出撃せよ、ケーニッヒ7アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
4.6万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
11/16〜11/22
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●本文
大地に立てば聳え立つ山のような鉄巨人。全長30mの巨体をもって敵を倒す巨大ロボ『ケーニッヒ7』! 5体の有人ロボットが変形合体して完成、2体の自律ロボットが武器に変形するケーニッヒ7。蔓延る悪と日夜戦い、世界の平和を守っている! ‥‥はず。
と、このロボに乗る戦隊ヒーローについて全く触れずにロボの説明だけしたのにはワケがある。それは! それは‥‥まことに申し上げにくいのですが、この戦隊ヒーローどもが、全くダメダメな奴らでして。
脱力戦隊ビビンジャーは呆れた戦隊である。日本国を危機から守るため国家予算を投じて結成されたにも関わらず、その構成員がどうにも気が小さい。悪事を働く敵が出現しても、いつもビビッて何かしら理由をつけては出撃しない。いつも悪の組織『GATs』の悪巧みを止めるのは2体の巨大自律ロボット『ビビンライガー』と『ビビンイーグル』、もしくは自衛隊、警官隊、時には一般市民。
ある日、ビビンジャー秘密基地に同時に二つの情報が舞い込んだ。一つは『GATs』がまた何か事件を起こしているという通報。もう一つは、これ以上役に立たないようならまわす予算を全てカットするという国からの通達。
悪の組織なんて怖いものと戦いたくなんかない。でも戦わなきゃリストラ、無職になる。
悩んでいるうちに『GATs』について続報が入る。モニターに映し出された映像には街を闊歩する『GATs』の巨大ロボット!
ビビンジャー、今回こそ出撃だ! クビにならないために恐怖を乗り越え、出撃せよ、ケーニッヒ7!
・ ・ ・
「という舞台演劇をやりたいと思うんだけど、どうです?」
そう聞かれても「はぁ」としか答えようのない問いかけをしてきたのは、劇団『gathering star』主宰の円井 晋。
「舞台の中央奥に、ドカンとケーニッヒ7の巨大な顔面だけ置いておくんです。それを背景にビビンジャーやそのまわりのスタッフの会話などをやって、最終的に出撃する所までを芝居でやるんです。ビビンジャーがどんな理由をつけて出撃しないで済むようにしようとするかは、役者さんたちに決めてもらおうかと」
ちなみに、色々と詳細設定は組んであるんですよ、と円井が差し出す紙。そこには敵の組織で今回は登場するかどうかも分からない『GATs』の名前の由来や幹部の名前まで。ちなみに『GATs』は『Greatな 悪の(Akuno) Team Special version』の略らしい。
「そうそう、ビビンジャーの色は何色でもいいですよ。赤なら『アカビビン』でも『ビビンレッド』でも」
何だか赤ずきんみたいだが、そういうことらしい。
●リプレイ本文
●パンフレット
ビビンレッド‥‥パイロ・シルヴァン(fa1772)
ビビンブルー‥‥黒影 美湖(fa3594)
シロビビン‥‥ウィン・フレシェット(fa2029)
ビビンゴールド‥‥天城 静真(fa2807)
ビビンシルバー‥‥西風(fa2467)
ステファニー・中松‥‥ティタネス(fa3251)
ビビンイーグル‥‥小鳥遊 日明(fa1726)
金島誠司‥‥巻 長治(fa2021)
GATs幹部Y‥‥柳(fa4916)
スパイ1号‥‥エディ・マカンダル(fa0016)
●出撃しない人たち。
「だから、さっさと出撃してくださいと言ってるじゃないですか!」
政府から予算についてたっぷりとお小言を聞かされてからやってきた小役人、金島誠司はそうビビンジャーに叫んで見せるも全く効果無し。この調子だと10万回世界の中心で叫んでも話は先に進まないだろう。
「お婆ちゃんが、田舎のお婆ちゃんがっ!」
電報片手におろおろしているのはビビンレッド。毎回出撃する機会がやってくる度に電報が届き田舎のおばあちゃんが危篤だと知らされる彼は祖母想いのあまり出撃できないとかそういうんじゃないことは皆知っているけど。
「上野発の夜行列車で青森駅へ、そこからひとり連絡船で海峡を越えなきゃ」
飛行機で行け。
「私、平和主義者ですから。暴力で何でも解決するなんて間違っているわ」
本を片手にお茶を飲みながら。ビビンジャー随一の戦闘能力を持っていると噂されるビビンブルーは実のところ最弱だという話は他のビビンジャー以外知らぬ者はいない。
「まずはゆっくり紅茶でも飲みながら話をするべきよ」
なら連れて来い、あのデカいのを。
「いい加減出撃しませんか!?」
「うん、分かった姉さん」
「私はお姉さんじゃなく‥‥ってこの電波ァ!!」
金島の言葉など既に聞こえちゃいないシロビビン。背後に立っているらしい彼のお姉さんはビビンジャー出撃前だけの特別出演。
「じゃあまずは窓のカーテンを替えなきゃいけないね」
だが断る。ここは地下基地。
「出撃? なら、この僕の美学にあったコックピットをまずうぐぉえヴぁッ!」
「どこの腐れセンスの持ち主がそういうことを言いやがる!?」
ケーニッヒ7整備士、ステファニー・中松のラリアットを喰らって派手に吹き飛ぶ全身金ぴかビビンゴールド。一瞬の沈黙の後何事も無かったかのように立ち上がると、
「僕の美的センスの素晴らしさを理解できないなんて、そんなだからライガーの色をあんなダサくゥげほァっ!」
「そんなセリフは真っ金々の目に痛い部屋をどうにかしてから言えぇっ!!」
出撃する前に昇天しそうなボロ雑巾。
「‥‥」
ビビンジャーの最高齢、ビビンシルバーは他のビビンジャーの大騒ぎの中、ひとり静かに、真剣に作戦を練っていた。どの手を用いれば、最も効率的に勝つことが出来るか。
「よし、わかったぞ‥‥これが『神の一手』じゃ!」
兵法書ならぬ囲碁の本を片手に持ちながら、ビシリと黒の碁石を盤上に‥‥って作戦は作戦だけどさぁ。
「そこ、無駄打ちじゃない?」
「‥‥AIには遊び心というものが備わっておらんようじゃのぅ‥‥」
自立型ロボ、ビビンイーグルのAIがスクリーン向こうから冷静にツッコミ。静かに飲む梅昆布茶がしょっぱい気がするのは梅が入っているからだけではないだろう。
(「ありえねぇ‥‥」)
もうビビるしかない。平和を守る戦隊ヒーローがこんな奴らだなんて信じられない。その前にこんな奴ら雇用した国家が信じられない。基地関係者に扮装しビビンジャーの情報を収集するために暗躍するスパイ1号は、この状況に色んな意味で戦慄を覚えていた。っていうか1号ってことは他にも入ってきてるの?
『どうかな、スパイ1号。ビビンジャーの様子は。私たちの完璧な計画を潰されんよう、障害になり得る場合は本格的な対策を練らなければならん』
マナーモードで鳴った携帯、通話ボタンを押すとスパイ1号の上司、幹部Yからの報告要求だった。
「もう少し、様子を見ますが‥‥なんか大したこと無さそうです。無茶苦茶腰引けてますし」
『なるほどな‥‥よし、ならばそこを突かせてもらうとするか』
突く? とかスパイ1号が思った瞬間、いきなりイーグルAIの写っているスクリーンとは反対側の中空にあるスクリーンに映像が浮かび上がる。そこには。
『はーっはっはっは! GATsの誇るあの素晴らしい科学力、我らが示す力の前に恐れをなしたかビビンジャー!』
いつの間に映像ジャックなんか出来るように仕込んだのか知らないが、高い位置にあるスクリーンには幹部Yの姿。高らかに笑いながら話すその姿は幹部級のくせに雑魚敵っぽいキャラのステレオタイプ。だが集まる視線。静まる基地内。
『それもそうだろうな、我らGATsにはお前達如き一瞬で葬り去ることが出来る兵器が多数ある! 荷電粒子砲に高熱切断ブレード、地球破壊爆弾まで! お前達では歯が立たない、強力な組織だということが身に染みて分かるだろう!?』
そんなのいつの間に作ったんだ? というスパイ1号の心の呟きは置いといて。
『この羽もGATsの科学力を結集して作っ‥‥』
「あーっ! こうしている間にもお婆ちゃんがーっ!!」
幹部Yの言葉を遮って叫ぶレッドを皮切りに、またも大騒ぎを始めるビビンジャー。とりあえず幹部Yの言っていた内容が信憑性薄いことに気付いているステファニーやイーグルなどは再び呆れるのみ。
『ま、まあいい、そうして世界が我らの手に落ちるときまでずっと怯えているがいい! はーっはっはっは!!』
言ってプツリとスクリーンから消える幹部Y。はい、出番の9割終わりです。
「ビビンジャーのみんなぁ! さすがに出撃しなきゃダメだよ〜! いっつも僕達だけに戦わせていないでさぁ!」
「そうだよあんた達! ライガーだってイーグルだって頑張ってるんだ、その百分の一でも頑張ってみろって!」
「でもコスチュームが汚れるからなぁゲフぅオあっ!!」
「汚れるくらい使ってねぇだろコックピット! それにちゃんと掃除してるっ!」
相変わらずのボロ雑巾を筆頭にやはり動こうとしないビビンジャー。イーグルやステファニーが諭しても脅しても逃げ回る。そんな様子にそれまで少し静かだった金島が静かに言う。
「いいから出撃して下さい。でなければ今日を以ってビビンジャーは解散です」
沈黙。静寂。誰もが言葉を発さず今の金島の発言に集中する。ステファニーが問う。
「どういうことだい?」
「解散ですよ、解散。解雇、リストラ、クビ、お払い箱! 一体これまでに、ビビンジャーのためにどれだけの国家予算がつぎ込まれたと思ってるんです? なのに全く役に立たない。国は赤字。野党がうるさい。国家の安泰のためにも、民衆の平和のためにも、設立された目的『悪の組織と戦う』、これを果して下さい!」
国家の安泰のため。民衆の平和のため。そんなことより自分のために出撃してもらいたい金島の演説。それもそうだ、ここに派遣されるということは政府内での彼の担当部署もここ。ビビンジャーが役に立たず解散となれば、自分も一緒に解雇されかねない。最近では、公務員も安定しているとは言えないのだ。何だか社会派演劇。
「なるほど、ありがとう姉さん。今日は出撃には日が悪いから、明日が良いんだって」
「霊なんて非科学的だよっ! 俺のセンサーにはそんな物全く感じられないよ!」
金島の演説など聞こえなかったかのように背後と話し始めるシロ。イーグルが突っ込むも「でも実際話してるし」と聞く耳持たず。
「ところで‥‥聞いていいかね?」
それまでずっと碁に没頭していたシルバー、ふいに盤上から顔を上げると金島に尋ねる。
「先日の『茶菓子は経費か否か』はどうなったかの?」
「否です!」
「困ったのう、わしの持って帰る茶菓子が孫達の好物なんじゃが‥‥まあ、それはこの際置いておくとして、じゃ」
「それ横領! 置いとくなよ爺さん!」
金島、もう公務員としての口調などどこかへ吹っ飛んだ。いや、だいぶ前からか。
「ここを追い出されると、腹を空かせてわしの帰りを待っておる三人の孫たちも路頭に迷うことになるんじゃ‥‥」
なら出撃すればいいじゃん。
「それもその通りなんじゃが‥‥うぐぉっ! じ、持病のギックリ腰が‥‥」
立ち上がろうとして倒れこむシルバー。そこに「ほら、やっぱり戦いじゃなく話し合いで解決するべきなのよ」などとブルーが駆け寄って手を貸す。つーかその前に地の文と会話するなよ、シルバー。
「孫娘の花嫁姿を見るまで、わしは果てることは出来んのじゃ‥‥ゲホゲホ」
「ああっ! 大丈夫、おとっつぁん!?」
いつの間にお前ら親子になった?
「まあ確かに、平和的にというのは一理ある発言だよね」
ゴールドが言う。いつの間にかどこからか紙の山を運んで来ている。
「ところで、金山サンだったっけ。ビビンジャー解散なんて事になったら、国民の多くを敵にまわすことになるよ? ほら、こんなに僕のファンがいるんだから」
と、示すのは紙の山。全部ファンレターとの事だが、中にはカミソリレターなんかも混じっていて。デンジャラス。
「鮮やかに、手を汚さずに華麗に解決する。それが僕の美学さ」
「美学とかその前に、地球の危機って事を自覚しろよオイ」
継続して様子を見ていたスパイ1号、あまりの状況に既に自分の立場を忘れている。上司との通信は切れているから安全ではあるが。
「‥‥あれ? そういえば、見たこと無い顔」
ふとそう思ったレッド。視線の先にはドレッドヘアー。
「え? 俺? いや、ずっといますよ? ほら、あまり出撃しないから、顔を合わせないんですよ」
「‥‥でも、見たこと無いかも」
ビビンジャー関係者の中では唯一の無遅刻無欠勤ステファニーが言う。
「ちょ、ちょっとトイレに‥‥」
引き際である。自分がスパイだとバレたら、こんな使えない組織へスパイに来たことを笑われてしまう。それだけは避けなければ。
「あ、もしもし。ええと‥‥大丈夫です。ここの人たちは心配しなくても。今からどら焼き買って帰ります」
『わかった。よくやってくれたな。どら焼きは粒餡だぞ』
帰っていくスパイ1号。GATs出番終了。
「まあそれはともかく、今回は何が何でも出撃してもらうよ。あんた達は自業自得かもしれないけど、あたしやこの子達には責任は無かったんだからね!」
「そうだよ、俺もライガーもいつも大変だったんだから! 毎回ボロボロになって‥‥ステファニーが修理してくれてるけど!」
「あなた達には出撃してもらわないと困るんです。私だってクビがかかっていますから!」
ステファニーとイーグルAIに続いて、金島も。完全にビビンジャー悪者風味。静まりかえる部屋。そうしている間にもGATsは街で悪行を働いているだろう。
「‥‥大丈夫なのよね? ケーニッヒ7の戦闘力は」
皆の視線が集まる。ブルーだ。
「調子はバッチリ、普通にやれば100%勝てる! あたしが保証する!」
ステファニーが胸を張って答え。
「なら、私は乗るわ。ビビンジャーが潰されるのは遺憾だもの。自分の主義は、今は置いておくわ」
言って一人ブルーは格納庫へ向かっていく。沈黙の中、皆がその姿を見送って。
「地球の危機って事は、お婆ちゃんの危機でもあるんだよね‥‥分かった、僕も乗るよ」
続いてレッドが消える。
「姉さんが、仲間を見捨てるのは良くないって言うから」
シロ。
「怖いって人は、別に残ってもいいんじゃない? って姉さんが言ってるけど?」
「べっ、べべべ、別に怖いなんて事はないさっ!」
ゴールドはすっと立ち上がると、格納庫への通路の方を向いてムーンウォーク。つまり、出口へ向かって。消えるゴールド。
「甘い」
シロが『出口』と書かれた通路の張り紙を剥がす。その下からは『格納庫近道』の紙。
「わしは、羊羹を買いに行くかの」
ゆっくりと立ち上がるシルバー。
「羊羹って‥‥出撃して下さいよ!」
「わしはな、この店に行こうと思うんじゃ」
スクリーンに指さすシルバー。そこは街でも有名な老舗の菓子屋。GATsの巨大ロボの進行方向。
「あの店の羊羹は逸品なのじゃ! 孫のためにも、死守せねばの」
格納庫へ向かう最後のビビンジャー。‥‥いや。
「やっと出撃だね」
「まだだよ、イーグル」
え? というイーグルに、ステファニーは通路の影から一人の人間を引っぱり出す。ブルーだ。
「整備士のあたしが気付いてないとでも思ったかい? あんた、自分が乗らなくてもいいように雑な自動操縦プログラム組み込んだでしょ」
「あら‥‥バレてたのねぇ」
既にエンジン音は高まり、ケーニッヒ7は今にも出撃しそうだ。今からではブルーは間に合わないかもしれない。
「イーグル!」
「分かってる。ちゃんと連行するよ」
ステファニーが『格納庫近道』へブルーを連れて去り、そこには金島だけが残された。
「‥‥‥‥助かった」
へにゃりと床に座り込む金島。何とか首は繋がりそうである。
さらに高まるエンジン音。
システム、オールグリーン。
「「「出撃せよ、ケーニッヒ7!」」」