奏デ歌ウ想イ ―練習曲アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/07〜12/11
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●本文
●奏デ歌ウ想イ
奏歌楽士と呼ばれる者たちがいることを、おそらくあなたは知らないだろう。
世界は調和の下に成り立っている。世界各地で大なり小なり争いは起きているが、それも調和の中の一部分。
『歪』。それは世界に生じた歪みとも、もともと存在していたが気づかれなかった歪な部分とも。『歪』が世界に生まれた瞬間、調和は乱される。
(「『歪』の存在を隠蔽していた楽士‥‥まさか、まさかね」)
「‥‥どうしたんですか?」
「ううん、何でもないわ」
多分。そうであってほしい。
周りで今繰り広げられているプリン争奪戦が、平和が続いてほしい。
世界の調和のため、日夜人知れず『歪』と戦う奏歌楽士たち。
この『奏デ歌ウ想イ』は、彼ら奏歌楽士たちの戦いの記録を記す特撮番組である。
●『奏デ歌ウ想イ』の世界
奏歌楽士とは、『奏(ソウ)』『歌(カ)』と呼ばれる特殊な能力を使用して『歪(イビツ)』と戦う者たちのことである。『奏』を使用する者を『奏士(カナデシ)』、『歌』を使用する者を『歌士(ウタシ)』という。
『歪』とは、特定の形を持たず宙に浮く影のような存在である。これが人や物に取り付くことによって、『歪』として本来の力を行使し世界の調和を乱しはじめる。
楽士たちは世界各国にある楽士協会に所属し、そこから下される指令によって『歪』退治を行う。楽士協会は、楽師(マイスター)と呼ばれる強力な力を持つ数人の奏歌楽士によってその上層を構成され、『歪』の調査と退治、奏歌楽士の訓練、新たな楽士の育成を行っている。
一般的に奏歌楽士は、世にその存在を知られていない。よって奏歌楽士は一般人が志願してなれるものではなく、スカウトされたりすることもない。
奏歌楽士となることが出来る者。それは奏歌楽士の家に生まれ、いずれ両親の仕事を継ぐことを希望した者。戦いの道を好まぬ子は、奏歌楽士についての知識を一切捨て、一般人として生きることが出来る。
また、不慮の事故によって奏歌楽士や『歪』というものの存在を知ってしまった者。その中で、事件の全てを忘れることを望まぬ者。かつ、奏歌楽士として世の闇に隠れても不審に思われぬ者。そういった一部の者のみが、奏歌楽士となれる。
『奏』『歌』とは、楽士たちが行使する特殊な能力で、専用の特別な楽器を弾く、または歌を歌うことで発動する。
楽器という増幅装置がある分『奏』は強力な力を行使できるが、楽器の形状や大きさにより取り回しの利きにくい状況があるという弱点をもつ。また一般人には奏歌楽士たちや『歪』の存在を知られてはならないため、楽器が無ければ力を発揮できない奏士は時にただの人間でしかない。
対して『歌』は歌士が歌える状態であればいつでも発動可能だが、白兵戦用の武器を生成することを苦手とし、また増幅装置が無いぶん一部の強大な楽師を除き行使する能力の威力では『奏』に見劣りしてしまう。
●出演に当たって
出演者にはこれらと以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定、毎回提示される目的の達成を目指してほしい。
【能力】「奏」もしくは「歌」を選択。
【ジャンル】能力の種類を設定。いずれか一つ。
奏‥‥白兵(+5)、単体射撃(+3)、複数射撃(+2)、散弾/扇状/放射(+1)、回復(+3)、補助(+3)
歌‥‥単体射撃(+4)、複数射撃(+3)、散弾/扇状/放射(+3)、回復(+3)、補助(+4)、修復(+5)
【射程】能力の射程を選択。いずれか一つ。
奏‥‥短(+5)、中(+3)、長(+1) ※短:0〜1m 中:1〜12m 長:12〜100m
歌‥‥短(+4)、中(+4)、長(+2)
【効果】4つのパラメータに合計20ポイントを1〜15の範囲で振り分けてください。
威力/効果:破壊力、回復力など。
速度:演奏・歌唱から発動までの速度。射撃であればその弾速。
持続:その能力が発動してからどれだけの時間効果を持って存在し続けるか。
安定:発動確率、効力の安定、妨害に対する抵抗。
【回数】能力を一日に使用できる回数。
ジャンルと射程を決定後、()内の数値を足した数。
パラメータポイントを2点消費することで使用回数+1することも可。
【その他】能力についての注意点
『奏士』と『歌士』の掛け持ちは不可。しかし、『奏士』なら『奏』、『歌士』なら『歌』の複数習得は可能。
能力複数習得の場合、能力に振り分けるポイントの合計は20点のまま。
例1)ヴァイオリンの奏士。曲を弾くと剣。長く弾く程強い剣になる‥‥1つの能力扱い
例2)演歌を歌う歌士。A曲を歌うと味方が強くなり、B曲だと敵が遅くなる‥‥2つの能力扱い
<キャラクターテンプレート>
キャラ名:
能力:能力・ジャンル・射程/効果:威力・速度・持続・安定・回数
備考:
<テンプレート見本>
キャラ名:香月
能力:奏・白兵・短/効果:6・7・3・4・10
備考:楽器はヴァイオリン。弓が光の剣になる。
※皆さんが演じるのは原則として楽士協会所属の奏歌楽士です。一般人、フリーの楽士、マイスターは現在選択できません。
●練習曲
「次に、先日の探知術式にかからなかった『歪』の件ですが‥‥」
楽士協会の支部の一つである日本楽士協会。その地下4階にある、一般楽士立ち入り禁止の会議室。
「調査の結果、『歪』そのものが探知術式にかからない新種であった可能性は否定されました。よって、この『歪』は何者かが意図的に隠していたものと思われます」
「何者か、とは?」
「考えられる可能性は多くあります。まず、探知術式の管理側。身内ですな。外部では、結界奏歌の大家、イギリスの楽士協会。ブラジル楽士協会の、『透過』の呪歌。空間を操るオーストラリアの楽士協会。そして、こちらは隠蔽とは違いますが、中国楽士協会の『時』の奏歌」
「『歪』の成長促進か‥‥ありえん話ではないな」
「この件については、継続して調査を行います」
「頼んだ。さて次は、マイスター・ナツミ。報告を」
「はい。現在私の部下から数十名、先程のマイスター・トウジの調査への協力のため提供しているため、新人楽士の育成に充分な人手が回らない状況となっています」
「ふむ‥‥ならば、最低限の訓練を終えた者を手の空いている楽士のチームに預け、実務形式での教育に切り替えたまえ。今のところ『歪』の発生は多くない。教育途上の者が実戦に出ることはあるまい。‥‥次の報告を」
地下の会議は続く。
奏歌楽士たちに下された指令。訓練中の以下2名の奏歌楽士を預かり、実際の活動において必要な知識や技術を教え込むこと。
・コウ
能力:奏・白兵・短/効果:4・1・3・2・10
備考:楽器はチェロ。弓が蒼い長柄斧になる。
・ナギ
能力:歌・白兵・短/効果:1・5・2・4・7
備考:臨機に紡ぐ詞が光の散弾になる。
「世界の調和のために。歪みを、調律せよ!(『歪』出ないけど)」
●リプレイ本文
●新人さんいらっしゃ〜い
「城崎。奏士だ」
「歌士の凪と言います、宜しく御願いします」
やって来た新人に、旭 貴朔(柊ラキア(fa2847))が尋ねる。
「今回実務形式での訓練ってコトだけど、二人の奏歌はどんなの?」
「実務形式なんだから、その時見りゃいいだろ」
ムキー! と暴れだす貴朔を如月 楓雅(星野・巽(fa1359))が羽交い絞めにして押さえつける。
「あの、ところで訓練っていうのは、どんな事を‥‥」
「話す時には、相手の目を見て話すようにした方がいいですよ」
視線は下のまま尋ねる日下部 凪(七瀬・瀬名(fa1609))に、美樹 秋緒(檀(fa4579))が注意。
「訓練は、まず基本的なところからいきましょうか。基礎体力を見るために‥‥腹筋100回」
さらっとキツい事を言うリディア・レヴァイン(ラム・クレイグ(fa3060))。城崎 香佑(金緑石(fa4717))の表情は特に変わらず、凪はものすっごい嫌そうな顔。
「ついでだ、灯、お前も一緒にやっておけ」
「何でだよ、オレは新人じゃ‥‥」
楓雅の言葉に久瀬 灯(倉橋 羊(fa3742))は反発するが、しかし楓雅の向こうに見える『それ』に気付いて一瞬躊躇する。楓雅の背後、灯の方を見て微笑む秋緒。その手には勿論竪琴。それが何を意味するかというのはよーく分かっている。
「分かったよ、こんな訓練もうオレには必要無いって事を見せてやる!」
「頑張ってな、みんな」
「凛も頑張ってね〜」
「あら貴朔、貴方もよ?」
「じゃあついでに楓雅もっ!」
・ ・ ・
結論。
「それじゃ、スタート!」
全体のペースはほぼ一定。楓雅と貴朔が少し先行している程度で、体力に自身のある灯がそれに続き、それにほぼ遅れ無く香佑と朝香 凛(雅楽川 陽向(fa4371))。一人で回数の平均値を下げているのは凪。
「男どもが情けないわね。凛ちゃんにピッタリつかれてるじゃない」
「へへ、うちはまだまだ余裕やで!」
真相は5分前に遡る。
「『輝ける 光纏いて 武神なる』」
ついさっき開発された、対象の各能力をアップする『光輝』の歌。凛、パワーアップ。
‥‥ドーピング。
終わってみれば順位はそのまま。貴朔と楓雅がほぼ同着、そして灯、香佑。凛は途中で歌の効果時間が切れ大幅ペースダウンも、残り回数が少なかったためドーピングはバレず。そして遅れて凪。
「それじゃ、次は別のに行くけど、その前に少し休憩を入れましょう」
とのお言葉に、皆思い思いに休憩。そして。
静かな森の中、座禅を組む一行。
リディアと秋緒の指示による精神訓練である。意識を集中し、己と向き合う。
「先輩の訓練は世界観が変わるぞ‥‥特に精神訓練は‥‥」
とは楓雅の言葉であるが、ここまででは別にそれ程のものでもないように感じられる。
だがしかし。聞こえてくる『いびき』。
ゴーン!
第1号は貴朔。
聞こえてくる『心の声』。
(「これにどんな意味があるんだよ‥‥」)
ゴーン!
第2号は灯。
「ダメですね、全体的に集中力に欠けてますよ」
竪琴を振るったその姿勢のまま、秋緒が呆れたように言う。
「精神を集中し、内面へ向けた意識を保てるようになれば、冷静な判断が出来るようになっていきます。同時に、奏歌の不安定さも改善されていきます。奏歌は特殊な能力ではあるけど、根底にあるのは楽器の演奏であり歌唱。奏で、歌うその音に込められた想いとは一体どんなものであるか、それを外的要因に振り回されず、100%の力で表現出来るようになりなさい」
「凛と香佑はそのまま。楓雅はちょっと止めて、こっちに来てくれないかしら」
リディアの呼び出しに楓雅が応じると、指差されたのは凪。こっくり、こっくりと舟を漕ぐ。
「(ひそひそ)この子をどうしようかと思って。野郎どもと同じ奇襲攻撃は、この子にはまだ早そうだから」
「(ひそひそ)とりあえず、起こすだけ起こしましょうか」
座禅の列の方ではまたも秋緒が灯に竪琴を振るう。灯は「見えた!」などとのたまって竪琴の軌道から体をそらすが、甘いとばかり直角に変わる軌道、予想通りのゴーン。
「凪さん、起きて下さい。訓練中です」
「ふぇ? はっ、はい、すいません‥‥」
ハッと目を覚まし、急いで座禅を組みなおすと、再び目を瞑り訓練を続けようとする凪。それを楓雅は一度止めて。
「凪さん、この訓練は自分の内側に集中するためのものです。奏歌は、奏で、歌う者の精神状態や気持ちの持ち方でその力が大きく変わります。自分の外の、人や情報に惑わされないで。自分の、自分としての想いを強く持てば、君はもっと伸びる」
「‥‥はい、ありがとうございます!」
●『歪』なおフダ。
実務訓練はここからが本番。先輩達を歪に見立てた模擬戦闘の開始だ。歪役の楓雅、貴朔には歪Tシャツ。
ちなみにこれ、市販の安い白シャツに秋緒が筆で『歪』と書き上げて即席で作った愛のこもっている一品である。
おまけに顔面に文字の書かれた札を貼られたが、前が見えないからと没になる。楓雅の紙には『歪』と大きく書かれており、貴朔の方には『(×。×)』と描かれてあった。
「歪組、ちょっと耳を貸してくれるかしら?」
リディアが二人にボソボソ。頷く楓雅、ニヤリとする貴朔。新人組のチームワークを試すための、ある作戦について。
「開始から5分は動かずに新人組に調査時間をあげてね」
「了解でっす!」
「まさか負けたりは‥‥しないわよね?」
「まあ、大丈夫でしょう。‥‥灯、ハンデは要るか?」
「なっ‥‥そんなもの要るかっ!!」
予想通りの返答。挑発に乗りやすい灯、この状態で歪役の二人と先輩の罠(?)を乗り越えることが出来るのか。
「では、先に出発します」
「覚悟しろよ〜、お前達〜!」
森の中へと消えていく二人。途中貴朔が何かやっているが。本人は歪の真似らしいが。
「あれは‥‥?」
「歪ゆうより」
「変態だな」
「秋緒、お願い」
超遠距離ゴーン。楽器は大切に。
残ったのは新人ズ。4人を集めてリディアが問いかけを出す。
「問題です。戦闘で大事な事は? 灯くん」
「相手にほえ面かかせること」
「腕立30。‥‥答えは『情報収集・冷静な判断・チームワーク』よ。それぞれがどんな風に重要なのか、それはこの模擬戦の中で実際に感じ取りなさい。開始地点は2番バンガロー。着いたらメールで連絡して。じゃ、出発!」
歩いていく4人を見送ってから、リディアは。
「『守護されし者にしか見えぬ盾 盾を退けし鍵は 重なり響く音と声 一音弾き返せし守護の盾』」
「‥‥どうなると思います?」
「さあ?」
・ ・ ・
「見つけた‥‥オレ一人で決めてやる! 喰らえっ!!」
遭遇直後、速攻で灯が弓を引く。生み出された光の矢が、離れた木の下に立っている楓雅目掛け一直線に飛び、そして。
「なっ‥‥!?」
光の矢は楓雅の前で形を崩し、拡散して消える。リディアの結界の歌『雪嵐のエチュード』であった。
灯に他の3人が追いついた所で、姿の見えない貴朔の声が聞こえた。それに合わせるように楓雅も『奏』で形成した風の太刀を構える。
「『真白いひとひら ふわりおちる 幾度も 分かれて』」
声の出処は楓雅の上。木の枝葉に紛れていた貴朔が飛び降りてくるのと共に、白い雪のようなものが無数に舞う。それに合わせて生み出される楓雅の鎌鼬。
「「風雪翔!!」」
風の刃に合わせ雪の弾丸が高速で飛来する。新人ズが跳んでかわしても、楓雅が太刀の振るい方を変えるだけで弾丸が追尾するかのように飛んでくる。
「あれは、楓雅先輩が狙いをコントロールしとるんやね‥‥『舞い降りて 覆い隠さん 白きもの』」
凛が『霧』の『歌』を発動し、あたりを白い靄で覆い隠す。これで正確な狙いはつけられない。となれば、堅実な性格の楓雅は無駄撃ちを避けるため攻撃を止めるだろう。
果たして。雪の弾丸は止み、何とか射程外まで撤退する時間を稼ぐことは出来た。
「結界か‥‥あれをまずどうにかしなきゃならないんだな」
悩む香佑。しかし手がかりの少ないこの状況、一人では何も思いつかない。
「作戦があるんや。ちょっと手貸してもらえんやろか」
「作戦なんかいい。相手の能力も技も熟知してる。あの結界さえ何とかすればいいんだろ。オレが何発でもぶち込んで、ぶっ壊してやる」
凛の提案を聞くことなく、灯が立つ。だが、一人敵の所へ戻ろうとした途端香佑に足をかけられずっこける。
「何すんだよ!」
「一人でどうにかできるレベルじゃないだろ」
「そうや、何の為に仲間がおるんよ! 灯君がそんなに一人でやりたがるっちゅうんは、うちらなんか要らん言う事なんか!?」
一喝。すかさず反論しようとした灯だが、瞳に涙を溜める凛に言葉を飲み込まざるを得ず。
「この戦いは、『歪』との戦いを再現してるんですよね。なら、本当は相手の能力は、調べなきゃ分からない‥‥あの結界は、先輩達が設定した『未知の能力』なんだと思います」
時々考える間を空けながら、凪が言う。
「まずはあの結界を何とかせな。でも力技で破るんは多分難しい。灯君のあと3発のどれかでぶち抜くんはさすがにギャンブルやし、結界破った後何も出来なくなる。うちは攻撃系の歌を持ってへん。香佑君のも凪嬢のも、威力が足りんやろ」
「なら、どうするんだ?」
香佑の問いに、凛はにやっと笑って。
「うちらの持ちネタで適わんなら、パクッたればええねん」
「‥‥ほう」
一人やって来、逃げる凪の追撃中。体から力が抜けるのが分かる。そういう『奏歌』をかけられたのだと楓雅は理解した。やはり、予想通りの陽動だったようだ。
「来た来たっ、もういっぺん返り討ちだっ!」
向かってくる香佑、灯に対し、迎撃体勢に入る貴朔。しかし。
「少し、待ってみよう。何か思いついたのかもしれない」
灯が途中で立ち止まり、ハーモニカを再び弓にする。香佑はなおも走り、接近する。凪は無事合流できたことを知ると、進行方向を変え同じく接近。
それまでに感じたことの無い高まりだった。香佑も凪も、体が自分の体では無いようだった。
凛の『歌』、『光輝』の効果である。
あのドーピング、『光輝』の効果である(しつこい)。
これに加え、『常闇』で敵の能力を落とす。敵味方の力の差を出来るだけ縮めようという策である。
「手を貸してやるんだ、確実に決めろよ!」
「当たり前だ。消し飛べッ‥‥!」
灯が放つ矢が焔を纏い、奔る。その矢は香佑の頭上を通過したあたりで龍のような火柱となり、それの結界への着弾と同時に、香佑の長柄斧が叩きつけられる。
「『調和のために』っ!」
『奏』と『歌』の合体技、『共音』でなければ解除されないが、灯と香佑の『共鳴』、『炎舞龍断撃』に砕けはせずとも軋む結界。そこに、止めとばかり横合いから撃ち出される凪の散弾。
(「自分としての想いを強く持てば‥‥!」)
以前の凪なら、陽動を終えたら彼らに任せて下がっていただろう。だが、彼女は踏みとどまり、最前線で、結界へ追加の一撃を見舞った。その事によって結界の解除条件は満たされ、また結界の耐久度をも上回る。
結界は砕けた。
「ここからが本番ね」
●三時の大惨事
「楓雅、こうなったらアレしかない、アレ!」
「あれって‥‥アレか?」
貴朔が、楓雅に提案する。結界は『共音』で『解除』されると聞いていた。だが、実際には『破壊』された。少しペースを上げなければ、負ける可能性も無くは無い。ゴーンが待っている。
「それ行くぞーっ! 『斬牙乱絶』!!」
一歩先走った貴朔に、仕方ないと楓雅が合わせる。斬牙乱絶とは、楓雅の鎌鼬と貴朔の弾丸を乱れ撃つ、本人達もどうなるかよく分っていない禁じ手である。
どかどか飛んでくる風の刃と光の弾丸。新人ズは散開し、ひたすら避けるしかない。
一方。
ガチャン! パリン! ティーポットや皿の破片が舞い散る。マジで適当撃ちのそれはバンガロー2階のテラスで優雅に観戦していたリディアと秋緒のところにも。
秋緒、無言で大きく振りかぶって。ブン! ゴーン!!
「ぐひぁッ!!」
貴朔ノックアウト。合体技強制中断。先生、外部の乱入はアリなんですか?
「この場合仕方ないわ。アリよ」
そうですか。
「敵が一人減ったからといって、油断してはダメです。歪は共食いすることで、パワーアップすることがありますよ!」
「さすがに俺は食べませんが」
・ ・ ・
ご褒美は、リディアと秋緒が焼いたチーズケーキタルト。勝者組はそれを美味しく頂く。
そして敗者組への罰。
「‥‥もう二度と飲まないだろうと思っていたんですが」
「うーん、不味い! もう要らないっ!」
キツ〜い特製青汁を飲まされる楓雅と貴朔。こんなもの絶対に「もう一杯」などと言えない。
あの貴朔のダウン後、一人残った楓雅に放たれたもう一つの『共音』。凪の光の散弾が降り注ぐ星の如くに相手の動きを阻害し、凛の捕縛の『歌』が抵抗力を奪い去る。そこへ香佑と灯の同時攻撃が襲い掛かり‥‥結界で止められた。
4人での『共音』、『流星縛炎斬』に待ったがかかったのは、当然「死人が出るから」。灯の矢がカスであれば問題無いが、高威力だと冗談では済まない。
今回の模擬戦では、新人ズが勝利した。灯などは素直に喜んだが、香佑や凛は分かっていた。初めから4対2のハンデがあった事、さらに先輩ズは大怪我をする者も出ないよう力にセーブをかけていた事。
「まだまだ、先輩達に追いつくには先が長そうですね」
そう言いながらも、ケーキをぱくつきながら幸せそうな凪なのであった。
・ ・ ・
そして、その様子を遠くから見つめる者達が。
「ここは問題無い。捜査を続行する」
「「了解」」