ぼくのたからもの中東・アフリカ

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 5Lv以上
難度 難しい
報酬 32.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/15〜03/19

●本文

「皆さんに、お願いしたいことがあります」
 WEAによって呼び出され、集められた部屋で言われたのはそんな言葉だった。
「皆さんは『封印』の能力を持つオーパーツのシリーズをご存知ですか? ある一定量のエネルギーを1単位として、それを1つで1単位『封印』するオーパーツ。『封印』されたものは、それが銃であれば弾丸が放たれなくなり、水であれば状態変化を行わなくなる。人間や獣人、NWならば、例えるなら冷凍睡眠と同じような状態にする」
 『封印』の効力。それはその対象が『変化』することを防ぐというもの。銃は『弾丸が無い状態』に変化することを許されず、水は『凍る』『蒸発する』ことを許されず、人間は『動く』『老化する』などを許されなくなる。
「そのオーパーツを、ダークサイドの獣人たちが狙っているという情報を得ました。ダークサイドが何を目的に『封印』の力を欲しているのかは分かりませんが、あの強大な力を渡すわけにはいきません」
 突然明かりの消される部屋。薄暗くなった室内で、天井からスクリーンに伸びる一筋の光がエジプト周辺の地図を映し出す。
「『封印』のオーパーツは、現在エジプト国内にその多くがあるようです。その推測の理由は後でお話しますが‥‥それら全てを、ダークサイドが手に入れる前に回収し、WEAの管理下に置いてしまいたいのです。何事か、大きな事件に利用されぬように」
 薄い透明な膜が、地図に重ねられる。よく見ると映し出されている地図はパソコンなどに取り込まれたデータではなくOHPによるものだった。少々前時代的だが、突っ込むところではないので無視する。
 乗せられたOHPシートは、地図上に3つの赤い点を示した。
「これは、オーパーツの在り処として現在WEAが確認している場所です。個人で小さな博物館を建てたコレクターの屋敷に1つ、カイロ美術館に1つ、そして元々カイロ美術館にあったが移送された、その先の美術館に2つ。他の在り処については調査中です」
 とりあえず、これで都合5つ。オーパーツの『シリーズ』というが総数は分からないので、多いのか少ないのか分からない。
「このうち、既にカイロ美術館から運び出された2つが行方不明になっています。警備にあたっていた者の話では、大柄の虎の獣人が襲撃してきたという話です。ダークサイドの手の者と見て、間違いは無いでしょう」
 そして、続いて指し示される『コレクターの屋敷』とやら。
「皆さんに依頼したいのは、この場所に赴き、『封印』のオーパーツを回収する仕事です。WEAはまだ在り処の分からないオーパーツの所在調査や対ダークサイドの仕事があり、全ての仕事に充分な人員を割く余裕がありません。そのため、一部の仕事には皆さんのような方々に依頼をし、手伝って頂いています」
 地図と赤い点のシートが取り払われる。真っ白な画面に続いて映されたのは、大きな建物の写真。外見から普通の民家ではなく、何かの施設だと分かる。
「これが、回収してほしいオーパーツのある博物館です。ここに行き、所有者に話をつけ、穏便に受け取ってきてください。‥‥‥‥危うく忘れる所でした。『封印』のオーパーツの殆どがエジプトにあると推測した理由ですが。それはこれら『封印』のオーパーツがその効力を発し続けるためには、封印対象の近くにあることが必要だからです。オーパーツの力が常に封印対象に届いていなくてはなりませんから。まあ、近くと言ってもエジプト一国丸々、その効果範囲に収めているのですが。‥‥お分かりですね? オーパーツがエジプトにあると推測した理由。『封印』のオーパーツは、そのシリーズ全てで既に『あるもの』を封印している」
 そのオーパーツは全部で14あると推測されているらしい。その全ての力をもってエジプト国内のどこかに封印されている『あるもの』。それは。
「我々はその『封印』のオーパーツを、それが長きに亘って封印している『あるもの』の名をとって、こう呼んでいます。『オシリスの封印』と」
 オシリス、それはエジプト神話の神の名。その神の名で呼ばれた強大な力を持つNWを14のオーパーツが『封印』した。それは神話の『オシリス神の弟セト神が、オシリス神の身体を14に分けてばら撒いた』部分と重なるような気もする。
「説得と回収は、出来るだけ迅速に。現在の状況では、いつダークサイドがその手を伸ばしてきてもおかしくはないのです」

 ・ ・ ・

 オーパーツがあるという博物館は、写真で見た印象よりも大きく見えた。ここの説明を受けた時に『個人で』『小さな』という言葉があったためにそういう先入観をもって見ていたのかもしれない。
 館長である老人に事情を話し、オーパーツを受け取れないか尋ねたところ、館長は苦笑いを浮かべた。何事かと聞いてみると、そのオーパーツは既に彼のものではないのだと。
 では、一体誰が持っているのか。
「‥‥ワシの孫じゃ。二ヶ月前に、欲しいというからあげてしまったんじゃ」
 さすが個人の博物館。何でもありだ。ならば孫の方に話をつけ、貰っていこう。

「誰がお前たちなんかにやるかよ、バーカ!」

 半獣化した、猿獣人のお孫さん。軽い身のこなしで博物館の中へと消える。
 少々、回収は面倒そうだ。だからWEAは外部にこの仕事を任せたのかと、妙な勘ぐりもしてしまう。

●今回の参加者

 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa4892 アンリ・ユヴァ(13歳・♀・鷹)

●リプレイ本文

●スナイプ ヒム!
「撃ち落としてはダメですか」
「ダメじゃ」
 そんな会話からスタートした交渉。説得は得意ではないからとアンリ・ユヴァ(fa4892)は博物館周囲の警戒に向かい、シャノー・アヴェリン(fa1412)も同行した。もし異変があった場合は、シャノーの知友心話で連絡が来る予定だ。
「自分の物は自分の物‥‥それも結構でしょうが、そう主張するからには相応の覚悟が必要。全ての選択の場面における決断は、必ずその後に結果と責任を伴います。館長さん、是非お孫さんの説得に力を貸してください。お孫さんの意思と、お孫さんや自身の命を天秤にかけた時、選ぶべき選択肢は決まっていますよね。命が無ければ、貫き通すべき意思すら持ちようがありませんから」
 そう言って、御影 瞬華(fa2386)も外へと出て行く。
「‥‥少し感情的でしたね」
「でも、間違ったこと言ってへんと思う。悲惨なことになって後悔するような状況には遭わん方がいいもん」
 御影にくっついて博物館の外へ出る敷島ポーレット(fa3611)。ポーは外の見張りではなく、近所に住んでいる、館長の孫の友達を訪ねに行くのだ。孫の嗜好や最近流行っている遊びなどを調べ、交渉材料とするためだ。
「私もあるのですよ。幼い頃に、己が我儘によって母を危険に晒した事が」

 ・ ・ ・

「マサイアスである!!」
 ドカンと大きな声量で場を制圧するマサイアス・アドゥーベ(fa3957)。オーパーツを出せと暑苦しい巨体で館長に迫る彼は事情を知らぬものが見れば強盗か何かである。一応解説しておくと、館長の孫からオーパーツを貰うにあたり、彼に代わりのオーパーツを与えて納得してもらおうという作戦の第一段階である。
「きっとお孫さんには、『オーパーツが何か』ということよりも、『誰から貰ったオーパーツか』ということの方が重要なんだと思いますよ」
 発案者の河辺野・一(fa0892)が言う。館長の孫は11歳だそうである。そのくらいの年齢であれば、自分の愛着のある『宝物』を持ち、常に大事に守り続けるという行動をとるものだ。ちなみにその考えのもとになっているのは。
「日本には、祖父から孫へのプレゼントの意義を示すこんな言葉があるんですよ。『私のおじいさんがくれた始めてのオーパーツ。それは『封印』の能力を持つオーパーツのシリーズで、私は4才でした。その味は甘くてクリーミーで、こんな素晴らしいオーパーツをもらえる私は、きっと特別な存在なのだと感じました。今では、私がおじいいちゃん。孫にあげるのはもちろん『オシリスの封印』。なぜなら、彼もまた、特別な存在だからです』」
「あのオーパーツはクリーミーなのか?」
「つまり、祖父から特別なプレゼントを貰うということは、自分が特別な存在であることを示してもらうということなんです。小さな子供が物陰に隠れて、母親に自分の名前を呼んでもらってから返事をすることで自分の存在を確かめるように、自分を唯一無二の存在として見てもらいたいという欲求を満たすために必要なことなんです」
 マサイアスの言葉を華麗にスルーして河辺野が続ける。孫からオーパーツを譲ってもらうには館長の協力が不可欠だが、協力が言葉での説得だけでは少々弱い。だから、博物館にあるものでも何でも構わないので、手頃なものを見繕ってもらえないかという要請。
「分かりました、何か探してみるとしましょう。‥‥ですが、この博物館にあるのはデカブツばかりですから、丁度良さそうな物を探すのに少し時間がかかりそうです。良ければお二人も探すのを手伝ってもらえませんか」
「ええ、構いません」
「わしも問題無いのである」
 事前にマサイアスが博物館を今日1日休館日にしてもらったおかげで、お客さんの前で展示物を漁るなどという不審極まりない行動をとる必要は無く。
「そういえば、あのオーパーツですが。似たような物がここにもう一つありましたよ」
「それは、今はどこに?」
「ある美術館が少し前、何者かに襲撃されて収蔵品を奪われたんじゃが、奪われたそれの代わりに展示したいと人が買いに来たんじゃ」
 思いがけず手に入った情報。これは、WEAへ恩を売るための材料になりそうだ。

 ・ ・ ・

 外は時折自動車が通ることがあるくらいで、この上なくのどかである。お隣の家までもかなりの距離があり、ポーの帰還にはもう少しかかりそうだ。
「気をつけてさえいれば、半獣化までは大丈夫そうです‥‥」
「この、日本では考え難い程の何も無さ加減では、虎の獣人も潜むのは難しいでしょうね」
 目の良い3人が博物館の屋根の上から周囲を見渡す。本当に何も無い。
「虎の、獣人‥‥」
 3人が共通して考えていたのは、その獣人の正体。もしかしたら、あのジェリコという男かもしれない。
 考えても答えは出ない。実際に遭遇してみなければ。

 ・ ・ ・

 神保原和輝(fa3843)が見つめる先ではすばしっこく動き回る館長の孫と、それを鬼のような表情で追い掛け回す敷島オルトロス(fa0780)の姿。
「こいつは鬼ごっこだ。館長の孫が鬼で、鬼を捕まえればオーパーツはこっちのもんだ」
 そうオルトロスは宣言し、ああして怒涛の追撃戦をしているわけだが。しかし何となくルールに違和感がある。普通追いかけるのが鬼で、追いかけられるのがその他だ。
「まあ、この様子だと元々のルールどおりの状態になった感じね」
 オルトロスがひたすら追い掛け回しているのは、ただ館長の孫を捕まえたいからというだけではない。万が一DSの襲撃があった際に、彼を守れるようにする。それがオルトロスの真意だ。
「まあ、暫らく私の出番は無いかな? 色々聞いてみたいことはあるけど、彼が逃げ続けてる間は聞きようが無いし」
「お待たせー。やっと戻って来れた、何でこんなにご近所さんと離れてんのや‥‥」
 まだ少し息を切らせながら、やって来たポー。
「お隣とかご近所って言っても、さすがにこれだけ離れてるとあんまり深い交流が無いみたいなんよ。これといって役に立ちそうな話は聞けんかった」
「そう‥‥じゃあ、どうやって出て来てもらおうかな‥‥」
「男子を呼び出す際は、万国共通コレなのである!」
 お悩みモードに入りかけた二人を、突如現れたマサイアスが現実世界へ引き戻す。その手には2つの紙。
「マサイアスさん、代わりの物探しは終わったんですか?」
「うむ、河辺野に任せてきた!」
 無断で。
「で、その紙って何なん?」
「君たち二人も書いたことがあるのではないか? ラブレターと果たし状である!」
「ラブレターはともかく果たし状はないんとちゃうか?」
「あら、あなたはラブレターを書いたことがあるの?」
「いやいやいや、そーゆーわけやなくてっ」
 神保原の質問を大慌てで否定するポー。他人の恋愛事情を探ろうとしたことのある者は、自身の恋愛事情もいつか探られるのだ。
「使えそうなオーパーツは見つかりましたよ。宗教勧誘でも架空請求でもいいですから、あの子が拾いそうな所に置いてきましょう」
 声と共に後ろから現れる河辺野。
「ついでに人を呼び出すと言えば、こんな手段も‥‥『今日は、想いを伝えたい人がいまーす!!』」
「『だーれー!!?』」
「『3年C組のー!』」
「二人ともノリ過ぎだよ」
 河辺野とマサイアスが始めた突然の主張(未成年じゃないけど)を神保原がビシリと止める。ポーは既にラブレターと果たし状を置きに行った。

 ・ ・ ・

「さあ、出て来てやったぞ! 勝負は何をするんだ!?」
 館長の孫が手にしたのは果たし状の方だったようだ。ちなみに果たし状もラブレターも差出人はポーになっている。
「勝負は、君の好きなもんでええよ。ポーカー、チックタックトゥー、ナインメンズモリス、アルケルケ‥‥」
「な、なんいずんめ?」
「もっと簡単なのでもええよ。例えば、次に博物館に入ってくる人は男か女か、とか」
「分かった、それにしよう!(いつも博物館のお客さんを見てるから、どっちが多いかとか僕は知ってるけど。僕の勝ちだな)」
「よし、じゃイカサマ無しの一本勝負や!」

 ※博物館は本日休館日。 byマサイアス

「今のところ、外に異常は見られませんよ」
「ほら女の子来たでー!」
「何で!? 何で今日は男の人来ないの!?」
 そりゃ、外の見張り役に男いねーもん。
 一応念のために言っておくが、ポーはイカサマをやっていない。来るのは男か女か、先に選んだのは孫の方である。
 果たし状に書いたとおり、勝者の権利としてオーパーツを頂く。何となく悪者チックになってしまったが、そこは仕方が無い。フォローもある。館長からの、新しいオーパーツのプレゼント。
「ワシが最初にあげたアレは、実はあまり良いものじゃなかったことが最近分かったんじゃ。それをずっと持たせておくと、お前が恥ずかしい思いをするんじゃないかと心配をしておった。お前には、こっちの方を持っていてもらえんかの? お前にだけ渡す、ワシの宝物の一つじゃ」
「‥‥うん、分かったよじいちゃん」
 それを受け取って、随分と晴れた顔になった孫。その表情を見ると、神保原が尋ねて推測しようと思っていた彼の内面や、祖父への想いというものが分かるようだった。

 だが結局、館長と孫の名前は最後まで分からなかった。

●封印を得んとする者
「何とか、無事に手に入れられましたね」
 館長の見送りのもと博物館を出た一行。あとは無事にWEAに指示された場所まで行き、オーパーツを渡すだけ。
「結局襲撃は無かったな。間違いなく来るだろうと思って、覚悟はしてたんだがな」
 オルトロスが残念そうに言う。やはり変わらず人気の無い道路。今も車が一台遠くへと通り過ぎ、そして今もう一台、小型トラックが走ってくるだけ。
「襲われる可能性は少なくなったとは思いますが、気をつけて。危険を感じたら、WEAに連絡して保護してもらってください」
 神保原が最後に館長にそう助言し、彼女らがここまで来るのに乗ってきたバンに乗り込もうとした、その時。
「‥‥敵です! 散ってください!」
 アンリが叫ぶのと同時に、獣人たちは皆その場を離れた。そして次の瞬間、バンに高速度で突っ込んできた小型トラック。2台の車は爆発炎上し、黒い煙と炎を噴き上げる。
「DSの襲撃か!? 敵はどこに‥‥」
 周囲を見回すマサイアス。だが敵の姿は見当たらない。まさかトラックと一緒に爆死したとは考えられない。
「ぅぅぅぉぉおおおおおおおっっ!」
 雄叫びのような叫び声が降ってくる。上空。それに逸早く反応したオルトロスが、続いて落ちてくる敵に半獣化して拳を叩き込む。
「ちっとばかし、パワーが足りねぇか‥‥」
 着地した直後の虎の獣人はオルトロスの拳を片手で防ぐと、口元で小さく笑みを浮かべた。そして空いている手も使ってオルトロスの右腕を掴むと、思い切り引っ張り回す。博物館の窓に向けてブン投げられ、姿の消えるオルトロス。
「間合いに入ってはいけません! 捕まらないように警戒しながら攻撃を!」
 シャノーの警告が耳に入るや否や、皆が一斉に虎獣人から離れる。そして構えた傍から放たれる矢と銃弾、石礫。
「やはり、完全獣化をさせてはくれませんか‥‥」
 完全獣化を行うまでに1分。それだけでも充分に隙だらけだが、虎獣人はこちらの完全獣化を防ぐ意志も向けているようだった。
 最早牽制がどうのと言っていられない。エア・スティーラーでの銃撃を早々に切り上げて、オティヌスの銃に武器を切り替える御影。高威力の攻撃でさっさと黙らせるか追い返すかしたいところだが。
 攻撃が当たらない。縦横無尽に走り回る虎獣人は、時折トリックを混ぜた動きを見せて照準を絞らせない。決して一発も当たらないわけではないが、どれも決定打にはならない。
(「ジェリコ‥‥なんかな?」)
 虎獣人に間合いギリギリまで接近して注意を引くポーは、飛び回りながらそう考えていた。もしこっちに攻撃の矛先が向いたなら、瞬速縮地で逃げられる。しかし、一向にポーには攻撃は向かってこない。最低限の注意は払っているようだが、さっきオルトロスを吹っ飛ばした時ほどの殺気は向けられない。
「‥‥残念ながら、このオーパーツは手に入れられません。‥‥他を当たってください。8対1ではどちらが不利か、考えるまでもないでしょう‥‥」
 シャノーがそう撤退を促すが、しかし止まる様子の見えない虎獣人。
「自分で帰る気が無ぇってんなら、テメエの家までぶっ飛ばしてやる!!」
 自分は戦力としてあまり役に立たないだろうとライオンさんの回収に行っていたマサイアスによって高揚炎気を付与され、オルトロスが突撃する。再び全力で繰り出した拳は、やはり虎獣人に完全に防がれる。
「‥‥隙あり、です」
 オルトロスの攻撃は無効化されたが、しかし虎獣人の動きは止まった。そこに、狙いが定まるまで機を待っていたアンリが矢を放つ。矢は脇腹に深く突き刺さり、出血させる。直後、同じく今を好機と見た獣人達の射撃が殺到した。虎獣人はその幾つかを身に受けながらも、大きく跳躍して後方に下がり。そして。
 小型トラックが走ってきたのと同じ方向から、これも高速度で一台の車が走ってくる。虎獣人はそれに飛び込んで空いていた窓に手を引っ掛けると、そのまま車と共に遠くへと消えた。
 突然訪れた再びの静けさに、河辺野が呟く。
「‥‥やっと、追い返せましたね」
「そうね。こんなことをしてまで手に入れたい『封印』‥‥一体目的は何なんでしょうか」
 神保原が、無事に手元にあるオーパーツを見て言った。絡みつく蛇を模した、浮き彫りの装飾が施されたそれを。