最下層偽装中東・アフリカ

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 4Lv以上
難度 やや難
報酬 14.5万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 01/16〜01/18

●本文

「‥‥‥‥」
「如何ですか、シャルロ様」
「‥‥思っていたとおりだ。この遺跡は『本物』だ」
 現像された『あの遺跡』の写真の分析を始めてから半月。その多くの解析が済んでいた。
 だが。
「封印がオーパーツで施されていることまでは分かった。が、その在り処が分からない。そのオーパーツを集めて、どうすれば封印が解けるのかも分からない。そして、そもそも最下層のどこにその封印された『それ』があるのかも分からない」
 エジプト某所地下に存在する、オーパーツ工房と予測されている遺跡。その遺跡の第3階層より、隠された最下層へ侵入することは出来た。しかし、奥へは進めなかった。通路の壁画の情報も、途中で撤退したため全てを撮影出来たわけではない。
 第3階層での『ラーの瞳』での探査で分かっているとおり、最下層は間違い無く、第3階層と同じくらいの広さはある。そして最下層はそれ以上に広いかもしれないし、もしかしたらさらに下の階層があるかもしれない。調査しなければならないことはあまりに多い。
 それなのに。

 ・ ・ ・

「遺跡を埋める」
 仕事の依頼をしたいと獣人達を呼び出したシャルロの第一声はそれだった。
「さすがに色々あったからな、WEAも馬鹿じゃない。あの遺跡が勝手に掘られている疑いがあると調査に来るようだ。その調査隊が来る前に、我々が居た痕跡と、我々の調査した結果の一切を遺跡内から消し去る。遺跡の入り口を破壊し内部に入ったのはどこかの盗掘者の一団、という結末に持っていければ最良だ」
 遺跡内でこれまでに撮られた写真などを示しながら、シャルロは続ける。
「まず、調査・発掘に使った道具類を全て外に運び出す。スコップやら何やらの他、照明機材に、第2階層の残っている蜘蛛の巣も全て撤去する。‥‥NWがいたことをWEAに感付かれれば、遺跡に戻っての再調査が難しくなる」
 遺跡の入り口には小型のトラックが3台用意されるという。荷物は全てそれに載せる。全ての痕跡を持ち去って姿を消し、ほとぼりが醒めたころ、戻ってくる。
「ただ、その間退屈だからな。機材の撤収と同時に、最下層の再調査も行う。あの小型の大量のNWを蹴散らしつつ、前回の調査で踏み込んだ地点より出来るだけ先を目指す」
 最下層調査にはシャルロが、機材撤収にはジェリコがついて不明な点の説明などは行うということらしい。
「と、いうことだ。よろしく頼むよ」

●今回の参加者

 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4892 アンリ・ユヴァ(13歳・♀・鷹)
 fa5271 磐津 秋流(40歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

●食生活が人体に与える影響と得意料理についての考察第1章
「なぁなぁ、ジェリコは何か好きな食べ物とかあるん?」
「‥‥特に、こだわりは無い」
「うちはカレーが好きなんやけど、ジェリコはカレー好き?」
「‥‥嫌いではない」
「カレーはね、オルトロスが無茶苦茶作るのうまいんよ。一度食べてみたらええよ、ビックリするで」
「‥‥機会があればな」
 会話と言うよりは、一方的に敷島ポーレット(fa3611)が話しまくり、その話に含まれる特定の語に対してジェリコが決まったパターンの返事をする状態。何と言うのだろう、人の顔の喋る魚とか、人工無能とか、そんな感じ。
「エジプトっていえば、エキゾチックな中東美人が多いもんだと思ってたのに‥‥」
 こちらに来て一番先に髭のオッサンにプロダクション街などを案内されたと思われる佐渡川ススム(fa3134)は、これで貧乏くじ何度目か。中東美人に会えず、シャルロとは組が違い、さらに撤収班紅一点のポーレットもジェリコにかかりっきり。こうなったら鉢巻き締めて気持ちを集中、悲しい思いを振り切るために片付けせっせ。
「それはこのボルトを外して、分解してから持っていくんだ」
 磐津 秋流(fa5271)がススムの作業に横から口を出す。対NW要員という立場ではあるが表向きの職業はAD。物の効率的な搬入搬出の方法くらい当然弁えているし、また遺跡の入り口のサイズなどを考えて機材が傷付かないように適宜分解する指示を出すのも忘れない。
「ススムー!」
「んっ? 何々?」
 分解して半分のサイズになった機材の一つを放り投げてポーレットの呼びかけに反応するススム。ブン投げられた機材は当然のように磐津がナイスキャッチ。AD一筋ン十年。こうした事態は何度も経験してきた(本当か?)。
「ほら、これがNWの肉を食べた佐渡川ススム」
「‥‥なるほど。NWを食べるとこうなってしまうのか」
 ‥‥‥‥。
「こうなって『しまう』って何だ、『しまう』って! 俺は元々こういう性格だぁっ!!」

●加齢に伴う身体能力の低下についての実験第2節
 第3階層から続く最下層。大量のNWがいるだろうそこへの通路を開く前に、ふとシャルロが言った。事前に疑問や質問、意見などは全部聞いておく、と。
「雑念が入った状態で戦って死んでもらっては困るからな。撤収班の仕事が増える」
 神保原和輝(fa3843)がピクリと反応し、アンリ・ユヴァ(fa4892)は露骨に視線を強める。それも仕方ない、この仕事の依頼人はダークサイドなのだ。特にアンリなどは、仕事を請けた時は『盗掘の痕跡消し』という内容から裏事情付きと分かってはいたが、シャルロがダークサイドとまでは知らなかった。シャノー・アヴェリン(fa1412)ら前回のこの遺跡の調査に関わった者達から、ここに来てからその話は聞いた。
 シャルロが質疑応答の時間を設けたのは、そういった新たに事情を知った者が自分に不信の目を向けていることを悟っているからだろう。
「ご自身はNWを使役されマセンね?」
 ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)の問いだ。皆の疑念もある程度ここに集約されるだろう。ダークサイドとは一体。噂や数少ない遭遇・戦闘による知識では、何か陰謀を持ち、NWを使役するらしいが。
「そもそも、『ダークサイドはNWを使役するもの』という断定認識が間違っている。『NWを使役するダークサイドがいる』ことが真であっても、その逆が真とは限らん。‥‥私もNWを使役出来るのならばしてもいいのだが、例えばの話、私に使役出来ない最強のNWが出現したとする時、私がどんなNWを所持していてもそれには敵わん。だから私は、なるだけ強い駒を探す努力をする代わりに、自分を最強の駒に近づける努力を選んだということだ。ミカエラ、お前ならどちらを選ぶ? 敵を倒すために敵と手を組むか、敵全てを己一人で駆逐し得る力を得るか」
 おそらく、ミカエラの場合なら後者なのだろう。あくまで推論であるが。
「‥‥なるホド。ハイ、次の方」
 一応の納得。信用は出来ない。だがこの一瞬だけは。
「シャルロは、どの程度ダークサイド事情に通じておるのかの?」
 これはDarkUnicorn(fa3622)の問い。
「WEAが言うところの悪のダークサイドが遺跡、オーパーツ、NW‥‥これらの力を求めるのはその先に目指すべきもののための過程に過ぎんのじゃろう? 最終目的は一体何なのかの?」
「知らん」
「し、知らんってことはないじゃろうッ! せめて一つくらい、何か知らんのか?」
「例えば‥‥そうだな。映画監督というのは、最終目的は一体何なんだろうな?」
 ヒノトの問いを一旦放置し、敷島オルトロス(fa0780)に尋ねるシャルロ。
「俺の場合は‥‥上っ面だけじゃねぇ、最強の映画を創ること、かな。他の奴らの目的までは知らんが」
「そういうことだ」
 シャルロはヒノトに向き直り、続ける。
「ダークサイドが皆仲良しなわけではない。各々に目的はあるんだろうが、ダークサイドであるが故の統一された目的など存在しない。‥‥まあ、仲良しグループでもあれば、そこの統一目標はあるかも知れんがな」
「シャルロは、他のダークサイドと交流は無いのかの?」
「少なくとも、よろしく頼むと歳暮を贈ったことは無いな」
 と、すれば。お互いがお互いに利用価値を認めている間は、シャルロは自分達の敵にはならないだろう。彼女が巧い嘘を吐いているのでなければ。今すぐに結論を出す必要は無い。御影 瞬華(fa2386)は思った。

 ・ ・ ・

 ゴトリ、と石の椅子が嵌り、最下層への道が開く。
 最下層のNWを第3階層に呼び込み、通路を適宜封鎖して一定量ずつを相手にする。そのシャノーの発案を実行するため、最下層調査班は身構える。
 ‥‥が。
「おい」
 完全獣化と能力使用で防御力アップしたオルトロスの脛に噛り付いたNW。その牙は皮膚を貫くこともなく、言うなればマッサージ器の『強』。
 いや、論点はそこではなく。通路を開けた途端に溢れてくるかと思われたNWだったが、出てきたのは何とたった一匹。
「サ、処理しましょうカ」
 腕をぐるんぐるん回して微笑みながら近づいてくるミカエラから逃げつつ、自分でNWを潰すオルトロス。
「下に降りて、誘き出して来なければならないのでしょうか‥‥」
「面倒ネエ。『突撃→暴れる→筋肉痛』の流れが理想なんだケド」
「それでも構わない。寧ろその方が、調査に使える時間が多く確保出来る」
 というシャルロの一言もあり、結局作戦は変更。突入と相成った。

「あの数のNWがランダムで分散したとしても、この遭遇率の低さ。どこかに固まっているのでなければ、この最下層が相当広いってことなのね」
 と、神保原の推測。確かに、最下層に降りて壁の観察をしながら5分、まだ2体としか遭遇していない。別に、エンカウント率が低いこと自体は悪いことではないのだが。
「そうでもナイノよネ。ちっともトレーニングにならないワ」
「トレーニング結構だが、そろそろ無理は控えた方がいいんじゃないか? もう筋肉痛が3日後に来る年齢だろう?」
「四十八つ裂きにスルわよダークサイド」
 一行はシャノー、御影、神保原の3人を先頭に最下層を行く。この陣形を取っているのは、彼女らの武器が銃であるからである。彼女らの腕を疑うわけではないが、放った弾丸が外れ壁画の文字を抉り取るかもしれない。よって、前回撮影し情報の保存が出来ている地点までの戦闘を彼女らが担当する。未解読地点からはオルトロスやミカエラ、ヒノトが敵を処理する。ちなみにアンリは第3階層への出口にて待機している。全体的にシャルロを信用、または利用してもいいという空気の一行の中にあってただ一人、シャルロへの不信のために残ったのだった。表向きはNWが飛び出してこないよう、本音ではシャルロの裏切りが無いよう。

 いざという時は高速での移動で急速離脱を行うつもりだった神保原だったが、その必要は戦闘中において生まれなかった。自身の銃撃に加え、すぐ後ろから狙い澄ました2丁の銃がNWを捉える。数発の外れはあっても撃ち漏らしは無い。
「ストップだ。ここで前衛は交代してくれ」
 最下層に入って10分少々。シャルロのその言葉が、未解読地点に入ったことを知らせる。前衛だった3人は最後列に戻り、代わりにミカエラとオルトロスが前に出る。
「お宝探しはいいんだが、こんな謎解きは俺にはさっぱりだな」
 進行方向向かって左側の壁画を見ながら、反対の壁に背を預けるオルトロス。その時。
 ミシリ。
「うおっと。何だ、この遺跡は手抜き工事なのかよ」
 うっすらと細かいヒビの入った壁から急いで身を離し、周囲の冷たい視線に耐えるオルトロス。とりあえず崩落の危険は無さそうだ。
「崩すのは、せめて封印されているオーパーツを手に入れてからにしましょう」
「そうだな。WEAに没収されちゃ面白くねェ」
 暗に「崩すなオッサン」言われているのだが、オルトロスは悪びれた様子も無く。

 奥に向かうに連れ、明らかにNWとの遭遇率は増していった。以前のような視界を埋めるほどの数は無いものの、オルトロスが狙いもせず武器を振り回すだけで数体がぶっ潰れ、ミカエラも頭上に足元に目の前に忙しい。捌ききれない分は御影や神保原が温存していた虚闇撃弾が撃ち落として。戦闘が行われている最中も、シャルロは壁画を撮影したりしている。
「反応が無くなったの。まったく、面白くないのう」
 そして一人オーパーツ探しに熱心なヒノト。金属探知機は最下層に入って少しの間は反応があったのだが、今はまったく無い。ちなみに始めのうちの金属反応というのもシャノー達が撃った銃弾の薬莢。つまるところ、収穫は無い。

 何度かNWの群れを退け、先へ進む一行。そこへ、撤収班からの連絡が入った。
「おう、そっちの調子はどうだ? ‥‥何? そんな事はどうでもいいだろ!」
「‥‥どうしたんですか?」
「ジェリコはビーフカレーよりチキンカレーが好みなんだとよ」
「それは私も初耳だな」

●地下におけるウラシマ効果的事象の実践についての報告第3部
 遺跡内でのお仕事は続く。ほぼ9割方の機材を運び出したところで、運搬量のMVPはススム。ポーレットとジェリコはおしゃべり、磐津は機材各種を運び出しやすいように入り口の方へ並べるだけ。ススムはそれをトラックまで運んでは戻り運んでは戻り、一人バケツリレー。でも挫けない、だって男の子だもん。
 最下層調査組が、通路に残しておいた最低限の機材を抱えて戻ってくる。ミカエラが持っていた機材を一度そこへ置き他の残りを取りに戻ると、他の面々も運んできた物を置いていく。そう、ここからはプロレス(ごっこ)選手のお仕事。貧乏くじというものは得てしてこういう人のところへまわってくるもの。こればっかりは誰にも変えられない運命。
「どうやった? 一番下の様子は」
「『扉』がありました」
 ポーレットの問いにシャノーが答える。その続きは御影が引き取る。
「最下層の壁はどれも石造りでしたが、その扉だけは金属製でした。鍵穴が3つ、扉の上下と真ん中に。力尽くでも、獣人能力をぶつけても開けられませんでした」
 その報告を聞いて改めてガックリしているのはオルトロス。封印をぶち破れない力不足と、お宝テイクアウト不能について。
 小型の照明とゴミ袋(未使用。NWの屍骸は最下層に放り込み放置。WEAに最下層を発見されれば屍骸処理の意味も結局無くなるため)を持ってミカエラが帰って来るのを待って、皆は遺跡から出る。外は太陽が沈みかけ、薄暗くなってきていた。まるで1日やそこらの作業のように感じられたが、実際はここまで3日を費やしている。‥‥本当ですよ?
 機材を積んだトラックは走り出し、その後を各々乗ってきた自家用車でついて行く獣人達。アンリが危惧していたような「用が済んだら放置」は無かった。トラックの荷台にはかなりのスペースの空きがあり、車に乗れない者達はそこに乗せて運ぶつもりであったようだった。また、トラックの助手席に積まれていた銃弾が、最下層にて弾丸を使った者達に補給されたことを付記しておく。

「‥‥へぇ」
 移動中、第3階層での問答について話を聞いたススム。だが、答えの内容はともかく、答えている時の表情を見られなかったのが残念だ。目は口ほどにものを言う、とはよく言ったものだから。そして。
「軽薄な笑みだけじゃなく、シリアスな顔も見てみたかったなー、なんて」
 そーですか。
 3台のトラックと獣人達の車やバイクは予め決めていた場所まで移動すると、二手に分かれて走り去る。これからは、連絡待ちだ。調査結果について、分析が済み次第教えるとシャルロに聞かされていた。
「まだ、私達には利用価値がある。そういうことなのかな‥‥」
 神保原の言葉。そういう意味である可能性は大いにある。そして、そうではなく、本当にシャルロが彼女らに力を託したいと考えている可能性だって、ゼロではない。シャノーや御影のように、力を求める理由をもつ者もいる。彼女らには、シャルロの考えが何となく理解できた。

 ・ ・ ・

「ジェリコ、彼らに報告書を送っておけ。メールや郵送は禁止する」
「心得ております」

『神話の時代、オシリスとイシスという神がいた。彼らは人間界に暴君として君臨したが、オシリスの弟セトがオシリスの力の源を14重に封印し、その封印の鍵を上下エジプトにばら撒いた』

 報告書には、この神話の異聞的な最下層壁面の物語の訳についてと、もうひとつ。

『セトの子孫が代々、封印を司っている』

「‥‥先は長そうだな」