待ち人は来ず・裏方編アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/20〜04/26

●本文

●『待ち人は来ず』あらすじ
 男の職はシナリオライター。幽霊に関する特番を書くため、彼は「幽霊が見える」という女性とネットの掲示板で知り合い、取材を申し込む。
 女性との待ち合わせ場所であるバーへ向かう途中で男は事故に遭い、死亡した。しかし彼は自分が死んだことに気付かず、待ち合わせの時間が迫っているとバーへ急ぐ。

 女性から指定されたバーに待ち合わせの時間より少し早く到着した男は、店内でマスターと軽い世間話を交わす。その後時間通りに来た女性は、男に様々な霊体験を話し始める。

 女性は男に『幽霊が見えるのではなく、見た対象が幽霊であると気付く』という能力について話した。
 自分が死んだ事を理解できず生活を続ける幽霊もおり、普通の人間たちに混じって『この世』に存在しているという。
 女性の話を信じられない男に、女性は例を挙げて話し始める。

 女性は、事故に遭って死亡したことに気付かず、自分の仕事をしていた男の幽霊の話を語り始める。その話に男は質問を重ね、女性は一つ一つ淀み無く答える。

 取材を終えると、女性は用事があるとすぐ帰ってしまった。男は帰途に着く。
 すると、バーの電話が鳴り響いた。警察だった。ある事故で死んだ男のメモに、店の名前と電話番号があったと。男の名や特徴は、帰ったシナリオライターの男と同じだった。
 電話で男の死を知ったマスターは、その事を予期していたような女性と共に男を捜すことになった。

 女性との話から着想を得た男はシナリオを書く。その完成直前に、女性とマスターは男を発見した。
 シナリオのラストを書きながら、原稿を取りに来るはずの担当者を待つ男。しかし男は既に死んでいる。担当は来ない。
 とうとうシナリオを書き上げた男は、女性とマスターの目の前で消えてゆく。

 警察からの電話で聞いた、男の最期の様子。その様は、バーのカウンターで男が女性と交わしていた問いかけの答えのままだということに、マスターは気付いた。

「私の霊体験、また一つ増えたようね」
 消えた男。女性は去っていく。待ち人(の肉体)は、来なかった。

 男が、自分が死んだ事にさえ気づかず書き上げたシナリオは、世に出ることはない。
 男とシナリオが待つ待ち人は、来なかった。

●人員募集
「よし、あとはこれをウチで上演するだけっ♪」
 劇作家の円井 晋(30歳・独身・男性)がノートパソコンを片手でパタンと閉めると、彼の買いなおしたばかりの携帯が突然大音量で鳴った。
「おわわわっ‥‥」
 慌てて電話を受ける円井。電話の相手は彼が主宰する劇団『gathering star』の副代表で、次の公演の指揮を取る川上 雄吾(26歳・男性)だった。
(「ん? 次の公演?」)
『お疲れ様です、円井さん。川上っす。施設の確保ができたんで、早めに連絡しておこうと思いまして』
「んあぁぁっ! 忘れてたぁっ!」
『いつもの事っすけど電話口で叫ばないで下さい、円井さん。‥‥で、施設の押さえについて忘れてたんすか? それともまさか公演やることを忘れてたんすか?』


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 現在、私円井 晋は新作の上演に向けて活動しております。今回は、広く演劇を愛する皆様と共に舞台を作り上げたいと、裏方作業に参加してくださる方を募集したいと思っております。実際の作業においては、私の主催する劇団『gathering star』でバックアップもいたします。
 参加資格はただ一つ、演劇をこよなく愛していることが条件です。
 詳細についてはロゴをクリック、リンク先をご覧下さい。皆様のご参加、お待ちしております。

●今回の参加者

 fa0047 真神・薫夜(21歳・♀・狼)
 fa0094 久遠・望月(22歳・♂・獅子)
 fa0476 月舘 茨(25歳・♀・虎)
 fa1716 真鳥・昴(24歳・♂・鴉)
 fa1769 新月ルイ(29歳・♂・トカゲ)
 fa2361 中松百合子(33歳・♀・アライグマ)
 fa2472 守山千種(19歳・♀・ハムスター)
 fa2683 織石 フルア(20歳・♀・狐)

●リプレイ本文

●舞台プランニングと照明
「シナリオを読んだ限りじゃ、必要になりそうなのは2箇所だけだよね。暗転に使えるようなシーンもないし、上手と下手にバーと喫茶店を作って、明かりの転換で切り替えようと思うんだけど」
 月舘 茨(fa0476)が、円井と『gathering star』の照明スタッフに自身のプランを説明する。
「うん、そうだね。でもそれだと、デハケ口が一箇所ずつだけになって柔軟性が無くなっちゃうから、舞台心奥に、共通のデハケ口を一つ作ってほしいんだ。見た目的におかしくなりそうなら、喫茶店の方だけで良いや。男の幽霊が成仏して店のドアから出て行くのは痛いし」
 という円井からの要望をプランに組み入れた月舘は、他のスタッフに指示を出したり、逆にサスの回路についてなど指示を受けたりしながら、照明の仕込み第1段階を終える。
 守山千種(fa2472)と円井が喫茶店のセットに使うテーブルや椅子を運んでくると、舞台上にいるスタッフ総動員で設置と場ミリが行われる。バーにはそのものズバリのイメージ、カウンターが置かれ、喫茶店側には斜め置きでテーブルと椅子が2組追加される。
「よし、じゃあ明かり試すよ? 調整室、手空いてるー!?」

●音響作成
 調整室には二人が詰めていたが、一人はトイレに立った。
「空いている。どうした?」
 パソコンで効果音を編集していた織石 フルア(fa2683)が、マイクを使って答える。音響機材の設置を優先させたかったのだが、装置を設置してからでなければボリューム・バランスチェックは出来ず、バトンを下ろす関係上照明が決まってからでなければ装置の設置は出来ない。よって、編集作業である。
『織石か。照明卓の3番を20%でもらえるか?』
「3番を20%、了解した」
 月舘の指示通りにフェーダーを数回操作し、地明かりに戻す。舞台上では介錯棒での微調整が行われ、再度チェック。そんなこんなの内に、スタッフがトイレから帰ってきたのでバトンタッチ。と‥‥

  プルルルルッ‥‥ プルルルルッ‥‥

 ホールの管理人から調整室への電話。スタッフがフェーダーを捜査する手を休め、対応しようとしたその時。
「それだっ!」
 織石が携帯用のヘッドホンステレオを持ち猛ダッシュ。受話器を取ろうとするスタッフの手を押さえて、コール音を録音し始める。
 織石が用意しようとしていた効果音は、キータイプの音、バーのドアベル、電話の音、電話の向こう側を表現する為のノイズ、時計の針の音。コール音はそれらの内の電話の音に合致すると、織石の耳は感じ取ったのだ。
 コール数回分を録音して、やっと織石はスタッフの手を放した。あとは、ノイズチェックなど音を編集するだけだ。
 ようやく電話に出たスタッフは、伝えられたことを舞台上へ伝えた。
「小物類第2弾到着したとの事です!」

●舞台美術(大道具・音・光除く)
 新月ルイ(fa1769)と中松百合子(fa2361)がガラガラと台車に乗せて運んできたのは、舞台上のセットに配置する小物たちだった。
「円井さん、たくさん持ってきたから好きなのを選んでね♪」
 新月が空いているスペースにずらりと広げたのは、知り合いのオカマバーから借りてきたという、バーのカウンター上などに配置する小物。ちなみにオカマバーだということは円井には伏せられている。「貸してくれたバーには、一度行ってお礼をしなきゃ」とは円井の言。
 円井が選んだ小物類を、月舘や守山が指示に従って置いていく。サスで照らす範囲や演技のことも考えて、細かく配置が決定されていく。そして決まり次第、片端から場ミリ。

 その間、新月と中松は衣装とメイクについて打ち合わせていた。衣装とメイクは、共に役者を彩る、印象付ける重要なファクターである。衣装が見せたい特徴とメイクの見せたい印象がずれていると、ちぐはぐでよく分からないキャラクターが出来てしまう。また、衣装もメイクも照明の色・強さとの兼ね合いを考えなければならないし、舞台装置との色合いも考慮し、他の役者との差別かも計らねばならない。似合うから、綺麗だからこれにしようとはいかないのだ。
 マスターはすんなりと決定に至った。新月の持ってきた黒の上下に白シャツ。蝶ネクタイというバーテンダー服のステレオタイプ。あらすじを見ても奇抜なスタイルである必要は無く、他の出演者を引き立たせる必要があることから目立ち過ぎないもの。
 男性については、衣装に待ったがかかった。新月からは仕事中や自宅はジャージなど、バーではスーツ、喫茶店にはラフな格好と男の性格の分かる衣装プランが提示されたが、自宅の場面からバー(もしくは、事故のシーン)に間が無いことから衣装の早替えが難しく、また着替えに手間が掛かったりするものが多く混じってしまうと本番中にメイクを崩してしまう可能性もゼロではない。スーツは却下となり、バーと喫茶店での衣装を統一、自宅から次のシーンへの繋ぎは上にシャツを羽織る程度のチェンジに留めることとなった。
 メイクに関しては文句が出ることは無かった。シナリオライターのヘアカラーについては円井から「明るめで生気のある、生きてる感じでいこう」とあったため、ブラウン系でまとめることとなった。
 女性のプランは、新月も中松も『ミステリアス』をコンセプトにすることで一致していた。衣装は照明負けしないよう青みがかった白のAラインワンピースに、アクセントのブレスレット。メイクは暗めの髪色に代表される陰影のハッキリしたもの。暗めのメイク、白のワンピースのコントラストの中に、ワンポイントで浮かび上がるローズレッドのルージュが何とも妖しげである。
「だいたい決まってきたかい?」
 舞台のセッティングを終えた円井が話しかけてくる。その後ろからは守山。
「あ、ちょうど良かった。守山さん、メイクテストに付き合ってくれないかしら?」
「はい、あたしで良ければ」
 と、右へ左へ引っ張り凧の守山を引きつれて借りていた楽屋へ向かう中松。新月もそれについていこうとしたとき、月舘から声がかかる。
「ごめん、今あたし手が離せなくてさ! 織石がスピーカー出すの手伝ってくれない!?」

●機材設置とバランス調整
「スピーカー、壁に埋まってるのじゃ足りないの?」
「ホールの構造上、左右の壁のスピーカーから音を流すと前列の客には真横から聞こえる音になってしまう。だから舞台の奥にも追加で出すんだ」
 織石が車輪のついた移動させられるスピーカーを押しながら、新月の問いに答える。
「そっか、装置とか衣装だけじゃなく、音や光にも空間を作らなきゃならないものね♪」
 スピーカーが舞台の両袖付近に置かれた。月舘のプランではパネルなどは使われておらず、バーのカウンター以外音を妨害してしまいそうな装置は無い。
「あとは実際に曲を流してみて、上手と下手のスピーカーのバランスチェックだな」
 織石のマイクでの指示で、劇中で使用する予定のBGMが流れる。
「上手奥を少し落としてみてくれ」
 と、何度かボリュームの上げ下げを繰り返し、両方から均等に音が聞こえるように調整される。時折、月舘と打ち合わせてのセットの角度の微調整も行われた。
「今流したのは、バーのシーンで流す曲だよね」
 円井も加わって、楽曲のチェックとボリュームのチェックに移行する。
 バーの曲はバラード調の静かな曲。男が消えていく最期のシーンは、男に残された最後の時間としてSE(効果音)の時計の音だけで表現したいと提案があり、即OKが出た。そして、男が完全に消え去った後で、バーの場面で流した曲と似たイメージの曲が寂しげに流れ出す。
「BGMとSEはこんな感じですね」
「うん。SE1つ追加をお願いしていいかな。シナリオライターが事故に遭うシーンを、女性が例を挙げて話すシーンで音だけで表現したいなって思って」
 円井の注文をしっかりメモにとると、織石は編集のためにパソコンを開いた。すると、
「円井さん、試しにメイクをやってみたから見てくれないかしら?」
 その中松の声の方向には、メイクに加え衣装も着せられた守山がいた。

●裏方仕事は芝居の根
 『幽霊の見える女性』の衣装とメイクを施された守山を、円井と新月、中松が様々な角度からチェックする。
「どう、動き難かったりしない? そのワンピース」
「はい、大丈夫です」
 着物で演歌を歌う仕事を多くこなしてきた彼女だが、洋服で舞台メイクも似合っている。
「うん、いいね。じゃあ、メイクと衣装はこれで行こう。お疲れ様、中松さん、新月さん」
 プランにOKが出たところで、不意に守山が口を開いた。
「あたしは今まで舞台に立つ側でしたけど、裏ではスタッフさん達がこれだけ動き回っているんですね」
「そうよ。この『待ち人は来ず』も、企画段階からたくさんの人達が関わってる。スタッフの仕事は企画から、準備、本番、後片付けまで。目立たないけど、重要な仕事よ♪」
 新月の言葉に、織石が続ける。
「舞台とテレビじゃまた違うところもあるんだろうけど、出演者が見る者に伝えようとしている事を、しっかり伝わるように一緒になって努力するのがスタッフの役目だ」
「意外と、そういう事を理解してない役者っているのよね。裏方の重要さってのを身をもって知ったのは、大きいと思うわ」
 中松が言い終えると、その日の仕事を終え集まってきたスタッフ達を月舘が見渡し、仕事の完遂を宣言する。
「そんじゃ、今日はお疲れ様でしたっ!!」