お芝居のススメアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/18〜04/24
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●本文
『はい、全部で30人です。男女半々で。場所については教室でも体育館でも、校庭でも構いません。火曜日から1週間月曜日まで、1日2時間とってありますので。はい、それではお願いします。失礼します』
プッ、という短い音と共に通話が切れると、ゆっくりと田名部は携帯をデスクに置く。
「さて、困ったわね‥‥日取りも場所も決まったのに、よりによって講師にトラブルなんて」
ひとり呟き、煙草を取り出す田名部。彼女は今、仕事で1つ頭痛の種を抱えていた。
『表現力レクチャー・お芝居のススメ』
それが彼女が担当し、先の電話と関係していて、頭痛の種になっている企画の名前。局近くの小学校の3年生に演劇を教えるというこの企画、講師には有名どころを用意しておいたのだが、講師は急遽海外での仕事が入ったとかでドタキャン。テレビ局の局員が行くとしてもスタジオと舞台はさすがに土俵が違う。
「‥‥今からでもやってくれる人集まるかしらね?」
煙草に火を点けるのを止め灰皿に置くと、田名部は知り合いのいるプロダクションへと電話をかけ始める。
「子供を飽きさせず、限られた時間で教えると決めた分は教えきる。バランスとるのは難しいわね‥‥‥‥もしもし、紗枝だけど。今時間ある?」
●リプレイ本文
●掴みは寸劇
「みんなー。こーんにーちは〜!」
司会進行役を務める蘭童珠子(fa1810)が、相棒のキーちゃんと一緒のご挨拶。しかし相手が全くの初対面、かつ友達も他人も含め大勢の人間がいる中となると、率先して大きな声で返事をするにはプレッシャーが大きい。が‥‥
『声が小さいゾ!』
キーちゃんが一言発すると、子ども達は驚いたり喜んだり。キーちゃんパワーで肩の力が抜けたのか、子ども達からは初めにしては上々のご挨拶を聞くことが出来た。
表現力レクチャーの掴みとして考えられたのは、子どもからテーマを貰っての即興の寸劇。
藤川 静十郎(fa0201)とポム・ザ・クラウン(fa1401)、和泉 姫那(fa3179)が座っている前に、縞八重子(fa2177)が立つ。
「それでは、今日の授業を始めます」
と、縞が眼鏡クイッ。
「和泉さん、昨日の宿題はやってきたかしら?」
「はい、自分らしい演技、ちゃんと考えてきました」
そう言ってアドリブで一人芝居をする和泉。共に座っていた藤川が今回のレッスンで見せようとしているものを事前に知っているため、こういったフリをしたようだ。
「では、藤川くん」
呼ばれると、藤川はすらりと立ち上がり、扇を取り出して立ち回る。歌舞伎役者としての自分を、舞踏劇独自の動きで表現する。ドラマやアニメでは見ることの出来ないだろうその動きは、子ども達には新鮮に映った。
続くポムが見せたのはパントマイム。言葉を使わないその表現は対象をそのまま映すだけでは伝わらないことも多いが、そのものの特徴を強く押し出すアピールは分かりやすく好評だ。
「すいませーん、遅刻しましたっ! ということで、早速宿題を提出します!」
走って来るのは長澤 巳緒(fa3280)。走ってきた勢いそのままにバク転などのアクションを繰り広げる。大きく派手な動きに、藤川の時とは違う驚きが子ども達に与えられる。
「よく出来ました。それでは授業に入りますが‥‥」
再び眼鏡クイッ。先生だー、という声が一箇所からまとまって聞こえてくる。そういう担任らしい。
縞が話を始めようとすると、またもそれを遮る足音。長澤の軽快な音とは違いどこかドタドタと。青田ぱとす(fa0182)だ。入ってくるなり泣き崩れる。
「酷い、酷いわあなた! なんで私を置いていったの!?」
よよよ、と涙を流すその姿は、彼女自身が自分と役のギャップをつけるために加えた演技だ。
「何とか言ってよ、蘇芳さん!」
「何ぃっ? 俺!? つーか、授業しろよ」
慌てふためく蘇芳蒼緋(fa2044)。いつ何が来るか分からない即興劇だが、さすがにこれをフられるとは思わなかったのだろう。
‥‥ちなみに、出されていたテーマは『学校』。この後蘭童が止めるまで昼メロが演じられたことについては、深くは触れない。
●コミュニケーションの火曜
「お掃除してるところだー!」
などなど、ポムのパントマイムに昼下がりで眠くなるはずの時間帯の子ども達は大盛り上がり。
「こうやって真似っ子して本当にしてるように見せるのがお芝居なの。分かったかなぁ?」
『分ったカ? 分かったらキーちゃんに返事を聞かせるんダ!』
蘭童とキーちゃんの進行も大好評で、一番初めの子ども達の元気の無さはどこへ行ったのやら。
火曜はコミュニケーション技法としての演技。
演技は実生活に必要なのか。子供の考え方はある意味シビアだ。「勉強しないと将来困る」と教えても、将来とはいつか、どう困るのかまで明確にイメージできなければ従おうと思ってくれない。
表現力は実生活において非常に重要なスキルの1つである。人間関係を構築する上で頼れる武器となり、仕事においても有力なパートナーである。
ポムが伝えようと思う表現力の大切さ。それはしっかりとした説得力を持って子ども達には伝わっていたようだ。
後半のロールプレイの時間では、恥ずかしがって出来なかったり、上手く伝わらずへそを曲げる子もいたが、蘭童の気配り・アドバイスが功を奏し、すぐに輪に戻っていった。
初日は大好評で幕を閉じる。
●声と動きの水曜
「皆っ、おっはよー。今日もよろしくね」
大きい声で長澤が子ども達へ挨拶をすると、前日のレッスンの成果か同じく大きな声で返事が返ってくる。長澤と共に水曜をメインで担当する縞の姿を見て「先生だ先生」と囁く声も所々。
水曜は発声練習と簡単な動きの指導が行われた。
小学3年では、発声の指導を受けたことのある生徒は非常に稀である。そのため、長澤達は基礎の基礎から教えることにしていた。
「声を出すのも運動だからね。準備運動はちゃんとやろうね」
全員の前でやったり、子ども達の中に入って教えたり。教えるのは首のストレッチから。声を出すだけと言っても、喉を潰さぬようストレッチやブレス、ハミングといった準備は必須なのだ。
発声の次は、縞が主体となってダンスのレッスンである。といっても本格的なものは不可能なので、簡単なステップを踏めるようになることを目標に練習は進められた。
大声を出す事には慣れていても、喉を痛めない発声というといきなりは難しい。ダンスも普段から触れている者が少ないため子ども達は四苦八苦、教える側も試行錯誤の繰り返しだった。が、子ども達は概ね楽しんで、笑顔で解散した。
●感情表現の木曜
「よし、漫画持ってきたな? それじゃ、カッコエエとか思ったシーン言うてみ?」
ぱとすが人気少年漫画を持ってきた先頭の子にコマの指定をさせる。そして、選ばれたコマの台詞を大きな声で、真似をする。
木曜は感情の表現を練習することが目標である。
ぱとすは指定のあったコマの台詞を自分で読むだけでなく、一人ひとり皆に真似して読ませた。
恥ずかしがって台詞を言えない子や、台詞の途中声が裏返って笑いの漏れる体育館で、ぱとすは言った。
「別に上手じゃなくたってええねん。思い切ってそれをやるんが気持ちいいんや。遠慮して小さくやっとったら、自分も面白くない。見てる人も面白くない。だから、おもいっきりやるのん」
和泉は子ども達に『泣く』演技をしてみようと言った。
「よくテレビとかで涙を流すシーンがありますわよね。自分の感情を刺激してみんなで泣いてみましょう」
えーっ、できねぇー、と上がる声に、和泉は優しく微笑んだ後、すぅーっと涙を流してみせる。おおーっ、という歓声。
「役者って涙までもコントロールするの。自分が今までに体験した、本当に悲しかったことを思い出して、その世界に入り込むことで感情を刺激するの」
その後、和泉は何をイメージしたかの発表会を開いた。しかしこの時期の子どもは複雑で、大人にはどうでもいい事でも恥ずかしがり、隠す。何を思って泣いたかは個人で別だろうが、その発表と個性の尊重は繋がり難い。発表した事で、周りの反応から個性が潰されてしまう可能性もあるのだ。
●演技の金曜
蘇芳と藤川は、それぞれ男性的・女性的な役者というものを子ども達に披露した。芝居の魅力は『本来の自分ではない者になれる』事だと藤川は言う。二人の多彩な演じ分けに子ども達も色々な事を想像し、あれがしたい、これもしたい。伝えたい『演じること』の楽しさは、しっかり子ども達に受け渡される。
金曜は、演技についてレッスンする日となった。
動きや表情、演じ方で、人は何にでもなれる。蘇芳と藤川が様々な演技のコツ、ポイントなどを教えていくと、子ども達は各々で勝手に芝居を始める。
「この後は成りきりごっこのようなゲームの予定でしたが」
「先に始められてしまったな」
子どもにとって、すぐさま効果の見える練習は楽しい。自分で成長の実感できない練習に意味を見出すことが難しいからだ。そういう意味でも、小さな仕草で自分の、周囲の、自身に対する印象が変わる演技練習は子ども達には好評だった。
女の子のような仕草を男の子がやって、周囲の笑いを誘う。女の子が男の子を真似て、らしくないと笑い。
それで構わないのだ。演技の批評が行われる必要も技術の習得を押し付ける必要も無い。もとより『自分を表現する』『何かを表現する』ことを楽しいと思ってほしい、それが目的なのだから。
金曜は2時間が過ぎても、暫らくゲームは終わらなかった。
●月曜は発表会
グループに分かれ、相談を始める子ども達。土日を挟んで月曜は、小さな発表会が行われる。
過程に口は出さず、子ども達を見回るぱとす。他の皆も、上手下手は気にせずに、楽しかったと最後に言えるようなそんな結果が出ることだけを願いながら見守る。
発表会が始まる。
5人で初日の寸劇の真似をするグループもあれば、土日にポムが調達してきた衣装を使って、男女を完全に逆転させたグループもあった。
どの子も演技などまるで出来ていない。台詞は棒読みに近くて、皆歩くこともせず棒立ちのまま。
それでも子ども達は大きな声で、『自分を』『相手に伝わるように』『一生懸命』『表現して』いた。
楽しい。体育館に満ちる空気はその一言に染まっていた。
表現力レクチャー・お芝居のススメは全日程を終え。講師達の前に30人の子ども達が1週間前と同じように整列した。
ぱとすが大きい声で言う。
「お疲れさん!」
「「「お疲れ様でした!!!」」」
色々バタバタしたこの企画だが、成功したのか失敗したのか。
答えは、子ども達の大きな声と目の輝きが全て。