ミュージカル作ろ。役者南北アメリカ

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 12.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/17〜10/23

●本文

●世界一のミュージカル・舞台
 舞台セットは脚本家の自宅。一階がリビング、二階が書斎。一般的な家庭の一室が用意されているリビングの下手(観客から見て左)側にはシステムキッチン、調理器具など。
 一階リビングには子供の遊び道具や脚本家の趣味の雑誌、メモがされているらしい紙くずなどが散らばる。
 二階の書斎は上から薄いスクリーンを降ろして隠すことが出来、シルエットでの演技が可能。書斎の机の端には仕事道具ノートパソコン有り。
 衣装は、脚本家は自宅での仕事用ヨレヨレ服に余所行きスーツ、通常私服の3着が用意されている。家政夫にはアットホームな雰囲気の服装と可愛いエプロン。

●世界一のミュージカル・あらすじ
 脚本家の女性は悩んでいた。任されたミュージカルの脚本の締切がどんどん近づいてくるというのに、一向に筆が進まないのだ。
 仕事ばかりで家のことなど全く手をつけられず、スランプのせいで気が滅入っていて子供と接する時間の無い彼女。父親もいない彼女の子供は反発を覚える。
 とある日、女性は知り合いを自宅に呼び、ストーリーの案になりそうなものを色々と出し合ってもらうことにする。
 集まったメンバー、始まる話し合い。各人が自分の案などを披露していく。

 ・ ・ ・

 ストーリーの大筋が決まり執筆を始める女性。だが、家のことは相変わらず放りっぱなし。これではいけないと彼女は家政夫を雇う。字の通り家事万能の男性である。
 仕事部屋にこもり脚本の製作を急ぐ女性と、そんな彼女の健康を心配しつつ家事などをこなす家政夫。はじめは意見がかみ合わず交流も少なかったが、次第に打ち解けていく家政夫と子供の姿を見、家政夫のさりげない優しさに触れることで、仕事だけが拠り所だった自分を少し変えてみようかと思うようになる。

 ・ ・ ・

 というミュージカル台本が完成する。何とか締切に間に合い脚本を渡し終えた女性はほっと胸を撫で下ろす。
 その傍には彼女の子供と、家政夫の姿。
 これからの彼女らの行く末は、どうなっていくのか。

●そして相変わらず
「何ですか、コレ?」
「台本よ。3度も丁寧に用意してあげたんだから、ありがたく受け取りなさい」
 エメリンが自分のプロダクションの所員に渡した分厚い紙束。紙面は文字でびっしりと埋められ。
「その台本の通りに、各所に電話をかけまくりなさい。このミュージカルの出演者を集めるのよ。うふふのふ〜」
 笑いながら去っていくエメリンを見送ってから、所員が紙束を再び見る。想定される質問への回答や、断られた場合の食い下がり方などが事細かに書いてある。
「‥‥やっぱり、幾つか単語が違うだけでほとんど内容同じじゃないか」
 各プロダクションへ案内の電話が入ったのは翌日のことだった。

●今回の参加者

 fa0049 遠藤鈴樹(26歳・♂・蝙蝠)
 fa1737 Chizuru(50歳・♀・亀)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa2378 佳奈歌・ソーヴィニオン(17歳・♀・猫)
 fa2446 カイン・フォルネウス(25歳・♂・蝙蝠)
 fa3081 チェリー・ブロッサム(20歳・♀・兎)
 fa3411 渡会 飛鳥(17歳・♀・兎)
 fa4591 楼瀬真緒(29歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 ただただひたすらに色んなところへ、受話器を置いてはまた取り、また置いて。電話を繰り返すエメリン。何回繰り返したか分からないその作業、終盤になる頃には一番最初の電話の相手が来訪してしまった。
「お邪魔しますよ。こんなおばさんでも、気分転換の話し相手くらいにはなれるわよ」
 エメリンの知り合いで近所に住むおばさんは、土産にと持ってきたケーキをテーブルの上に丁寧に置き。そのままキッチンの方へ。勝手知ったるなんとやら、お茶を入れるために。
「いいんですよおばさん、お茶くらいお出しします」
 と電話の片手間におばさんを制止すると、エメリンはようやく連続電話を終えてリビングへ。そうするうちに次々にやって来る客人。
「エメリンさん、こういうのはもう少し早い時期にやりましょう。もう締切目の前ですよ」
 そう言う演出助手や、
「まさか私の新作のネタを使おうっていうんじゃ‥‥ダメですよ」
 そんな早とちりの作家とか。
「これでキャンセルなんて事になったら、色々と面倒臭いんですよ?」
 ひたすら急かす劇場の関係者。
 脚本家エメリンの自宅に集まった面々。彼女らの目的は。
「「「ミュージカルを作ろう、世界一のミュージカル!」」」

 ミュージックスタート。明るく楽しく、ちょっとだけ真面目なストーリーの開幕だ。

●パンフレット
エメリン‥‥チェリー・ブロッサム(fa3081)
カイン‥‥カイン・フォルネウス(fa2446)
アリス‥‥渡会 飛鳥(fa3411)
フローラ‥‥佳奈歌・ソーヴィニオン(fa2378)
シモン‥‥遠藤鈴樹(fa0049)
シェリル‥‥楼瀬真緒(fa4591)
アイリーン‥‥アイリーン(fa1814)
おばさん‥‥Chizuru(fa1737)

●ミュージカルを作ろう
「お茶が入りました」
 先ほどまでの談話や騒がしさはどこへやら、家政夫のカインがティーポットとカップを持って現れるとリビングは一気に静まり返り、時折カップとソーサーが触れる澄んだ金属音が聞こえるだけ。
 普段のティータイムならこれほど静かなことはまず無い。それなのに今日は静かなのは何故か。それは。
「エメリンさん、結婚していらっしゃいましたか?」
 作家のシェリルが問う。そう、今日エメリンにミュージカルの脚本についてアドバイスが欲しいからと集められた面々は、このカインという男のことを知らなかったのだ。
 仕事が忙しく家事にまで手が回らないから雇った家政夫だとエメリンが説明すると、カインは奥から顔だけ出して軽く一礼。誰も見ていないが。おばさんはカインの存在は知っていたようだが、やはり夫か、もしくは兄弟かと思っていたらしい。
「そういえば、アリスちゃんは元気ですか? 今日は見かけませんが」
 演出助手のシモンが尋ねる。一方で仕事も何も全然進まないリビングの空気にアイリーンは少し不安になりつつ。
「アリスは奥の自分の部屋にいるわ。お友達のフローラちゃんが遊びに来てるから、出て来ないんでしょう」

●若き脚本家の素敵な日常
 田舎から出てきた青年が都会で嫁探し――没。
 逆に都会の青年が田舎で――没。
 じゃ婿探し――没。
 「まだですか?」――「まだです」
 閑話休題。

 近未来の世界、進化したネズミ人間が――没。
 亀のミュータントが――没。
 巨大ロボ――没。
 「まだですか?」――「没。じゃなくて、まだです」
 閑話休題。

「中々これっていうものは見つからないものね‥‥」
 明らかに論議が目指す方向とはずれてきたためいったん打ち切り、お茶とケーキの休憩時間。エメリンの溜め息。
「エメリンさんは、私たちを呼ぶ前に何か考えていた話は無かったんですか?」
 そうシェリルが聞いてみるが、エメリンは首を横に振るのみ。
「皆でこうやって案を出し合っている、この姿をそのままミュージカルにするというのはどうでしょう」
 シモンの発案に、おばさんも乗ってくる。
「そうですわね。ここは自分を見つめなおす意味で、自分を題材にしてみるのも面白いかも知れませんよ。人は誰でも自伝を書く事は出来るといいますしね」
「自分を題材に、ここでの話し合いを脚本にする‥‥」
「他にも家政夫さんに可愛い子供さんと良い配役が揃ってますしね。タイトルは‥‥『若き脚本家の素敵な日常』とか?」
 若くはないですよ、というエメリンの反論は、私よりは若いわという至極その通りなおばさんの言葉で握り潰され。
「どうせなら恋愛要素もいれましょう。脚本家と家政夫の心の交流」
 こういう言葉で止めの一撃が入る。
 一気に盛り上がるテーブル上。一人エメリンは『れんあいようそ』の言葉に顔を赤くし出鼻を挫かれる事態となったがすぐさま追いつき。
「子供と家政夫の仲良くなっていく中で、彼が以前見た『彼女が書いたミュージカルでの歌』を聞かせてはどうでしょう?」
 シモンが提案する。歌って見せる歌は『エメリンの』舞台で使われた歌。
「締切まで余裕の無い感じは、曲調をアップテンポにして歌えば表現できるかしらね。あとは笑いを混ぜるために‥‥階段をうろうろ、上り下りしながらオーバーに「まだですか?」「まだまだよ」なんて台詞の繰り返しをしたり。ちょっとやってみる?」
 アイリーンも乗り気で、自分を模した役の設定や動きの決定に余念が無く。
「アリスちゃんのお友達は、子供が母親への不満を出すときの相手役にだね。母親は書斎にいて、やりとりはリビング。お客さんから見たら視線が上に下に、どうかな?」
 どんどん進む脚本の叩き台作成。それを自分も意見を言いながら物凄いスピードでメモを取るエメリン。
「ということは‥‥パソコンも取って来なきゃ」
 立ち上がり、二階の書斎に上がるエメリン。それにシモンとシェリルはついて行って。アイリーンとおばさんは、途中テーブルの上の紙などに袖を引っ掛けて床に落としたりしながら、食器などの片付けを始める。
 見えない書斎の奥からエメリンの声が聞こえる。
「例えば、こういう舞台?」

●ハウス・キーパー
 スーツでリビングへ降りてきたエメリンは散らかっている部屋を見回し、キッチンの方からやって来たカインに「リビング、そのままにしといて」とだけ言う。どこにどんなストーリーの種を置いているか分からなくなるからだ。エメリンはそのままカインの返事を待たずに外出していく。
 いってらっしゃい、とエメリンの背に声をかけて、カインはリビングをどうしたものかと見回す。どれがネタ案でどれが紙くずか分からない。糸くずなど明らかなゴミだけ掃除するにも大小さまざまな紙ごみが散乱している中掃除機をかけるのは危険行為だ。
 と、テーブルの上に残されたケーキに目が留まる。それは確かアリスへおやつにと出したケーキ。
「食べないのかい?」
「ショートケーキが食べたいの。真っ白なクリームに大きなイチゴの乗った」
 そうかとカインが白い三角に赤い三角の乗ったケーキを新たに用意しても、アリスは「もう食べたくない」と、ちょうど遊びに来たフローラを自分の部屋に招き遊び始める。リビングには放置されたおもちゃの類とケーキ。
 一方通行の気持ち、互いの行動も声も見えず、届かず。見せず、届けず。

 ・ ・ ・

「それでね、明後日の夜にパーティをするの。それにアリスにも来てほしいなって」
 フローラの誘いを曖昧な答えでかわしたアリス。フローラは近所に住む幼馴染みで、よく一緒に遊ぶし相談に乗ってもらうこともある。例えば、ママが仕事ばかりで遊んでもらえない、とか。
 だから。
「ねえママ、今度友達の誕生会があって‥‥」
「ごめんねアリス、忙しいから後にしてくれる?」
 帰ってきたエメリンはアリスの言葉を途中で遮ると、そのまま書斎へ上がっていってしまう。その背中を追いかけることが出来ず。
「パーティに行きたくても、綺麗なドレスなんか持ってない。ママは忙しいから、一緒に買いに行こうって言うことも出来ない」
 行きたいなら行きたいと主張すれば良い。それは子供の権利だろう。それでもアリスはママの都合を考えて自分の想いを飲み込んでしまう。


「仕事もいいけど、あまり無理はしないで欲しいな‥‥ま、雇われ家政夫が差し出がましい口挟むのもなんだけど」
 ノックへの返事と共に、カインが書斎のドアを開ける。
「無理をしなきゃ、私達は食べていけないのよ。あなたも就職先を見つけなおさなきゃならなくなるわ」
 エメリンがそう言うのを聞いているのかいないのか、カインは部屋を軽く見渡す。
「なに、どうしたの?」
「いや、さすがに目につくところには置いてないよなって。ドレス」
「ドレス? 一体何に使うつもりなの」
 エメリンの問いにカインはウインク一つ。
「二月早いクリスマス、もしくは二月半遅いバースデープレゼントかな」


「アリスお嬢様」
 2日後の朝。カインは妙に芝居がかった口調でアリスを呼び止め。一体何事と振り返るアリスにリサイクル社会真っ青の過剰包装の箱を渡す。それを開けてみると‥‥
「ドレス‥‥ママの?」
 ひらりと広げてみると、記憶にある母のドレスより幾分小さい気がする。自分の体に合わせてみると、果たして、サイズはピッタリ、自分と同じ。
「これで、誕生会に行けるかな?」
「ありがとう、カインさん!」
 二晩遅くまでかかってドレスを仕立て直したカインに、アリスは向けられた以上の笑顔で礼を言う。この家政夫は家事をするよう言われて雇われている。頼まれずにこんなことまでする義理は無いはずなのに。アリスはカインのことを少し誤解していたのかもしれない。
 気持ちのベクトルは徐々に向かい合い、互いの想いと声は、互いに届き始めた。

 ・ ・ ・

 一体何事だろう。階下の騒ぎに、少しずつながら作業が進み始めたエメリンはパソコンに後ろ髪を引かれつつも書斎を出る。
 キッチンでは、カインがいつものように料理をしているような音が聞こえる。普段ならそれが終わってから食卓に料理が並ぶが、今日はリアルタイムで食卓へ料理が運ばれている。

 またひとつ料理が完成して。   ――♪忘れないで
 皿をカインがアリスに手渡し      ――♪思い出して
 食卓へアリスは料理を運び、    ――♪どんな時でも、あなたの傍には
 カインが見ぬうちに一口摘み    ――♪どんな時でも、あなたの傍には
 それはすぐカインにばれて。         ――♪私がいる
 そのお叱りに舌を出し謝って。           ――♪私がいる

 一緒に料理を作り、それらを並べていくアリスとカイン。その姿に、久しぶりに家族の影を見て。以前には、あの輪の中に自分もいて、笑っていた。
「あ、ママ! ちょうど呼ぼうと思ってたの。晩ご飯あたしが作ったの、食べてみて!」
「調理のメインは俺なんだけど‥‥ま、いいや」
 カインの呟きはエメリンにもアリスにも届かず。
「‥‥ところでエメリンさん、ご無理をなさったようですが、お仕事のほうは?」
「明日、内容のチェックやらちょっとした打ち合わせやらがあるわ。だから、明後日。3人でどこかに遊びに行きましょう」
「ほんと、ママ!?」
「3人ってことは、俺もですか。‥‥ほんと、ママ?」
 似合わぬカインの口調にエメリンとアリスは揃って笑い。

●暮らしの中の風景
「っていうお話。何とか無事に完成したわ」
 やれやれと伸びをするエメリンに、カインが紅茶を入れて。アリスはフローラを見送りに、玄関先へ出ている。アイリーンは今頃原稿の内容を読んで自分の書かれようを見ているだろうし、シモンはスペルミスや無いと思うが流れに不自然なところが無いかチェックしてくれているだろう。おばさんはさすがに長時間自宅を空けるわけにはいかないのでついさっき帰って行き。そういえばシェリルは、いつの間にか姿を消している。最後に見かけたシェリルは、何だか微笑んでいたような気がする。
 リビングへ戻ってくるなり、アリスが尋ねた。
「ママ、遊びに行くのは明日って約束だけど、どこに行くか決めてあるの?」
「まだ決めてなかったわ。夕飯の後にどこに行くか決めましょ。カイン、あなたにはたっぷりと荷物をお願いする予定だから、今夜はしっかり休んでおきなさいね」