奏デ歌ウ想イ ―狂詩曲アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/23〜11/27

●本文

●奏デ歌ウ想イ
 奏歌楽士と呼ばれる者たちがいることを、おそらくあなたは知らないだろう。
 世界は調和の下に成り立っている。世界各地で大なり小なり争いは起きているが、それも調和の中の一部分。
 『歪』。それは世界に生じた歪みとも、もともと存在していたが気づかれなかった歪な部分とも。『歪』が世界に生まれた瞬間、調和は乱される。

 フルートの先導に、エレキギターが奏でられ。二つの異なる声の歌が響く。
 その力が光の矢に凝縮されていくと、自らの身の危険を悟ったか『歪』は射手へその拳を振るう。が、しかし。ガン! と大きな音を立てて、その拳は中空で停止する。後方の歌士が形成した結界だった。
「主役譲ってあげてるんだから、ビシッと決めて見せなさい!」
「この歌が最後の一回や、外したら承知せんで!」
「お前の力、存分に振るえ!」
 結界の中で自由を取り戻そうともがく歪。そこに巨大な光の矢の照準を向けて。
「皆の力の詰まったこの一撃‥‥決めてみせる! い‥‥っけー!!!」
 矢が恐ろしい衝撃と共に弓から放たれる。『歪』は両腕を顔の前に出し防ごうとするが、その腕に深々と刺さった矢は爆裂、『歪』を囲む結界で作られた立方体の空間の中で膨張。強力な圧力を持って押し潰す。能力の光が消え、舞っていた粉塵が収まった後。そこには『歪』の姿は欠片も残っていなかった。

 世界の調和のため、日夜人知れず『歪』と戦う奏歌楽士たち。
 この『奏デ歌ウ想イ』は、彼ら奏歌楽士たちの戦いの記録を記す特撮番組である。

●『奏デ歌ウ想イ』の世界
 奏歌楽士とは、『奏(ソウ)』『歌(カ)』と呼ばれる特殊な能力を使用して『歪(イビツ)』と戦う者たちのことである。『奏』を使用する者を『奏士(カナデシ)』、『歌』を使用する者を『歌士(ウタシ)』という。奏士は音の鳴る仕組みを持たない(弦が無い等)特別な楽器を用いて特殊な力を行使する者をいい、歌士は特別の歌唱法により歌を紡いで特殊な力を行使する者をいう。
 『歪』とは、特定の形を持たず宙に浮く影のような存在である。これが人や物に取り付くことによって、『歪』として本来の力を行使し世界の調和を乱しはじめる。
 楽士たちは世界各国にある楽士協会に所属し、そこから下される指令によって『歪』退治を行う。楽士協会は、楽師(マイスター)と呼ばれる強力な力を持つ数人の奏歌楽士によってその上層を構成され、『歪』の調査と退治、奏歌楽士の訓練、新たな楽士の育成を行っている。

 『奏』『歌』とは、楽士たちが行使する特殊な能力で、専用の特別な楽器を弾く、または歌を歌うことで発動する。
 楽器という増幅装置がある分『奏』は強力な力を行使できるが、楽器の形状や大きさにより取り回しの利きにくい状況があるという弱点をもつ。また一般人には奏歌楽士たちや『歪』の存在を知られてはならないため、楽器が無ければ力を発揮できない奏士は時にただの人間でしかない。
 対して『歌』は歌士が歌える状態であればいつでも発動可能だが、白兵戦用の武器を生成することを苦手とし、また増幅装置が無いぶん一部の強大な楽師を除き行使する能力の威力では『奏』に見劣りしてしまう。

●出演に当たって
 出演者にはこれらと以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定、毎回提示される目的の達成を目指してほしい。

【能力】「奏」もしくは「歌」を選択。
【ジャンル】能力の種類を設定。いずれか一つ。
 奏‥‥白兵(+5)、単体射撃(+3)、複数射撃(+2)、散弾/扇状/放射(+1)、回復(+3)、補助(+3)
 歌‥‥単体射撃(+4)、複数射撃(+3)、散弾/扇状/放射(+3)、回復(+3)、補助(+4)、修復(+5)
【射程】能力の射程を選択。いずれか一つ。
 奏‥‥短(+5)、中(+3)、長(+1) ※短:0〜1m 中:1〜12m 長:12〜100m
 歌‥‥短(+4)、中(+4)、長(+2)
【効果】4つのパラメータに合計20ポイントを1〜15の範囲で振り分けてください。
 威力/効果:破壊力、回復力など。
 速度:演奏・歌唱から発動までの速度。射撃であればその弾速。
 持続:その能力が発動してからどれだけの時間効果を持って存在し続けるか。
 安定:発動確率、効力の安定、妨害に対する抵抗。
【回数】能力を一日に使用できる回数。
 ジャンルと射程を決定後、()内の数値を足した数。
 パラメータポイントを2点消費することで使用回数+1することも可。
【その他】能力についての注意点
 『奏士』と『歌士』の掛け持ちは不可。しかし、『奏士』なら『奏』、『歌士』なら『歌』の複数習得は可能。
 能力複数習得の場合、能力に振り分けるポイントの合計は20点のまま。
 例1)ヴァイオリンの奏士。曲を弾くと剣。長く弾く程強い剣になる‥‥1つの能力扱い
 例2)演歌を歌う歌士。A曲を歌うと味方が強くなり、B曲だと敵が遅くなる‥‥2つの能力扱い

<キャラクターテンプレート>
キャラ名:
能力:能力・ジャンル・射程/効果:威力・速度・持続・安定・回数
備考:

<テンプレート見本>
キャラ名:香月
能力:奏・白兵・短/効果:6・7・3・4・10
備考:楽器はヴァイオリン。弓が光の剣になる。

※皆さんが演じるのは原則として楽士協会所属の奏歌楽士です。一般人、フリーの楽士、マイスターは現在選択できません。

●狂詩曲
「何だと!? 何故それほど巨大化するまで報告しなかったのだ!?」
「それが、つい先程まで探知術式には引っかからなかったのです。突然成長・肥大した『歪』が出現するという事例はこれまでありませんでしたから、そういった特性を持ったモノが新たに生まれたのか、或いは」
「何者か、『歪』の存在を隠していた者がいるか‥‥か」
 楽士協会の支部の一つである日本楽士協会。『歌』によって作り出された光のスクリーンには、広い湖が映し出されていた。その岸には、10mは超えているだろう巨大な『歪』。
「新種の『歪』が発生した可能性もあるが、それより何者かの介入の線の方が考えられる話だな。奏歌楽士達も一枚岩では無い‥‥協会同士のいざこざもあれば、フリーの楽士の起こす事件もある。調査の必要があるな」
 奏歌楽士たちに下された指令。この巨大な『歪』を秘密裏に処理すること。そして、周囲に何か不自然な物や人、跡などが残されていないか調査すること。

「世界の調和のために。歪みを、調律せよ!」

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1359 星野・巽(23歳・♂・竜)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa3060 ラム・クレイグ(20歳・♀・蝙蝠)
 fa3487 ラリー・タウンゼント(28歳・♂・一角獣)
 fa3742 倉橋 羊(15歳・♂・ハムスター)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)
 fa4579 (22歳・♀・豹)

●リプレイ本文

●OPキャストロール
久瀬 灯‥‥倉橋 羊(fa3742)
如月 楓雅‥‥星野・巽(fa1359)
如月 春燈‥‥富士川・千春(fa0847)
リディア・レヴァイン‥‥ラム・クレイグ(fa3060)
美樹 秋緒‥‥檀(fa4579)
旭 貴朔‥‥柊ラキア(fa2847)
朝香 凛‥‥雅楽川 陽向(fa4371)
エセルバート・フリン‥‥ラリー・タウンゼント(fa3487)

●プッチン、プリンでキレた喧嘩
『新人が多いが、無事調査は出来るのか?』
『大丈夫でしょう。能力は不安定ですが、力はあります。目付けにエセルバートもつけています』
『そうか、なら暴走することはあるまい』

 ・ ・ ・

 ダ メ だ っ た 。

「何でこんな広い所を、オレ達4人だけで調査しなきゃならないんだよっ!?」
「そりゃあ、灯君が「先輩に頼るなんて出来るかー」ゆうてちゃぶ台ひっくり返したからやろな」
「‥‥‥‥」
「先輩達じゃなくても、別の人増援でまわしてくれればいいじゃないか!」
「別の人は別の人で忙しいんやろ」
「‥‥‥‥」
 調査が進まない。どうしたものか。1人で黙々と不審な痕跡探しをしつつ、エセルバート・フリンは一緒にやって来た若者達を見る。
 久瀬 灯が騒いでいるのを朝香 凛が受け流し、一通り無視しているのが如月 春燈。『じゃじゃ馬で、ギター使い(ん?)』とエセルバートは聞いていたが、今日の春燈は話と違いだいぶ大人しい。
「春燈さん、どうかしましたか?」
「え? 別に、何も‥‥」
「でも、さっきから草むしりばかりしているじゃないですか。現場、荒らしてますよ」
「あ」
 いつの間にやら6つの目が春燈に向いていた。彼女の横には摘んだばかりの野草がたくさん。
「えーと、七草粥」
「どうしたんや? 春燈嬢」


 時間は少し遡る。
「コラ、お兄ちゃん! 私のプリン返せ!」
 如月家の平和な1日。
「野菜室の奥に隠れてたアレか?」
「え? ‥‥ああっ、こっちも無いし! どっちも私のだったのに!」
「そうか、それは悪かったな。しかし、名前が無かったんだ。仕方なかろう?」
「普通プリンに名前なんて書かないよ!」
「何を言っている、プリンだろうとギターだろうと鉛筆一本だろうと、所持品には名前を書く。身の回りの管理を徹底することが、自己の管理の徹底にも繋がるんだ」
「お兄ちゃんみたいに『名前シール』なんて恥ずかしくて貼れないよ!」
「お前はそんなことも我慢が出来ないのか? 奏士として、忍耐、健康、整理整頓おいしい食事は絶対に必要だ」
「そのプリン取ったのは誰よー!!」


「それで、元気が無いんですか」
「元気が無いっていうか、虫の居所が悪いのよね‥‥」
 後ろで必死に笑いを堪えていた灯を思い切り足蹴にする春燈。灯、野草まみれ。
「いってー、八つ当たりかよ‥‥ん?」
 もさりと起き上がった灯の目には、地面に映る異様な影。というか、視界一杯が既に影。振り返る。
「っ!!」
 咄嗟に転がった灯のすぐ傍を、巨大な拳が通過する。灯を捕らえ損ねた拳は地面を強く強打し周囲を揺らすと、また空中へと戻っていく。
「‥‥歪!?」
「こりゃでかいな〜‥‥」
「スクリーンで見るのとは迫力が違うわね」
 見上げる4人。10mを超えると情報は聞いていたが、目の前に立った巨大な歪は、目の前だからこそか、それ以上の圧倒的な存在に見えた。
「何でこんなになるまで気付かなかったんだ!?」
「それを調べるのが、今回の僕達の任務の一つです」
 言って、後方へ下がるエセルバート。彼は傷の回復をする『奏』を専門とする奏士。前線に残っていてもメリットは殆ど無い。
「灯! あんた、私と『共鳴』出来る!? お兄ちゃん達に頼らないで仕事したいんでしょ!?」
「‥‥出来るに決まってるだろ! あんたこそ、合わせられるのか!?」
「聞くだけ愚かね!」
 言い合いながらも歪と距離をとり、楽器を演奏する灯と春燈。
「よっしゃ、ならとっておきの『歌』で援護したる! 『動かざる 岩になろう この想い』!」
 一歩早く入った春燈のエレキギターに、灯のハーモニカが重なる。さらにその上、凛の『磐石』の歌が乗せられる。これによって技は『共音』となり、先の単なる『共鳴』の時より格段に安定性が増した。
 ‥‥はずだったんだけどなぁ。

●先輩達の華麗なる休日・期待裏切り編
「この焼きプリンを6つと‥‥いや、やっぱり8つで。あと、こっちのクリームを4つ」
「プラス3」
「プラス3で7つ‥‥は?」
 とある有名スイーツ店。如月 楓雅のお買い物中その背後を取ったのはリディア・レヴァインと美樹 秋緒の先輩コンビに、そのパシリ。
「楓雅ったら、私達のためにプリンを買ってくれるなんて気がきくわ♪」
「ほんと、僕は嬉しいなぁ」
「向こうのテーブルで食べましょ? そっちの12個はお土産みたいですから、私とリディアと、楓雅の分で3つですね」
「あれおかしーな、ぼくのはないのかな(棒読み」
 口をパクパク、人形劇の人形のようになった旭 貴朔を放置して、コンビと彼女らに促されるままの楓雅はテーブルにつく。
 プリンを囲みまったり雑談モードに入る4人。4人とも今日から数日間、奏歌楽士の仕事から解放されのんびりと休日を過ごすこととなっていた。楓雅は、近くに調査に来ている楽士の一団がおり、何かしら手におえない事態が起きた場合は緊急招集もある、と協会から言われていたが、調査任務で増援の依頼が来ることは無いだろうと思い極秘任務に就いていたのだが‥‥偶然同じ場所に休暇にやって来ていたこの先輩達に不運にも遭遇してしまったのだった。
 ちなみに極秘任務は‥‥
「そのプリンは、春燈さんへのお土産かしら?」
 あっという間に見抜かれた。
「ええ、ちょっとした喧嘩をしてしまったので‥‥と、すいません」
 かかってきた電話に出る楓雅。通話相手の番号は調査部隊のエセルバートのもの。
 嫌な予感がした。
「もしもし」
『げ、お兄ちゃ‥‥凛、凛代わって! ふあぁ、ダメやぁ、実力不足やぁ〜! 待て、オレにまわすなよ! ‥‥如月 楓雅さん? エセルバートです。先程巨大な歪と交戦、負傷者も出て苦戦しています。救援を願います』
 ピッ。通話を切って。
「ええとですね、先輩。仕事だそうです」
「貴朔、車をまわしてきて」
「僕は行か」
 ゴーン。

●真相究明とプリン。
 春燈が泣きじゃくる凛の手を引き、足に怪我を負った灯をエセルバートが背負って走る。背後には、まだ歪の頭が見えている。
 3人の合体技『迅雷旋炎撃』は失敗した。原因は、歪の攻撃をかわしきれずにダメージを受けた灯が、技の力に耐え切れなかったためだ。灯の怪我に気付き、状態を把握できていなかった自分の責任だと凛が泣き出してからは、場は滅茶苦茶だった。
 エセルバートを先頭に、走る。走る。走る。
「‥‥っ!?」
 立ち止まる一行。目の前には広がる湖。背後にはもうすぐに巨大な敵。
「追い詰められたんか?」
「まだだ、エセルバートさん、足を治してくれ。アイツを返り討ちにしてやる」
「‥‥ぼ、僕は」
 アコーディオンを奏でようと楽器を構えるが、弾くことが出来ない。過去の記憶が、邪魔をする。
「エセルバートさん!」
 使いたくない。大事な人を救えなかった、こんな力なんか‥‥
 ヴン、と風を切る音を伴いながら振り下ろされる歪の拳。それが動きを止めた小さな獲物へ一直線に向かい‥‥
「!?」
 中空で止まった。薄く光る半円形の壁が歪の拳を受け止め、さらにその中に振る光が4人の疲労を取り去っていく。灯の足の怪我も。
「‥‥『エンジェルティアー』」
 呟いた言葉は『共声』の名。続いて飛来する光の弾丸が歪の拳を焼き遠ざける。
「先輩!!」
 その『歌』には覚えがあった。自分達のピンチに駆けつけてくれた、その人達の姿を確認しようと視線を向けたその方向には。
「歪! 歪! いぃびぃつぅぅ! 許すまじぃっ!!」
 ガンガン光の弾丸を撃ち込む貴朔に、異様な量の負のオーラを放ちながら駆けてくる先輩達。
「何だアレ、歪よりあの人達が怖え‥‥ぐはっ」
 呟いた灯に飛んできた竪琴がゴーンとクリティカルヒット。
「休暇中に呼び出されたから、皆不機嫌なのよ」
 リディアの言葉に見てみると、確かにいつもの服装ではない秋緒に漫画なら目がグルグルで描かれていそうな暴走貴朔。
「まったく、少しは成長したかと思ったが、まだまだのようだな」
「うるさいな、あんたの助けがなくても、これからやってやるところだったさ」
 灯の治りかけの足の怪我を一瞥し言った楓雅に、噛みつく灯。それを灯の頭をぐしと掻き回して押し戻し楓雅は前に立つ。
「巨大だな‥‥」
「お兄ちゃん」
「春燈、『共鳴』で一気に片を付けたい。行けるか?」
 言葉無く、ただ頷く。それに頷き返して、フルートを構える楓雅。
「あ、待った」
「何だ?」
「名前。技の」
「「‥‥‥‥(思案中)‥‥‥‥」」
「歪許すまじぃぃ!」
 ゴーン。
「貴朔、あなた弾切れしてますよ」
「歪ぅぅぅ!」
 ゴーン。ゴーン。ゴーン。
「時間が無さそうだな‥‥」
「ならこうしない? 同時に技の名前言って、センス良い名前の方採用」
「‥‥いいだろう」
 楓雅はフルートを、春燈はエレキギターをそれぞれ構え。ゴーンが効かず引きずられて退場する貴朔の向こう、体勢を立て直した巨大な歪を睨む。
「3」
「2」
「1」

「「『如月乱舞』!!」」

 きょとん、と一瞬顔を見合わせ、しかし再び歪を見据え。
「おっとっと、今度はちゃんと。しっかり援護するで! 『燃え上がる 炎の力 手に掴む』」
「このっ、オレまだ一発も撃ってないし! これくらいは撃たせろよっ!!」
 凛の『焔』の歌の補助を得て、楓雅の能力で生み出された太刀から幾つもの鎌鼬が歪を目掛け飛んでいく。その何重にも重ねられた風の刃に、灯の放った焔の矢が渦へと変化して重なる。それを追って、雷を纏わせたトライデントを持った春燈が突撃する。
 歪が、向かってくる春燈を叩き落そうと拳を振るう。だが、それが春燈に激突する直前、春燈の周囲を守る風の刃と焔の嵐が弾き飛ばす。
「行けえぇぇぇぇっ!!」
 風と焔の防壁で全ての防御をかい潜った雷の槍は巨大な歪の体に大きな穴を開け、歪の命の鼓動を止める。開いた胴の穴から崩壊していく歪。
「これにて終幕、じゃな」
 扇子を広げ笑う凛。遠くでは誰かが攻撃の勢い余って地面に落ちる音が聞こえたとか聞こえなかったとか。

 ・ ・ ・

「これといった痕跡は、見当たりませんね」
 歪の撃破後、そのまま何となくの流れで調査の手伝いをすることになった秋緒だが、これといったものを見つけることは出来なかった。あるのはたった今の戦闘の跡と、巨大な歪が歩く際なぎ倒した木々だけ。
「リディア」
「‥‥何?」
「さっきから、どうかしたんですか? 様子がおかしいですけれど」
「ううん、何でもないわ」
 あの巨大な歪を隠し、今回の事件を起こした介入者がいるという。事件の詳細について、エセルバートや灯達から聞けた。
(「『歪』の存在を隠蔽していた楽士‥‥まさか、まさかね」)
「‥‥どうしたんですか?」
「ううん、何でもないわ」
 多分。そうであってほしい。
 周りで今繰り広げられているプリン争奪戦が、平和が続いてほしい。
 旧知の仲の、あの歌士。関係が無いことをリディアは心から祈っていた。


「いただき」
「ちょっと、それお兄ちゃんが私にっ‥‥!」
「洋菓子もたまには良いものじゃな」
「僕の分はあるのかなっと」
 言われ無きゴーン。
「春燈‥‥あの時は少し言い過ぎた。すまない」
「ううん、いいよ。でも次からは気をつけてよね、お兄ちゃん」