奏デ歌ウ想イ ―輪舞曲アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.6万円
参加人数 10人
サポート 1人
期間 02/22〜02/26

●本文

●『奏デ歌ウ想イ』の世界
 奏歌楽士とは、『奏』『歌』という特殊な能力を使用し『歪』と戦う者達のことである。『奏』を使用する者を『奏士』、『歌』を使用する者を『歌士』という。
 この『奏デ歌ウ想イ』は、彼ら奏歌楽士達の戦いの記録を記す特撮番組である。

 『歪』とは、特定の形を持たず宙に浮く影のような存在である。楽士達は世界各国にある楽士協会に所属し、そこから下される指令によって『歪』退治を行う。

●出演に当たって
 出演者には以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定してほしい。

【能力】「奏」もしくは「歌」を選択。
【ジャンル】能力の種類を設定。いずれか一つ。
 奏‥‥白兵(+5)、単体射撃(+3)、複数射撃(+2)、散弾/扇状/放射(+1)、回復(+3)、補助(+3)
 歌‥‥単体射撃(+4)、複数射撃(+3)、散弾/扇状/放射(+3)、回復(+3)、補助(+4)、修復(+5)
【射程】能力の射程を選択。いずれか一つ。
 奏‥‥短(+5)、中(+3)、長(+1) ※短:0〜1m 中:1〜12m 長:12〜100m
 歌‥‥短(+4)、中(+4)、長(+2)
【効果】4つのパラメータに合計20ポイントを1〜15の範囲で振り分けてください。
 威力/効果:破壊力、回復力等。
 速度:演奏・歌唱から発動までの速度。射撃であればその弾速。
 持続:その能力が発動してからどれだけの間効果を持って存在し続けるか。
 安定:発動確率、効力の安定、妨害に対する抵抗。
【回数】能力を一日に使用できる回数。
 ジャンルと射程を決定後、()内の数値を足した数。
 パラメータポイントを2点消費することで使用回数+1することも可。
【その他】能力についての注意点
 『奏士』と『歌士』の掛け持ちは不可。しかし、『奏士』なら『奏』、『歌士』なら『歌』の複数習得は可。

<キャラクターテンプレート>
キャラ名:
能力:能力・ジャンル・射程/効果:威力・速度・持続・安定・回数
備考:

※皆さんが演じるのは奏歌楽士です。一般人、マイスターは現在選択できません。

※フリー楽士オプション
 今回、参加者はフリーの楽士を選択することが出来ます。フリーの楽士となる方は以下の制限に注意して設定を作ってください。
 ・無条件で『奏歌』の持続+1、使用回数+2。
 ・3人以上での『共鳴』『共声』『共音』の発動・参加不可。

●輪舞曲
「‥‥‥‥動いたな」
 シードルの言葉に、アドリアンとボリスが顔を上げる。
「どうする? 本国からの増援を待つには時間が無い。だが突入してぶっ潰すにしても、協会内全部の楽士を俺達5人だけで突破するのは難しいぞ。もう少し戦力が揃っていたとしても、また蜘蛛の巣を張られちゃたまらねぇ」
「2人が別方向からそれぞれ攻撃し、敵の守備を分散。3人が突入。楽士の突破だけならこれで何とかなるが、囮の二人は生きて帰れんだろうし、『楽譜』の近くには日本のマイスターも居るだろう。破壊は至難の業だ」
 それぞれに考えを巡らすが、しかし名案は浮かばない。こうしている間にも、日本楽士協会の超巨大『楽団(オーケストラ)』は着々と準備が進んでいる。
「考えは、ある。‥‥外から我々が攻撃し守備の楽士達をおびき寄せ、手薄になった内部を別働隊が落とす」
「別働隊?」
「彼らは動くよ。私達とは別に、独自に調べてもいるようだ」
 不確定要素ながらも、存在する戦力。公式データ上は『死亡』とされた楽士達。一時抹殺指令を下された楽士達。彼らをよく知り、彼らを信じて共に戦う楽士達。
「利用するようで、申し訳無いがな」
 シードルの脳裏に浮かぶのは、彼を慕い、楽師になると言っていた女性。
「だがそれでも、100%には遠い。彼らを動かすために、何か一つが欲しいところだな」
「大丈夫だ。私が先行して内部に潜入し、彼らと接触する」
 ボリスの要望にシードルが答え。アドリアンが不安を漏らす。
「おいおい、大丈夫かい隊長サン?」
「潜入するだけなら簡単なものさ。それも出来なければ、私は今生きていない」
 すぐ近くに聞こえたその声の主の姿は、既にどこにも見えなかった。
「ボリス。陽動部隊の指揮は任せた」
「了解」

 ・ ・ ・

 突如飛来した漆黒の矢を、体を捻って回避する。掠りすらしなかったその一撃は、しかし、シードルが纏っていた『隠蔽』の『歌』を吹き飛ばすように剥がしていく。
「また来たのか。お前も飽きずによくやる」
「お前が直に出てくるとは、随分と暇なんだな。楽士協会日本支部主席楽師、桐原 藤次」
 『隠蔽』をかけ直すこともなく、シードルは目の前に現れた敵と対峙する。
「ロシア協会からの警告を伝える。日本が隠しているあの『楽譜』を破壊しろ」
「何のために」
「世界の調和のために」
「調和か‥‥自ら調和を乱している国の楽士が、よくもまあそんな言葉を吐けたものだ」
「何だと‥‥?」
「お前のような下っ端は何も知るまい。今、世界で何が起きているのか。‥‥いや、わざわざ教えてやる必要も無いか」
 ヒュン、と藤次の楽器が音を鳴らす。同時に生み出され、高速で飛来する漆黒の矢。その数、10本。
「「お前が知る必要は無い、ここで死ぬからだ」か? 退治される悪役が好むセリフだな」
 左に軽くステップを踏み、同時に何かを空中に放つシードル。4本の矢は横を通過して行き、残りの6本は空中で何かに衝突した後、空気に飲み込まれるようにして消えた。
「違うな。ここで教えずとも、どうせすぐに分かることだからだ。まあ、お前が死ぬ前にその機会が来るかは、分からんがね」
 背を向け、去っていく藤次。シードルは一瞬迷った。
 追うべきか、残るべきか。
「‥‥‥‥」
 追う。そう決めた次の瞬間。
 シードルの体を、漆黒の矢が貫いた。
 後ろから。

 ・ ・ ・

「マイスター・ナツミ」
「はい」
 藤次の言葉に、楽士協会日本支部次席楽師の市村 七海は振り返る。
「じきに外からロシアの楽士どもが襲撃をかけてくる。協会には近づけるな」
「了解いたしました。イギリス、中国からも楽士が向かってきているようですが、そちらへの対応は」
「不要だ。あれの準備が整い次第、すぐに始動させる。その後であれば、何事もどのようにでも対処できる」
「分かりました」
 『楽団』の準備のために最低限の働きしかさせていない『転送弦』の代わりに、楽師専用の歌『指揮歌』を使用して外の楽士達へ指示を伝える七海。そして。
 隣の巨大な部屋へと集められた、訓練中、或いは訓練を終えた直後の楽士達に向かい、作戦を示す。新人楽士達の中には、先日『歪』に憑かれ調律の一部始終を目撃してしまった少年の姿もあった。
 新人奏歌楽士たちに下された指令。それは、内部に潜んでいる『敵との内通者』の排除。
「世界の調和のために。歪みを、調律せよ!」

 ・ ・ ・

 流れる血を顧みることも無く、シードルは壁を支えに歩を進める。
「何とか‥‥状況を‥‥」

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1276 玖條 響(18歳・♂・竜)
 fa1359 星野・巽(23歳・♂・竜)
 fa3742 倉橋 羊(15歳・♂・ハムスター)
 fa4264 月白・蒼葵(13歳・♀・猫)
 fa4265 月白・緋桜(13歳・♂・猫)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)
 fa5241 (20歳・♂・蝙蝠)
 fa5442 瑛椰 翼(17歳・♂・犬)
 fa5498 雅・G・アカツキ(29歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

●パンフレット
二宮 千鶴‥‥欅(fa5241)
フェリオ・ブランネル‥‥瑛椰 翼(fa5442)
楓雅‥‥星野・巽(fa1359)
灯‥‥倉橋 羊(fa3742)
鵠夜‥‥玖條 響(fa1276)
嵩埼 桃桜‥‥月白・蒼葵(fa4264)
嵩埼 瑠茅‥‥月白・緋桜(fa4265)
如月 春燈‥‥富士川・千春(fa0847)
朝香 凛‥‥雅楽川 陽向(fa4371)
暁‥‥雅・G・アカツキ(fa5498)

●危険察するアンテナ
「シードルさん? 大丈夫ですか!?」
 シードルのことを心配して能力で転移してきたフェリオ・ブランネルが見つけたのは、体から血を流しているシードルだった。
「フェリオ、またボリスのとこから逃げてきたのか?」
「そんなこと話してる場合じゃないですよ! 早くここから離れて、手当てを‥‥」
「その前に、ひとつだけ用事が‥‥」
「この、いちいち邪魔くさい‥‥!」
 シードルが何か言いかけたのを遮って、フェリオ達の上から降ってくる声。見上げると開け放たれた窓。そして、降ってくる男。
 二宮 千鶴は着地の衝撃を転がって和らげると、自分が飛び降りた窓を即座に振り返る。そしてそこから身を乗り出すもう一つの影に向かって、炎の弾丸を放つ。
「バカヤロウ、瓦礫、瓦礫が降ってくるだろ!」
 フェリオはすぐさまシードルの肩に手を置くと、自身の奏『転移』を発動する。
「おいお前、下見てから撃てよそーいうの!」
「あーわりぃ」
「君は、確か‥‥以前、リディアと一緒にいた」
 シードルの言葉に、千鶴はシードルの顔をまじまじと見て。そして暫らく後。
「あぁ、アンタ前にも見たな」
「え? シードルさん知り合いですか? この目玉パパの‥‥」
「そんな親父持った覚えは無い」

 ・ ・ ・

「で。お前らは再就職先が見つからなくて帰ってきたんだな?」
「違うっての」
 シードルの言葉によって外のある場所にいるという人物を迎えに行ったフェリオと千鶴が出会ったのは、千鶴にとっては公式記録に『死亡』と載っているはずの二人。プラスもう一人。
「あの怪文書送ってきたのはアンタか? あれは何なんだ? 中が騒がしいのは一体なんだ?」
 ハーモニカを変化させた弓を持つ灯が、シードルに問う。ちなみに何故今既に弓になっているかというと、灯を迎えに来たフェリオがわざとロシア語で話しかけて困らせたのにぶちキレかけたからだ。
「日本協会は、一般人の精神を支配する大規模な奏歌を発動させようとしている。これから、万全を期すための内部掃討作戦が行われる」
「内部掃討作戦?」
 楓雅が聞き返す。問いにシードルが口を開く前に、フェリオが代わって答える。
「協会内に裏切者が出て邪魔されないように、反逆する疑いのある楽士を先にどうにかしておこうって作戦だ。黒に近い奴はとっ捕まるぜ」
「ああ。現にとっ捕まりかけた」
 フェリオの言葉を、千鶴が継ぐ。以前の日本協会へのロシア楽士襲撃事件以降教会に不信感を持っていた千鶴は、同じ想いを持つ仲間達と共に内部で調査を行っていたのだ。その行動がおそらく、協会側に見つかっていたのだろう。
「もうほとんど無差別だな‥‥」
「他人事じゃないだろ。俺は協会の資料室に何日か通いつめただけでこれだ。あんたの妹とか、拙いんじゃないか?」
 千鶴が言うのは楓雅の妹、如月 春燈のこと。協会から臨時の楽師に任命されたほどの実力派ではあるが、兄貴があまりに怪し過ぎる。
「そうだな‥‥」
「ほら、行くならさっさと行こう。いつも長々と考え込むのがアンタの癖だ」
 サッと立ち上がると、灯は一人近くの入り口へと向かう。
「一人で入ってどうする、出る時結界があるぞ」
 灯の後を追って千鶴も歩いていくと、楓雅も立ち上がる。と、今まで黙っていた鵠夜も立ち上がる。
「これ以上先まで付き合う必要は無い、帰っても構わないぞ?」
「目的達成には人数が多い方が良いでしょう?」
 今僕に何か言いましたかとでも言いたげな顔で微笑みながら、鵠夜はクラリネットを槍に変化させる。
「組織のすることは理解出来ませんが、こういう時に『仲間同士が』すること、思うことは理解できるつもりです」
「‥‥分かった、よろしく頼むよ、鵠夜」
 届いた灯の催促の声に引っ張られるように、小走りで去る楓雅と鵠夜。
「あいつら、シードルさんのことはスルーかよ」
「フェリオ、君も彼らと一緒に行くんだ」
 シードルは怪我で満足に動けない。だが、だからといってフェリオが残っても守れない。ならば内部で得られるだけ情報を得てほしい。それがシードルの指示だった。
「でもシードルさん、万一見つかったら‥‥」
「大丈夫。私は簡単には見つからない。そうだろう?」
「‥‥分かりました。でもすぐ戻ってきます。肉まんが冷める前に!」

●The justice woman?
「ちょっとそこの2人、いい?」
「「春燈さん? 何ですか?」」
 春燈の声に双子らしい揃った返事で振り返るのは、嵩埼 桃桜と嵩埼 瑠茅。双子の新人楽士である。
「違うわ。私が用があるのはここの新人楽士じゃなくて、中国の楽士なの」
「‥‥‥‥何でそのことを?」
「私だって色々と調べてるのよ。その途中で、あなた達が中国協会の内通者だって分かったの」
 一部ウソを訂正する。『私だって色々と調べてる』→『私だって色々調べてもらってる』。
「それで、一体何の用なんだ? 俺達を捕まえるのか?」
 瑠茅の言葉に春燈は首を振る。目的は、情報の取り引き。
「聞きたいことがあるの。日本協会が隠してるらしい‥‥」
「いました! 捕縛対象者3名!」
 ドアが開け放たれ、入ってくる楽士達。すぐさま反対側の通路へ駆けていく桃桜と瑠茅。一瞬遅れたが、春燈もそれへ続く。
「あなた達、何かヘマやらかしたんじゃないでしょうね?」
「どっちかと言えばあいつらが追いかけてるのは俺達よりあんたの方だよ」
「私? 何で私なのよ」
「あんたは如月 楓雅の妹だろ。計画の足元を掬われないように、先手を打ってきたんだ」
「計画? 計画ってもしかして‥‥」
「地下4階の『楽譜』」
 少しすると背後の騒がしさも消えていった。一時的には、彼らの追撃を逃れられたようだった。
「で、春燈嬢は二人の少年連れてどこ行くんや?」
「っ! り、凛っ!?」
「何や、ビックリしたなぁ‥‥どうしたんや、春燈嬢?」
「ううん、何でもない‥‥何でもない」
「?」
 状況は掴めないが、肩で息をする3人に何となく一緒についていく朝香 凛。ただ事では無い何かが起きたのかもしれない。
「そっちだ、捕まえろ!」
 突如、進行方向から聞こえてくる声。その声に春燈たち3人は手近な物影に隠れ、凛だけはきょとんとそこに立ち尽くす。
「違うよ、僕はそんなことしないよっ!」
 そして離れていく声。どうやら、自分たちが見つかったわけではなさそうだ。だが。
「今の声‥‥カナンくん?」
 そして春燈は瑠茅を引っ張って走っていく。相方を持っていかれたので桃桜もそれについて行かざるを得ず。
「‥‥何が起こっとるんや?」
 またも置き去りの凛。

 ・ ・ ・

「‥‥このまま行くと行き止まりだ、どうしよう‥‥香佑‥‥」
 助けを祈りながら、カナンは走り続けた。だがしかし、無情にもすぐにその行き止まりへ。追い詰められるカナンに放たれた追っ手達の奏歌は、カナンにぶつかるか否かというところで透明な壁のようなものに阻まれる。
「ひとーつ、酷いことを女の子にやる奴には鉄拳制裁! ふたーつ、不憫な女の子には愛の手を! みーっつ、皆の味方このアタシが! 全部まとめてやってあげるわ、『ダンシングスター仮面』暁、参上! 義によって助太刀いたしちゃうわよ!」
 しかし何もかぶっていない。
 そしておどりながらでてきたへんなひとはかなんをにがすとひとりのこってぼこぼこに‥‥
「されないわよ! 天の声だからって許せることと許せないことがあるわ。後で体育館裏に来なさい」
 誰が行くか。
「カナン、大丈夫!?」
「何やえらい派手な人がおるなぁ‥‥っと!?」
 追いついた春燈達の方にも飛んでくる攻撃。だが、それも暁が(無駄に)踊りながら鳴らすタンバリンが結界を生成し、一つで幾つもを防ぐ。
「この人テンション高っ! うん、楽士に必要なのはノリよね♪」
 結界を前に攻撃が無駄と知るや、攻撃は止んだ。その代わり、別方向からこちらへ一人歩いてくる少年の姿。その姿を、凛だけは見覚えがあった。
「お、無事は無事やったんやな。良かった」
 その少年は、凛が退治した歪に憑かれていた少年だった。その少年は凛たちの方へ近づくと、暁の透明な結界に手を伸ばす。すると。
 結界が砕けた。
「今です! 攻撃を!」
「ちょっ、何すんねん!!」
 降り注ぐ奏歌の嵐に、暁が改めて結界を張り、春燈が突破口を開く。それを利用してカナンとも合流すると、急いで逃げる。
「‥‥これだけで許すと思ったら大間違いやで。『永遠の 闇に誘われ 夢を見る』『燃え尽きて 残る事なし 灰となる』『砕け散り 欠片となろう 儚きよ』『人知れず 風に消えゆく 定めかな』‥‥これで戦えるんやったら戦えばいいんや!!」
 様々な力をダウンさせる『歌』を片っ端から重ねがけ、逃亡する凛。


「それにしてもテンション下がるわ‥‥『結界解除(バリアキャンセラー)』なんて。1協会に1人いるかどうかのレアものよ‥‥」
「百歩譲ってもテンション落ちてるようには見えないんだけど」
 桃桜の言葉もどこ吹く風。暁は一人で考え事を続ける。姿隠しの結界を張って踊りつつ移動しながら。
 そんな桃色オーラをまとう暁から少しずつ距離を開けていた瑠茅がふと窓から外を見た時。
 外で大音量の『花火』。
「‥‥もしかしてチョコ持ち逃げのあの2人?」
「知り合いか?」
「あんな派手連中は他にいないわよ‥‥。あ、ここにいた!」
 やらかすことが派手なのと存在が派手なのの違いはあるが。

●冷たい花火
 目くらましに大型花火『劫火穿雨』を放った灯と千鶴は、他の仲間達と共に協会内部への潜入を果たしていた。だが、敵は次々にやってくる。
「敵はどうやら新人だ。足止めだけでいい」
「目的達成のための犠牲は仕方ないと思いますが‥‥」
「彼らはきっと、命令で戦ってるだけだ。俺達が日本協会を止めて救いたい人達の中に、彼らも入っている」
「分かりました」
 鵠夜が武器とする槍を振るう。そこから放たれた当たった者の動きを鈍くする斬撃は、楓雅の鎌鼬に乗って、高速で敵楽士達に襲いかかる。それから逃れた楽士には、灯が数発の打撃を入れてノックアウトする。
「外でお遊戯してたわけじゃねぇんだ、いつまでも新人と一緒だと思うなよ」
「あとは春燈達と‥‥地下4階は無理か? 多重転送弦? 巨大共音‥‥歪の発生と何か‥‥」
 ぷー。
 気の抜けた音と共に、突然の後頭部への衝撃にすっ転ぶ楓雅。そしてハーモニカ構えた灯。
「アンタ状況聞いてなかったのか? 無謀はとっくに卒業したんだろ、センパイ」
「ああ。無駄死にはしない。が、灯。無駄に能力を使うな。こういうのは力技でやるからネタとして連発が利くんだ」
 何のこっちゃ。
「花火屋発見! コラ、チョコは3倍返し!」
 どかーん、と立ちはだかる敵楽士をぶっ飛ばして登場する春燈と、その後ろから凛や桃桜、瑠茅、カナン、変態。
「生きてたか。捕縛の対象はお前らだけなんだな? 手間かけさせんなよ!」
「何よ、別に助けてなんて一度も言った覚えは無いわよ!」
(「春燈‥‥元気、みたいだな」)
 あとは皆の脱出のために。囮も兼ねて奥へ行こうとする楓雅だが、ついてくる気配の鵠夜に肩をすくめ。
「どうしました? やるべきことがあったのでは?」
「いや‥‥もっと優先させなきゃならないことがあるみたいだ」
「そうですか」

 ・ ・ ・

「またこれかよ。ったく」
 灯や楓雅は以前に粉砕したことのある、脱走防止の結界。
「手早く頼むぞ。俺達は後ろの奴らをどうにかしてるから」
 桃桜と瑠茅は皆から少し離れ、共音『夢水鏡』を発動する。幻覚を見させるこの能力で追っ手に見せるのは、『敵』の姿。すぐに始まる追っ手同士の戦い。
「じゃあ、今のうちね。カナンちゃん、結界のあの部分、薄くするわよ」
「は、はい‥‥頑張ります」
 うきうきの暁とガチガチのカナン。蛇に睨まれたカエル状態‥‥なのか?
「『輝ける 光纏いて 武神なる』‥‥もう回数も残ってへんから、一発で決めてや!」
「いくわよっ!」
 春燈の放つ雷に、楓雅と鵠夜、千鶴の能力が上乗せされる。巨大な力が、結界の弱まった部分に直撃する。そして。
「これで、貫くっ!」
 灯が最大出力の巨大な炎の矢を、第1弾の共音の中心に撃ち込む。その破壊力に結界は次第に大きく歪み、砕け散る。
「よし、すぐに出るぞ! シードルさんと肉まんが待ってる!」
「中国支部の双子から頂いた餡まんもあるわよ☆」
「‥‥え? いつの間にっ!? あんた、それ俺達の‥‥」
「餡まんっ!? 何だそれ、喰いたい!」
 壮絶なる争奪戦の予感。この争奪戦への参戦のために、桃桜と瑠茅は中国協会へ戻るのを少し遅らせたとかそうでないとか。

 ・ ・ ・

「シードルさん!」
「フェリオ、私は無事だ」
 突然近くに姿を現したシードルに驚きながらも、フェリオは肩を貸し、一足先に転移で戦線から後退する。目指すはボリスのもと。
「なあなあ、灯君、楓雅君」
「ん? 痛ぇ! 凛、お前パワーアップ状態でつねるなっ!」
「良かった。お化けちゃうよね? 死んだって聞いてたからずっとめちゃくちゃ心配やってん‥‥」
「ああ‥‥すまない。この通り、ちゃんと生きている」
 皆が急ぎ足で協会を離れる中。一人振り返り、鵠夜が呟いた。
「まだやることは残っていそうですが‥‥」