奏デ歌ウ想イ ―遁走曲アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.6万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 12/21〜12/25

●本文

●奏デ歌ウ想イ
 奏歌楽士と呼ばれる者たちがいることを、おそらくあなたは知らないだろう。
 世界は調和の下に成り立っている。世界各地で大なり小なり争いは起きているが、それも調和の中の一部分。
 『歪』。それは世界に生じた歪みとも、もともと存在していたが気づかれなかった歪な部分とも。『歪』が世界に生まれた瞬間、調和は乱される。

 世界の調和のため、日夜人知れず『歪』と戦う奏歌楽士たち。
 この『奏デ歌ウ想イ』は、彼ら奏歌楽士たちの戦いの記録を記す特撮番組である。

●『奏デ歌ウ想イ』の世界
 奏歌楽士とは、『奏(ソウ)』『歌(カ)』と呼ばれる特殊な能力を使用して『歪(イビツ)』と戦う者たちのことである。『奏』を使用する者を『奏士(カナデシ)』、『歌』を使用する者を『歌士(ウタシ)』という。
 『歪』とは、特定の形を持たず宙に浮く影のような存在である。これが人や物に取り付くことによって、『歪』として本来の力を行使し世界の調和を乱しはじめる。
 楽士たちは世界各国にある楽士協会に所属し、そこから下される指令によって『歪』退治を行う。楽士協会は、楽師(マイスター)と呼ばれる強力な力を持つ数人の奏歌楽士によってその上層を構成され、『歪』の調査と退治、奏歌楽士の訓練、新たな楽士の育成を行っている。

 『奏』『歌』とは、楽士たちが行使する特殊な能力で、専用の特別な楽器を弾く、または歌を歌うことで発動する。
 楽器という増幅装置がある分『奏』は強力な力を行使できるが、楽器の形状や大きさにより取り回しの利きにくい状況があるという弱点をもつ。また一般人には奏歌楽士たちや『歪』の存在を知られてはならないため、楽器が無ければ力を発揮できない奏士は時にただの人間でしかない。
 対して『歌』は歌士が歌える状態であればいつでも発動可能だが、白兵戦用の武器を生成することを苦手とし、また増幅装置が無いぶん一部の強大な楽師を除き行使する能力の威力では『奏』に見劣りしてしまう。

●出演に当たって
 出演者にはこれらと以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定、毎回提示される目的の達成を目指してほしい。

【能力】「奏」もしくは「歌」を選択。
【ジャンル】能力の種類を設定。いずれか一つ。
 奏‥‥白兵(+5)、単体射撃(+3)、複数射撃(+2)、散弾/扇状/放射(+1)、回復(+3)、補助(+3)
 歌‥‥単体射撃(+4)、複数射撃(+3)、散弾/扇状/放射(+3)、回復(+3)、補助(+4)、修復(+5)
【射程】能力の射程を選択。いずれか一つ。
 奏‥‥短(+5)、中(+3)、長(+1) ※短:0〜1m 中:1〜12m 長:12〜100m
 歌‥‥短(+4)、中(+4)、長(+2)
【効果】4つのパラメータに合計20ポイントを1〜15の範囲で振り分けてください。
 威力/効果:破壊力、回復力など。
 速度:演奏・歌唱から発動までの速度。射撃であればその弾速。
 持続:その能力が発動してからどれだけの時間効果を持って存在し続けるか。
 安定:発動確率、効力の安定、妨害に対する抵抗。
【回数】能力を一日に使用できる回数。
 ジャンルと射程を決定後、()内の数値を足した数。
 パラメータポイントを2点消費することで使用回数+1することも可。
【その他】能力についての注意点
 『奏士』と『歌士』の掛け持ちは不可。しかし、『奏士』なら『奏』、『歌士』なら『歌』の複数習得は可能。
 能力複数習得の場合、各能力に振り分けるポイントの総計は20点のまま。
 例1)ヴァイオリンの奏士。曲を弾くと剣。長く弾く程強い剣になる‥‥1つの能力扱い
 例2)演歌を歌う歌士。A曲を歌うと味方が強くなり、B曲だと敵が遅くなる‥‥2つの能力扱い

<キャラクターテンプレート>
キャラ名:
能力:能力・ジャンル・射程/効果:威力・速度・持続・安定・回数
備考:

<テンプレート見本>
キャラ名:香月
能力:奏・白兵・短/効果:6・7・3・4・10
備考:楽器はヴァイオリン。弓が光の剣になる。

※皆さんが演じるのは原則として楽士協会所属の奏歌楽士です。一般人、フリーの楽士、マイスターは現在選択できません。

 前回、新人楽士『コウ』または『ナギ』を演じられた方、もしくは今回演じる方は、パラメータポイントの振り直しが出来ます。前回と違い今回のポイント上限は20です。

 もうひとつ、『ナギ』の設定に誤植がありました。
(間違い)<能力:歌・白兵・短>
(正しくは)<能力:歌・散弾・中>
 以降『ナギ』を演じる方は、以下の1・2のどちらかで参加してください。
(1)正しいデータの方で参加
(2)『白兵』→『散弾』とし、射程は『短』のままで参加

●遁走曲
『こちら転送弦之壱。所属不明の部隊、未だ確認されず』
『情報弦之六。発見できません』
 楽士協会の支部の一つである日本楽士協会は大騒ぎだった。日本楽士協会の周辺をエリアとする対歪・対楽士のレーダーであり通信歌である『転送弦之壱』はフル稼働、一般の歌士の使用できる通信歌『情報弦』も、幾つかの楽士のグループに割り当てられ走り回っていた。その原因は。
『緊急! 情報弦之参より緊急! 発見しました! 現在交戦中!』
「分かった。すぐに手近な楽士を増援に向かわせる。それまで逃がすな」
 日本楽士協会の楽師(マイスター)、桐原 藤次が指示を出す。すぐさま返って来る『了解』の言葉。
 この日、日本楽士協会への侵入者が発見された。この日に潜入したわけではなく、だいぶ以前から潜伏していたようだ。侵入者は奏歌楽士。所属は不明。目的もまた『建前上は』不明。エリア境界での感度を上げた『転送弦之壱』に誰もかかっていないことから、発見したというその不明部隊が、侵入者の本隊だろう。これを陽動とし、一部が逃げおおせたという可能性はきわめて低い。
「マイスター・トウジ。奴らの狙いは、やはりアレでしょうか?」
「『狙いは』間違いなくアレだろう。ただ『目的は』分からん。どこの楽士かによるな」
 『情報弦之参』に一番近い楽士たちのグループとの連絡が取れた。現在交戦中の部隊と合わせれば、簡単には逃げられないだろう人数。相手の技量次第ではあるが。

 奏歌楽士たちに下された指令。それは日本楽士協会に潜入し何かを探っていたと思われる正体不明の楽士たちを『生きたまま』捕らえること。だが、生け捕りが不可能ならば最悪始末しても構わない。

「世界の調和のために。我々の敵を、調律せよ!」

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1359 星野・巽(23歳・♂・竜)
 fa1609 七瀬・瀬名(18歳・♀・猫)
 fa2467 西風(58歳・♂・パンダ)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa3060 ラム・クレイグ(20歳・♀・蝙蝠)
 fa3742 倉橋 羊(15歳・♂・ハムスター)
 fa4579 (22歳・♀・豹)
 fa4717 金緑石(21歳・♂・狐)

●リプレイ本文

●OPキャストロール
リディア・レヴァイン‥‥ラム・クレイグ(fa3060)
美樹 秋緒‥‥檀(fa4579)
黒崎 蛍雪‥‥明石 丹(fa2837)
三日月 一‥‥西風(fa2467)
如月 楓雅‥‥星野・巽(fa1359)
如月 春燈‥‥富士川・千春(fa0847)
久瀬 灯‥‥倉橋 羊(fa3742)
城崎 香佑‥‥金緑石(fa4717)
日下部 凪‥‥七瀬・瀬名(fa1609)
旭 貴朔‥‥柊ラキア(fa2847)

●走れタイヤキ隊
 どこにいるのか分からない『敵』。その発見と捕縛のため、楽士協会日本支部の奏歌楽士たちは休憩も無しに走り回っていた。
「おっちゃん、タイヤキもう一個」
「焦らんでいいぞ、まだたくさんあるでな」
「ん、ひゃああはひも(じゃあ私も)」
「春燈、食べながら話さない」
 休憩も、無しに‥‥

 ‥‥気を取り直して。
 如月 楓雅、春燈の兄妹に三日月 一、久瀬 灯、城崎 香佑、旭 貴朔の6人は、一団となって協会敷地内に侵入した所属不明の楽士を探していた。その最中に、腹が減っては戦は出来無いということで一が持ってきたタイヤキを食べていたのだ。断じてサボっていたわけではない。そう、断じて。
「クーリスマスっクリスマス! さっさと帰ってクリスマス!」
 ほらサボってない。やる気充分。残念ながら彼を止める竪琴の主はここにいない。
 歩き、周囲を警戒しながら、タイヤキを食べる一行。と、突如響く携帯の着信音。
「私の電話ね」
 春燈が携帯を取り出す。通信歌『情報弦』を使用できない楽士は、連絡手段として普通に携帯電話を使用しているのだ。
 ところで『情報弦』が携帯より優れている点は、その気になれば大きな映像も送れること、複数個所同時通信が可能なこと、逆探知・通信傍受をされないことなどである。
「はい、巡回部隊之伍、現在タイヤキ中です」
『タイ‥‥何?』
「あっ、いえ、何でもないです!」

●途切れた弦
 ガラスの割れるような大きな音を立てて、リディア・レヴァインが張っていた結界が破られる。続き飛来する氷の弾丸の嵐を迎撃しようと日下部 凪が光の散弾を放つが、それでも多くがそのままに降り注ぐ。
 『情報弦之参』部隊は窮地に陥っていた。訓練を終えたばかりの凪が前線で戦わなければならない状況からもそれは分かる。彼女と、現在部隊をまとめている歌士の黒崎 蛍雪だけが、戦闘可能な戦力だった。美樹 秋緒は後方で回復の『奏』を奏で、重傷を負った『情報弦』の歌士を治している。
 所属不明の楽士達と相対して10分少々、今の人数比は4対4。それでも防戦一方となっているのは、敵の技量がこちらを圧倒しているからだけではない。蛍雪は気付いていた。
「凪。2発、出来るだけ一箇所に集中して撃ち込んでくれるかな。せめて一撃くらいは返しておこう」
 凪の肩をぽんと叩いて、蛍雪は敵の動きを見る。凪が紡いだ無数の詞の散弾は、敵楽士へ直撃のコースを取って‥‥
(「‥‥左!」)
 回避行動をとった敵楽士の動きに合わせ、蛍雪は自分も『歌』を紡ぎつつ走る。サイドに跳んだ敵が着地する一瞬の隙を狙い、その足元に扇状に伸びる光を放つ。思惑は、敵の機動力殺し。
 蛍雪の『歌』が敵に当たろうかというその時。光の扇が『歪んだ』。光は幾つもに千切れ、それを構成していたスペクトルにまで分解されて消えていく。おそらく、リディアの結界に近い『奏歌』が張られたのだろう。
 それでも、隙が出来た。蛍雪はリディアの元へと駆け寄って、声をかけた。
「リディア。どうしたんだい?」
「え‥‥」
「『歌』に迷いがあるよ。何が君の結界を歪ませているの?」
「‥‥彼らは、」
 リディアには憧れている先輩楽士がいる。今は日本の協会にはいないが、今も心の中にいて、忘れていない。その先輩を通して、多くの楽士たちとも知り合えた。
 その、知り合えた楽士達が。今、目の前にいる。
「‥‥リディア。気持ちは分かるよ。迷えばいい。迷うことは悪いことじゃない。それを乗り越えた時、一回り成長した自分を見つけられる。でも、時を考えなくちゃいけない。迷え、好きなだけ。でもその前に、今すべきことを考えて。分かるね?」
「今、すべきこと‥‥私は‥‥」
 過去に、誓った。リディアは、自分の『歌』を何のために使うのか。
 体勢を立て直した敵楽士から、また氷の弾丸が放たれる。
(「私は、護りたい‥‥!」)
 再度張られた結界が、氷の弾丸を受け止める。今度は砕けず、逆に弾丸を砕き返す。
「よし‥‥あとは何とか、こっちから反撃したいけど。間合いを詰める。秋緒、フォロー宜しくね」
 フォローといっても、回復の奏士秋緒には攻撃手段が‥‥あった。
「でも、これで殴るっていっても大したことは‥‥」
「大丈夫。相手は『足』だって思い込んで。強い思いは、結果を引き寄せる」
「‥‥ええ!」
 いいのか。と言うか、何のこっちゃ。

●女王の共音
 高速で飛来する、巨大な光の矢。それは『情報弦之参』部隊の頭上を通過して、敵楽士のもとへと着弾する。直後、爆発。
「これは‥‥灯?」
 秋緒の言葉通り、振り返るとそこには見知った面々が。
「無事ですか、先輩。相手は、奏歌楽士ですか‥‥」
「楓雅、『斥候の砂嵐』を。それでこちらの動きを悟られず、相手の動きを把握できます」
 灯に最大級の一発を撃たせ、敵に一時的なプレッシャーをかける。その指示が功を奏し出来た時間で増援部隊が合流した。そこに、リディアは即座に指示を出す。
「『砂の嵐よ風よ ノイズ奏で盾となれ 我に伝えよ風の行方』」
 歌いだしたリディアに、楓雅もすぐ対応してフルートを奏でる。リディアの『歌』により淡い光を帯びた球体が空中に現れると、それを楓雅が放った竜巻が覆い、目的の場所へと飛んでいく。そして、爆発。爆風に乗って、小さな光の破片が辺りに満ちる。
 共音『斥候の砂嵐』を攻撃と勘違いし構えていた敵達は、それが破壊をもたらさず散ったのを見届けると、そこから姿を消した。おそらく、遅効性の能力低下の奏歌をかけられたと思ったのだろう。蛍雪達の目的は自分達の捕縛なのだから。
 目的はその通りだ。だが、方法が違う。『斥候の砂嵐』は調査・妨害結界。相手の行動を妨害すると共にその情報を伝える。範囲内にいれば、どこに隠れても見つけられる。
「これで、少しは準備を整える時間が出来ましたか‥‥」
 怪我のまだ治りきらない『情報弦』の歌士の治療を一が始めるのを見ながら、蛍雪が言った。
「け、け、蛍兄ぃぃぃっ!!」
 ゴーン!
 声と同時に蛍雪へダイビングし地面にめり込んだ貴朔と、そっぽを向いて知らぬ振りの秋緒。何が起こったのか気付いていないのは蛍雪だけで。
「貴朔、久しぶりだね。あれから、秋緒はよくしてくれていたかい?」
「全然! 聞いてよ蛍兄、あれからずっと阿鼻叫喚の地獄絵図で大奥よりキッツい姑のいびりが‥‥」
 話しながらも時々秋緒の方を見て警戒する貴朔。しかしゴーンは飛んで来ない。いや、今にも炸裂しそうになったりは何度かしているのだが。ちょっとこの人の見ている前では出来ない。
 貴朔には、新人楽士としての数年、秋緒が目付け役としてついて指導していた。その時期の悪夢について触れるのは別の機会とするが、秋緒の指導を悪夢と彼が感じるのは、秋緒の前に彼の目付け役をしていた蛍雪の優しさ(?)が原因の一つとなっている。
「黒崎君、『歌』はまだ充分に残っているかね?」
 怪我の治療を終えた一が、蛍雪に問う。一は日本楽士協会では珍しい、奏歌を使用するための精神力を回復する『歌』が使える歌士なのだ。
 奏歌の使用限度が増えるということは、それだけその楽士達は長い時間力を振るえるということ。一はその『歌』を持つがゆえに、若い時からずっと前線で働いていた。そして、年老いた今、今日この任務が、彼の最後の歌士としての仕事である。この後には隠居か、本部勤めという裏方か、彼の選択によって道が用意されている。
「まだ3分の1ほどは。増援とも合流できましたし、三日月さんの『歌』はまだ使わずに温存しておくのが良いのではないでしょうか」
「『欠けてなお満ちる希望の光 導きたまえ淡き月よ 黒崎蛍雪、遥か遠き何処を目指す彼に救いあれ』‥‥黒崎君、今回の敵は阿呆な歪などではなく、ちゃんと思考する人間じゃ。補給を渋っていて、いざ欲しい時にわしが歌えん状態になっていたら、その時には負けしか無いぞ。‥‥戦いは、常に万全の準備をして臨むことが大事じゃ」
「そうですね‥‥ありがとうございます」

 ・ ・ ・

「敵を捕らえます。春燈と楓雅に秋緒と私で共音、『蜘蛛の女王』を」
 リディアの一言で、皆は行動を開始した。
 『斥候の砂嵐』による探査で敵楽士達を再発見した楽士達は、敵を包囲し攻撃を始める。そんな中で‥‥
「おい、もうちょっとマシな攻撃は出来ないのかよ!?」
「そんな事は、自分がマシな攻撃をしてから言ってくれ‥‥」
 口喧嘩をしながら攻撃する灯と香佑。本来ならここに秋緒のゴーンが入って停戦、再度攻撃となるのだが‥‥
(「よし、意識がこっちに向いた‥‥しくじるなよ、新人‥‥」)
(「こいつの作戦にしては、うまくいってるな‥‥正念場、しくじるなよ‥‥」)
 意識的に力の抜けた攻撃を繰り返す二人。そう、彼らは囮である。

「手ぇ貸せよ、新入り。ヘボ攻撃なら得意だろ」
「‥‥あ!?」
「オレも、人のこと言えないけどな」
「‥‥解った、手は貸す。何をすれば良い?」

 灯の立てた、敵の狙いを自分達に向けるための作戦。リディア提案の作戦の成功のためには、これの成功が絶対条件だ。
(「今回だけは、失敗するわけにはいかないんだ‥‥!」)
 失敗の許されない戦い。一生に一度の戦い。この任務が終われば、一が引退する。歴戦の楽士として彼に憧れのような気持ちを抱いている灯は、彼の最後の任務を失敗で終わらせたくはなかった。
 敵の楽士が手の楽器を構え、攻撃準備に入る。そこへ、横合いから放たれる光弾。
「二人に攻撃なんてさせません!」
 凪の散弾が敵の注意を惹き、攻撃のタイミングを逃させる。彼女のこの作戦での担当は、囮役の二人の援護。多少の不足が見られる体力を使い切ってでもと走り回り、攻撃を放つ。凪のこのいざと言う時の頑張りは楓雅と合流してからスイッチオン。
「よし、ここでいいだろう。上達を見せてもらうよ、貴朔」
「任せて、蛍兄っ!」
 蛍雪が放つ光の扇が敵楽士に迫る。それの着弾前に、貴朔が放った『歌』の弾丸が扇を突き抜けて十字を刻む。『歌』のエネルギー同士がそれぞれに融合・反発し合いながら、新たに生まれたエネルギーを周囲に撒き散らす。『共声』、『グランドクロス』。貴朔が新人時代に「まず必殺技!」とねだって編み出された技。完成から数年、威力は数倍に跳ね上がっている。
 わざと十字の中心点をずらし、『グランドクロス』は敵楽士達の足元の地面を切り裂いた。同時に起こる爆風が彼らの視界と聴覚を一時的に奪い去る。
「『風雷に紡がれし糸解けず その身を心を捉え眠り誘う』‥‥」
「これでっ‥‥絶対逃がさない!」
「春燈、暴れるな。逃げ道をひとつひとつ、全部潰すんだ!」
 リディアの結界の『歌』が乗せられた春燈の雷は、楓雅の風に導かれて逃げ道無く敵を包み込む。『グランドクロス』の流れ弾が網に開けた穴は、秋緒が付与した結界自己修復力によって復元されていく。
 対象の捕縛を目的とした『共音』、『蜘蛛の女王』は、敵楽士達に絡まり縛り上げ、彼らの意識を闇の中へと落とす。
「訊きたい事は沢山あるけれど‥‥今は、おやすみなさい」

 ・ ・ ・

「で? 何で俺まで殴られなきゃならないんだ?」
 ゴーンを喰らった頭をさすりながら、空いている手で灯の頬をつねる香佑。灯の反撃の頬つねはさらなる喧嘩の火種となり、即ちそれはもう一発。
 ゴーン。
「‥‥感心したんだが‥‥あの時だけは」
 囮作戦。灯の姿を見て嬉しかった楓雅だったが、やはりもう一歩、なんか足りない。本当は『グランドクロス』発動後まででよかったのに、ギリギリまで敵を引き付けようと残っていた灯と、それに付き合わされていた香佑。巻き添えくって一緒におネム。
「まあ、何事もすぐには先へ進まんじゃろう。それでも何かは必ず前へ進んでおる。焦ることなく、確実に歩むのが良い」
 皆の負っていた軽い怪我を、ひとつひとつ治していく一。この辺自然治癒推奨の秋緒とは反対の考えだが、傷を負った彼らを、今までに自分の力が及ばずに亡くしてしまった仲間と重ね合わせたがゆえの行動。
「焦りは必ず、無理無茶を呼ぶ。それが傷の原因になっても、それで学習出来るなら安い対価じゃ。だが、時に無理をした代償は怪我じゃ払えん時もある。命を完全に失っては、少々の怪我と違って取り戻すことは出来ん。‥‥無理をせずに、頑張ってゆけ。抱いとる思いは、努力の末には必ず叶えられるじゃろう。わしは、おまえさん達が生き延びて、いつかマイスターと呼ばれる日が来ることを祈っておるよ」

●タイヤキナイトとキナ臭さ
 一の差し入れのタイヤキを主戦力に、任務で休みを潰されまくった楽士達はクリスマスパーティーを繰り広げた。パーティーでの主な議題は、『タイヤキをどこから食べるか』。頭から、尻尾から、背から、腹から。割って食べる者もいれば、中の餡子だけ吸い出そうとしてゴーンされる某『足』も。
 その合間に蛍雪は、今回の事件に関しての報告に戻り。
「ところで、あの奏歌楽士達は一体‥‥?」
「現在調査中だ。判明し、諸君らが知る必要のある事があったなら、その時に連絡しよう」