デシノート The1stNameアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
12/16〜12/20
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●本文
●デシノート
『 そ の ノ ー ト に 名 前 を 書 か れ た 者 は 、 弟 子 に な る 』
何のこっちゃ。と、思ってはいけない。これは現実の脅威である。
デシノート。それは運命を司る神が使うノートの一冊だとも、運命を弄ぶ悪魔が使うノートの一冊だとも。そのノートに名前を書かれたものは、弟子になる。
誰の?
ノートに名前を書き込んだ、その者の。
本来の持ち主であると考えられているのは、神や悪魔。神がそのノートに人の名前を書き込めば、その者を神の使徒とすることが出来、悪魔が書き込めば、その者を自身の崇拝者とすることが出来る。そう考えられている。
こんなものは御伽噺である。そう思っていた者が大多数だった。デシノートなどというふざけた物が、実在するはずがない。
だが。先にも述べたとおり、これは現実の脅威である。
・ ・ ・
「‥‥デシノートが、実在するだって!?」
『そうです。人づての情報ではありますが、確度の高い情報です』
電話を受けていたのは、OIC(オーパーツ調査委員会)代表の土方 鎮(ひじかた まもる)。電話の相手はOIC特派員の聖 陽介(ひじり ようすけ)である。
OIC。それは、世の中に溢れるオーパーツの情報を集め、統合し、捜査、確保、調査までを行う私設団体である。私設、の文字通り、公的組織ではなく一種のファンクラブとかサークル的なものである。
これまでに彼らが集めた情報量は膨大だ。博物館を作れるのではないかというほどの調査資料の山、山、山。しかしそれらは全て偽物で、オフィスの8割を無意味に占有している。
しかし。どうやら今回は。ようやく。本物に限りなく近い情報が掴めたらしい。いつもは胡散臭い情報は胡散臭いと一刀両断する聖が、「確度が高い」と言い切るのだから。土方は内心テンションが上がりまくりだ。
「分かった、そっちに何人か、追加で特派員を送る。まず本物かどうか、そして、本物だったら出来るだけ合法的に、それを確保するんだ」
『土方さん。もし、ノートが本物だったら‥‥そして、ノートの持ち主が危険な人物だったら‥‥』
「‥‥その場合でも、どうにかしてノートを手に入れるんだ。犠牲は出るかもしれない。それでも、ノートの悪用を防げるなら、人々の師を選ぶ自由を守れるなら、やるしかない」
『分かりました。では、こちらの詳細な場所を連絡しておきます。ここは‥‥』
● 注 意 !
これはテレビ番組です。特撮番組です。決して事実ではありません。登場する人物・団体・地名などは、全て実在のものではありません。
特撮番組『デシノート The1stName』の出演者を募集しています。募集しているのは以下の通りです。
・OIC特派員‥‥2名〜
・ノート所持者‥‥1名
・ノート所持者の弟子‥‥若干名
・その他の登場人物‥‥若干名
OIC代表土方と、OIC特派員聖はすでに出演者決定のため、募集しておりません。
CG合成やワイヤーアクションなどによって、ノートの恐るべき力やそれ以外の何かよくわからないけど恐ろしい力などが表現されます。出演者の方でも、何かしら面白いネタ案などありましたら、どんどん提案してください。
●リプレイ本文
豪華な装丁のされた一冊のノート。道端に落ちていたそれは誰かの名前が書いてあるわけでもなく、中に何か書き込まれているわけでもなく。ただ表紙を捲ったそこに、『デシノート』と。そしてその下に一文。
『このノートに名前を書かれた者は、ノート所有者の弟子になる』
「ぷっ、何コレ」
●『の』ろいの発生
「ノンノンノーーーン! ナァンセンス。マドモワゼールゥノノムゥラ、ユーアンダスターン?」
どアップで否定の表情を見せ付ける男、沙流葉 亨(桐尾 人志(fa2341))。何かどこかを、というか全てを勘違いしたような男だが、彼は一応学校の美術の教師である。信じらんねー。
「この課題は概念抽象画デス! もっと見るモノゥに語りかけィる絵を描かないとゥいけマッセェン」
ずい、と押し返される課題。野々村 井伊奈(阿野次 のもじ(fa3092))はむっとした顔をしながらも、仕方なく引き下がる。課題の用紙には大きく『の』の文字。デザインである。一応。色んな人がいるものだ。
授業終了のチャイムがなる。蛭薙 玲二(百鬼 レイ(fa4361))は、クラスでただ一人課題をつき返され、力無く去っていく野々村を、それ見ろとでも言いたげな視線で見送る。この二人、もしかしなくても仲は悪い。
「『の』こそ50文字中最も美しく誇れる文字‥‥世界は『の』を中心に回ってるのに、どうしてわかんないのかな皆」
学校の帰り道。友達の藤島のえる(榛原絢香(fa4823))に野々村はそうこぼした。
「ダリ(沙流葉のあだ名)は分からないだろうけど、これいいじゃない。ごちゃごちゃした世界の潮流に逆らい、シンプルに、最も大切なオンリーワンを抽出したデザイン。ね、のえる」
「あー‥‥(どうでも)いいんじゃない?」
「さっすが! のえるは分かる人だもんね! 『の』の字が名前の頭に付いてるだけあるよ!」
「じゃ、私ここからはこっちだから」
野々村の賛美に適当に答えると、いつもの分かれ道で野々村と別れる藤島。
野々村は悪い子ではないのだが、個性が強過ぎる。それが藤島の持つ印象だった。もう少し、一般的な世界に歩み寄ることが出来れば‥‥
翌日。
「ノノムゥラ〜! このデザインを生み出した貴女の発想力はァ、世界一デース!」
一般的な世界の方が、野々村に歩み寄っていた。
ダリは何やらワケの分からない事を大声で騒ぎ喚きながら、時々ピロピロ笛のような口髭が無意味にピンと伸びる。原理が分からない。
「まぁアレはいつも変だけど‥‥蛭薙くん、ダリに何かあったの?」
「ああ、『の』のデザインに衝撃を受けたんだよ。皆が崇める、偉大なる『の』。そしてその発見者、天才野々村 井伊奈!」
何か変だ。さっきから分かっていたが変だ。元々皆変だったが、変だ。
「このデザイン、是非二科展に出展しまショウ! 先生はァ、太鼓判を押しマァス!」
・ ・ ・
あまり見ない光景だった。裁判所に人だかり。聞き耳を立ててみると、どうやらそれらは全て、改名の手続きのために集まっているらしかった。名前を『フのの・シのの』にしたいなど、そのセンスが分からない。
そして。ここがどこかも分からない。
「そう、こういう時は先輩に電話です‥‥」
駆け出しのOIC特派員、柿崎 真帆(凜音(fa0769))。
「もしもし、土方先輩ですか!? すいません、道に迷っちゃいまして」
『柿崎クンか、ちゃんと周りの皆と一緒にいなきゃダメじゃないか』
子供の遠足か。
『どこにいるか、か‥‥近くに目立つ建物はあるかい?』
「えーと‥‥あ、よく行くたこ焼き屋さんがあります」
『‥‥柿崎クン、君の今いる場所は、OICの玄関だよ』
「あうぅ〜‥‥柿崎さんを探してたら、初崎さんまで消えてしまったですよ〜」
こちらも同じくOIC特派員、織田 亜矢(アヤカ(fa0075))。迷子になりやすい柿崎を追っていたが、逃がしてしまったようだ。ちなみに仲間と合流しようと動く織田だが、どんどん仲間から離れている。
「それにしても、人を強制的に弟子にするデシノートですか‥‥何年か前の、人の髪型を勝手に変えてデコっぱちにするノート、『デコノート事件』の時のような騒動が起こるんですかね‥‥」
解説しよう。『デコノート事件』とは、今回の『デシノート事件』と似たような事件である。以上。
そして聞いて驚け。なんとこの織田、その過去の『デコノート事件』を一人で解決した敏腕特派員だったのだ! ノート所持者が転んで手放したノートを通りすがりにキャッチしただけだが。
全国に広がるブーム。テレビもラジオも新聞もWTRPGも、全部『の』ばかり。
「やはりこの状況は、デシノートの効果によるものなのかしらね」
OIC特派員初崎 初音(檀(fa4579))は、自分の周りでも起きているムーヴメントを見渡しながらそう言う。
街を歩いてみれば、おかしな所は多々見つかる。ケーキ屋ではロールケーキがすぐ売り切れ、回転寿司店ではカッパ巻や鉄火巻が回り始めた途端に消え去る。
「柿崎さん、織田さん。早急にノートを確保しましょう‥‥って二人とも!?」
後についてきているはずの二人を振り返る初崎。しかしそこには誰もおらず。
「ああもう、仕方ないわね‥‥一人で捜査か」
頑張れ初崎! 見た感じデシノートの脅威から人類を救えるのは君だけだ!
・ ・ ・
「ここがあのお方のいる学校」
校舎を見上げる青年。名を、ノーマ・トリス(エミリオ・カルマ(fa3066))という。
「蛭薙くん、あの会社との打ち合わせは何時って言ってたっけ?」
「15時からです、師匠」
ちょうど学校から出てきた野々村と蛭薙に鉢合わせの格好になるノーマ。ノーマは野々村の姿を見ると、体をわなわなと震わせて。
「あの、野々村 井伊奈さんですよね!? 俺を弟子にしてください!」
あー、そういう人だったのか。
「師匠、この写真を見てください! 『の』の字で、巨大アートにチャレンジしたんです!」
野々村がノーマを連れ教室へ戻ると、駆けてきて写真を見せる小学生が一人。彼フラム・シルワ(パイロ・シルヴァン(fa1772))はパソコンをはじめ機械に詳しいらしく、『の』の字デザインのPC壁紙を作るなど野々村デザインの普及に貢献している。ちなみにフラムが持ってきた写真には、トンネルの壁にスプレーで書かれた『ののの、ののー』。本当は『のの字、最高ー』と書くのを、漢字を使わず表しているのだという。ワケ分からん。
「うん、いいんじゃない。ホームページのトップはこれね」
分かるのか。そしていいのか。
「了解です! 我ら、ビッグのの字のために!」
去っていくフラムを横目に、野々村が指をぱちんと鳴らす。するとやって来たのは人外。じゃない、沙流葉のダリ。
「君。この沙流葉先生とバトルして勝ったら弟子にしてあげるわ。まず先行は先生」
「フフ、この私ほどォ、『の』の意味を理解している弟子はいないでショウ! まず、この『の』の字をご覧アッレィ! これは即ち陰陽道でイウ太極図、世界を表していマス。下の切れタ部分は世界の均衡が崩された事を示シ‥‥地球への大いなる警告を示してイマース!」
「違います」
ノックアウト。
「後攻、弟子志願者」
「これを見てください。平仮名の表ですが、見てみると、『の』の字は49ある仮名の中心に位置する。『の』という字は、日本で平仮名が成立した時から特別な位置にあった、高貴な文字なのです!」
しかしそのかな表、『ゐ』と『ゑ』はともかく、『ん』の次に『ー』が入ってるのは何故? それ単体だと何て読むの?
「よし、合格。これから晴れてあなたも私の弟子よ!」
「やった!」
ささっとノートにノーマの名を書く野々村。この瞬間からノーマ・トリスはのーま・とりすである。
(「‥‥このノートは発信者が感じる『感性』のビジョンをその人に見せ支配する。『の』文字による感性の共鳴はいつか人類の革新をもたらす!」)
・ ・ ・
「‥‥ばっかじゃないの」
一人下校する藤島。野々村の周りのあの変なオーラにはついて行けない。何だか精神的に疲れたとか思いつつ歩いていると、かけられる声。
「ちょっと聞きたいんだけど‥‥あなた、あの学校の生徒ですよね?」
「‥‥『の』だったら答えません。もう鬱陶しいので。そういう話だったら、野々村に聞けばいいじゃないですか」
「野々村?」
「あのデザインの第一人者ですよ。あの子、この道まっすぐ行った左側のケーキ屋さんによく来るので、待ってれば会えると思います。‥‥って、あなた誰ですか?」
「え? 私? わ、私は‥‥そう、私は記者なの、ティーン向け雑誌の。雑誌記者の柿崎っていうの、よろしくね」
●『の』がれられぬ効果
弟子の一人、スーパーの店長と共に出撃する『でし・のーま』。『の』の素晴らしさを広めるため、紅白のナルトを配るのだ。ナルトはどこを切っても『の』の字が現われる高貴な食べ物、という理屈。そんな弟子達に軽く手を振って見せ、今日この日も、野々村は普通に学校へ登校する。その途中。
『全世界同時中継のこの番組では、世界中で大ブームとなっている『の』について語り合ってもらいたいと思います! ではまず、布川さんどうぞ』
『世界の皆さん初めまして。僕の名は布川。気さくに『ぬの字』とでも呼んで下さい』
それまで『の』の宣伝を放送していた街頭テレビから、見知らぬ男の声と映像が流れてきた。布川 流(河田 柾也(fa2340))、言語学者だという。
『まず、昨今の『の』の字ブームですが、まったくもって品がない。書き終わりのあの投げっ放し感、いけませんね。日本語の50音の中で一番美しいのは『ぬ』の文字です。50音の中で最も長い線を持ち、それをコンパクトにまとめたあのフォルム』
何を言い出すのか。言葉の内容が『の』への罵倒だと分かった野々村は、怒りに身を震わせる。
『『の』など、ナルトや伊達巻にでも任せておけばいい。『の』のデザイナーも、そろそろ『ぬ』の洗練されたフォルムを認めるべきです。逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ』
野々村がカバンの中から取り出すノート。デシノートを開き、布川の名前を書き記す野々村。その姿を、近くのビルの屋上から見つめる姿が。柿崎だ。
『日本一は『ぬ』です。『の』など‥‥『の』‥‥は素晴らしい! 『の』の字ほどシンプルでスタイリッシュな文字は‥‥』
『何だ? おい、放送止めろ、放送を』
プツリ、と画面が消えて、一瞬のあと再び『の』のCMが流れ出す。
・ ・ ・
「うまくいきましたね」
柿崎から得た情報を元に、名探偵『は』となった初崎が発案した作戦。その成功に、初崎はデシ化した布川を見て不敵に笑う。
「はい、日給の一万円よ。これで『ぬ』デザインの手拭でも買って、名俳優さん」
「『ぬ』? 何を言ってるんですか、時代は『の』ですよ!」
言語学者などハッタリ、劇団の研究生布川。初崎の作戦の成功のための、尊い犠牲だった。すぐ戻してやるからな。このままでも面白いけど。
●『の』ートは何処へ
「野々村さんはいますか?」
「あ、弟子入り志願者ですか! ちょっと待っててください、お師匠様に言ってきます」
学校に踏み込んだ初崎と柿崎を、のーまは盛大な勘違いをもって出迎えた。彼が野々村の所へ向かうのを、ひっそりと追跡する。
「(ひそ)ところで、織田さんは?」
「(ぼそ)今回は、彼女が迷子の番よ。あの子もドジッ子だってこと、すっかり忘れてたわ」
行き着いたのは屋上だった。
「お師匠様、弟子‥‥」
「ここまでです、デシノートの所持者野々村 井伊奈! そのノートを、こちらに渡してください」
のーまの言葉を遮り、初崎が宣言する。のーまは一瞬きょとんとした後、自分が師匠の敵を招きいれたことに気付きショック。「Oh の〜〜」はお約束。
「どうして、ここが分かったの?」
「朝の放送を覚えてるかしら? あの放送は全世界同時中継と言っていましたが、実は関東地区棟京脚立区3丁目のご近所にしか放送されていないのです!!」
「範囲狭っ! そこまで限定した理由を聞きたいわね。そして、私だって特定した理由も」
「そこは、この私の情報網を駆使して、です!」
一歩前に出る柿崎。
「ノートの力も、名を知られていない私達には効かない‥‥ノートを渡しなさい!」
「お師匠様、逃げてください!!」
初崎と柿崎の前に、のーまをはじめとした弟子達が壁のように並ぶ。その後ろを逃げる野々村。
「にゃあ、迷子で大遅刻なのですよっ‥‥ってうきゃあ!」
突然出現した織田に、野々村が真正面から直撃する。互いに弾き飛ばされる二人、野々村の手から離れたノートは宙を舞って‥‥屋上から落下。
風にも乗ってどこかへと消えたデシノート。全員が目標を失って立ち尽くす。静寂。
屋上には3人だけが残った。弟子達はノートの効果が切れ去っていき、初崎は柿崎と織田を引きずり、ノート封印の目標のため校舎を飛び出していった。
「ほら、帰るわよ」
ただ一人俯く野々村の背をポンと叩く藤島。その個性についていけないことがあっても、それでも友達は友達なのだ。その優しさに、野々村も小さく頷いて。
「お師匠。俺は、ノートがなくてもお師匠を尊敬しています! もう一度、最初から頑張りましょう」
両手でグーのノーマが、野々村に言う。
デシノートは、偽りの人間関係を作り出す道具。
しかし今回は。どうやらノートが、本当に信じていい人間関係を見つける役に立ったようだ。
・ ・ ・
舞い落ちてきたノート。それを拾った人物。一人、呟く。
「デシノート‥‥面白い、しかし、本当に良いノートはこっちのノート。この‥‥」