たくさんの贈り物アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/25〜05/01

●本文

「ボランティア公演、ですか?」
「そう。会場は近くの老人ホームを借りて行うのだが、客には近くの住人や小学生なんかも呼ぶ。それで、そこで公演をやってくれる人を募集したいのだよ」
 局プロデューサー織石は、ディレクター1年生の小関と同じく4年生の田名部に向かい、企画の説明をしている。
「かかる費用に関しては、ある程度は広告主から出る。ただ、スポンサーの宣伝が目的のひとつだからね、客がなるべく入るように舞台のスペースが削られている」
 織石によれば、舞台として使えるスペースは幅8m、奥行き3mとのこと。両袖には幕は無いものの、衝立を一枚ずつ出して隠れられるようにはするらしい。ちなみに、照明機器が無いため照明効果を演出で使うことは出来ない。暗転も不可である。
「募集をかけるのはいいですけど、どういった内容の公演を、とか指定はあるんですか?」
「うむ、今回は『プレゼント』をテーマにしたオムニバス形式で、1本10分から30分くらいの尺で作ってもらいたい」
 小関の問いに織石が答えると、田名部が重ねて質問する。
「本数の指定はありますか?」
「本数については任せるよ。ただ、複数作品を上演すると広報で流してしまっているから、最低2本だ。上限は‥‥厳密に決まっているわけではないが、4本程度だな」
 わかりました、と動き始める小関と田名部に、織石が声をかける。
「ボランティア公演とは言ったが、出演してくれたキャストやスタッフにはいくらかの謝礼が出る。そのことも募集の際には伝えておいてくれ」

●今回の参加者

 fa0910 蓮城 郁(23歳・♂・兎)
 fa1108 観月紗綾(23歳・♀・鴉)
 fa1431 大曽根カノン(22歳・♀・一角獣)
 fa2177 縞八重子(27歳・♀・アライグマ)
 fa2573 結城ハニー(16歳・♀・虎)
 fa2724 (21歳・♀・狸)
 fa2807 天城 静真(23歳・♂・一角獣)
 fa3179 和泉 姫那(23歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 開場前、準備は多忙を極めた。
 花束をチェックする蓮城 郁(fa0910)と観月紗綾(fa1108)。袖に机と椅子を用意、衣装である制服を着た結城ハニー(fa2573)に結(fa2724)。
 天城 静真(fa2807)と和泉 姫那(fa3179)は大掛かりな背景用のセットを組み立てている。
 昭和30年代あたりを舞台にした台本を作成した縞八重子(fa2177)は、大曽根カノン(fa1431)と演技の最終打ち合わせをしている。

 開場時間となり、観客が入ってくる。覗き見ることは出来ないが、かなりの人数が来てくれているようだ。

●一番欲しい贈り物
・キャスト
郁:蓮城 郁
紗綾:観月紗綾

「私の一番欲しいものを当てたら結婚しましょう」
 つい先ほど紗綾の手を取りプロポーズした郁は、すぐ受け入れてもらえると思っていたため目をパチクリ。
「一番欲しい物‥‥これを!」
 しばらく考えてから郁は懐から指輪を取り出し、紗綾の手にそれを握らせる。しかし紗綾に笑顔は浮かばない。
「では、これは?」
 手を変え品を変え。郁はぬいぐるみを出して渡したり、抱えきれないようなたくさんの花束を運んできたり。視界を塞がれ転びそうになるコミカルな場面もあったが、プレゼントの山に埋まっていく紗綾は一向に喜んでくれず。
 紗綾も、郁に自分が求めているものを気付いてもらえず、イライラし始めていた。断るのも心苦しく、何度も「うん」「ありがとう」と言ってしまいそうになるが、言いたくないと堪える。
 どうして受け入れてもらえないのか。どうして解ってもらえないのか。積もる不安。そして、
「もうこれ以上、差し上げられる物はありません」
 項垂れて、郁は紗綾に告げた。きっと、紗綾は自分を受け入れてくれるつもりが無いのだろう、と。
 逸れた視線、流れる沈黙。途方に暮れた郁の耳に不意に聞こえる、紗綾の口から零れ落ちた言葉。
「私が一番欲しいのは、貴方なのに‥‥」
 ハッと顔を上げた郁に、紗綾はしがみつくように抱きついた。
「高価な物も、何も要らない。貴方だけがいればいい‥‥」
 紗綾の言葉。貴方が、郁がいればいい。その言葉で郁は、本当に大切なものが何かを思い出した。
 それは、心。大切な人を心から想うこと。その想いの詰まった自分自身が、一番の贈り物なのだ。
 強く抱き合う二人。二人には、周りを埋めた美しい花束のように幸せな未来が花開くのだろう。

 大きな拍手に包まれながら、蓮城と観月は手を繋いで歌を歌いながら、用意した花を一輪ずつ、観客に配ってまわった。差し出された花から二人の想いの欠片が受け取ってもらえるよう。大切な人、思い出、優しい記憶が蘇る、そんな劇になりますよう。そんなふうに願いながら。

●たった一つの願い事 作:縞八重子
・キャスト
少女:大曽根カノン

 その少女は、閉め切った部屋の中にただ一人居た。時折苦しそうに咳をし、乱れた呼吸と心臓の鼓動を抑えながら。
 少女は喘息を患っていた。高度経済成長の煽りの中街の環境対策は後回しにされ、結果として少女や町の住民達に病魔という被害をもたらしていた。

 いつもと同じ、過ぎていくだけのある日。咳が酷く苦しくて、見舞いに来る人間もおらず、病室に一人居るだけの、いつもと同じ日。ただ一つ、いつもとは違うことが起きた。
『辛い日々に耐え続けているお前に、1つだけ何かプレゼントをやろう』
 夜中、ふと目が覚めた少女に聞こえてきた声。声の主は神なのだと、少女は直感的に悟った。
 1つだけの、神からのプレゼント。それに対して少女は、
「今はこの病気と闘っています‥‥ですが、この病気を治してくださいとは言いません‥‥この病気がこれ以上増えないようにしてください‥‥」
 そう答えた。
『自分の病気は構わないのか? その病気が治れば、お前は幸せになることが出来る』
「今私は幸せです。いろんな方々にお世話になっています。想ってもらえています。その方々にも私みたいな病気になってもらっては困るのです‥‥」
 真摯に答える少女の言葉に、神は
『分かった‥‥その願いかなえよう』
 と答えた。そしてそれきり、神の声が聞こえてくることはなかった。

 次の日。街の様子は一変していた。
 街にあった枯れかけている木々は生まれ変わり、鮮やかな緑が日の光を反射する。
 川からは大量のヘドロが消え、透き通った水の流れに魚が躍る。
 強い臭いが付き視覚的にも濁っていた空気は、心地よい綺麗な空気となった。

 少女の望みどおり、街から喘息の患者は減っていった。そして、彼女自身も‥‥

●シベリアへ愛を込めて
・キャスト
ハニー:結城ハニー
結:結

「ねぇ、知ってる? 先生、今年転任するんだってさ。シベリアに」
 卒業式間近のその日。ハニーが告げたその事実は結に大きなショックを与えた。
「シベリア‥‥え! シベリア!?」
 想像の範疇を軽くぶっちぎった言葉に結は驚くが、対照的にハニーは面白半分に言葉を続ける。
「ははは、ウチの学校ってばシベリアに分校あるんだね」
 そんな馬鹿なという言葉は聞き流し。二人は送別会をしようと決めた。そして、話は渡すプレゼントへ。
「折角高いお花とか渡しても、男ってスグに他の女にあげちゃうのよねぇ」
 ハニーはしみじみと、自身の過去の経験を語るように言う。
「お花は枯れちゃったら終わりだから、もっとカタチとして残る物がいいな。シベリアって、とっても寒いんだよね? 何か暖かい服とか贈ったら喜ばれるかな」
 結が言いつつ鞄から取り出したのは服飾雑誌。
「あ、ほらほら見て! この帽子可愛いよ」
「それ婦人用。っていうか、贈り物選ぶのにそのセンスは破滅的じゃない?」
「じゃあ、ハニーも一緒に考えてよ!」
「うーん、じゃいっそ手編みなんてどう? 『YUI☆LOVE』なんて入れてさ」
 ハニーは軽い冗談のつもりで放った言葉だったが、言われた結は顔を真っ赤にして‥‥
「私‥‥先生のこと憧れてたんだよねぇ」
「あんな貧乏ブサイクのどこがいいのやら‥‥」
 溜め息をつくハニーには、結の憧れは理解できず。イケメン至上主義、憧れはセレブな生活というのがハニーの価値観だ。
「私も、教師目指してみようかなぁ。そうすれば、先生と一緒の学校に居ることも出来るよね」
 頬杖をついて結が呟く。その言葉はハニーへの問いかけのようで、その実自分へ向いていた。
「ほら、プレゼント選ぶんでしょ。これなんてどう? これかぶっとけばあの貧乏ブサイクも少しは見られるようになるんじゃない?」
 ハニーに促され、結もプレゼント選びに戻る。
「それじゃあこれにしようか?」
 そしてようやく決定。
 結は嬉しそうに、ハニーはやはり理解できないなぁと言うふうに席を立って、二人は連れ立ってプレゼントを買いに向かう。

●日付が変わる前に〜シンデレラ・キス〜
・キャスト
天城 静真
和泉 姫那

 テーブルに二組の椅子、二組の食器、二人分の食事。
 待ち遠しそうに時計を眺めている和泉。今日は自宅に彼を呼び、彼女の誕生日パーティをするのだ。
「もうそろそろ来る時間かしら。楽しみ」

 その頃、彼‥‥天城は、宝石店にいた。和泉への贈り物を探そうと考えていたのだ。が、彼はそれほど裕福ではなかった。
「もう一桁少なければなあ‥‥」
 一般人にはありえない値札の並ぶ店で立ち尽くし、溜め息をつく天城。
 諦めて店を出ようとすると、店員が突然騒ぎ出した。宝飾品を紛失した、と。そして、
「ちょっと待って、違う、盗んでなんかいない!」
 長い時間宝石と睨めっこして、何か買うわけでもなく立ち去ろうとした天城。彼に疑いがかかってしまったのである。
 彼には‥‥
「もう時間が無いのに‥‥」

 何度目だろうか。時計を見上げる和泉。約束の時間は過ぎた。いつもの天城では考えられないことだ。
「せっかくのお料理が冷めてしまうわ。何をしているのかしら?」
 心当たりのあるところに電話をかけるが、どこにも彼はいない。信じる気持ちを押しつぶすかのように、和泉の不安は大きくなっていく。

「盗んでなんかいません、誤解です!」
 そう訴えたのは何度目か。しかし警察は聞く耳を持たず。
 ただ無為に時間が過ぎていく。どれだけ経ったか、天城は解放された。品の紛失は店員の不注意だったと連絡があったという。

 ふと、和泉の脳裏にある思いが過ぎる。まさか自分の誕生日に嫌われてしまうなんてことは‥‥
「そんなことないよね、何かの事情があって連絡が取れないだけよね」
 その表情は思いつめて、言葉とは裏腹に涙が流れ落ちそうになって。それでも‥‥
「日付が変わるまで待つわ、それでも来なかったら何もかも片付けましょう」

「やっぱりもうどこも開いてないか‥‥」
 天城は和泉の家への道のりを急ぎながら、店を覗いて回る。しかし、どの店も閉まっている。
「‥‥これを」
 道端の花を一輪摘み、足を速める天城。

 和泉の見つめる時計が新しい日を告げようとした直前、ドアベルが鳴り響いた。
「遅くなってゴメン‥‥プレゼント買えなくて‥‥こんな物しか」
 息を切らせて、花を差し出す天城の姿。
「いいの。嬉しいわ、来てくれて。嫌われちゃったのかと思ったわ」
 天城に抱きつく和泉。
「ごめんなさいね。私、貴方のこと疑ってしまったわ。‥‥私には、貴方が来てくれた事が一番のプレゼントよ」
 二人は抱き合い、天城は、和泉の髪にぎこちなく口づけをする。それは魔法が永遠になる瞬間。シンデレラ・キス。