最下層調査中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
4Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
14.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/17〜12/19
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●本文
「そろそろ、教えてもらえないかな? 焦らされるのももう疲れたんだ」
「なら帰れ。私に、お前に情報を提供する義務は無い」
「この遺跡には何があるのかな? どんなことが分かったんだい? ここは、君の目的を達するのにどういう寄与をするの?」
「これで最後だ。お前が知る必要は無い。帰れ」
「君が何かを得るためにここを調べているとすれば、How Toダークサイドの何かではないんだね。だって君はもう‥‥」
ブン! と空気を切り裂いて奔る高速の蹴り。御影 永智はそれを先までと変わらぬ笑みでかわし、少し間合いを取る。
「君は、ジェリコって言ったっけ。君じゃ、僕の相手には役不足だよ」
「ジェリコ。10秒稼げ。それで充分だ」
「了解しました」
黒服に身を包んだジェリコ、その顔が獣へと変貌していく。半獣化を終え虎を思わせる顔となったジェリコは、御影へ向かい走る。
「10秒。保つかな?」
御影も御影で半獣化を行うと、ジェリコの拳を真正面から受け止める。それをそのまま引き寄せ、背負い投げの要領で壁へ投げつける。ジェリコは空中で体勢を立て直すと壁を蹴り、再び御影に殴りかかる。
「合格だ、ジェリコ。‥‥サラマンドラ。焼き尽くせ」
バックステップでジェリコが御影から離れる。そこへ放たれるは火炎の弾丸。真横から飛んできたそれを、御影はやはり回避して。
「いいよね、それ。僕もそういうの欲しいんだけどな、シャルロ」
シャルロのすぐ横。体長50cmほどの歪な蜥蜴。先程の炎の弾丸の射手、ナイトウォーカー。
「でもシャルロ。そいつじゃ僕は止められないよ? この男は手加減してやっても僕に一発も入れられないし、そのサラちゃんとは顔馴染みだからね。もう慣れたよ」
「なら、初対面のコイツはどうだ?」
シャルロの目の前に黒い光の粒子が集まり、形成される巨大な姿。それは大蜘蛛。以前、この遺跡の第二階層に巣を張り主となっていたナイトウォーカー。
「‥‥ふぅん。1対4か。君はそれだけ本気ってことか」
シャルロ、ジェリコが完全獣化を始め、炎蜥蜴と大蜘蛛が御影へにじり寄る。
「いいよ、分かった。帰るよ。でも僕は好奇心旺盛だからね。またいつ来るかわからない。どこかで覗いているかもしれない。それは覚悟しておいてね」
降参とばかり両手を挙げてひらひらさせ、背を向けて去っていく御影。
「ふん‥‥好奇心は猫をころすぞ」
「シャルロ様。奴は猫ではなく狸です」
「ジェリコ。無駄口はいい」
・ ・ ・
「この遺跡の、最下層の調査を行う」
示す図面はエジプト某所の地下遺跡、その断面を描いた手描きの図。入り口から斜めに潜っていき、妙な構造の第1階層。さらにそこから降りていくと、広い部屋が幾つか繋がって構成されている第2階層。第2階層から第3階層へは階段で下りられ、第3階層はだだっ広い四角い部屋になっている。
そして、さらにその下。通路も何も描かれていない、ただぽつんとある丸印。
「この遺跡は、オーパーツ工房だったと私は推測している。以前発見されたイシェドの葉も、この遺跡で作られたものと思われる。遺跡内には工房であったと判断するための設備などが確認されたわけではないが、この遺跡について記してあった石板に、それらしい記述があった。まあ、解読方法が間違っている可能性も無いことは無いが‥‥しかし、それは今回どうでもいい話だ。工房云々はどうでもいい。重要なのは『ここ』だ」
シャルロの指し示す丸印。第3階層のさらに下。
「第3階層で『ラーの瞳』というオーパーツを起動した。すると、NWの反応があった。『ラーの瞳』の効果範囲内で、第3階層にも第2階層にもNWは存在しなかった。となれば考えられる可能性は、封じられた『最下層』が存在するということだ」
広い第3階層の幾つかの箇所に、新たに小さな丸印を付けていくシャルロ。
「約10m毎のこの各点で『ラーの瞳』を起動したが、その全てで反応があった。我々に合わせてNWが移動して下さったということもまああり得るが、おそらく複数のNWが『最下層』に存在する。君たちには、まず『最下層』への道筋を探し出し、そしてそこにいるNWを排除してもらいたい。その後、我々の調査隊が中へ入る」
第3階層は、非常に広い一つの部屋である。床は2m辺の表面が平らに削られた石が敷き詰められており、『現代人が抱く第一印象は椅子』という使途不明の石が数十個、大きさはまちまちで点在している。また、壁には何かの神話を表しているように思える(人や建物の絵。あくまで『思える』レベル)壁画が描かれている。
「健闘を祈るよ。頑張ってくれ」
●リプレイ本文
『遺跡の名前と、調査責任者の名前を教えてもらえますか』
「遺跡の名前は‥‥何だったかな。調査責任者は、シャルロっていう女性です。遺跡の場所が‥‥」
『分かりました、調べてみます。資料が揃ったらこちらから連絡します』
「ええ、お願いします」
●調査初日・第3階層調査
地下遺跡第3階層は、壁一面に何かしらの絵が描かれ、見る者を圧倒した。学校の教科書に載っていそうな絵もあれば、細かい絵が並んでいて文章のように思えるものもある。当然ながら現代で使われている言語による記述は一つもない。
「すごいですね‥‥ここがもし本当にオーパーツ工房なのだとしたら、ここの絵はその製造法を表しているのでしょうか?」
御影 瞬華(fa2386)が壁画を見渡して言う。他の皆も一様に興味津々だが、一人敷島オルトロス(fa0780)だけは部屋に幾つもある石をコンコンと叩いてみたりしていた。オーパーツコレクターも、完成品にしか興味が無いということだろうか。確かに、完成品の方がすぐ金にはなるが。
「これは‥‥オシリス神、でしょうか‥‥?」
鋭敏視覚の能力で視力を水増しした夏姫・シュトラウス(fa0761)が、部屋の奥、壁の高い位置に他の絵より大きく描かれている絵を指して言う。オシリス神といえば、古代エジプトを語る上で重要な物語の一つであるオシリス神話に登場する神である。農耕の神であり、冥界も司る。
「だとすりゃ、こっちのはイシス神かな」
王権の象徴である殻竿と錫杖を持つオシリスの隣、一段低い位置に描かれている絵を見て、飆(fa3115)が言う。だが、一般に知られるそれらとは、絵の様子は少し違う。
「何だか余計なパーツが多いような気がするね」
神保原和輝(fa3843)が指摘するのは、オシリスの背に巨大な翼が描かれていること。エジプト神話の神々は頭部が動物の姿として描かれたり、ネクベト神やウアジェト神など動物そのものとして描かれたりしているが、オシリスに翼とは。ちなみにここのイシス神には手が多い。4本ある。本物は言うまでもなく2本なのだが。
各人、手分けしての調査となった。落とし穴などトラップが最下層への入り口だった場合に、NWの群れの中に誰かが放り込まれても気付かないということが無いように、互いに声を掛け合いながら、少しずつ端から調べていく。
飆が石などの配置を撮影して保存した後、越野高志(fa0356)は壁画の人物の真似をして石に座ってみたり、一人で動かせそうな石を動かして向きを変えてみたり、色々と試行錯誤をする。シャノー・アヴェリン(fa1412)は壁画を見てまわったり、皆の調査がしやすいよう照明機材の位置や向きを調整したり、歩き回る。自分の調査能力に自信が無い、という葛城・郁海(fa4807)はシャノーの照明調整を手伝いつつ、持参の明かりも併用して調査も行う。
床を叩いて反響の違いで隠し通路などを探していた飆は、他と違う音のする部分を何箇所か発見していた。だが、夏姫や敷島など力自慢を動員して床の石を剥がしてみても(厚さはそれほどでもなかった。タイルのようなもの?)その下には何も無かった。最下層の天井がデコボコしていて、音の反響が違うのだろうか。
調査を進めていくと、壁画にある法則性が見えてきた。何箇所、いや何十箇所に、同じ絵が描かれているのだ。オシリス神や文章のような絵などは一箇所だけ、風景を描いたような絵もほとんどがそこに描かれているものだけで類似したものが複数は無い。だが、手が4本のイシス神とその周囲に人間が集まっている絵だけは、壁画上に大量に存在した。椅子に見える石自体には、表面に文字が書かれていたりするでもなく、単なる石であるらしいことしか分からなかった。
●調査二日目・第3階層調査
翌日も調査は同じように始められたが、これといって発見は無かった。その代わり、分かったことが一つあった。昼食時に、越野が語った話だった。
「この遺跡は、まだ調査が始められてない?」
「どういうことですか」
「今回の調査の足しになればと思って、過去の遺跡調査について、WEAに資料の提供をしてもらえないか頼んでみたのです。そうして返ってきた答えが、それでした」
資料の請求によって得られた予想外の情報。いや。ひとり、予想外でもないふうの女性がいるが。
シャノーである。
「その可能性も、あるかもしれないとは‥‥思っていました」
「シャノー、そりゃどういうことだ?」
敷島の問いに、シャノーは話す内容を頭の中で整理する間を取ってから話し出した。以前にシャルロと仕事をした時に会った男の話、そして別の仕事にてその男から『ダークサイド』についてシャルロに聞いてみろと言われたこと。
「その話の流れからすると、シャルロはダークサイドの獣人だって事じゃねーの?」
「ダークサイド‥‥ただの遺跡調査、ただのNW絡みではないってことね‥‥」
遺跡の入り口付近で昼食をとっていた一行、辺りを見回してみるがシャルロの姿は無い。煙草を吸うと言って、昼の休憩になるや否や姿を消したままだ。
「最後には、我々を始末する気なのかもしれません。彼女の動向に注意しながら、作業を続けましょう」
「いえ‥‥この際、直接聞いてみませんか。ちょうど、帰ってきたようですし」
シャノーの言葉に皆が彼女の視線の先を追うと、街からここまで来るのに使われたジープの方からシャルロが歩いて来ていた。
「少し、話を聞かせてもらってもいいでしょうか?」
シャノーが先頭に立って切り出す。他の面々はその後ろで二人に意識を向けながら、何かあれば即座に半獣化して戦えるようにと構えていた。
「あの男性‥‥御影 永智に、ダークサイドについて、あなたに聞けば面白い反応が見られると言われました。どういうことなのか、教えてもらえますか」
「WEAに問い合わせたところ、この遺跡はまだ調査のゴーサインは出ていないのだそうです。にも拘らずあなたは調査を進めている」
「‥‥シャルロ、あんたはダークサイドなのか?」
越野に続き、葛城も問う。重ねられた質問に、シャルロは。
「まず、この遺跡に発掘許可はまだ出ていない。それは確かだ。そして、君達が思っているとおり、私はダークサイドだ」
予想外にキッパリと即答するシャルロ。
「それで、お前は何を企んで、ここで穴掘りなんかしてるんだ?」
「企むとは人聞きが悪いな。‥‥初めにも言ったが、私はこの遺跡はオーパーツ工房だったと推測している。その地下に隠し部屋があるということは、何かしら未知のオーパーツが眠っている可能性が高い。君達も知っているだろう、中国に現れた巨大なNWに、NWを指揮する白いNW。ああいったものからの被害を最小限に食い止めるために、封印されるほどの効果を持つオーパーツは必要だと私は考えた。許可やら手順やら鈍間なWEAを待っていては何年かかるか分からん。だから私は秘密裏に、独自に調査を行っている」
「それを、信じろというのですか? ダークサイドである貴女の言葉を」
御影が睨みつけたまま言う。その気になれば一瞬で銃を抜ける体勢で。
「‥‥私は君達の質問に答えた。次の質問に答える前に、こちらから聞いてもいいかな? 君達は、私のような者をダークサイドと呼んでいるが、それが何故悪だと言い切れる? 暗黒は罪か? 夜は罪悪か? ダークサイドとは獣人社会を乱す敵だなどと、一般化してほしくはないな」
「仮に悪でないダークサイドがいたとしても、『あなたが』悪ではないという証明にはなりませんよ」
「不安なら、常時私を監視していれば良い。私は別に構わんぞ」
神保原の言葉も、さらりとかわされる。
「私は世を乱すNWを駆逐するための力として、ダークサイドに身を置いた。この遺跡を調査しているのも、同じ理由でだ。もし私がこれ以上の力を持つことに問題を感じるなら、手に入る力は君達が持てば良い。それを対混沌の力として振るうなら、私はそれで満足だ」
・ ・ ・
納得したわけではなかった。だが、信用に足る材料が無いのと同時に、不信に足る材料も無いのも事実だった。結局、明かしてもシャルロにとって利は無いだろう情報を公開したという点で、ほんの少しプラス方面の認識で様子を見ることとなった。
「やっぱり、このイシス神の絵に意味があるんでしょうか‥‥」
という夏姫の言葉は、皆も同じく思うことだった。何故この女神だけ、物凄い数描かれているのか。
「『イシス』といえば、その名前が文字通りの意味だとすると、『腰掛け』という意味がありますね」
博学な御影の言葉。普段なら「へぇ〜」で終わってしまう内容だが。
「『腰掛け』‥‥椅子か?」
と、何かを思いついたのか、飆が自分でメモしていた紙と部屋内を何度も見比べる。すると‥‥見つかった。
「石の椅子と、イシス神の絵の数が同じなんだ! 絵の位置も石の大きさもまちまちだが、高さの合う石をイシス神の前に置けばいいんじゃないのか!?」
その発案はすぐさま実行に移された。小さいものから大きいものまで、壁画のイシス神が床まで降りてこれるように階段のように石の椅子を設置してやる。
「ちょっと待った」
かかる制止の声。敷島だった。
「もしこれが正解だったら、それを設置すれば道が開く。その前に、すぐ戦えるように準備しておいた方がいい」
時間帯ももうだいぶ遅くなってきていたため、準備も含めて最後の石の設置は翌日にまわされた。違っていたら時間の無駄遣いだが、これ以外に有力な考えも無い。これに賭けるしかない。
●調査三日目・最下層調査
翌日、調査最終日。準備を整えた獣人たちは、石のセットを固唾を呑んで見守っていた。どこに入り口が出来るかわからない。入り口が出来た途端にNWが飛び出してくるかもしれない。そして、外れかもしれない。
ガコッ、と音を立てて、石が壁に設置される。すると、何か硬くて重いものが落ちた音と同時に、オシリス神の壁画の下にある石のタイルがどこかへと滑り落ちていった。そこを覗き込むと、滑り台のように下のほうへ斜めに延びていく斜面がそこにあった。
完全獣化により防御力の高まった夏姫が先頭を行き、後ろの面々は携帯できる明かりを持ってそれに続く。殿はシャノーが務める。
暗闇の最下層は、幅は人が3人並んで通るほど、天井の高さは敷島が軽くジャンプすると髪が触れるかどうかくらいの通路がずっと続いていた。その両側には第3階層と同じような壁画が並んでいたが、文字の比率が多くなっており、また絵も全て関連があるようで、何かの物語を描いているように見えた。一行に混じって降りてきていたシャルロが興味深そうにそれらを観察し、何点か飆に撮影を命じる。
調査をしながら、ゆっくりと、ほんの10分ばかり経ったころ。
「シッ! 何か、来る‥‥!」
葛城の鋭敏聴覚が何かの音を捉えた。何かと言っても、正体は分かりきっている。事前の調査でも判明していたことだ。
「御出迎え様の御出座しだぜッ!!」
前方から急接近してくる何か。NW。地を蹴り飛び掛ってきたそれを、夏姫は拳を振るって叩き落す。ぐしゃ、という嫌な音を立てて、50センチほどのそれは床で潰れた。
「銃は‥‥跳弾が怖いですね」
御影と神保原は攻撃を諦め、様子見に入る。シャノーは獣人能力での戦闘を考えたが、襲い掛かってきた2体は単体ではそれほど強くないらしく、前衛達が簡単に叩き潰した。
「あっけないですね‥‥これで終わりでしょうか?」
越野が小さく呟く。と、それを掻き消すかのように、葛城が先聞いた音と同じ音。
それも、大量に。
「照明前に向けろ! ヤバいのが来る!」
照らされた通路の向こう。そこには、ついさっき潰したのと似たようなNWが通路を埋め尽くすばかりの数で押し寄せる光景があった。
殲滅? いや。
「撤退する! 第3階層に全員が戻ったら、すぐに通路を塞ぐぞ!」
急ぎ後退する皆。一体一体が強力でなくともこれだけの数に群がられては、殲滅する前に喰い尽くされる。
「急いで! 石をどかします!」
最初に出たシャノーが、全員上がってきたことを確認して石をどかす。すると通路が出来た時と似たような音がして、道が塞がれる。
あとは自分達と一緒に出てきてしまった数体のNW駆除だが、これは簡単に片がついた。夏姫や敷島や飆は最早コアを狙う必要も無いとばかりに物理的にNWを潰し、飛び掛るしか能の無いこのNWは御影や神保原のように常に一定の間合いを保ち冷静に戦う者にとっては脅威ではなかった。越野も葛城もシャノーも獣人能力を駆使することで素早いNWのさらに上を行き、あっという間に処理は完了した。
「こんな状態になっているなんて‥‥本当に、オーパーツなんてあるのかな?」
「高い確率であるだろう。最下層で見た壁の文面に、私でも読める文章があった。『我この最深部にそれを封印せり。施した14の封印は、14の鍵を必要とする。我、この封印が解かれぬことを強く願う』」
シャルロが語った言葉。封印されているものを手に入れるには14の封印を解かなければならない。そして14の鍵とは、また別のオーパーツではないだろうか。
飆がシャルロに渡した、最下層の壁画を撮影したネガ。その解析が待たれる。
●調査終了後・帰り道
飆はアジアに置いてきた彼女にと、街で腕時計を購入した。時期的には、このお土産はクリスマスプレゼントとするのが良いだろうか。何にしても、お互いのことを忘れず大切にするというのは良いことである。
敷島とシャノーなんか、一緒の仕事請けててもそういう場面カケラも見えやしねえ。