演劇習慣中東編第一週中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
12.9万円
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参加人数 |
6人
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サポート |
0人
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期間 |
10/23〜10/29
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●本文
企画『演劇習慣始めよう・劇を忘れた古い日本人よ』略して『演劇習慣』。それは5月に(遊びに)来日したドイツの劇作家で演出家のヘラルト・リヒタが日本の劇団主宰円井 晋とタッグを組んで行った、一週間(平日)を通し連続してそれぞれ別テーマで公演を行い、人々に芝居を見る習慣をつけてもらおうという企画である。ちなみに、週間と習慣がかけられている。
この演劇習慣の第2弾がつい先日円井の指揮で日本にて行われた。その第2弾からあまり間をおかず開催が決定した第3弾は、ヘラルトが複数の協力者と共に行う世界同時開催であった。
初回の演劇習慣はひとつの単語が、前回の演劇習慣ではひとつの問いかけがテーマとして提示され、それに基づいた、或いはそれから連想される舞台を作り上げてきたが、今回の世界規模演劇習慣で提示されるのは『色』である。それも『空の色』。
提示された色に含まれた意味、連想される物、情景。あなたにとってこの空の色は、何の色?
●演劇習慣中東編第一週
『宵藍』‥‥シャオラン・夏の宵の青
ストーリー例:
随分と物資が少なくなってきた。砂漠で遭難して数日、水も食料もかなり少なくなってきていた。
荷物の中身を確認する男。一人だけで少しずつ消費していけばあと4日は保つだろう物資。一人だけならば。歩きながら隣を見る。女。砂漠の遭難途中、今日の朝日から真昼までの間に何の縁か拾った同胞。遭難仲間。
残念ながら。でも思ったとおり。その日も歩けど歩けど砂だらけの光景に変化は無く。
ゆっくりとあたりを覆い始める青い夜。日中の酷い暑さとは打って変わって、夜間は冷気が襲いかかる砂の海。
一人だけならば、4日は保つだろう物資。だが、この場にいるのは二人。女を切り捨てたい男と何とか生き延びたい女は互いに知恵を振り絞って物語の応酬を始める。一方は生きることの素晴らしさや冷酷ながらもそうしなければ上手く回らない世界の話、もう一方は慈悲深い男の栄光の話や運命の話。
結局のところ、説得されてしまったのは? そして二人の結末は。
●リプレイ本文
演出が舞台装置などの方へ意識を割いている間、演出補佐兼役者のケイ・蛇原(fa0179)は舞台演劇に初出演の柚木透流(fa4144)と二郎丸・慎吾(fa4946)、そして最近芝居から遠ざかっていたからと自主トレ中の神塚獅狼(fa3765)を引き連れ演技指導を行った。
今回の劇は全体を通して静かな劇である。それでも観客を飽きさせず、舞台上の世界に引き込むためのコツなどをこれまでの経験から助言したり、逆に新鮮な目線での新しい演じ方のヒントを得たり。本公演の稽古期間は、時間的制約もあってドタバタしはしたが参加者達に有意義なものとなった。
●パンフレット
サラ‥‥柚木透流
リセア‥‥白蓮(fa2672)
ヴァン‥‥神塚獅狼
シンゴ‥‥二郎丸・慎吾
イチヤ‥‥上月 一夜(fa0048)
主人‥‥ケイ・蛇原
●絵描きの話
「主人、すまないが、温かい飲み物を頂けないかな。寝付けなくて」
そろそろわたくしも眠ろうかと思っていた時分、声に振り返ってみますと、そこにはお客様の一人であるサラ様がおりました。それではと、わたくしはミルクを鍋に、コンロにかけました。
「明日早い時間にここを出なければならないんだが、どうも。頭の中を考え事が支配してしまって」
ならばもう一泊はと尋ねてみましたが、次の宿泊先は決まっているのだとのこと。残念ではありましたがそれは仕方の無いこと。
程よく温まったところでコンロの火を消し、カップにミルクを。
「絵を描くために、旅をしているんだ。美しい『宵藍の絵』を」
旅行の目的を尋ねますと、サラ様はそうお答えになりました。スランプやら何やら、色々な悩みがあるとのことで。僭越ながら、少し、昔のお話でも致しましょうと提案いたしましたところ、採用されました。
それでは、まず‥‥どれだけ前の話だったでしょうか、プライバシー保護のために多少をぼかしてお話しします。決して、記憶が最早‥‥というわけではございませんよ?
●恋人の話
そう、それはとても暑い日のことでございました。
ある男性が、一人の女性を背負っていらっしゃったのです。大変慌てた様子で、その女性は旅の連れだが、砂漠で倒れてしまったのだと教えて頂きました。
幸い症状はたいしたことなく、その日のうちに女性は目をお覚ましになりました。
「すいません、私が持っていたブレスレットを知りませんか?」
リセア様というその女性は、起きてくるなりわたくしにそう問われました。わたくしは知りませんでした。宿へ戻ってこられた男性へ駆け寄ると、リセア様は深刻そうなお顔でお話しになりました。
「無いの、ブレスレットが‥‥荷物の中にも、部屋にも。きっと倒れた時に落としたんだわ。私、探しに行ってくる」
リセア様は一方的にそうおっしゃると、男性の制止も聞かず宿を出て行かれました。夕暮れも近い時間、砂漠は危険でございます。丁度他にお客様もいない日でしたので、わたくしもリセア様を追うことにいたしました。
リセア様は程なく見つかりました。砂漠で、周囲を見回し、時に足元の砂を払ってみたり。ですが、砂漠でブレスレットを探すのは公園の砂場で米粒を探すようなもの。そのことを男性はお話しになられましたが、リセア様は聞きませんでした。
「ダメ! だって、貴方から貰った‥‥大切なブレスレットなのに!」
泣いておられました。瞳から流れ出す涙を見ずとも、その声を聞くだけで分かりました。
無理だから諦めろと、またプレゼントするからと、男性は諭されました。日が沈み急激に冷え込んでくる砂漠で、リセア様は男性のマントを上からかけられながらも、小さくクシャミをなさいました。
「‥‥覚えてる? 貴方からの最初の、初めて貰ったプレゼントだったのよ。ブレスレットを貰って、付き合ってほしいって言ってくれて‥‥私、本当に嬉しかったの」
リセア様はそのまま本格的に泣き出してしまいました。時間が過ぎ、さすがに寒さも酷くなってきた頃、男性の「帰ろう」という一言に、リセア様も頷かれました。
その時でございました。突然、強い風が吹きました。舞う砂粒が治まると、リセア様のすぐ足元に、月の光に煌めくブレスレットがありました。ブレスレットに嵌っている宝石には、月だけでなくたくさんの星々、綺麗な夜空が映っておりました。
・ ・ ・
これが、と、その時のお二人から送られた結婚報告の絵葉書をサラ様へお見せしますと、その時サラ様は少し涙ぐんでおられました。
「すみません、涙ぐんで‥‥」
照れ隠しのように笑われましたが、何か話の中に思うところがあったのでしょう。そう、色恋のお話が。
●探す話・前
珍しいお客様もおられました。
自分が仕えるべき主を探しているというお客様‥‥確か、ヴァン様とおっしゃいましたが。何か、役に立ちそうな話は無いかと尋ねられました。わたくしはこの宿での従業員新規雇用の話を致しましたが、どうやらそういった話ではなかったようで。
素晴らしい人物についての情報、ということでした。人物かどうかは分かりませんが、以前他のお客様から聞いた話を、そのままお教えいたしました。
●天使の話・過
とあるご家族様が宿泊なされた時の話です。
いつもより一層冷える夜のこと、お子様が砂漠の向こうに『何か』を見たと言うのです。
「ママ、天使だ、天使が空に上っていくよ」
確か、そう聞こえました。お子様の言葉ですから、誰も「どうせ」と思うものです。お母様もそれは月の光だと、窓を開けていると寒いから早く閉めなさいと言い聞かせておりました。
ですが、どうにもわたくしには気になったのでございます。今までに何度も冷え込む夜は経験してきましたし、ご家族のお客様もおりましたが、一度もそういった話は聞きません。宿だけでなく、この街でも。
●探す話・後
ですから、確たる情報ではありませんし人ですらありませんが、何の当ても無いのであれば、酔狂として探してみるのも面白いかもしれません。
わたくしはそうヴァン様にお話ししました。するとヴァン様は、明日の朝一番に出ると、そうおっしゃいました。本気ですかと確認いたしましたが、ヴァン様は笑って本気だとお答えになりました。
「もちろん、ガセかもしれない。いや、十中八九ガセだろう。だが、一か二は真実だ。それに賭けてみたい。ガセだったら、また戻ってくる。旅の話を土産にきっと戻ってこよう。その時には、土産を宿代に泊めてくれ」
このお話がガセだったら、それは情報屋であるわたくしにも責任があるのだと、無理のある論を笑って無理に通されると、ヴァン様は旅立ちました。
ヴァン様は、未だ帰っては参りません。とすると、天使の話は本当だったのか、或いは‥‥何にしろ、帰って来られない方が宿の経営には助かるわけではありますが。
●天使の話・現
コツコツと、別の足音が聞こえて参りました。そこにはサラ様とは別の宿泊客のお姿が。そのお客様、シンゴ様も、眠れないから温かいミルクでも貰えないか、と。
「ところで、何の話をしていたんですか?」
サラ様に承諾を得てから、わたくしはこれまでの経緯をお話しました。するとシンゴ様は大層驚かれました。
「そうですか。‥‥実は私は、幼い頃に両親に連れられてこの宿に泊まったことがあるんです」
そう前置きしてから話された、お得意様だったことが判明したシンゴ様のお話に、今度はわたくしとサラ様のほうが驚いてしまいました。
「その『天使が見える』と言っていた子供は、私なんです」
と。表情は微笑んでおられましたが、嘘を吐いているような雰囲気は感じられませんでした。シンゴ様は少し温度の下がったミルクを一度に半分ほど飲むと、ご自身にも言い聞かせるかのように語られました。
「確かに、大人の目で見たら月の光が帯状になって見えただけなのかもしれません。ですが幼い頃の僕には天使が見えたんです。いや、天使ではないのかもしれませんが‥‥僕にはそう見えたんです。宵藍が見せた夢かも、と懐かしいこの宿の部屋でさっき思っていたのですが、もしかしたら、本当だったのかもしれませんね」
そう言って小さく笑うと、シンゴ様はミルクの礼と共にご自身のお部屋へとお戻りになられました。
●求める話
「私が絵描きになろうと思ったのは、周囲に認めてもらおうと、いえ、認めさせようと思ったことがきっかけでした」
サラ様がお話しになったのは、まだサラ様が幼かった頃のお話。絵を描くのが好きで、同年代の中では頭一つ抜けて絵の上手かったその時のサラ様は、ご両親に絵描きになる夢を告げて反対されたのだそうです。お前では無理だ、と。
「今は何となく、親の言葉は正しかったのかなって思うこともありますけど‥‥」
わたくしはサラ様の絵を拝見したことがありませんし、見る人が見れば子供の落書きに一軒家と同じ価値がつくこともある世界でございます。どれだけの審美眼がご両親にあろうとも、お子様の夢を断つ権利は無いと思いまして。
・ ・ ・
宿の入り口で、ぼうっと明け方前の夜空を見上げるお客様がおりました。イチヤ様とおっしゃいましたが、何かお考えのようでしたので、そのまま、何か考え事ですか、とお尋ねしましたところ、イチヤ様は振り向かず、言葉だけでお返事なさいました。
「はい。この空に同じく、未だ明けてない自分のことを」
イチヤ様は、ご自身の持つ夢を叶えるために歩き続けているとのことでした。ですが、認められず、うまくいかず。
随分と思い悩まれているようでしたので、カウンターへお呼びして、ホットミルクをお出ししました。それをゆっくりと飲み終えますと、イチヤ様は再び入り口へ、お戻りになられました。
「‥‥あ」
その時、空にはもう暗闇はございませんでした。夜は明け、太陽が世界を照らし出しておりました。
そう、明けぬ夜など世の中には無いのです。例え厚い雲に覆われていたとしても、その切れ目から強い光が道の先を照らすのでございます。
●再び絵描きの話
イチヤ様はその日そのまま旅立って行かれました。その後どうなったのかわたくしは存じませんが、うまくいっている事を祈っておりますよと、そこまでお話ししたところで、サラ様は何か吹っ切れたようなお顔をしておりました。
「何と言うか、胸のつっかえが取れたというか、すっきりした気分です。‥‥本当に、ありがとうございました」
と、ふいにサラ様は立ち上がると宿から出、空を見上げました。わたくしも後について見上げてみると、それは大変に素晴らしい、美しい夜明けの空がございました。
・ ・ ・
後に、完成した絵の写真が添えられた手紙がサラ様から送られて参りました。わたくしの話やあの明けの空からインスピレーションを得て、一気に仕上げられたのだそうです。
これが、その写真です。素晴らしいでしょう。この宵藍の空の色遣い。寄り添う恋人達の幸せそうな表情。そう、サラ様はどうやら恋人と喧嘩をなさって、仲直りしないまま旅をしていたのだそうですよ。この絵を見ると、無事に仲直りできたのでしょうな。
こうなると気になるのは、この先の話でございます。明けぬ夜が世の中に無いのと同様に、暮れぬ日もございませぬ。いつしか必ず、宵藍はやって参ります。その時旅人の皆様は何を思うのか。ぜひ、聞きたいものでありますなぁ。
ところで貴方様は、どのようなお話をご所望で?