とも本当に大事な友達なら、焦らず時間をかけて答えを探してみたら? 友情は厚いもの、愛情は熱いもの。熱さに耐え切れる厚さがあるかはあなたたち次第。私から言えることはこれくらいね」
「つまり、結局は私達次第ってことなのね」
 と光の結論。
 うーん、と考える三人の背に、唐突にドアの開く音が届く。
「失礼しまー‥‥あれ? 何でお前らここにいるんだ?」
 入ってきたのは将人。
「どうしたの、高原君?」
 智子が聞くと、将人は「相模先生に言われて来たんですけど‥‥」と言いながらも肝心の用件を言わず、居るメンツに問題があるんスとでも言いたげな視線を巡らす。仲良しグループに話せず担任に話し、そしてその相模先生が話をこちらに振ったということは、つまりそういう何かだろう。
「大体どんな話か分かったわ。とりあえず高原君もそこに座りなさい」
 促されて四人が並んで座ると、どう話そうか少し考えてから、智子は話し始める。
「昔ね、先生にはとても仲の良い友達がいたの。私はその人のことを好きになって、告白しようと思ったんだけど、その時にその男の人から逆に告白されたの。私とても嬉しくて。ずっとそれから仲良く過ごしたんだけど、ある日、ある理由で別れることになったの」
 こころと悠香が少し反応するのが見えた。智子は続ける。
「でも、それからも私達は仲の良い友達のままだったわ。もちろん、私達がそうだったから誰でもそうなるってわけじゃないけど、でも絶対に仲が悪くなるっていうわけでもない。そこはお互いにお互いを信じるしかないわね」
 と、そこまで話したところで、再びドアの音。相模だった。相談を押し付けてしまったために様子を見に来たのだが‥‥
「ね、相模先生。まだ私達仲良いものね?」
 と今度は逆に話を振られる始末。「「えーっ! 有坂先生と相模先生、付き合ってたの!?」」と驚く生徒一同。せっかく自分が話した時は名前伏せたのにと肩を落とす相模。
「ま、そういうわけで、友情は残る時は残るものなのよ。皆の質問への答えは、そんな感じ良いかしら?」
「うん、俺、分かった気がするよ、先生」
 将人が言う。今すぐに答えを出す必要はない。告白もこれから先、もっと好きになってからでも構わないだろう。
「そうだよね‥‥なるようにしかならないよね」
「先のことは分からないけれど、きっと上手くいくって信じたい」
 光も悠香も、自分なりの答えを見つけたようだ。そして、こころも。
(「完璧な正解なんて無いんだ。どれかを今決める必要も無い。‥‥いつか、先生達のような関係になるのも‥‥」)

●巡り合わせ
「相模先生、どうしてここに?」
 生徒達の去った保健室、そこへ美夏がやって来るなり言った。
「別に、仲の良い同僚だし、どこで話していたっていいじゃない?」
 と智子が返す。だが美夏は納得しない。美夏には、男女の友情など信じられなかった。絶対他の何かがあると。そして。
「男女の友情があると思うなら、どうして昔のように家に遊びに来たりしなくなったの?」
 怒ったような、しかし悲しげな声で美夏は相模に問う。が、その答えを待たず部屋を出て行ってしまう。
「全くあの子は‥‥妬いてるのかしらね?」
「智子先生‥‥」
「私達の学生時代と同じことであの子達が悩んでるのも不思議な巡り合わせよね」
 智子は話をふと変えると、相模に向けて続けた。
「私は今も相模君のこと好きよ?」
 え? という驚いた表情を見て、智子は心底楽しそうに。
「もちろん友達として‥‥ね?」
「ああ、これからもよろしく頼むよ」
 ホッとした顔で相模は答えた。