奏デ歌ウ想イ ―接続曲アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.6万円
参加人数 10人
サポート 2人
期間 04/05〜04/09

●本文

●奏デ歌ウ想イ
 奏歌楽士と呼ばれる者たちがいることを、おそらくあなたは知らないだろう。
 世界は調和の下に成り立っている。世界各地で大なり小なり争いは起きているが、それも調和の中の一部分。
 『歪』。それは世界に生じた歪みとも、もともと存在していたが気づかれなかった歪な部分とも。『歪』が世界に生まれた瞬間、調和は乱される。

 世界の調和のため、日夜人知れず『歪』と戦う奏歌楽士たち。
 この『奏デ歌ウ想イ』は、彼ら奏歌楽士たちの戦いの記録を記す特撮番組である。

●『奏デ歌ウ想イ』の世界
 奏歌楽士とは、『奏(ソウ)』『歌(カ)』と呼ばれる特殊な能力を使用して『歪(イビツ)』と戦う者たちのことである。『奏』を使用する者を『奏士(カナデシ)』、『歌』を使用する者を『歌士(ウタシ)』という。
 『歪』とは、特定の形を持たず宙に浮く影のような存在である。これが人や物に取り付くことによって、『歪』として本来の力を行使し世界の調和を乱しはじめる。
 楽士たちは世界各国にある楽士協会に所属し、そこから下される指令によって『歪』退治を行う。楽士協会は、楽師(マイスター)と呼ばれる強力な力を持つ数人の奏歌楽士によってその上層を構成され、『歪』の調査と退治、奏歌楽士の訓練、新たな楽士の育成を行っている。

 一般的に奏歌楽士は、世にその存在を知られていない。よって奏歌楽士は一般人が志願してなれるものではなく、スカウトされたりすることもない。
 奏歌楽士となることが出来る者。それは奏歌楽士の家に生まれ、いずれ両親の仕事を継ぐことを希望した者。戦いの道を好まぬ子は、奏歌楽士についての知識を一切捨て、一般人として生きることが出来る。
 また、不慮の事故によって奏歌楽士や『歪』というものの存在を知ってしまった者。その中で、事件の全てを忘れることを望まぬ者。かつ、奏歌楽士として世の闇に隠れても不審に思われぬ者。そういった一部の者のみが、奏歌楽士となれる。

 『奏』『歌』とは、楽士たちが行使する特殊な能力で、専用の特別な楽器を弾く、または歌を歌うことで発動する。
 楽器という増幅装置がある分『奏』は強力な力を行使できるが、楽器の形状や大きさにより取り回しの利きにくい状況があるという弱点をもつ。また一般人には奏歌楽士たちや『歪』の存在を知られてはならないため、楽器が無ければ力を発揮できない奏士は時にただの人間でしかない。
 対して『歌』は歌士が歌える状態であればいつでも発動可能だが、白兵戦用の武器を生成することを苦手とし、また増幅装置が無いぶん一部の強大な楽師を除き行使する能力の威力では『奏』に見劣りしてしまう。

●出演に当たって
 出演者には以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定してほしい。

【能力】「奏」もしくは「歌」を選択。
【ジャンル】能力の種類を設定。いずれか一つ。
 奏‥‥白兵(+5)、単体射撃(+3)、複数射撃(+2)、散弾/扇状/放射(+1)、回復(+3)、補助(+3)
 歌‥‥単体射撃(+4)、複数射撃(+3)、散弾/扇状/放射(+3)、回復(+3)、補助(+4)、修復(+5)
【射程】能力の射程を選択。いずれか一つ。
 奏‥‥短(+5)、中(+3)、長(+1) ※短:0〜1m 中:1〜12m 長:12〜100m
 歌‥‥短(+4)、中(+4)、長(+2)
【効果】4つのパラメータに合計20ポイントを1〜15の範囲で振り分けてください。
 威力/効果:破壊力、回復力等。
 速度:演奏・歌唱から発動までの速度。射撃であればその弾速。
 持続:その能力が発動してからどれだけの間効果を持って存在し続けるか。
 安定:発動確率、効力の安定、妨害に対する抵抗。
【回数】能力を一日に使用できる回数。
 ジャンルと射程を決定後、()内の数値を足した数。
 パラメータポイントを2点消費することで使用回数+1することも可。
【その他】能力についての注意点
 『奏士』と『歌士』の掛け持ちは不可。しかし、『奏士』なら『奏』、『歌士』なら『歌』の複数習得は可。
 能力ジャンル・射程の変更は可。但し、以下の二つの条件を遵守すること。
 ・ジャンルが『威力→威力』『効果→効果』は有。『威力→効果』『効果→威力』は無。
  つまり、攻撃系と補助・修復・回復系能力を跨ぐことは出来ない。
 ・1つの回の中でジャンルを変更するのは不可(テンプレの都合上)。

<キャラクターテンプレート>
キャラ名:
能力:能力・ジャンル・射程/効果:威力・速度・持続・安定・回数
備考:

※皆さんが演じるのは原則として奏歌楽士です。一般人、マイスターは現在選択できません。
※フリー楽士の選択は自由です。選択する場合備考欄に書いてください。

●接続曲
 楽士協会日本支部、関東ブロックの地下から転送弦の反応が消滅した時、この大きな騒動はひとまずの決着を見た。
 主席楽師桐原 藤次は砕けた『楽譜』のひとかけらを持って姿を晦まし、次席楽師市村 七海はロシア協会所属の楽士達によって一時的な拘束を受けた。トップが不在となり、日本協会の『歪』調律の核である転送弦も沈黙した今、日本協会関東ブロックは完全にその機能を失った。
 しかし、奏歌楽士達の動きが麻痺したからといって、『歪』の発生と活動も停止するわけではない。日本協会は、関東ブロックの『歪』調律を関西ブロックがまとめて行い、新人楽士育成などの作業と、かつて転送弦が行っていた『歪』探知作業を東北ブロックが行うことでこれに対応していた。
 だが、その分担によって全ての仕事が完遂できるわけもなく。不足している戦力・資源はイギリス協会、中国協会、ロシア協会などから援助を受け、何とか凌いでいた。その苦しい状況に、ドイツにある楽士協会本部の最高楽師議会においては、日本協会管轄を中国協会の管轄にまとめるという案も提案されている。

 そんな、大きな情勢の変化の兆し。それらに逐一気を回す余裕も無く、日本支部関東ブロックに所属していた楽士達は様々な仕事に追われていた。関西ブロックの楽士チームに再編成され『歪』の調律を行う者、東北ブロックの情報弦部隊に組み込まれその護衛を行いつつ各地を飛び回る者、今回の事件について聴取を受ける者、新人楽士達の教官に任命されクソ忙しく怒り続ける者など。
 これから、日本協会はどうなっていくのか。これから、自分達はどうなっていくのか。
 いや。そんなことを案じる必要は全く無い。
 真に考えるべきなのは、これから、自分達がどうしていくべきか。

 自らの未来のために。歪みを、調律せよ!

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1276 玖條 響(18歳・♂・竜)
 fa1359 星野・巽(23歳・♂・竜)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa3742 倉橋 羊(15歳・♂・ハムスター)
 fa4131 渦深 晨(17歳・♂・兎)
 fa4133 玖條 奏(17歳・♂・兎)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)
 fa4579 (22歳・♀・豹)
 fa5241 (20歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●OPキャストロール
久瀬 灯‥‥倉橋 羊(fa3742)
如月 楓雅‥‥星野・巽(fa1359)
如月 春燈‥‥富士川・千春(fa0847)
如月 麗華‥‥星野 宇海
朝香 凛‥‥雅楽川 陽向(fa4371)
美樹 秋緒‥‥檀(fa4579)
旭 貴朔‥‥柊ラキア(fa2847)
二宮 千鶴‥‥欅(fa5241)
景山 千歳‥‥忍
鵠夜‥‥玖條 響(fa1276)
迅雷‥‥玖條 奏(fa4133)
ジルベルト・パーラ‥‥渦深 晨(fa4131)

●戻ってきた日常?
「俺にはまだ、あそこで学ぶべきことが沢山あると思う。‥‥お世話になりました」
 久瀬 灯はこれまで身を寄せていた実家の道場にて、手をつき、深く礼をする。その姿に、相手は。
「そうだな。個人には個人の、組織には組織の良い所がある。だがそれを活かす為には、両者の利点と弱点を知らなければならん。それは奏歌楽士の在り方として以前に‥‥」

 ・ ・ ・

 ゴーン。
「痛ってえ!」
「人に話を聞かれている時にボーっとしているのはNGですよ」
「自分だってボーっとしてる時あるくせに‥‥」
「何か言った?」
「いーえ」
 美樹 秋緒が机の下で彼女の武器である竪琴を既に握っているのは見えずとも分かる。灯は仕方なく、取調べに気持ちを切り替える。
 ちなみに、秋緒がボーっとしている時というのは、彼女の想い人である黒崎 蛍雪のことを考えている時だ。その事を指摘することなど、秋緒の親友であるリディア・レヴァイン以外の誰にも出来はしないが。
 調書を取られているのは灯だけではない。如月 春燈は灯の前に呼び出され、簡潔不親切な回答をして終了。朝香 凛は関西から来た楽士達に地理を教えるため観光という名の出撃中。取調べは2日前に終えていた。
 如月 楓雅にはこの後2度目の取調べが待っている。一番マシな答えを出しそうな男。本当はロシア協会の密偵である景山 千歳が適任だが、簡単に捕まるほど彼も愚かではない。
 現在、取調べは大いに遅れていた。その理由は楓雅の1度目の取調べにある。
「『不協和音』は絶対に『不幸和音』の間違いだと思います」
 ロシア協会に帰還したエレオノーラやアルーシュカが聞いたら北野 薄荷の歌で強化された蹴りやボエーが飛んで来そうな主張を繰り返したため‥‥ではない。
「甘味だけじゃ許さん、と言われたんですが‥‥どうしましょう?」
 春燈へのホワイトデーにプリンを用意したが、妹は中国協会の嵩埼 桃桜、嵩埼 瑠茅兄弟から送られてきた餡饅があるからと、他の物も一緒に要求。三日月 一のタイヤキも経験して甘味にさらにうるさくなった妹について、どうしたらいいかを相談したため‥‥でもない。
 『協会に所属しつつフリーな立場で桐原を追いたい』と秋緒に話したためだ。即ゴーンが飛んできたが、楓雅もめげず。楓雅には事件が完全に終わったとはどうしても思えなかったのだ。
 上層部はこの件に関し、暫らく保留とした。まずは現状の解決。数ヶ月後楓雅に楽士協会本部への出向が命じられるのは、また別の話である。向こうでの住居はアイリーン・クィンスが知人を通じて用意してくれる。
「それで、協会にまた戻ろうって思ったのはどうして?」
 秋緒の問いに、灯は。
「‥‥外に出て思い知ったのは自分の未熟さだけだ。ここじゃなきゃ吸収出来ないこともある。それは奏歌楽士としての在り方以前に、一人の人として、学ばなきゃならないことなんだと思う」
 灯の真面目な言葉を、秋緒は黙って聞く。
「それに、逃げた奴らがまた何かしようとした時に、一人二人で出来ることはたかが知れてる。ここにも変な歪みがあるってんなら、中から俺らが正せばいい。外からぶっ壊すよりよっぽど骨が折れるけどな」
 ゴーン。
「痛ってえ! 今度は何だよ!」
「一人前の口を利くようになったなって思っただけよ。灯らしくない」
 噛みつく灯をスルーし、秋緒は次の相手を呼ぶ。しぶしぶ灯は退室し、次の人。
 楓雅に続いての時間泥棒、二宮 千鶴。彼は今回が2度目の取調べである。理由は「正直に話さない」。誤解であるが。
「じゃあ、ちゃんと事の顛末を話してもらおうかしらね?」
「絶対人選ミスだろ、これ‥‥撃たれて、逃げた。もう一回突っ込んで暴れた。従兄弟に会ってパシリにされて、主席とドンパチやって、今」
 ゴーン。
「ゴーンされた。以上」
「もっと省略しない報告は出来ないの?」
「忘れた」
 ゴーン。
「だから‥‥」
 ゴーン。
 春燈と違い「覚えてない」と言っても許してくれないのは、千鶴が重要人物指定されていたためである。その指定は従兄弟の千歳が仕組んだ巧妙な罠に原因がある。千鶴を鍛えるため。
 千歳は今回の後処理を終えたら一度ロシア協会へ帰還する。ロシア協会のフェリオ・ブランネルを通じ報告命令が届いた。そのため自分の代わりとして、千鶴を密偵にしようと考えたのだ。イリヤ・フォルトフを戻すのでは怪しまれているので危険だし、ロシア協会に身を寄せている遠野 静流は日本協会離脱者としてもっと目立つ。
 もしスパイ育成が間に合わない場合は、育成業務の残りを同業者の常盤 茜に押し付けて逃げればいい。
「白状しないと、私も最終手段に頼らなくちゃならなくなりますよ?」
 言って、パチンと指を鳴らす秋緒。すると中に入ってくるフィン・スターニス。
「確か貴方も見ていたわよね? 彼のマリオネットで踊ってもらうわよ」
「それマジで勘弁、あんな踊りさせられたんじゃ子々孫々までの恥‥‥って待て、ホントに俺は忘れたんだっての! お前も準備してんじゃねぇ!」


 一方取調室の隣にある待合室的な部屋ではトリオ漫才が繰り広げられていた。
「ですから、そろそろ落ち着いて本家の将来のことを考えてもらわなくては」
「や、でも麗ちゃん、俺にはまだ」
「頑張れー。私は好きなことするから」
 反抗しようとした楓雅の首筋に当てられる氷の薙刀。楓雅の従姉で許婚という如月本家時期当主、如月 麗華は間違いなくゴーンの女王と並んで畏怖すべき女帝だということがよく分かる。
「春燈ちゃんは、これからどうなさるつもりなの?」
「ミュージシャン目指す」
「みうじしゃん? そんなハイカラなもの」
「ハイカラって‥‥まぁ、昔私のエレキギター爆発させた麗華さんだから、そう思うのも仕方ないかもしれないけど」
 今のうちに抜け出そうとした楓雅が麗華に耳を摘まれ、仕方無しとばかりに大人しくなる。‥‥と、麗華が何かの気配を察したように楓雅の耳を離す。直後。
「ただいまやっほー!」
 突入してきた影に、すかさずかまされる麗華の足払い。続いて取調室から飛び出してきた秋緒が後頭部へ竪琴ゴーン。地面に埋まる旭 貴朔。
「毎度毎度うっせーな‥‥あんたどこ行ってたんだ?」
 灯の質問にも顔面が埋まっている貴朔は答えようが無い。
「楽器は大丈夫なのでしょうか‥‥あ、彼はここに行っていたのではないかと」
 貴朔に続いて入ってきた鵠夜が、貴朔の手から離れた紙袋を示す。山のような各地のお土産。ちなみに鵠夜は貴朔と旅行に行ってきたわけではない。先ほどまで協会楽士と共に調律に赴いていた。帰還後、偶然ルンルンスキップの貴朔と同時に入ってきただけ。
「どこ行ってたって、色んなとこだよー。あ、こっちもお土産。ノニガム」
「ノニジュースの? 罰ゲーム用品か?」
「失礼な、普通のお菓子だよん。‥‥こ、この何とも言えない味がまた」
「やっぱネタアイテムじゃん。全部あんたが食っとけよ」
 灯に全部口に押し込まれ苦しむ貴朔に横薙ぎのゴーン。華麗に上体を反らし避けたかと思えば、再び麗華の足払いから垂直必殺ゴーンの2連コンボ。回避は出来なかったがガムを吐き出さなかっただけ成長した貴朔。その姿に鵠夜、合掌。
「とりあえずコレ外に運び出しておいて。もう少し取調べがあるから」
 鵠夜が貴朔を搬出し秋緒が毛髪アンテナの追撃に戻ると、死にかけの貴朔のため楓雅は葵 明日香を呼んで一応手当てを頼んでやる。
 灯と春燈は自分達への用は済んだだろうと考え、退室した。

 ・ ・ ・

 凛は、二日後には関西に戻って今回の事件について話すという役目が待っている。それは、本家が関西ブロックにあるが故の宿命だった。
「そう、だから高校を卒業することも考えなきゃならないしさ」
「お前卒業出来んの?」
「こう見えても成績はいいんだからね。‥‥音楽と体育」
「他の教科はどうなん?」
「‥‥黙秘権。そうだ凛、テスト前に強化してよ、歌で」
 凛は今度帰ったら暫らく戻って来られないだろう。そう考えると、楽しい会話の最中でもちょっとした言葉が寂しさを募らせる。
「やべー、何か懐かしい‥‥ジジくせえな俺」
「こんなに皆で笑ったんは久しぶりやなぁ」
「ほんとほんと。‥‥あ、灯。忘れてないわよね3倍」
「忘れた。‥‥嘘だよ、渡しそびれてたけど。ほら」
 言ってポケットから取り出した、店の包装そのままの小さい袋二つ。機会を逃し続けていたホワイトデー。
 それを受け取って「まあ許してやるわ」という春燈と、落ち込む凛。何事かと心配され、告げる事実。関西へ帰ること。
「いつ戻って来られるか分からんけど‥‥忘れんとってな」
 じわ、と浮かんでくる涙。大丈夫忘れないよと春燈が宥め、灯はどうすりゃいーんだとばかり視線が泳ぐ。
 そして。
「‥‥そういえば。うちの本命チョコは二人のどっちが食べたんや?」
 硬直する時間。主に灯の。

●得られたもの
 パシン。パシン。
「で?」
「で? って決まってるだろ。皆忙しいんだからお前もちゃんと働くの!」
 早足で歩く迅雷の後を、小走りで着いて行きながらハリセンで連打するジルベルト・パーラ。
「監視役大変なんだぞ!」
「じゃやめれば」
「そうじゃなくて、お前が仕事すれば万事解決するんだよ!」
「面倒臭い」
「どうしてもサボるってんなら、こっちにも考えがあるぞ。必殺『仲間を呼ぶ』だ!」
「誰を呼ぶんだ?」
「カナンくん」
「無駄だな」
 対象を麻痺させる奏を持つカナン・藤堂。迅雷が無駄と言うのは、きっと逃げ切る自信があるからだろう。例えばカナンが「ごめんね?」と断る間にでも。しかし、カナンが何気に対人戦で容赦が無いということを彼は知っているのだろうか。
「暁さん呼んで結界で囲む。そして必殺のダンシン☆アタック」
「俺をこの世から抹消するつもりか?」
 先日の事件中は迅雷の開拓したサボりスポットを渡り歩き難を逃れていた二人。そんな二人が暁のことを何故知っているかというと‥‥いや、あの濃いキャラだ。同じ協会に3日いれば嫌でも知るだろう。オカマさんは今日もどこかで笑ってる。
「おっと悪ぃ‥‥げっ」
「いえ、こちらこそすいません‥‥ん?」
 ジルと話しながらだったため、前から歩いてくる男にぶつかった迅雷。すぐさま謝ると、相手は見知った顔で。
「兄貴?」
「あー、ここに所属してたんですね」
 嫌そうな表情の迅雷と、貴朔を引きずったままで微妙な表情の鵠夜。ジルはその両者を何度もキョロキョロ見て。
「‥‥え? 兄弟‥‥なの?」
「あぁ、まあな。‥‥ってそれより兄貴が何で協会にいるんだよ?」

『情報弦部隊第参拾弐が歪反応を探知。第参、第五、第八、第壱弐番所属の楽士は、直ちに集合してください』

「ただのお手伝いですよ。またすぐに消えます」
「どうせなら俺の代わりに仕事してくれよ‥‥」
 放送をBGMに話し続ける二人。奥の廊下では、黒鵜 ルイや日下部 凪が走っている。彼らも既に第一線で戦う楽士である。少し遅れて、ラグナ・イスラも追っていく。
「そう言わず、貴方もしっかりと役目を果たしなさい」
「おいおい、お話はもういいから! 放送流れただろ! 第五番所属の迅雷はただ今より職務遂行ださっさと行くぞサボりは禁止♪」
 言って縄で迅雷をぐるぐる巻きにするジル。
「ちょ、強制連行かよ! つか兄貴助けろ、解け、放せ、俺はサボる、今日は厨房でハム漁るんだあぁぁ‥‥」
 フェードアウトする迅雷の声。それを見送って、鵠夜はふぅと溜め息。
「行くのか?」
「‥‥楓雅さん。ええ、また修行に」
「そうか。このままいてもと思ったが、引き止める権利は俺には無いからな」
「また会える日まで、元気に頑張ってください」
 楓雅と、堅い握手を交わす鵠夜。ゾンビのように起き上がる貴朔をどうすればと、楓雅に連れて来られた明日香は困り果てる。

●奏デよ歌エ、強き想イ
 木の枝を次々に飛び回る影。そこに奔る一閃!
 ゴーン。
 どさっと落ちてくる貴朔。歪の気持ちになれば何処にいるか分かるかと思ったらしいが敢え無く秋緒によって撃墜。現在取調べはエセルバート・フリンが行っている。
「一般人に見つからないように、透過の準備はいつでも出来てるよ!」
「奏歌の回復はしますから、バンバン撃ってください」
 ジルと皇 翠の声に後押しされ、嫌々戦線に立つ迅雷。既に戦闘は始まっている。発見した情報弦部隊の護衛を務めていた城崎 香佑が、後続を待っている。
「やっぱり、現場の方が性に合ってる‥‥かな?」
 取調べには千歳を連行し逃げてきた千鶴。その希望が叶うかは分からないが、暫らくはこの忙しさだ。退屈はしないだろう。同じく許婚から逃げてきた楓雅は、
「別に逃げたわけでは」
「ええ、当然ですわよね」
 逃げ切れていなかった。後の出向命令まで耐えてくれたまえ。
 見えてくる戦場。見えてくる歪の姿。一部、巨大化をしているものもいて。
「ねえ、久々にセッションしない? もう着いて来れるわよね?」
「ええね、やろか。磐石の歌、今回は無駄にせんでね」
「さっさと片付けて、休みたいしな」

 奏歌楽士達よ、奏デ、歌エ、強き想イ。

「『迅雷旋炎撃』! いっけえぇぇぇ!!」

【End】