奏デ歌ウ想イアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
1人
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期間 |
11/09〜11/13
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●本文
●奏デ歌ウ想イ
奏歌楽士と呼ばれる者たちがいることを、おそらくあなたは知らないだろう。
世界は調和の下に成り立っている。世界各地で大なり小なり争いは起きているが、それも調和の中の一部分。
『歪』。それは世界に生じた歪みとも、もともと存在していたが気づかれなかった歪な部分とも。『歪』が世界に生まれた瞬間、調和は乱される。
「取り逃がした! そっちで対処頼む!」
歌う女性の斜め上方に浮かぶ小さな光へ向かい叫ぶ男性。間をおかず光の中から返ってくる返事。
「さあ来いよ、罠にかかったウサギちゃん‥‥」
一方、虚空に向かい話した後ギターを構え、路地裏、曲がり角を睨む大男。傍らにはフルートを持った男。
ドン! とあまりの勢いに角を曲がりきれず壁に体をぶつけながら、『それ』が姿を現した。黒い靄のかかった、異様に巨大な猪。
「こいつが、俺達にしか見えねぇってんだから。一般人にゃ天災もいいとこだよな」
言ってギターを爪弾く大男。そこに弦は無く、細い白く光る数本の光がある。それを指が弾く度‥‥
バシュッという音を立て、ギターの先端から光弾が飛んでいく。直線に飛ぶそれは巨大猪に立て続けに直撃し傷をつけていくが、猪の勢いは止まらず。
鳴り響くフルートの音色。4小節を演奏し終え、猪に向かい駆ける男。その手には赤い光で構成されたハルバード。
ズガン! 大きな音を立てて猪の体に叩き込まれたハルバードはそのままその体を切り裂いて外に出、猪はその巨体を路地に横たえる。
終わったぞ、と大男の方へ言うフルートの男。同時に大男の傍らへ現れる少女。紡がれる歌。猪の骸は光の奔流となって空に消え、猪の破壊したコンクリートの壁がゆっくりと復元されていく。
世界の調和のため、日夜人知れず『歪』と戦う奏歌楽士たち。
この『奏デ歌ウ想イ』は、彼ら奏歌楽士たちの戦いの記録を記す特撮番組である。
●『奏デ歌ウ想イ』の世界
奏歌楽士とは、『奏(ソウ)』『歌(カ)』と呼ばれる特殊な能力を使用して『歪(イビツ)』と戦う者たちのことである。『奏』を使用する者を『奏士(カナデシ)』、『歌』を使用する者を『歌士(ウタシ)』という。奏士は音の鳴る仕組みを持たない(弦が無い等)特別な楽器を用いて特殊な力を行使する者をいい、歌士は特別の歌唱法により歌を紡いで特殊な力を行使する者をいう。
『歪』とは、特定の形を持たず宙に浮く影のような存在である。これが人や物に取り付くことによって、『歪』として本来の力を行使し世界の調和を乱しはじめる。
楽士たちは世界各国にある楽士協会に所属し、そこから下される指令によって『歪』退治を行う。楽士協会は、楽師(マイスター)と呼ばれる強力な力を持つ数人の奏歌楽士によってその上層を構成され、『歪』の調査と退治、奏歌楽士の訓練、新たな楽士の育成を行っている。
『奏』『歌』とは、楽士たちが行使する特殊な能力で、楽器を弾く、または歌を歌うことで発動する。
楽器という増幅装置がある分『奏』は強力な力を行使できるが、楽器の形状や大きさにより取り回しの利きにくい状況があるという弱点をもつ。また一般人には奏歌楽士たちや『歪』の存在を知られてはならないため、楽器が無ければ力を発揮できない奏士は時にただの人間でしかない。
対して『歌』は歌士が歌える状態であればいつでも発動可能だが、白兵戦用の武器を生成することを苦手とし、また増幅装置が無いぶん一部の強大な楽師を除き行使する能力の威力では『奏』に見劣りしてしまう。
●出演に当たって
出演者にはこれらと以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定、毎回提示される目的の達成を目指してほしい。
【能力】「奏」もしくは「歌」を選択。
【ジャンル】能力の種類を設定。いずれか一つ。
奏‥‥白兵(+5)、単体射撃(+3)、複数射撃(+2)、散弾/扇状/放射(+1)、回復(+3)、補助(+3)
歌‥‥単体射撃(+4)、複数射撃(+3)、散弾/扇状/放射(+3)、回復(+3)、補助(+4)、修復(+5)
【射程】能力の射程を選択。いずれか一つ。
奏‥‥短(+5)、中(+3)、長(+1) ※短:0〜1m 中:1〜12m 長:12〜100m
歌‥‥短(+4)、中(+4)、長(+2)
【効果】4つのパラメータに合計20ポイントを1〜15の範囲で振り分けてください。
威力/効果:破壊力、回復力など。
速度:演奏・歌唱から発動までの速度。射撃であればその弾速。
持続:その能力が発動してからどれだけの時間効果を持って存在し続けるか。
安定:発動確率、効力の安定、妨害に対する抵抗。
【回数】能力を一日に使用できる回数。
ジャンルと射程を決定後、()内の数値を足した数。
パラメータポイントを2点消費することで使用回数+1することも可。
<キャラクターテンプレート>
キャラ名:
能力:能力・ジャンル・射程/効果:威力・速度・持続・安定・回数
備考:
<テンプレート見本>
キャラ名:香月
能力:奏・白兵・短/効果:6・7・3・4・10
備考:楽器はヴァイオリン。弓が光の剣になる。
●序曲
「たった今、転送弦之弐より連絡が入りました。『歪』です」
楽士協会の支部の一つである日本楽士協会。『歌』によって作り出された光のスクリーンには、森の中より民家を窺う3つの影――『歪』。元の姿は猿であろうと推測できることから、まだ出現したばかりの『歪』なのだろう。出現して暴れた『歪』は、周囲の力を吸収し何者と形容し難い容姿となっていく。
奏歌楽士たちに下された指令。小さな村と接している森に潜む、猿に寄生した『歪』を秘密裏に処理すること。
「世界の調和のために。歪みを、調律せよ!」
●リプレイ本文
●OPキャストロール
久瀬 灯‥‥倉橋 羊(fa3742)
如月 楓雅‥‥星野・巽(fa1359)
如月 春燈‥‥富士川・千春(fa0847)
リディア・レヴァイン‥‥ラム・クレイグ(fa3060)
美樹 秋緒‥‥檀(fa4579)
旭 貴朔‥‥柊ラキア(fa2847)
朝香 凛‥‥雅楽川 陽向(fa4371)
葵 明日香‥‥結(fa2724)
●奏歌楽士たち
ガサッ‥‥
ガサガサッ‥‥
「見つけた! そこだぁッ!」
ぐ、と思い切り弦を引き、手を離した瞬間文字通り光の如く一直線に飛翔する矢。その威力は矢が傍を通過しただけの木の枝葉が揺れ、しなり、中には折れる物が出るほど。
「違う。無駄撃ちをするんじゃない」
間違いなく仕留めただろうと、その敵‥‥『歪』の姿を探そうとした久瀬 灯のすぐ側面に、会得している『奏』の能力を体現するかのような速さで割り込んでくる影。
奇襲は失敗と悟ったか途中で木の枝を掴み運動エネルギーのベクトルを強引に変更すると、猿の姿をした歪は目の前でヴンと振り下ろされる風の太刀を気にしたふうもなく樹上へ消える。斬撃の通り過ぎたあとで太刀から発生した鎌鼬は宙に歪の体毛を数本舞わせて。
「くそ、すばしっこい奴らだな‥‥」
「奴らが特段素早いわけじゃない。お前が一本調子に攻め過ぎるだけだ。そもそも戦闘において重要なのは、冷静に戦場を分析し、彼我の戦力差を見極めることだ。その上で相手に勝つにはどうすればいいか。自分たちの力を高めるのか、相手の力を奪うのか。その方法は‥‥」
「つまるところ、この状況ではどうする事が良いっちゅうんや?」
「撤退推奨だ。作戦を立てて再度殲滅に臨む」
「でも、歪たちはそう簡単に逃がしてくれるでしょうか‥‥?」
森の中、絶えず聞こえる風の音、葉擦れの音、そして歪が飛び回る音。この状況については少し時間を遡ることで説明できる。
楽士協会日本支部管轄、転送弦之弐からもたらされた情報に基づき、3体の猿の姿をした歪を『調律』するため派遣された8人の奏歌楽士。『調和』を保つことが目的の奏歌楽士たちであるはずなのに、そのチームワークはのっけからガタガタだった。
「出現したばかりの今なら、まだあいつらは弱い。今叩くべきだ!」
ゆっくり作戦を立ててから、と言う先輩達に久瀬。
「でも、新米の貴方にちゃんとしたバトルなんて出来るの?」
そんな血気盛んな若者へ火に油を注ぐ発言をする如月 春燈だが、彼女もまた若者。
「先輩達の意見通りに、まず作戦を立てたほうがいいとは思うけど」
葵 明日香がそう言うことで、あっという間に意見の比は1対7の久瀬一人負け。圧倒的多数の敵を抱えて論議で立ち向かえないそんな時、若者はどうするか。
選択肢その1。黙って従う。
(「でも、俺だってもう一人前の奏士だ。俺の意見だって‥‥」)
没。
選択肢その2。力尽くで説得。
(「瞬殺されるのがオチだろ」)
当たり前ながら没。1対7でなくても、下手を打つと1対1でも撲殺されかねない。
選択肢その3。
「分かったよ、あんた達がやらないのならオレがやる! そこでゆっくりお茶でも飲みながら作戦会議して、オレが戻ってくるのを待ってろよ!」
ぶち切れて単独行動。周囲の返答も待たずに久瀬は一人森の中へ向かってしまう。
「待て、灯! 全く、誰の何を手本にしているんだか‥‥先輩、連れ戻してきます」
そう言うと、久瀬の指導係としてここへ来ている如月 楓雅(春燈の兄)は久瀬に続いて森の中へ消える。
「若いってのはいいなぁ。初々しい。昔の自分を見てるようだよー」
あっはっはと緊張感の欠片も無い笑い声を上げる旭 貴朔を、美樹 秋緒が彼女の武器でもある巨大な竪琴でゴーン。
「とりあえず、結界で分断して各個撃破。それが一番かしらね。こちらで迎撃準備をしておくから、誘い出してって楓雅に」
と空間に結界を張る『歌』を持つリディア・レヴァイン。ゴゥゴゥ、と手で促してまだ経験浅い歌士、朝香 凛に森へ向かった二人を追わせる。
「ま、待って! 私も行く!」
さらにその後を葵 明日香が途中躓きそうになりながらも追いかけて。
「‥‥やれやれ、って感じね。楓雅もずいぶん落ち着いてきたんだけど」
「へー、風雅も元気少年だったんだ?」
リディアの溜め息交じりの発言に、旭が尋ねる。その問いには代わりに過去旭の目付け役であった美樹が答えて。
「見たらビックリすると思うわ。貴朔、貴方とでも比べ物にならない程だったから。ね、春燈ちゃん?」
「確かに、牛乳瓶底メガネの委員長っぽい今のお兄ちゃんは、昔のお兄ちゃんからは想像できないかも」
今にも自分も追いかけようという春燈を美樹は絶妙のタイミングで呼び止めて、さて暫らく待ち時間ですねと座り込む。
「よっし、じゃあ歪が出てくるまで、僕たちはトランプゲームでも‥‥!? な、なんだー、やるならやれよ、来いよ秋緒ー! もうゴーンなんて怖くない、やれるもんならっ」
ゴーン。
●連携の意味
朝香の『氷結』の『歌』。それは一時的に歪の一匹を捉えはしたものの、すぐさま逃げられてしまう。
「ええい、厄介な奴らやな!」
「凌ぎながら退くぞ。誘き出すには相応の作戦と負けている演技が必要だが、今は必要無い。悔しいが、芝居でなく負けている」
傷の回復を特殊能力とする葵には戦闘能力は無い、と少し先行させながら、楓雅は徐々に戦線を後退させていく。その手から風の太刀が効果時間を過ぎ消えていくが、演奏での再構成はしない。今は反撃の時では無く、使用回数の無駄な消費は避けたい。『流』という仲間との連絡を可能にする『歌』でもう一隊と連絡を取る朝香からの情報を聞きつつ、一行は最も効率の良い撤退コースを走る。
「このっ、叩き落してやる!」
久瀬のハーモニカが『奏』の光を放ち始める。楓雅の止める声がするが、それは停止する事無く輝きを増し、巨大な弓を形作る。
一発目は触れただけで歪など消滅しそうな威力を見せた矢。それが今度はその辺の太めの枝にぶつかっただけで消える。高破壊力の『奏』を操る久瀬の弱点、それは威力が極端な程に安定しないこと。
能力を放って生まれた隙に、久瀬に歪が肉薄する。歪と化したことで異常に伸び上がった爪が、久瀬の喉元を狙い‥‥前に立った楓雅の腕を切り裂いた。
一瞬の間に目の前で何が起きたのか久瀬が理解するより早く楓雅は歪を蹴り飛ばし、その場から離れる。すると、後方から青白い光を引いた弾丸が2発、歪を狙って飛来する。
森を抜けた。
「うーん、やっぱり僕の弾じゃ遠距離攻撃は向かないねー」
久瀬たち4人の援護のために『歌』の弾丸での援護を試みた旭だったが、持続力の無い彼の弾丸は撃ち出された瞬間から劣化・崩壊が始まり、威力を保ったまま10m飛べば僥倖というものだった。
「さ、囮役たちはさっさと引っ込んで、主力組にお仕事任せなさい!」
やっと暴れられるとばかり、春燈は真紅のエレキギターをかき鳴らす。生まれる槍、宿るは雷。
「葵、回復を頼む」
「は、はいっ!」
春燈や旭と入れ替わる形で後方へ戻った楓雅は、リディアが形成した結界の内側に入って傷の治療を始める。
「『安らかな気持ちを込めて私は歌う さああなたの傷を癒しましょう‥‥』」
安定した『歌』の持ち主の葵の治療を受けながら、楓雅はリディアに尋ねた。
「村の方はどうですか?」
「私たちの行動に気付かれている様子は無いわね。万が一の時のために、村の方にも結界は張ったわ」
とリディア。さすがに歪との戦闘においてはプロである。
後方で竪琴を鳴らす美樹の範囲回復能力も手伝って、出血も多く深い傷に見えた楓雅の腕の傷もすぐに塞がり。すぐ戦線に復帰しようとする彼を、美樹が呼び止めた。
「本当に必要なのは何か。楓雅はもう教えられたから知ってるでしょ? そこのところをしっかり教えてあげなくちゃ」
誰に? 主語の無いアドバイス。それでも楓雅は理解した。そして走り出す。
(「先輩達には敵わない‥‥な」)
ただどうすることも無く立ち見ているだけの久瀬。その姿を視界の端に捉えながら、春燈は小さく舌打ちした。
(「もう、なんでお兄ちゃんは『こんなの』の‥‥」)
「どきなさーいっ! 女の子に守られてんじゃないわよっ!!」
春燈に蹴飛ばされてようやく歪の攻撃を回避する久瀬。その姿に溜め息が出そうになるも、横合いからかけられる声にそれを飲み込む。
「春燈、共鳴を!」
旭の言葉。
「‥‥いいわ、受けて立つわよ!」
ギン! と一気に上がる音量、ボルテージ。春燈のエレキに旭の歌が乗せられ‥‥ない。
「ちょっと、アンタ速過ぎるのよテンポが!」
「テンポ上げなきゃ威力出ないし歪に隙を見せることになっちゃうよ! ‥‥もしかして、僕が上手過ぎてついて来れない?」
「ばっ‥‥そんなわけ無いでしょ、アンプが無いから調子が出ないのよ!」
ちなみに彼女の『奏』はアンプがあっても直接的には変わらない。春燈のテンションが上がることで威力も上乗せされるので、間接的には効果はあるのだが。アレ持ってくるの重いし。
こんなでこぼこコンビ。テンポが合わない、そんな時は。
共に信頼できる、もう一人。
「もう一度だ! もう外せないぞ!」
復帰した楓雅。彼のフルートを指揮者に再びエレキが響き、歌が轟く。
――凍てつく速さに 白刃纏い
――ただひたすらに 目指した
――交わる強さに 華を見る
「風雷氷飛斬!」
春燈のトライデント、楓雅の太刀から雷と風の力を帯びた、旭の氷弾。それは狙い過たず一直線に歪の一体を捉え、さらに近くにいたもう一体も巻き込んで粉砕する。
「連係の大切さが分かったか?」
久瀬に告げる楓雅。しかし、久瀬は俯いたまま動かず。
「お前は‥‥」
「あっ! あれ見て!!」
説教を続けようとした楓雅の声を遮る葵の声。その声が指し示す方を見てみると、そこには。
「共食い‥‥しとるんか?」
「ちょっと微妙な状況ね」
美樹やリディア、これまでに幾度かの歪退治を経験してきた者には見覚えのある光景だった。生き残っていた最後の歪が、先の攻撃で斃れた歪の体を『喰う』。それは空腹を満たすための行為ではなく、融合、力を吸収するための行為。
「お前は何の為に此所にいる!」
一喝し、走り出す楓雅。歪は見る見るうちに巨大化していって。
「‥‥オレは‥‥戦うためにここにいる、奏士だ‥‥!」
巨大化した歪の、大振りな一撃。それは巨大構えの素早さを残したままで、しかしぶつかってくる質量は3倍以上。春燈や旭はそれを辛うじて避けつつ、距離をとる。
「みんな! オレに力を‥‥力を、貸してください‥‥!」
●ラストアタック
楓雅のフルートが他の音を先導した。
曲の演奏スピードを制限され不満顔をしながらも春燈はエレキギターを奏で。
言の葉に属性は乗せず、旭はシンプルな音を乗せ。
朝香がたった今組み上げた『焔』の歌を歌う。
ブンと久瀬目掛け振るわれた歪の腕を、リディアの結界が受け止める。と同時に、次々生み出される結界は歪を囲むようにその動きを妨げる。
「主役譲ってあげてるんだから、ビシッと決めて見せなさい!」
「この歌が最後の一回や、外したら承知せんで!」
「お前の力、存分に振るえ!」
結界の中で自由を取り戻そうともがく歪。そこに巨大な光の矢の照準を向けて。
「皆の力の詰まったこの一撃‥‥決めてみせる! い‥‥っけー!!!」
矢が久瀬の手から離れる。すると矢は恐ろしい衝撃と共に弓から放たれ、結界の中の歪に向かう。両腕を顔の前に出し防ごうとする歪、その腕に深々と刺さった矢はそこで爆裂し、周囲に張られた結界で作られた立方体の空間の中で膨張、強力な圧力を持って歪を押し潰す。最後にはその威力と圧力に耐え切れず、結界の箱自体も割れ砕けた。能力の光が消え、舞っていた粉塵が収まった後。そこには歪の姿は欠片も残っていなかった。
・ ・ ・
「連係の意味が分かったか? 俺たち個人の力など高が知れている。しかし連係を取ることでお互いの欠点を補い長所を伸ばす。それによって(中略)ことも出来る。これから奏歌楽士として歪と戦っていくには(以下略)」
延々と続く楓雅の言葉をBGMに、久瀬たちはもってきた楽器や道具の片付けを。その場にいるメンバーは皆一様に頭などに包帯を巻いていて。その理由については少し時間を遡ることで説明できる。
久瀬が矢を放った際に生じた衝撃波は味方にも被害を与えていた。転倒による怪我や、飛んできた物による怪我。その治療を戦闘後美樹が頼まれたのだが。
「戦闘中ならば仕方ないかもしれませんが、小さな怪我ならば自然治癒の方が良いです」
と断られ。仕方ないのでもう一人の回復能力を持つ歌士、葵に。
「‥‥いやぁ、私、ちょっと今日の戦いは頑張り過ぎちゃって。もう、能力残ってないのぉ♪ あはは、あははは‥‥」
「大丈夫です、消毒液にガーゼ、包帯、絆創膏。何でも入ってますよ」
美樹が示した鞄の中には、どうやったらそんなに入るのかとばかりの手当て道具がずらり。
「それをしっかりと理解したうえで行動しなければならない。この連係の意味を理解した次に(中略)味方の力量だ。その度合いにあわせて作戦を立て、最も有効な対策法を選択する。その重要性は(以下略)」
やれやれと頭の包帯を撫でたりする久瀬。荷物の片付けも終わった。そろそろ帰還しなければ。奏歌学士の仕事は一般人に知られてはならないのだ。
戦闘直後、気分が高揚していた久瀬は気付かなかった。帰ろうと踵を返したとき、突き刺さる声。忘れていたBGM。
「おい、聞いているのか!?」
フリータイムで延長決定。