奏デ歌ウ想イ―舞曲・前アジア・オセアニア
| 種類 | シリーズ |
|---|---|
| 担当 | 香月ショウコ |
| 芸能 | 2Lv以上 |
| 獣人 | 1Lv以上 |
| 難度 | 普通 |
| 報酬 | 3.6万円 |
| 参加人数 | 8人 |
| サポート | 1人 |
| 期間 | 12/28〜01/01 |
●本文
●奏デ歌ウ想イ奏歌楽士と呼ばれる者たちがいることを、おそらくあなたは知らないだろう。
世界は調和の下に成り立っている。世界各地で大なり小なり争いは起きているが、それも調和の中の一部分。
『歪』。それは世界に生じた歪みとも、もともと存在していたが気づかれなかった歪な部分とも。『歪』が世界に生まれた瞬間、調和は乱される。
世界の調和のため、日夜人知れず『歪』と戦う奏歌楽士たち。
この『奏デ歌ウ想イ』は、彼ら奏歌楽士たちの戦いの記録を記す特撮番組である。
●『奏デ歌ウ想イ』の世界
奏歌楽士とは、『奏（ソウ）』『歌（カ）』と呼ばれる特殊な能力を使用して『歪（イビツ）』と戦う者たちのことである。『奏』を使用する者を『奏士（カナデシ）』、『歌』を使用する者を『歌士（ウタシ）』という。
『歪』とは、特定の形を持たず宙に浮く影のような存在である。これが人や物に取り付くことによって、『歪』として本来の力を行使し世界の調和を乱しはじめる。
楽士たちは世界各国にある楽士協会に所属し、そこから下される指令によって『歪』退治を行う。楽士協会は、楽師（マイスター）と呼ばれる強力な力を持つ数人の奏歌楽士によってその上層を構成され、『歪』の調査と退治、奏歌楽士の訓練、新たな楽士の育成を行っている。
『奏』『歌』とは、楽士たちが行使する特殊な能力で、専用の特別な楽器を弾く、または歌を歌うことで発動する。
楽器という増幅装置がある分『奏』は強力な力を行使できるが、楽器の形状や大きさにより取り回しの利きにくい状況があるという弱点をもつ。また一般人には奏歌楽士たちや『歪』の存在を知られてはならないため、楽器が無ければ力を発揮できない奏士は時にただの人間でしかない。
対して『歌』は歌士が歌える状態であればいつでも発動可能だが、白兵戦用の武器を生成することを苦手とし、また増幅装置が無いぶん一部の強大な楽師を除き行使する能力の威力では『奏』に見劣りしてしまう。
●出演に当たって
出演者にはこれらと以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定、毎回提示される目的の達成を目指してほしい。
【能力】「奏」もしくは「歌」を選択。
【ジャンル】能力の種類を設定。いずれか一つ。
奏‥‥白兵（＋5）、単体射撃（＋3）、複数射撃（＋2）、散弾／扇状／放射（＋1）、回復（＋3）、補助（＋3）
歌‥‥単体射撃（＋4）、複数射撃（＋3）、散弾／扇状／放射（＋3）、回復（＋3）、補助（＋4）、修復（＋5）
【射程】能力の射程を選択。いずれか一つ。
奏‥‥短（＋5）、中（＋3）、長（＋1） ※短：０〜１ｍ 中：１〜１２ｍ 長：１２〜１００ｍ
歌‥‥短（＋4）、中（＋4）、長（＋2）
【効果】４つのパラメータに合計２０ポイントを１〜１５の範囲で振り分けてください。
威力／効果：破壊力、回復力など。
速度：演奏・歌唱から発動までの速度。射撃であればその弾速。
持続：その能力が発動してからどれだけの時間効果を持って存在し続けるか。
安定：発動確率、効力の安定、妨害に対する抵抗。
【回数】能力を一日に使用できる回数。
ジャンルと射程を決定後、（）内の数値を足した数。
パラメータポイントを２点消費することで使用回数＋１することも可。
【その他】能力についての注意点
『奏士』と『歌士』の掛け持ちは不可。しかし、『奏士』なら『奏』、『歌士』なら『歌』の複数習得は可能。
能力複数習得の場合、能力に振り分けるポイントの合計は２０点のまま。
例１）ヴァイオリンの奏士。曲を弾くと剣。長く弾く程強い剣になる‥‥１つの能力扱い
例２）演歌を歌う歌士。Ａ曲を歌うと味方が強くなり、Ｂ曲だと敵が遅くなる‥‥２つの能力扱い
＜キャラクターテンプレート＞
キャラ名：
能力：能力・ジャンル・射程／効果：威力・速度・持続・安定・回数
備考：
＜テンプレート見本＞
キャラ名：香月
能力：奏・白兵・短／効果：６・７・３・４・１０
備考：楽器はヴァイオリン。弓が光の剣になる。
※皆さんが演じるのは原則として楽士協会所属の奏歌楽士です。一般人、フリーの楽士、マイスターは現在選択できません。
●舞曲
楽士協会日本支部の建物内は大騒ぎとなっていた。捕らえた所属不明の楽士（いや、技量を見れば楽師レベルか）達が脱走したのである。
何故そのような事態になったか。捕らえた楽士の武器である楽器は奪ったはずであった。
いや。武器は奪われてなどいなかった。各々に楽器を携え戦っていたあの楽士達は、奏士でなく、歌士だったのだ。能力のフェイクを見破れなかった楽士協会日本支部の面々は、楽器を奪っただけで安心し、情報を聞きだすために口を自由にしたのだ。即座に下される、再捕縛指令。そしてその一方で。
「転送弦之壱に反応多数！ これは‥‥楽士１０、歪と思われる反応３８！」
異例の出来事であった。捕らえられた楽士達が脱走する隙を作るために、彼らは再襲撃をかけたのだろう。だが驚くべきはそこではなく、楽士と歪が共に、統率された動きを見せていること。
「慌てるな。おそらく、本物の歪など混じっていまい。あれはダミーだ」
マイスター・トウジはそう断言する。だが、歪の隠蔽など正体不明の能力を使ってきた相手だけに、可能性は低くとも断定は出来ない。
「迎撃部隊を出せ。正面に１８、左右に１０ずつ。誘い込んで包囲、殲滅しろ」
奏歌楽士たちに下された指令。それは、協会に向かってくる謎の部隊の迎撃。
一兵たりとも、逃してはならない。
「世界の調和のために。我らの敵を、調律せよ！」
●リプレイ本文
●ＯＰキャストロール如月 春燈‥‥富士川・千春（fa0847）
葉月 舞‥‥月見里 神楽（fa2122）
美樹 秋緒‥‥檀（fa4579）
城崎 香佑‥‥金緑石（fa4717）
黒鵜 ルイ‥‥海斗（fa1773）
アイリーン・クィンス‥‥アイリーン（fa1814）
カナン 藤堂‥‥カナン・澪野（fa3319）
二宮 千鶴‥‥欅（fa5241）
●右翼部隊、雑魚散らし完了
「結構、こっちに数が集まってるよ」
黒鵜 ルイが二宮 千鶴と共に使用した共声『蛍火』が敵の居場所を伝えた。楽士・歪合わせて４８いるうちの、２２がこちらへ向かってきていた。残りは左翼と正面部隊にそれぞれ１３ずつ。
「２２‥‥そんなに？」
「大丈夫よ、カナン。もし勝てなければ、私の結界で篭城よ。クィンスの結界、そうそう破られたりはしないわ」
結界奏歌の本家とも言えるイギリスの名門一族の一人であるアイリーン・クィンスが胸を張って言う。だが、ヴィオラを抱くカナン・藤堂の不安はなかなか消えない。彼（彼女、ではない）の不安は、敵に勝てるかどうかではなく、別の所にあるからだ。
（「でも、頑張らなくちゃ‥‥頑張るって香佑さんに言ったんだから」）
左右に部隊が分かれてしまった香佑とカナンは、訓練でよく顔を合わせた新人仲間だ。カナンが兄のように思っている香佑は、カナンが海外へ研修に行っている間に初任務をこなし、一足先にデビューした。それゆえに少し遠い存在に感じてしまっていたのだが、作戦開始前に現場で会った香佑は変わっていなかった。
「見た感じ、歪モドキばっかりみたいだな。生かしておいてとっ捕まえる必要も無いんだ、まとめて墓送りでいいか」
「じゃ、『鬼火』いっとく？」
「そうだな。カナンも麻痺よろしく」
「ちょっと、貴方敵の能力も調べずに‥‥」
「アイリーンは防御支援よろしく」
アイリーンの注意をさらりと流し台の三角コーナーに捨てた千鶴はえ？ と戸惑っているカナンをひょいと抱えて歩いていく。近距離で敵にぶつけることで威力の増す千鶴の『歌』は、最前線でこそ真価を発揮する。‥‥その『歌』に別の奏歌を絡める時には他のメンバーも一緒に最前線に立たなければならないことも多く、ありがた迷惑でもあるが。発動、発射、着弾、影響のスパンが短い能力は、他と連携して運用する難易度は高い。
「じゃ、僕から始めるよ！ 『彷徨う鬼火、触れれば動けず』」
ルイの『歌』が始まる。周囲の空間を徐々に満たしていく薄い光のヴェール。それと同時にカナンがヴィオラを奏で、千鶴の『歌』を待つ。
「とりあえず、狙いはアレとアレと‥‥いいや、適当で」
言って鼻歌を『歌』い始める千鶴。中空に次々と生まれる炎の弾丸。それにカナンの『奏』で光が宿り、発射！ と同時に、瞬時にその姿を消す。
ルイの『歌』は空間を操る。彼の『歌』の光が覆ったこの空間内では、彼が望んだものが姿を消す。光の屈折を操り、光学迷彩を施されたようになるのだ。これを回避するには、前面に防御結界を展開するか、急いで射程外まで逃げるか、運よくコケるかしかないだろう。
突如、歪たちの眼前に出現する炎。それが次々に歪を撃ち抜き、同時に歪はその動きを止め、不自然な体勢で地に倒れていく。カナンが炎の弾丸に付与した追加効果、麻痺である。
カナンが得意とするのは妨害系の『奏』である。彼が放つ攻撃は、受けたものの動きを強力に阻害する。この能力は戦闘において重宝される。相手の動きを封じるだけならアイリーンの結界で囲んでしまうことでも可能だが、捕らえた相手に攻撃をするとなれば、その結界ごと叩き壊さなければならない。また歪や楽士のほんの一部には『結界解除（バリアキャンセラー）』という一瞬で結界を崩壊させる能力を持つ者も存在する。
「何だか私の出番が無かったわね」
「さて、残った奴らは適当に撃ち抜いてくるとして‥‥そろそろいい頃合か。左翼と合流して、敵を挟み撃ちだ」
言って鼻歌を歌いながらその辺を散歩する千鶴。次々に生まれる炎が動けない敵にドカドカ撃ち込まれていく。なんて凶悪な散歩だ。
「じゃ、僕が光の翼で向こうに連絡してくるね。向こうには‥‥秋緒先輩がいる！ 先輩に言ってくれば大丈夫だよね」
●戦闘は一人が頑張る左翼
「お正月なのにっ！ なんで戦闘なん」
ゴーン！
「うぁー、怖ぇ怖ぇ‥‥」
「回を重ねるごとに強力になってく感じね」
頭上をヒヨコが回る旭 貴朔を見て如月 春燈は苦笑いを、城崎 香佑は二の舞にならぬよう抜けていたやる気を身体に無理矢理呼び戻す。
「旭さんピヨってるけど、何があったの？」
「あなたを追いかけるのを渋ったからよ。一大事なんだから頑張らないと。ね、香佑？」
「‥‥そーだな」
そもそもは、左翼での迎撃指令が出た直後に訓練中だった葉月 舞が飛び出したことにゴーンの原因があるのだが、その辺は気にしない。
「敵は楽士と歪ダミーらしいけど、歪が本当にただの数合わせのダミーなのかは分からないわ。今回が初陣のあなたは、一人で戦うには危険ですよ」
「そうよ。何度か戦いを経験しても一人で突っ走ってカス攻撃を撃ってピンチになる奴だっているんだから」
その頃、どこかでそいつがクシャミしたとかどうとか。
「大丈夫、舞は待ちくたびれるくらいまで訓練したんだよ！ ただの新人じゃないんだよ！」
「だったら、お喋りやめて手伝ってもらえないか？」
いつの間にか目の前に現れていた数体の歪。それをチェロの弓が変化した長柄斧で香佑が軽くいなしていた。一人で。
左翼に割り振られたのは１０人だが、その全員がまとまって行動しているわけではない。敵部隊の動きの速さや戦力分布を調べるため、数人が先行している。
「じゃあ、迎撃のついでに『共鳴』の練習もしよっか」
「春燈さん、アンプは無くても大丈夫なの？」
「大丈夫よ、アレは『奏』とは関係無いの。気分で使ってただけだから」
これまでの何度かの訓練を思い出して尋ねた舞にそう答える春燈。だが、必ずしもそうとも言えない。『奏歌』は、奏で歌う者の想いがその能力を左右する。例えば激情型の楽士がハイテンションで奏でれば恐ろしい威力の『奏』が発現するし、冷静沈着な歌士が戦闘の最中でも感情の高揚を抑え歌えばいつもと変わらぬ『歌』が放たれるだろう。アンプが春燈の気分を昂ぶらせるなら、それは間違いなく攻撃力のアップに寄与する。
「じゃ、少し構成を考えましょうか。香佑、もう少し一人で頑張ってくださいね」
「いや、一人でって」
「ね？」
「はい」
・ ・ ・
舞がホルンを吹き鳴らし作り出した巨大な水のチャクラムが奔る。その後を追って春燈の振るったトライデントの雷が到達、激しくスパークする円月輪。それを追って、抜き去り、迫り来る歪たちを絡め取る秋緒の光の弦。
４人の『共鳴』、『ダンデライオン』。動きを封じられ回避行動をとることの出来ない歪たちを、チャクラムが切り裂いていく。そして。
（「明らかに取って付けた役目じゃないかよ‥‥」）
そう思いながらもいつもよりやる気の感じられる動きでハルバードを振るってその辺に転がる歪を叩き潰していく香佑。３人の『共鳴』プラス後片付けといった形だが、一応４人での『共鳴』である。後付なのに香佑が頑張っているのはもちろん、後ろの方で彼を監視する存在がいるから。ゴーンの人。
現れた歪の止めを香佑が刺して回っている間、春燈と舞は歪たちの不審な点について話していた。歪たちは、自分達を攻撃してくることが無かった。
「でもその代わりに、やけに打たれ強かった気がするわ」
「舞のチャクラムも、当たっても殆ど効かなかったし‥‥」
とすれば、行き着く結論は一つ。この群れをなして襲ってきた歪たちは、楽士たちの足止めと能力の使用回数を削り取るための囮。
「三人とも、右翼から連絡ですよ。敵の中央突破部隊の背後に回りこんでそこで合流、正面部隊と挟撃することになったわ」
「連絡って携帯で？」
「いいえ。こちらの動きがバレる可能性があるもの。彼が『歌』で直に伝えてくれたのよ」
「彼？」
と春燈が秋緒の指し示す方向を見ると、そこには右翼部隊のルイの姿。
「春燈！ 久しぶり！」
「ルイ！ あなたも戦いに出てたのね！」
パン、とハイタッチの春燈とルイ。そして。
「「えーと、誰？」」
ひととおり話分かってないのが約２名。実は春燈とルイ、昔からのメル友なのである。
「ところで移動はいいけど、このピヨった人はどうするんだ？」
「放っておきましょう。きっと大丈夫です」
不憫な。
●再追撃指令
舞の巨大チャクラムに乗って合流地点に移動した左翼隊は、いきなり目の前に現れた直方体と４人組に驚いた。が、その正体を知っている春燈だけはのほほん。
「彼には転移能力があるのよ。自分だけじゃなく、他のものでもおっけー」
ただし、今回のように複数対象を同時に転移させるのは無理。今回の移動はアイリーンとの『共声』、『四囲天翔』によるまとめ移動である。こうすると能力の使用回数が節約できてとてもおいしい。
「あら？ もしかして貴女、如月の？」
「え？ そうですけど」
「やっぱり。よく知っているわよ、日本の楽士の家系の中でも有名だもの。あ、私はイギリスのクィンスよ。よろしくね」
アイリーンの差し出した手に、とりあえず握手する春燈。どうやら話を聞いた感じお互いに名前の知れた家であるようだが。よく知らない。今度お兄ちゃんに聞いてみよう。
一方で。香佑の姿を見たカナンが一直線に駆けてきて彼に抱きついたある日の光景。カナンにしてみればお互い無事だったことの安心の表現で、香佑にとってみればまあいつものカナンかな程度だったが、しかし。舞や秋緒などは「わー、香佑に彼女」などと笑い話にする始末。アイリーンは「マダムキラーかも」などと思い、ここまでカナンを小脇に抱えてきた千鶴はとりあえず役割終了と薄く微笑む。
「秋緒先輩、もうこんな戦いはこれが最後だよね？」
歪との戦闘は、社会に害を及ぼす敵の退治だ。だが、現在の状況はどうか。楽士対楽士、下手をすると協会対協会。戦争と同じだ。
「大丈夫ですよ。私達でこれを最後にしましょう」
ルイの頭を軽く撫で、秋緒が言う。年上の秋緒先輩が大好きなルイは、なでなでにすっかり笑顔に。年上といえば、春燈お姉さんやアイリーンお姉さんじゃダメなんですか？
「さて、それじゃ残りもさっさと片付けるか。他の楽士も動き出したようだしな」
「じゃ、よろしく」
ゴーン！
「俺、『ダンデライオン』の時充分戦ったんだけど」
「じゃ、残業もお願いね。サービス残業」
「‥‥横暴だ」
ゴーン！
「だ、大丈夫‥‥？」
突然香佑の頭上に出現した秋緒の竪琴にめちゃくちゃビックリしたカナンが、頭を押さえて蹲る香佑に聞く。
「大丈夫‥‥皆、アレを喰らって成長するんだ」
「成長‥‥たんこぶ？」
・ ・ ・
戦場へと近づくと、４人の男達が立ち塞がった。こちらを見て話しかけてくることなく自分達だけで話しているところから、おそらく敵なのだろう。
と、敵が何かを呟いた。同時に他の男が幾つかの紙片を地に撒く。すると、黒い光に包まれたそれらは巨大化し。
「歪ダミー‥‥」
先まで自分達が退治していた敵の姿になった。
「こんな時は先手必勝だよ！ 皆、手伝って！」
舞がホルンを吹き、巨大なチャクラムを生成する。事前の打ち合わせも練習も無い『共音』は非常に難しいが、そこは即合わせるための仲間の才覚を信じるしかない。
カナンが放った束縛の弦が千鶴の炎を帯び、ルイの形成した空間の歪みを伝って歪ダミーを絡めとる。その弦をレールに、舞がチャクラムで疾駆する！
「即席っ！ 名前は‥‥『円盤アタック』！」
そのまんま。だが威力は相当のもの。あるものは燃え落ち、あるものは千切れ。歪ダミーが一掃される。
「カナン、アレを使いましょう。私が合わせるわ」
出した手駒を一瞬で消され驚く敵の隙を突くため、すぐさまアイリーンが指示を飛ばす。アレの一言で意を把握したカナンは、さっきの今で再び奏で始める。
「『その檻は監獄の如き戒めを罪人たちに与えん』」
急ぎ飛び退ろうとした敵楽士の周囲全てを、アイリーンの結界が封鎖した。閉じ込められた４人の敵楽士には、結界内を満たすカナンの麻痺の光が襲い掛かる。
一方では、他の面々も『共音』を構築していた。アイリーンとカナンの『パラライズボックス』に重ね掛けする形で、秋緒の癒しの力が結界の修復力、即ち防御力を上げる。
「また逃げられると思うなよ‥‥」
長柄斧を思い切り大きく振りかぶり、香佑が敵に肉薄する。その長柄斧には、舞の『水』、春燈の『雷』、千鶴の『炎』の３つの属性が付与されている。余談だが、属性付攻撃をシャットアウトする結界も存在する。複数属性を帯びた攻撃はこうした結界に強い。
『共音』、『アブソリュート・ギロチン』は、結界ごと敵楽士達を打ち砕いた。とりあえず死なない程度にはと加減はしたが、果たして。
舞う土煙がおさまり、視界が確保されると、そこには誰もいなかった。逃げられたわけでもなく、香佑が木っ端微塵に吹き飛ばしてしまったわけでもなく。
「‥‥やられちゃったみたいだね」
カナンが地面に落ちていた『それ』を拾って言った。妨害系の『奏歌』に多少は詳しいカナンにはそれが何だか分かっていた。先の歪ダミーと同じもの。おそらく歪ダミーを人間に見えるように細工したものだったのだろう。
・ ・ ・
敵の姿は見えなくなったが、おそらくまだその辺にいるだろう。彼らの目的は、協会が捕らえている楽士たちの奪還なのだから。
戦いは、まだ続きそうだ。
