障害排除依頼中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
5Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
38.6万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
10/11〜10/15
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●本文
「遺跡調査の手伝いを依頼したい」
そう、黒いサングラスをかけた女性、シャルロは言った。
「現在我々が調査を行っている遺跡に、巨大なNWの存在が確認された。その排除が仕事の内容だ」
シャルロは机上に幾つかの写真をばら撒く。どうやら遺跡内部の写真のようだ。
「入り口を塞いでいた石柱の排除は完了している。そして、これから調査する第2階層への通路を塞ぐ石柱の排除の準備も整っている」
NWの存在を感知するオーパーツ。その能力によって調査したところ、実体化したNWが遺跡内部を動き回っていることが分かったということだ。
「調査隊には学者が多くてな。戦闘力としては当てにならん。君たちに突入、NW撃破を行ってもらった後、遺跡内へ呼び入れるつもりだ」
・ ・ ・
遺跡内部。第1階層を歩いて通過し、獣人たちは排除された石柱を横目に斜面を降りていく。
と、通路の終わりが見えた。照明の光に照らされたのは、壁。いや。多少の粘度を持った『膜』のようだった。
それを破り捨てる。すると、眼前に広がる部屋。異様な姿。
辺りを照らす明かり。広そうなその部屋は、壁や部屋の隅のほぼ全てを蜘蛛の巣が覆っていた。
「これは、NW退治の後に巣の片付けも頼みたいところだな」
シャルロが言った。
●リプレイ本文
●遺跡第1階層・突入前
「特に不審な点は見当たらない‥‥かな?」
この遺跡に関する依頼を始めて受けるベルシード(fa0190)は、シャルロから過去の調査履歴などを支障の無い範囲で借り受け目を通していたが、特に特筆すべき点は無かった。カイロ美術館に元あった石板を手がかりに見つかった遺跡。第1階層は調査終了。第2階層はNWの存在が判明したため現在調査は停止している。報告書などから分かるのはそれだけ。前回の調査にも参加していた楓・フォルネウス(fa4046)から聞くには自分たちは先発隊で、後にWEAの調査隊本体がやってくるのだという。
「これ体に振り掛けといたら糸が1回でべったりくっつくなんてことは無いんやないかな」
敷島ポーレット(fa3611)がベビーパウダーの缶を開け、自分で纏い始める。第2階層で見た部屋自体が蜘蛛の巣と化しているような状況。NWは蜘蛛に寄生したものだろうとあたりをつけた獣人たちは一時遺跡を出て必要な物資を集め、そして今第1階層にて準備を進めている。
「大蜘蛛NWの糸だからな、きっと一度捕まると身動きが取れなくなるくれぇ強力なやつに違ぇねぇ! まずはこいつで足元確保、そして防御だ!」
と毛布ダルマ‥‥もとい、覆面パンダレスラー志望のスタントマン常盤 躑躅(fa2529)が言う。半獣化してもかぶった覆面でばれにくい常盤、誰かに手伝ってもらえばいいのに一人で毛布を大量に遺跡内に運びこんだ。
「道具と頭は使いよう、か。まったく頭いいものさ」
常盤の毛布を見て、緑川安則(fa1206)が敷島の頭を撫でながら言う。「むぅ」と敷島。
「ポーちゃんたちのガードもお願いするよ。私は前衛で戦うからな、手が回らないことも考えられる」
と、石柱の綺麗に排除された第2階層への通路の向こうから近づいてくる足音。蜘蛛の巣について調べに行っていたエキドナ(fa4716)達が戻ってきたのだ。
通常の蜘蛛の巣であれば、埃や砂が巻きつくとその粘度が大きく落ちる。エキドナは戦闘中に巣に引っかかって身動きが取れなくなるのを防ぐため蜘蛛の巣に砂をかけてその粘度を落とそうと考えたのだが、NWが感染したことによって蜘蛛の糸の性質が変化している可能性も無いとは言い切れないと実験をしに行っていたのだ。蜘蛛の巣への砂かけは振動で自分たちの侵入が察知されてしまう危惧もあったが、既にシャルロが盛大に破いているので蜘蛛が余程鈍くなければ気づかれているだろう。
「なら、コイツも役に立つかね。こんな重いもの持ってきて骨折り損だったらやってられなかったぜ」
ドン、と何本かの消火器を床に置く草薙 龍哉(fa3821)。それに山田クリスティン(fa4839)が反応する。
「後始末が大変そうですね‥‥シャルロさん、下ではどれくらい暴れても大丈夫なんですか? 未だ調査がされていないところなのに無闇に荒らしたら拙いと思うんで」
「そうだな‥‥壁画などについては興味は無いから崩れない程度なら壊して構わない。明らかに遺物が入ってますと言いたげな棺桶やら何やらがあれば、気をつけてもらいたい。だから、消火器を噴霧してきたかったら今のうちにやって来い。暗闇に消化剤も加わっては、戦闘どころじゃない」
遺跡保護や研究に心血を注いでいる者達が聞けば激怒モノの発言をさらっと言ってみせるシャルロ。だがそれに突っ込みを入れるのが今回の彼らの仕事ではなく。
「蜘蛛の糸を爪や刃物で切断できるか試してきましたが、あれは切るより巻き取る方が効率が良さそうです。強度の高い納豆の糸みたいなものです」
御影 瞬華(fa2386)がその通りのたとえで説明する。爪でもナイフでも棒でも特に効果は変わらないということ、そして爪で巻き取ったりなんかすると多少なりとも行動に支障が出るということ。
「初陣から、相手は強敵ですけど‥‥足手纏いにならないように、出来ることを出来るだけやってみようと思います」
NWとの戦闘は初めてだという叢雲 颯雪(fa4554)、ある程度の手練を募集していた依頼だけに緊張の色は隠せない。しかし兄と慕う御影が共にいることが彼女に勇気を与えていた。
「回復は任せといてください。能力の他に、回復アイテムもいっぱいありますから」
バックパックを示す山田。スポーツドリンクや保存食が沢山詰まっている。残念ながら『アップルグミ』や『やくそう』は入っていないが。
●遺跡第2階層
敷島や山田がシャルロに言って用意させた床に置くタイプの強力な光源幾つかに、持参されたランタン、ヘッドランプなどの明かりが室内を照らす。第2階層は非常に広い部屋のようだった。というのも、蜘蛛の巣があちらこちらに張り巡らされていてとても奥まで見通すことなど出来ないからだ。
体力自慢の山田や常盤などが次々と蜘蛛の巣を払いのけ最低限の行動スペースを確保していく。長い棒で糸を絡め取っていったり、毛布を広げて投げてみたり。
「玄関で呼び鈴連打してるようなもんやろうから、奇襲を受ける前提で動かんとね」
敷島の言葉に楓や叢雲が周囲の警戒をそれまで以上に強める。今のところはまだ近くにはいないようだ‥‥
バシュ、と一直線に飛んできた何かが、蜘蛛の巣除去の先頭にいたベルシードを捉える。その直撃を受けたベルシードは粉々になって散って?
「NWの糸だよ! 近くにいる!」
灰代傀儡の能力で身代わりを立たせていた本物の方のベルシードが警告を上げると、緑川が瞬時にSMGの安全装置を解除して糸の飛んできた方向へ構える。蜘蛛の糸ばかりの中空に異様な大きさの影を見つけると、すぐさま発砲。
ギシィ、と悲鳴なのかただの鳴き声なのか分からない声を上げて、2m以上ある巨体の蜘蛛は巣の上を歩き回る。緑川の撃った弾丸は1、2発は命中したようだが、残りは蜘蛛の巣を通過する際に速度を失い床に落ちたり、巣に引っかかったままになった。
巣上を移動するNWの速度はそれほど速くは無かった。御影や草薙、楓が飛び道具を順次撃ち込む。
(「落ち着け、慌てるな‥‥冷静に」)
戦闘経験は無いが射撃の能力だけ見れば随一の叢雲は、父の言葉を心で反芻しながら狙いを定め、撃つ。狙いは100%完璧だったが、間に挟んだ糸のせいで威力が落ち有効打にはなっていないようだ。
NWが高い位置にいるせいで手の出ない接近戦組、エキドナがNWの様子を窺っていると、変化が見えた。
「糸を出すぞ! 気をつけるのじゃ!」
その声が全員の耳に届くかどうか、NWはいきなり糸を噴出してきた。一直線に高速度で飛んでくる糸を、各々は各自の判断で回避する。
「借ります」
一言毛布ダルマ‥‥もとい、常盤に断って、御影が毛布を一枚持って飛翔する。NWの攻撃と巣に引っかかることを警戒しながら、空中で毛布を思い切り振り回す。ベッタリと蜘蛛の巣の纏わり付いた毛布が投げ捨てられた後には、少しではあるが空を跳んで移動できるスペースが出来た。その空間に草薙も飛び上がる。
「そいつを叩き落すんだ! ぶっ叩いてやる!」
常盤の叫びに応えようと銃弾の嵐がNWを襲い、命中する弾丸が増えるに比例して糸の打ち出される回数も増えていく。今のところ毛布ダルマが毛布を一枚犠牲にした程度で大きな被害は出ていないが、状況はあまり良くならない。
多くの銃弾が飛び、NWと獣人たちの間を隔てていた巣の大部分が引き裂かれた頃。好機だと姿を消した者が一人。敷島だ。瞬速縮地の能力でNWの斜め後方に移動すると、防御力の低いだろう関節部を狙って鋭い爪で攻撃する。が。
攻撃はヒットしNWの表皮に深い傷跡をつけたが、後方に出現した獣人を察知したNWはすぐさま向きを変え、敷島に向けて糸を打ち出す。糸に触れたときの粘りに対抗するためパウダーを纏っていたが、さらに上から糸で丸められては効果は期待できない。
「落ちろバケモノが!!」
動きを封じられて落下する敷島と入れ替わりにNWの目の前に躍り出たのは緑川。持っていたSMGなどとうに捨て、思い切り振りかぶった降魔刀をNWに叩き込む。
落ちた敷島は足の速い叢雲が下に駆けつけて毛布でキャッチし、退避。その後に緑川によって脚の3本を切り落とされたNWが地に落ちる。
「もふもふ毛布魔人の力を見せてやる!」
運んでいた毛布を解放し身軽になった常盤、もともと高い腕力をさらに能力で高めてNWに襲い掛かる。両手で持った模造刀をひっくり返って未だ起き上がれないNWの腹部、糸を噴出する部分に深く突き刺す。
「白兵突撃を敢行する! いくぞ!」
緑川の一声で、草薙やエキドナも地に落ちたNWに突撃する。一方で、前衛が足りなくなるまでは待機の山田や誤射の危険のため射撃を止めたベルシード、楓らは敷島に絡められた糸を何とかする方へ。御影はNWを警戒しつつ後方部隊の前に立ち、叢雲はゼロ距離射撃を叩き込むため敵へ向かう。
群がる獣人たちを、細い脚部からは想像もつかない怪力で振り飛ばすNW。巣の上には戻れず、糸を出しての攻撃ももう出来ないNWは、残った脚と大きな顎を武器に向かってくる。
背に乗っていて飛ばされすぐ傍の巣に突っ込んだ常盤は、辛うじて自由の利く両手でNWの脚の一本を掴む。NWも恐ろしい力で振り払おうとするが、常盤の力も相当だった。動きの止まるNW。
止めにとベルシードが火の玉を出そうとするがストップがかかる。遺跡内で火事になると火傷では済まない。窒息死だ。蜘蛛の糸が燃えるかどうかは分からないが、消火器やパウダーなどの粉末が多少空中に浮いているし、毛布も大量にある。代わりにというわけでは無いが、コアはどこだと探しながらも草薙が肉薄し、今の彼に出来る最大限の出力で波光神息を叩き込む。もちろん、常盤を巻き込まないように。
淡い光の波の中に一瞬姿を消すNW。その奔流の後には、全く動くことの無い大蜘蛛の屍骸だけが残った。コアを破壊していないからまだ油断は出来ないが。
「ご苦労。無事に始末できたようだな」
いつの間にやって来たのか、入り口の方でシャルロが言っている。
「あとは我々で適切に処理する。怪我の治療と休養に、一度上へ戻るといい」
●遺跡第2階層・事後処理
NWも片付き、学者たちも入って少し騒がしくなった遺跡内で一行は掃除を言いつかっていた。草薙の超過勤務手当のお願いは一瞬にして却下されたが、楓がさっさと掃除を始めてしまったので一人帰るわけにもいかず手伝うこととなった。
「シャルロさん、WEAの調査隊の本隊は何時来るのかな?」
ベルシードは気になっていたことをシャルロに問う。
「大規模な調査には、面倒な申請や準備が必要なのさ。今回のこの依頼も準備の一環だ。まあ、気長に待てばいい」
「あら? これは何でしょうか?」
と、会話の傍で掃除中の楓が異様な物を発見したと報告に来る。10cm程の木の葉。それ単体では珍しくないが、ここは砂漠の真ん中の遺跡の中である。そんなものが、かなり前からあったと推測される蜘蛛の巣の奥に枯れることもなく残っていたのだ。それをシャルロは受け取ると、ジェリコ、と彼女の後ろの控えていた男に示す。
「これはイシェドの葉と呼ばれるものです。これに書かれた情報は永遠に風化することが無いというオーパーツです」
「あまり面白みのある道具では無いな。あの蜘蛛は、これに入ってこの中に侵入した可能性も考えられるわけだ」
そのまま学者預かりになるイシェドの葉。とりあえず、障害排除依頼は無事に遂行された。