伝説への接触中東・アフリカ

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 2Lv以上
獣人 4Lv以上
難度 難しい
報酬 18.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/19〜02/23

●本文

 調査は遅々として進まない。原因は全て、WEAに向けられた調査の手。折角様々な調査や実験が行えるという時に、遺跡を埋めなおし長期間離れなければならないとは。
 現在、撮影した写真の解析が行われている。ある一点からは最下層入り口付近で撮影したものとは微妙に違った文字が使われているようで、以前の調査の時のように半月で全解析終了、とはいかなかった。
 施された封印。3つの鍵穴。オーパーツ。これが当面の解くべき謎だ。中に何が入っているか、封印が何を守っているかは、大体の予想はついている。
「神話の新解釈‥‥いや、小さい新興宗教による別解釈と言った方が正しいか‥‥」
 それは遺跡の壁に書かれていた物語。通常『悪』の立場にあるセト神が、実は正義の味方であるという物語。オシリス神とイシス神は暴君で、その力の源をセト神が封印した。
「力。超常的な力。その源。オーパーツ、か」
 パソコンの画面から目を離し、氷の浮かぶグラスを手に取る。コーヒーの入ったそれは、周囲との温度差で結露が生じしっとり濡れていた。

 ふいに、電話が鳴った。

 ・ ・ ・

「ある人物と接触する。それに、君達にも同行してもらいたい」
 シャルロは集まった獣人達にそう切り出した。
「あの遺跡の壁面にあった物語では、封印を施したのはセト神だという。そしてその封印を、セト神の子孫が代々司っている、と。これが普通の神話ならただの物語の一文として流したところだが、あの壁面の神話は普通の神話ではないようだ。元あった神話の記述と、後に起きた事実とを絡めて新しく作り出された『事実の物語』だと推測される。推測が正しければ、セト神の子孫は実在する」
 つまるところ、あの壁面の物語における神々は神話の『神々』ではなく、他よりも大きな力を持っていたが故に神と同一視された・比喩された『普通の人物』だということだ。
「そのセト神の子孫が、エジプト国内にいることが分かった。その人物が本当に壁面の物語にあるセト神の子孫ならば、あの遺跡の封印に最も近い人物だ。その真偽を確かめ、また封印を解く鍵になるオーパーツの情報を聞き出す」
 会う場所はカイロ市内の小さなレストランだという。そこで、先方と待ち合わせるということだ。ちなみに、食費はシャルロが出すらしい。調子に乗り過ぎると割り勘になるかもしれないが。
「私達は、WEAの調査員を名乗って会いに行く。極秘のチームで、WEAに確認してもその存在は表に出ないという、極めて怪しい集団だがな。‥‥おそらく、我々がどんな人物なのか、何を目的に何を尋ねようとしているのか、向こうは探ってくるだろう。馬脚を現さず、かつ向こうから必要な情報を可能な限り引き出したい」
 こちらの正体を隠しつつ、聞き出せそうな情報だけを聞き出す。それは相当な技術を要するが‥‥
「これまでの調査に関する報告書や資料もまとめておいた。現地に向かう前に、必ず目を通しておけ」

●今回の参加者

 fa0167 ベアトリーチェ(26歳・♀・獅子)
 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa2484 由里・東吾(21歳・♂・一角獣)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3728 セシル・ファーレ(15歳・♀・猫)
 fa5474 コウ・ザ・ブドウ(40歳・♂・竜)

●リプレイ本文

※注意※
 この報告書においては、登場する人物のプライバシーなどに深く関係する部分は『ピー』と記述されます。その点、ご了承ください。

 ・ ・ ・

「思うほどには難しいことではなかった。とはいえ、すぐに情報が手に入れられたのは運が良かったからだが」
 神話の人物の子孫。それを探し当てるという普通に考えればまず不可能だろう芸当をやってのけたことについてのベルシード(fa0190)の問いに対し、シャルロが返した答え。
「一般に知られている神話とはその解釈が大きく違う神話を語る人物、という点で最初は探した。そこで、セト神が実は正義であったという、あの壁画の物語と似た話をする人物の情報が得られた。そして、その人物から聞いた神話の詳細が、判明している壁画の物語とほぼ一致した。だから、今回の計画を行うことにした」
 未発掘の遺跡にある壁画と同じ神話を語る人物。それならば確かに、セト神の子孫である可能性は高いだろう(他と比べれば、だが)。その人物を早い段階で発見できたことは、ただ単に偶然であるという。
「そういえば、セトや子孫達は単純に考えれば獣人、なのかな?」
「そうだ。セトは分からんが、その子孫だという人物は蛇の獣人だ」
 こんなシヴェル・マクスウェル(fa0898)の疑問に答えたシャルロの言葉を受けて、由里・東吾(fa2484)はさらに悩む。神話上のセト神は、様々な動物の頭をしているからだ。ペットボトルの水を全て飲み干して、また考える。
「子孫が蛇の獣人だからといって、先祖もそうだとは必ずしも言えないからな‥‥ツチブタにジャッカルにヘビ、か‥‥まさか、封印の数だけ子孫がいる?」
「まあ、それも会って聞いてみりゃ分かるんじゃねぇか? しかし、面倒な仕事だな。金積めば洗いざらい吐くってんなら、そこらじゅうから掻き集めてくるってのに」
 ポケットの中のゴールドバーを指先で弄びながら、敷島オルトロス(fa0780)。ジープの中までゴールデンな彼ならば、相手が金で折れるなら札束で頬ペシペシとか普通にやりそうだ。特に、今回の話は強力なオーパーツに関する話だ。オルトロスの興味は尽きない。
「‥‥にししし」
 そしてもう一人、尽きぬ好奇心の敷島ポーレット(fa3611)。彼女はさっき、オルトロスに予告無く『言霊操作』を食らわした。その結果、オルトロスはピーとピーでピーらしい。あと、ピーであるとも。‥‥詳細はこの兄妹に聞いとけ。
「もし、封印されてるオーパーツが危険なものだったら、どう扱うつもりなの? 武器でも何でも、使い方によっては危険だけど、そこにあるだけで周囲に影響を与えるとか‥‥」
 怪しい笑みの猫娘は置いといて、再びベルシード。
「基本的には、実際に手に入ってから考えるが‥‥そうだな、抑えられる危険性ならばその方法を探す。無理ならば、再封印も止む無しだな」
「強力な武器などが無くてもNWに対処出来る方法が、見つかればいいのですがね。NWを使役することが出来る技術があるのなら、WEAも取り入れれば良いのに」
 ぽつりとこぼす東吾。情報生命体ともいえるNW、その詳細を知ることが出来れば、戦わずに消し去る方法も見つけられるかもしれない。その方法の探究のために、WEAは何故そういった力を取り入れないのか。彼の呟きを聞き取ったシャルロは、しかし、「さてね」としか答えなかった。

 ・ ・ ・

「‥‥あ。すいません、誰かSDカードとか持ってませんか?」
 道中、ひたすらデジカメで写真を撮りまくるセシル・ファーレ(fa3728)があげた悲しみの言葉。空港から市街地、レストランへの道のりで珍しいものを片端から撮影していった結果、容量が足りなくなる予感がしてきたのだ。ホテルに戻ればパソコンがある。そうすればデータを移せるが、しかし。
「えーと、これは2枚あるから片方消して‥‥あ、でもこれ可愛いから残しておきたい‥‥」
 仕方なくデータの選別を開始。別に消さなくてもあと数枚は撮れるが、これからのランチ兼ミーティング(ん? ミーティング兼ランチ?)で撮影したい状況がやってくる可能性も捨てきれない。
「これと‥‥オルトロスさんのハートマークエプロン姿は後でポーちゃんに頼んでもう一回撮らせてもらって‥‥」


 この辺は、交渉ごとに慣れた人間の独壇場だ。
 レストランの店員達と話すベアトリーチェ(fa0167)。彼女が色々指示をすると、店内の空いている一角にテーブルや椅子が並べられる。少々、スペースに余裕は無いが。
 レストラン店内は満員だった。シャルロが事前に予約していたにも拘らず、だ。だが、こういうブッキングはよくある事件、そういつもいつも目くじらを立ててはいられない。何かしら適当な対処手段を提示して、それをやらせて、そして料金を値切ってやればいい。
「ここのレストランのオススメメニューって何かなぁ? あ、注文していいんですよね?」
「ああ、どんどんしてやれ。ただし、この店を潰すほどには食うなよ」
「常識の範囲内で、手加減無しでってことで良いんだべ? 後悔するだすよ、シャルロさん」
 プロレスラーは体が資本。コウ・ザ・ブドウ(fa5474)はメニューの一番上から順番に幾つかの注文をしていく。違う、違うんだ、今回の仕事は食べることじゃないんだ。
 ‥‥いや。そうでもない。今回話を聞く相手にとって、自分達は謎の一団である。見知らぬ一団に囲まれて、ピリピリした空気を纏いながらの視線を向けられていては、向こうも萎縮してしまう。それほど怖い集団ではないことを相手に知らせ、緊張をほぐす。そのために、コウやセシルは普通の食事並みに注文をしておく。
 注文を済ませ、今回は外で待機(空港〜ホテル〜レストラン付近の移動のための車で待機)しているジェリコにオルトロス特製チキンカレーを持っていったポーレットが戻ったところで、先方がやって来た。眼鏡をかけた、細身の学者風の男だった。

 ・ ・ ・

「さて、まずあなたが仰る神話の新解釈についてなのですが」
「新解釈、というほど大層なものではありません。大本の大きな木から分かれた細い枝の一本だとでも思ってください。私が話している内容は、元の神話が成立してからかなり後、現実に起こった出来事を神話に当てはめた物語を創り、信仰を始めたちいさな団体の話なのです。『神話の真相』ではなく『神話の変遷』に近い話です」
 グルメ番組と見紛うコウの食べっぷりを背景に東吾が切り出した話に、早速乗ってくる相手。彼が言う『神話』は、エジプト神話そのものに新しい解釈を投げかけるものではなく、自分たちの信仰をエジプト神話の神々に当てはめた『新興宗教』の話なのだという。とすると。
「エジプト神話に登場する神々は、実は古代のオーパーツなんかを持った強い獣人のことなんじゃないかと思ってたんだけど‥‥」
「それに関しては、私も分かりませんね。私の知っている『新興宗教』では、崇拝の対象になっているのは蛇の獣人。それ故にセト神と同一視をされています」
「なるほど。その新興宗教は、今はどうなっているんだ?」
 ガックリと肩を落としてみせるベルシードを置いて、シヴェルが尋ねる。まだ残っているのならば、目の前の人物から情報が引き出せなくても、まだそこに望みをかけられる。
「残念ながら、今は宗教団体としては残っていません。今は、この神話を語り継ぐだけの存在として私の一族がいるだけです。あとは、結婚して家を出た子たちが、おとぎ話程度に孫たちへ話をしているかもしれない、という程度です」
 ということは。この人物がセト神の血を引いているならば、その親、子、兄弟姉妹、皆がセト神の子孫ということになる。そうすると、封印の数と関連付けて東吾の考えた『セト神の子孫は14人いるのでは』という話は成り立たなくなる。どれだけの範囲に大昔のセト神の遺伝子が広まっているかなど、計りようもない。14人どころではすまないだろう。『大元のセト神自体が14人いた』というのも、話を聞く限り無さそうだった。
「では、オシリスの子孫は現在まで残っているのですか? 翼があったことから、鳥系の獣人ではと推測しているのですが」
「ん、んっ!」
「オシリスの翼? あなたは一体どこで‥‥」
「あなたのことを探すために色々調べている時に、あなたの話を聞いたという人物に数人会っている。その話を統合して、知ったことだ」
 ベアトリーチェの咳払い、相手の疑問、シャルロの弁解と、急に変化した状況に、場が一瞬にして緊張感に包まれる。
 覚えているだろうか、件の遺跡には但し書きがあったことを。『資格無き者には呪いを』。セト神が施した封印を守るためにこの記述がされていたならば、その封印を司るセト神の子孫こそが、資格ある者。一族以外立ち入ってはならないはずの遺跡の、それも最下層の壁画について。何故この調査団は知っているのだろう。
「まあ、私も家に伝わっている物語や絵を見ただけですから、その詳細までは知りませんが‥‥オシリスが翼のある姿で描かれていること、そしてイシスは腕が4本あるということは、本当です」
 何とか、追及は無い。この神話について、そしてオシリスやイシスの姿について、語った心当たりがあったのだろう。
「ですが、オシリスとイシスは獣人ではありません。それは、強力なNWです」
「何?」
 予想していなかった言葉に、一同は驚いた。あの遺跡の最下層に封印されているものは、オシリスとイシスが振るった力の源だ、と聞いている。それがオーパーツだとすれば、使っていたオシリスらは当然獣人だと思っていたが。何が封印されているのか尋ねたいが、それについて触れることは出来ない。
「その強力なNWを、セトはぶっ飛ばしたんだよな。そんな事が出来るほどの強力な武具‥‥オーパーツを探しているんだが、心当たりは無いか?」
 オルトロスが別方面から話を展開する。考え込む相手に、オーパーツ自体、或いは情報だけでも、モノによっては高く買い取るぜと紙幣をカバンから覗かせる。
 が、どうやら相手はお金には興味が無いご様子で。実は結構お金持ちらしい。着ている服もどことなく高そうな気がすると、遅ればせながらもオルトロスの黄金レーダーが感知した。
「武具ではないのですが‥‥オシリスやイシスの力を抑えるために使われたオーパーツというなら、幾つか知っています。全部で14あると神話では述べられているのですが、私はそのうち6つしか在り処を知りませんが」
「それでも、対NWでは非常に有用だな。その話、詳しく聞かせてもらえないか。いいだろう、所長?」
「ああ。是非聞いときたい」
「詳しく、といってもそれほど詳しくは知りませんが‥‥それらは、力を封印した部屋を何重にも縛っているといいます。棺の鍵やそれを縛る鎖、部屋の扉の鍵など‥‥14の封印のオーパーツは、ひとつひとつがその力を高めあい、全部揃っていれば相当な力を発揮するのだそうです。勿論、一つでもその辺のNWの十体くらいは行動不能にすることが出来るらしいですが」
「その『封印は』『どこに』『教えて』くださいませんか?」
「多くが、今は展示品として美術館に納められています。カイロ美術館に3つありましたが、昨年6月頃にそのうち2つが別の美術館に移ったらしいです。そして1つが私の家にありますし、知っている最後の1つはある美術品コレクターが持っています」
 ポーレットの『言霊操作』の能力で、封印の鍵の在り処を知っているだけ話す相手。ここは申し訳ないが、しっかりチェックさせてもらう。

 ・ ・ ・

「ダークサイドと呼ばれる獣人がオーパーツを狙っているらしいわ。あなたの家にあるオーパーツが狙われることが無いように、出来るだけその関連の話はせず、WEAへの接触も避けたほうが良いわ。どこで聞かれているかも分からないし」
 そうベアトリーチェが、自分たちがWEAを騙っていることを知られないための念押しの一言を言って、昼食会はお開きになった。全員で10人いたが、うち8人は軽食と飲み物のみ。なのに明らかに12人くらいが食べたほどの料金をシャルロが払ったのは何故だろう。
「所長、どうする? 追いかけてみようか?」
 戻ってきたホテル。野郎の部屋に集まって話し合う一同。この場にシャルロはいない。
「いや。多分これ以上聞けることは無いだろ。遺跡に突撃しましたって白状しない限りは」
「それよりも、別のところに確認したい話が出てきましたしね」
 セシルがパソコンで今回得た情報をまとめて可視化する。神話について、セト神について、封印の鍵の在り処について、そして。
「封印されているもの。NWオシリスとイシスの『力の源』‥‥」
 封印されているものはオーパーツで本当に間違いはないのか。そして、NWの力の源とは一体何のことなのか。これは東吾の考える、戦闘以外でのNW対処法の確立へ一歩前進できる話なのか。
「悪い話に乗ってたっちゅうんは分かるけど、これが実はヤバいもので、本当のお尋ね者になったりして‥‥」
「遺跡の遺産が何なのか、どうするつもりなのか知らんが、せめて公約どおり、マシなことに使ってもらいたいものだな」
 その日、一同の話し合いが終わった頃。その頃には、シャルロもジェリコも既にホテルから姿を消していた。