奏デ歌ウ想イ ―幻想曲アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/08〜02/12

●本文

●『奏デ歌ウ想イ』の世界
 奏歌楽士とは、『奏』『歌』という特殊な能力を使用し『歪』と戦う者達のことである。『奏』を使用する者を『奏士』、『歌』を使用する者を『歌士』という。
 この『奏デ歌ウ想イ』は、彼ら奏歌楽士達の戦いの記録を記す特撮番組である。

 『歪』とは、特定の形を持たず宙に浮く影のような存在である。これが人や物に取り付くことによって、『歪』として本来の力を行使し世界の調和を乱し始める。
 楽士達は世界各国にある楽士協会に所属し、そこから下される指令によって『歪』退治を行う。

●出演に当たって
 出演者には以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定、毎回提示される目的の達成を目指してほしい。

【能力】「奏」もしくは「歌」を選択。
【ジャンル】能力の種類を設定。いずれか一つ。
 奏‥‥白兵(+5)、単体射撃(+3)、複数射撃(+2)、散弾/扇状/放射(+1)、回復(+3)、補助(+3)
 歌‥‥単体射撃(+4)、複数射撃(+3)、散弾/扇状/放射(+3)、回復(+3)、補助(+4)、修復(+5)
【射程】能力の射程を選択。いずれか一つ。
 奏‥‥短(+5)、中(+3)、長(+1) ※短:0〜1m 中:1〜12m 長:12〜100m
 歌‥‥短(+4)、中(+4)、長(+2)
【効果】4つのパラメータに合計20ポイントを1〜15の範囲で振り分けてください。
 威力/効果:破壊力、回復力等。
 速度:演奏・歌唱から発動までの速度。射撃であればその弾速。
 持続:その能力が発動してからどれだけの間効果を持って存在し続けるか。
 安定:発動確率、効力の安定、妨害に対する抵抗。
【回数】能力を一日に使用できる回数。
 ジャンルと射程を決定後、()内の数値を足した数。
 パラメータポイントを2点消費することで使用回数+1することも可。
【その他】能力についての注意点
 『奏士』と『歌士』の掛け持ちは不可。しかし、『奏士』なら『奏』、『歌士』なら『歌』の複数習得は可。

<キャラクターテンプレート>
キャラ名:
能力:能力・ジャンル・射程/効果:威力・速度・持続・安定・回数
備考:

※皆さんが演じるのは奏歌楽士です。一般人、マイスターは現在選択できません。

※フリー楽士オプション
 今回、参加者はフリーの楽士を選択することが出来ます。フリーの楽士となる方は以下の制限に注意して設定を作ってください。
 ・無条件で『奏歌』の持続+1、使用回数+2。
 ・3人以上での『共鳴』『共声』『共音』の発動・参加不可。

●幻想曲
「日本の楽士協会が得意とする『奏歌』は情報・通信系。それは皆も分かっているな?」
 シードルの言葉に頷く一同。彼らは以前日本協会へ侵入した時とは違い、皆左肩に部隊票を付けていた。それは見る人が見れば、ロシア協会の特殊諜報部隊のものと分かる。
 日本の協会がレーダー代わりに使用している『転送弦』や『情報弦』といった『歌』は、実は他の国の協会には存在しない日本協会独自の技術である。攻撃・束縛など『歪』に対する直接効果を持つ『奏歌』を専門としていない日本協会は、この巨大なレーダーで『歪』が大きく成長する前に発見し、奏歌楽士のチームを送り込んで対処してきた。
 本来、情報・通信系の『奏歌』はそのような用い方をするのだが、しかし。
「さっき出た分析の結果がもし正しいものであれば、日本協会が秘匿しているアレは、非常に危険なものだ。キリル」
「日本協会は、情報・通信系以外には専門としている『奏歌』はありません。しかし、様々な国の様々な『奏歌』についての情報や技術が広く浅く備えられています。日本協会の隠していたアレは、通信系の『歌』にそれらを乗せて放つものだと考えられます」
「‥‥つまるところ、どういうものだって?」
 アドリアンが急かす。
「日本協会の『転送弦』はレーダーとしての能力だけでなく、下位の『情報弦』が備えている通信性能も持ちます。受信・送信共に可能。そして出力を最大にすれば地球のほぼ半分を一度にその射程内に入れられます。つまり、最大出力時は地球の全人口の半分に一度にメッセージを送ることも可能だということです」
「天気予報でもやってくれるのかね?」
 しかしボリスのジョークは誰にも届かず空気に溶けて。
「その『転送弦』に、イギリス協会の『結界』を流します。すると、人々の意識に幕が張られます。『転送弦』からのメッセージを受け取った脳が、結界により外部からのアクセスを受けなくなるということです」
「‥‥‥‥」
「次に、中国協会の『時』を流します。『結界』の効果が消えると同時に時が巻き戻り、結界が再構築されます。これで半永久的に結界が続きます。さらにドイツ協会の『封印』で人々の意識を封印。最後にカナダ協会の『精神』を目的に合わせて適宜流し込む。破壊衝動でも、憎悪でも、何でも」
「おい、そりゃあ‥‥」
「あくまで、ここでの分析が正しかったらの話だ。本国で本格的に調べてみなければ本当のことは分からない。だが、この『奏歌』が、本当に『精神支配』の超巨大『楽団(オーケストラ)』だったならば、見過ごすことは出来ない」
「発動は、まだされてないな」
「だがヤバいぜ。イギリスや中国は動き出してる。追い詰められたと思われりゃ、いつ使われるか分からねえ」
 ボリスの言葉にアドリアンが最悪のケースを思い浮かべ。
「日本協会の目的は分からないが、この『楽譜』は破壊する必要がある。アドリアンとボリス他2名は私と共に残り、日本協会へ再度侵攻。キリルは残りを連れて本国に戻り、対策を講じてくれ」
「「了解」」

 ・ ・ ・

 多発する『歪』発生事件は段々と落ち着きを見せてきていた。例の奏歌楽士による襲撃事件で怪我を負った者たちも回復し、『歪』に対処するだけならば戦力は充分だった。
 そんな、いつも通りの毎日が戻り始めていたこの日、奏歌楽士達に下された指令。それは単純な『歪』の調律。
「蜘蛛に憑いた『歪』を処理してもらいます。蜘蛛がそのままのサイズだったなら踏みつけて終わりなのですが、これは3mほどに巨大化しています。‥‥『歪』自体は一般人には見えませんが、これだけの大きさでは動くだけで周囲に被害が発生します。出来るだけ早く、可能なだけ市街地から離れた所で調律してください」
 と指示を出し終えた後、日本協会次席楽師で新人楽士達の育成責任者である市村 七海は語調を和らげて続けた。
「最近の皆さんの働きによって、状況は落ち着いてきています。ですから、この調律が終わったら2、3日休暇をとってください。休暇中観光に行くなどでかかる費用は、全て協会から出します。‥‥領収書はしっかりと」
 それはようやく自分達にまわってきた休日。数グループずつ、順番に与えられていた休暇だ。
「あまり浮かれて、『歪』に不覚を取ることが無いように。‥‥世界の調和のために。歪みを、調律せよ!」

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1359 星野・巽(23歳・♂・竜)
 fa3742 倉橋 羊(15歳・♂・ハムスター)
 fa4131 渦深 晨(17歳・♂・兎)
 fa4133 玖條 奏(17歳・♂・兎)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)
 fa4619 桃音(15歳・♀・猫)
 fa4769 (20歳・♂・猫)

●リプレイ本文

●OPキャストロール
如月 春燈‥‥富士川・千春(fa0847)
朝香 凛‥‥雅楽川 陽向(fa4371)
ジルベルト・パーラ‥‥渦深 晨(fa4131)
迅雷‥‥玖條 奏(fa4133)
楓雅‥‥星野・巽(fa1359)
灯‥‥倉橋 羊(fa3742)
常盤 茜‥‥桃音(fa4619)
景山 千歳‥‥忍(fa4769)

●帰る家を捨てた者
「行くぞ‥‥気を引き締めろ」
「あんたもな」
 言葉をかわすその場所は、つい最近まで毎日を過ごしていた場所。
「こっちよ。今はここの警備が手薄」
 二人を呼び寄せる女性の声。
「‥‥信頼しているぞ」
 相棒の肩を叩き、先に歩き出す男。もう一人は言葉を返すこともなく単独で。
「同業者がいるわ。まずはそこをあたりましょう」
「同業者、か‥‥」

●バレバレンタイン
 季節柄、女性はこの時期甘いものを買い込む。女性が男性にチョコを贈る、菓子メーカーの陰謀。ちなみに女性が男性に贈る、という決まりごとは日本限定。
 この日、如月 春燈と朝香 凛の二人が買いに来たもの。それもやはり、時期を裏切らずチョコレート。
「ま、義理だけどね。義理」
「わざわざそんな何回も宣言せんでも。ちゅうか、普通のチョコ買うてる時点で、そん中に本命が紛れとんの分かるで」
 凛の指摘に春燈はあくまで否認の構え。だがしかし、状況を見れば言い逃れは難しい。
 去年春燈が購入したバレンタインのチョコは全てネタチョコ。そんな陣容の中に普通のチョコが混じっていては「これ本命用です♪」と主張しているようなもの。
 木を隠すなら森に。今年は本命チョコを隠すなら普通のチョコの中に作戦を発動。これならどれが本命チョコかは判別がつき辛いが、しかし日頃の行いが悪かった。ネタチョコが用意されていない時点で作戦発動を悟られてしまっている。
「あ、凛。ちょっとそこの喫茶店で休憩していかない? 期間限定の『抹茶入りハイパージャンボパフェ特盛+2』だって」
「女の子スレイヤーな名前のパフェやね‥‥」
 言いながら喫茶店へと入っていく2人。先に立って座席を探す春燈だが、その背後に、彼女を狙う鋭い視線が突き刺さっていることをこの時はまだ知らない。
(「ふふふふふ。抹茶という単語で話を逸らすことが出来たって思っとるんやったら、それは甘いで春燈嬢。チョコより甘い、大甘や!」)

 ・ ・ ・

 さすがにハイパーとかジャンボとか特盛とか+2とか名前に付いていても、女の子向けのそのパフェは常識の範囲内のサイズだった。それぞれで注文してよかったものかと戦々恐々していたが、ウェイトレスさんが一人で二つ運んできたのでほっと胸を撫で下ろした。
「で。春燈嬢の本命は誰なん?」
「だから、チョコは全部義理チョコだって」
「ほんなら、仮にチョコは義理ってことにして‥‥で。本命は誰なん? やっぱり灯君?」
「そんなわけないじゃない、あんな生意気な奴‥‥」
「‥‥まさか、兄妹禁断の恋」
「パフェごと雷でぶっ飛ばすわよ」
 いつでもスクランブル発進(なんか違う)出来るよう休みの時も楽器を傍に置く楽士達。それは春燈も例外でなく。地響きのような音をBGMにギターのケースに手を伸ばす。
「いややなぁ、冗談やって、冗談」
 とりあえず、全開とはいかずともそこそこ元気は回復しているようだ。凛が関西に行っている最中のあの事件以降少し様子の違う春燈を元気づけるために企画したショッピング、一応の目的は果たせているようだった。
「まったく‥‥そういう凛はどうなのよ」
「うちの本命? ‥‥黒髪」
「日本中にいるわね」
「‥‥春燈嬢も知ってる」
「私と凛が共通で知ってる人‥‥じゃ協会の誰かかな‥‥次のヒントは?」
「これ以上は秘密や。ヒント増やし過ぎると分かられるかもしれん」
「うーん‥‥まさか桐原楽師とか‥‥凛にオッサン趣味‥‥?」
「あー‥‥とりあえずそれはあらへんよ?」

 ・ ・ ・

「見た目以上に強敵だったわね」
「ハイパーの名は伊達じゃなかった、ってことやね」
 喫茶店を出て協会への帰路を歩む二人。店内ではパフェを食べながらお互い腹の探りあいをしていたが、次第に互いの腹の中はパフェで一杯になりそれ以外何も出てこないことが分かると、まあお互い頑張ろうという結論に落ち着いた。
 そして、少しずつ胃の中も落ち着いてきたかなという頃。
「‥‥何やあれ」
「歪!? 凛、協会に連絡して! 私は出来るだけ、あれを足止めするから!」

●高まる謎、交錯する思惑
 パシン!
 パシン! パシン!
「‥‥で?」
「で? って何だよ。俺は日本の文化に則ってお前の行動に異を唱えてるんだ」
「文化?」
「え? これ日本の文化だろ? 相手の意見を訂正する時頭にパシンって。勉強したんだ」
 どこで、とは聞かない。どうせテレビかマンガか大阪だ。
 さっきからハリセンでひたすら自分の頭を叩き続けるジルベルト・パーラを半ば無視しながら、迅雷はこれから歩くコースを考える。如何にして監視の目を掻い潜り、サボるか。
「サボるな! ここは怪し〜い場所の徹底調査だろ!」
 パシン! だがそれも結局は職務放棄のサボり。迅雷の思うサボりとの違いは、職務放棄中に昼寝やつまみ食いをするかどうかにある。
「怪しい場所‥‥厨房の奥にはそれはそれは怪しい冷蔵庫があって」
「絶対怪しくない!」
「地下2階に下りる階段の下には隠れたデッドスペースがあって、そこは人が一人寝転がるのに丁度いいサイズ」
「それすっごくどうでもいい!」
「東通路の非常階段は何故か途中にどこからも死角になってる場所が幾つかある」
「それだ!」


 そして東通路の非常階段。普段あまり使われないそこは人の気配などせず、怪しい雰囲気はプンプンしているのだが。
「でも、特に何も無い‥‥? ん?」
 ふと、ジルが立ち止まる。ほぼ同時に迅雷も気付いた。
 物音。かすかに聞こえた音。二人は物陰に隠れ、息を潜めながら聞き耳を立てる。
(「‥‥なんか前にもこんなことあった気が」)
 ジルがそんなことを思った次の瞬間、その『以前あったことの当事者の一人』が目の前に飛び降りてきた。
「あかっ!」
(「大声出そうとしてんじゃねえよバカ!」)
(「お前‥‥何でこんな所に」)
 灯はジルの口を押さえて、2人が隠れている場所へと潜り込む。迅雷が状況を確認しようと尋ねるも。
(「お前こんなところに何でいるんだよ! つか何してんだよ!」)
(「オレだって色々忙しいんだ! お前こそ何で隠れてるんだよ!」)
(「うるさくはないが鬱陶しい」)
 口パクで何か喧嘩してる二人をゴン、と迅雷が鉄建制裁。

 閑話休題。

「なるほど、それで戻ってきたのか‥‥」
「何か、収穫はあったのか?」
 互いの現状を軽く話し合った3人。ジルも迅雷も気になるのは、灯が何をどこまで知ることが出来ているのか。かつて自分達も協会から抹殺されかけた人間だ。
「あったと言えばあったんだけど‥‥よく、分からなかった」
 協会の地下4階で発見した『何か』。正体不明の何かがあることは分かったが、それが何かまでは分からなかった。これから灯は他と合流し、それについて話すつもりだった。
「そっか‥‥ところで」
 と言いかけたところで鳴り響くのは出撃命令のサイレン。
「行かないと‥‥灯は」
「オレのことはいいからさっさと行けよ。オレも用は済んだから、ここから出る」
「分かった。‥‥気を付けて出ろよ」
 走って去っていく二人。それを見送ってから。灯は離脱の前に、相棒と合流すべく走り出す。

 ・ ・ ・

「調査は進んでいるのか?」
 肩を叩かれ、景山 千歳が振り返った先には行方不明になっているはずの楽士の姿。
「如月 楓雅さん」
「家の名の方は、今は使っていないんだ」
 他に人のいない資料室。突然かけられた声は千歳の正体を知っている風な一言。
 千歳はロシア協会の密偵である。他国の協会の様子を知るために、協会が直々に送り込む彼のようなスパイは、『ロシアから日本へ』に限らず、どこの国でも行われている。
「生憎、この資料室には俺が欲しい資料は無いですね。そのせいで調べ物も進まない。貴方は何を調べにここへ?」
「色々と調べたいことはあるんだが‥‥特に何かと言われれば‥‥『楽譜』かな」
「だったら、当たるべきはここじゃなくて図書室や本屋ですよ。今は、インターネットでも買えますし」
「そっちの楽譜じゃないんだ。多分、俺の探し物は君と同じだ。‥‥遠回しな話は止めよう。俺の知っている情報ならくれてやる。その代わり、『アレ』についての情報を渡せ」
「‥‥いいでしょう。ところで、場所、変えませんか? 貴方に俺のことを教えた人も交えて、このことについてはじっくり話がしたい」


「やはり貴女だったのですね」
 楓雅達の潜入の手引きをした女性、常盤 茜の姿を認めても、千歳の表情は変わらなかった。以前から何となく、怪しいとは思っていた。
「私達が聞きたいことは決まっているわ。『アレ』についてあなたの知ってる情報全て。対価としては何がいいかしら?」
「そうですね‥‥『アレ』に関しては俺も調査中ですから、そちらの知っている情報を。他は大抵知ってますから‥‥いざという時に、俺達に手を貸すという約束を」
「契約書でも書く?」
「口約束で結構ですよ。‥‥さて。『アレ』ですが、最近、本国から調べるよう指示が来ました。あの事件よりは少し前ですね。俺が指示されたのは、詳細の調査と報告。あの事件の彼らが指示されていたのは計画の阻止、『アレ』の破壊。あとはこれといって良い情報は‥‥」
 と、突然響くサイレン。それは緊急の出撃指令。千歳は踵を返し部屋の外へ。
「千歳さん。捜査は協力して継続するとしても、表向きの関係は今まで通りにしましょう」
「そうですね。分かりました。‥‥そちらの持つ情報についてはその内伺います」
 一言言って、千歳は部屋を出て行く。それからややして、やって来る灯。
「灯、そっちはどうだった?」
「何かあった。けど、何かは分からなかった」
「それは、どんな?」
「調律の時に見せられるスクリーンを何十枚も少しずつずらして重ねたようなやつと、その周りに張ってある分厚い結界。破るどころか触りに近づけもしなかった」
「‥‥何かが進められてるってことは確かなんだけど。以前の事件でロシアの楽士達がしようとしていたことが、それの妨害や阻止なら‥‥他の国では出来ない、かつ計画が成功した後では潰しようのない何か。‥‥続きは任せるわ。私は出撃しないと」

●巨大台風、その裏で
「『動かざる 岩になろう この想い』『駆け抜けること 雷霆の如し』」
 凛の『歌』で補強された春燈の雷が、普段より一層大きく激しく輝く。その巨大な雷をもって、目の前を行くさらに巨大な蜘蛛の姿の歪を打つ。
 共音『雷斧石』。
「でも、あんまり効いてへんな」
「イマイチ派手さに欠けるのよね。市街地から離れきれてないから、下手に全開にすると一般人に見られるし‥‥」
 こういう時は『透過』。もしくは同じ電気でも、しっかり対象を捉える電気がいい。
 そう。こんな。
 細い雷の線が幾つも飛んできて、歪の足に絡みつく。そしてそこから、強烈な電気が流し込まれる。
「お前に恨みはないが、俺の腹の虫が納まらん。‥‥悪いが、手加減なんて生温いことは出来ないぞ?」
 貴重なサボりタイムを奪われた迅雷が、いつもより長くひたすら攻撃を続ける。普段あまりやる気のある姿を見られない彼には珍しい状況。
「でも硬いね、この歪。まだピンピンしてる」
 ジルの言うとおり、散々春燈の雷を喰らった上に迅雷の攻撃を受けても、動きに変わりがない。
「電気を喰う歪だったりしてね。そんなやつ、確認された事例は無いけど」
 竜笛を奏で、その手に巨大な龍を象った鎌を作り上げる茜。風で形成されたそれは、周囲を吹く風と同様に軽く、速い。
「茜さん、合わせますよ」
「喰らいなさい、『龍爪幻弾』!」
 茜の笛に合わせた千歳が歌と共に歪へ向かい手をかざす。そこからは目に見えるものは何も放たれず、しかし透明で荒ぶる風そのものが鋭い凶器となって幾つも放たれる。茜の能力の特徴である『鎌』と『持続性』が乗せられた弾丸は歪に次々と突き刺さり、刺さった後も消えない風の刃が歪の動きを阻害する。
 しかし、それでも。歪の動きは止まらない。
「『捕らえたり 活動すること 許さず』‥‥何とかこっちで押さえとるから、早う倒すんや!」
 凛が『氷結』の『歌』で歪の足の一本を拘束し、押さえつけようとする。だが、それも長くは続かない。

「全く、世話の焼ける‥‥」
 戦いを遠くから見ていた楓雅は、その武器であるフルートを取り出す。それを見て、灯もまたハーモニカを武器化して弓とする。
 二人の共鳴技『風光弐弾撃』。灯の放った極大の光の一撃が、無数の鎌鼬を伴って飛んでいく。その鎌鼬は単なる風ではなく、燃える炎の力を持った灼熱の風刃。

 凛の束縛を破った歪が、楽士達に向かい攻撃を始めようとした瞬間。その横っ腹に光の矢と風の刃が突っ込んだ。不意の衝撃に体勢を大きく崩す歪。
「今がチャンスよ!」
 皆の『奏』が、『歌』が鳴り響く。周囲を強烈な風と雷が満たし、膨大な破壊のエネルギーが蓄積されていく。その大きな変化を、ジルが『透過』で周りから隠す。
 全員での共音、『雷風大奏撃』が歪の体を貫く。大暴れする台風のような暴風が過ぎ去った後には、その息の根を止められた動かぬ大蜘蛛だけが残っていた。

 ・ ・ ・

「‥‥ひとーつ‥‥ふたーつ‥‥みーっつ‥‥2枚足りなーい」
「春燈嬢も? うちのも2つ足りんねん」

 ・ ・ ・

「何だそれ」
「当然オレらの分もあるだろ、チョコ。ほら、あんたの分も持ってきたよ」