『封印』を狙う者中東・アフリカ

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 5Lv以上
難度 難しい
報酬 27万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/21〜04/23

●本文

「護衛の仕事を頼みたい」
 エジプトにて、WEAから依頼を受けた獣人たちは開口一番にそう告げられた。
 『オシリスの封印』。そう呼ばれるオーパーツは、現在14全てをもって『あるもの』を封印している。『あるもの』とはオーパーツの名の通り、『オシリス』である。同種の物に幾つか『イシスの封印』と呼ばれるものもあり、そちらは名前から、『イシス』を封印していると思われる。
 強力な力を持つ『封印』のそれを、ダークサイドが狙っているという情報がWEAにはもたらされていた。その力を悪用されることの無いよう、WEAは急ぎ14の『封印』の在り処を調べ、その回収と防衛を行っているのだが。
「既に複数の『封印』がダークサイドの手に渡ってしまっていることが分かっている。我々はこれ以上、彼らにイニシアチブを与えるわけにはいかない」
 細身の黒服の男は、サングラスを直しながら続ける。
「今、幾つかの『封印』が我々の管理下にあるが、それは全てが一箇所に集められ、一元管理されているわけではない。警備が厳重であり、ダークサイドの襲撃時、WEAからの増援が到着するまで耐えられると判断したものについては、そこに保管したままになっている。だがそれらについても今回、回収することとなった」
 それはつまり、それだけ事態が逼迫しているということ。防衛対象を一箇所に集め、出せる戦力全てでそれを守る。
「その回収対象の1つ、カイロ美術館の『封印』を移動させる。君達にはその移動の際の護衛を依頼する。美術館からの運び出し、移動中、そして保管場所への搬入終了まで。この任務には、君達の他WEAから10人の獣人が参加する」
 パソコンの映像がプロジェクタを通して映し出される。移送ルート。
「この依頼のために、君達の時間を3日拘束する。1日目は現地集合、各自休憩や下見、準備に使ってくれ。2日目、13時より搬出開始。同14時出発。移動中はドライバー交代時の休憩10分が3回。それ以外は無し。保管場所への到着は3日目の3時半予定だ」
 ただし、襲撃など問題が発生しなかった場合。
「『封印』奪取の事例は幾つかあるが、複数のパターンが報告されている。このことから、複数の勢力が動いていると考えられる。それらが協力関係にあるのか、全く無関係なのかは不明だが、何者が現れても対応できるよう準備を整えてくれ。以上だ」
 そうして話を終えると、黒服の男は部下達と共にすぐさま機材の片付けを終えると、部屋を去っていった。

●今回の参加者

 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4554 叢雲 颯雪(14歳・♀・豹)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)

●リプレイ本文

●準備
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
 笑いすら起きなかった。WEA獣人の中に、よく見知っている者もいる虎獣人の大男も混じっていたのだから。
(「こいつどうすんだよ」)
(「絶対うちらのこと気付いとんのに、向こう完全にシカトしとるよ」)
(「お帰り願うったってなぁ‥‥」)
(「そう簡単に引き下がらないデショウ、あのツラ」)
 結局は「襲ってきたら一緒に根こそぎぶっ潰す」というミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)の意見に、「お前らの分報酬寄越せ。仕事は全部俺らがやってやるから帰れ」とカツアゲし失敗した敷島オルトロス(fa0780)が大賛成して決着。ジェリコは各ペアのうち平均して身の軽い叢雲 颯雪(fa4554)とミカエラの車に乗せて先頭を走らせ、暴れ出したら車放棄し脱出後ミンチにすることとなった。物騒なメンツ。
「よし、話がまとまったところで俺はホテルに帰るぜ。寝る」
「なんやオルトロス、暇なんやったらうちの方手伝ってや」
「暇じゃない、体調管理だ。ずっと車に乗りっ放し、しかもいつ襲撃があるか分からん緊張の中だ。少しでも体調に問題がありゃ、まともに戦えねぇ。真の戦士としての、当たり前の嗜みだな」
「ふーん、そうなんか‥‥そうなんか?」
 首を傾げながらも今回使用する車の準備に向かう敷島ポーレット(fa3611)。今回は4台の車に分乗するが、うち2台はミカエラと神保原・輝璃(fa5387)の私物を使用。残りの2台はWEAに手配してもらった。WEAから出された車は何れも防弾仕様の戦闘用。ポーも満足。
「そうや、ススムー! 遊びに行くんやったら車に積む夜食も買って来てなー。美味しいの限定」
「無理っ! 俺は今から裸婦画‥‥ゲージツ鑑賞! 食べて美味しいものより見てオイシイもの!」
 WEA獣人達が皆むさいオッサンだから欲求不満に陥っているのか分からないが、佐渡川ススム(fa3134)の行動原理はそんなもの。皆とっくに分かっているからツッコミはしない。ツッコまれない芸人ってどうなんだ。
「じゃあ、私もご一緒させてもらうね!」
 颯雪の申し出にススムは驚き。これから単独行動うはうはタイムが待っていたかもしれないのに。まあそれは置いといて。颯雪がススムにくっついて来た理由は。
「俺に惚れると‥‥」
「佐渡川さん、俳優とか周囲の人に認められて名乗れるようになるにはどうすればいいんでしょうか?」
「へ?」
 颯雪の疑問。ススムに聞くのは間違っている気がしないでもないが、一応彼が今回のメンバー内では知名度が一番高い。
「うーん‥‥同じような仕事を何度もやってりゃその内、じゃねーかな。あと業界の人に認めてもらうには、頑張りを見せ付けるためにちょっと期間の長い仕事に入るのも必要だと思うし。3日4日じゃ自分の正しい姿なんて見てもらえないだろ、多分」
 ススムの発言。腹話術の如く誰かに喋らされている気がしないでもない。
「じゃ、質問に答えた代わりに、ちょっと手伝ってもらえるかな?」
「はい? 何ですか?」
「あの10人‥‥1人はジェリ子だから9人か。あいつらの身元を調べる。念のため」
 結局、不審な点は見つからなかった。強いて不審な点を挙げるなら、『信用出来る』点も見当たらなかったこと。

 ・ ・ ・

 皆目的は様々。こういう危険な匂いのする依頼を受けるのは。例えば。
「車の一台でも買えっての」
「私は私なりの目標のために資産を暖めているの。兄さんみたいに買っては壊し買っては壊しなんかしていられないのよ」
 神保原和輝(fa3843)が反論するのは兄の輝璃に対して、お金の使い方について。とっくにハタチ超えた二人だが傍から見るとしっかり者の妹にゲーセン行くから金貸してというダメ兄のように見える。
 こういう資産作りや、戦いの中に何かを求める人の他に。
「車一台私物を提供するんだカラ、ちっとは報酬増やせって話デスヨ。WEAは『ワー・エラクミミッチイ・アソシエイション』の略カヨ?」
「まあまあ、燃料費や破損した時の修理費は向こう持ちだっていうんですし、もし何も起きなかったらなかなか割りが良いんですから、そこは我慢しましょう」
 自分の劇団に資金を回したいミカエラの愚痴を、御影 瞬華(fa2386)が宥める。二人は移送ルート周辺の地図を眺めつつ、襲撃の起こりそうな場所を探していた。
「佐渡川さんが心配していたシャルロは近くにいないみたいですね」
 瞬華がサーチペンデュラムを用いて探した結果。ジェリコは問題外。
 ルートを、通過予定時刻も合わせて順に確認する二人。美術館からの搬出後はしばらく市街地の走行が続き、少しして開けた直線道路、真夜中を過ぎる頃遮蔽物とカーブの多い道、それを抜けると小さな集落があり、その後寂しい道のりを再び走ると到着となるが。
「ワタシらに出来る事は、敵にも出来る事‥‥なら、敵に出来る事はワタシらにも出来るハズ。‥‥ワタシなら、狙うのはココですカネ?」
 ミカエラが指すのは遮蔽物とカーブの多い道。確かに、奇襲には容易な地形だ。人目も無い。
「ですが、ここだと大勢が一度に動くことは難しそうですね。少数精鋭が相手なら間違い無くそこですが、多数が車か何かで襲ってくるなら、こちらですか」
 開けた直線道路を瞬華は指す。その通過時間は日暮れとほぼ同時。
「マァ、どの地形ならどんな襲撃の仕方をスルか確認して、どこでも注意してればいいデショウ。不意打ちも来ルと分かってれば効果は半減ヨ」

●出発
「おし、出発進行。何かあったら呼べ」
「オルトロス、まだ寝る気なんか」
「いや。瞑想する」
 言いつつも目を閉じないオルトロス。有難いと言うかさすがと言うか、当然と言うか。
 カイロ美術館の『封印』はススムと瞬華の乗る車に乗せられ準備完了、出発。少しずつ、美術館が後方へ流れていく。
 ここまでは何の問題も起きていない。

 いや。

「よし、行くぞっ! ‥‥な、何、その疑いの目。レース以外でも私ちゃんと運転できるんだからね! 皆、一緒には乗りたがらないけど」
「ソレ、ちゃんと運転出来てないカラじゃナイの?」
「そんなことないよ! よーし、じゃあ証拠を見せるよ!」
 グンと踏み込まれるアクセル。急上昇するスピード。座席へ押し付けるG。カーブの度に急減速、急加速。頭を打つジェリコ。首ガックンガックンのミカエラ。
「コラスピード狂! 何のための護送船団ヨ!?」
「あ、あはは‥‥」
「全ク‥‥この車に『封印』乗ってたら、間違い無くアナタが犯人だったワ‥‥」
「ご、ごめんなさい」

●襲撃
 瞬華が窓から銃の先だけを出し、狙いを定め、撃つ。放たれた弾丸は遠く離れた車両のタイヤを撃ち抜き、脱落させる。
 何も無い直線道路の終わり頃。そろそろ休憩かという時に敵はやって来た。8台のオフローダー。穏便な奴はライフル銃、物騒な奴はロケット砲を構えて狙いを定めている。
 武器の射程の関係上、こちらからは瞬華の他、WEA獣人の内5人が主に敵の車両のタイヤを目掛けて射撃している。

「そろそろ‥‥有効射程かな‥‥」
 兄の運転するジープ内で、和輝が弓に矢を番え、放つ。矢は一直線に目標目掛けて奔ると、運転席横の窓ガラスを突き破って車内を血で染める。
「おいおい和輝、お前もなかなかやヤるようになったじゃないか。お兄さんは嬉しいぜ?」
「死にはしないよ。必要なら止めを刺すけど、今は未だそうじゃないでしょう」

「畜生、つまんねえな‥‥来るならさっさと来やがれ」
「そんなこと言うたって、向こうパッと見普通の人間さんやん。やったらまず、殴り合いなんか考えへんよ」
 ポーはオルトロスの愚痴を宥めつつ、道路の状態を見定めながら走る。助手席と後部座席では、WEA獣人達が一発、また一発と銃弾を敵に叩き込んでいる。

 いらいら。ストレスが溜まる。
「出番はマダ?」
 一人はライフル銃で応戦しているものの、一人は散弾銃、一人は運転中、一人はジェリコ、一人は自分。
 いらいら。ストレスが溜まる。
「出番はマダ?」「出番はまだか?」
 顔を見合わせるミカエラとジェリコ。

「そろそろ味方の影に逃げるぜ? 反撃は一旦停止だ」
 ススムの言葉に瞬華は銃撃を止め、頭を引っ込める。そして車は味方3台の車列に隠れるように移動を開始するが、その時。
「‥‥諦めましたか?」
 何台か追い縋って来ていた敵の車が、徐々に離れていく。銃撃も止んだ。思っていたよりも淡白に終わった襲撃に、何となく拍子抜け。
「『ころしてでも うばいとる』ってワケじゃなかったんだな。まあ、諦めてくれるに越したことは無いか‥‥ら?」
 ススムが一瞬覚えた違和感。そして続く金属の破壊音。
 ススム号の左前輪から天井にかけて、左側面を斜めに大きな亀裂が走った。バランスを崩し、転倒しそうになりつつも減速して体勢を戻し停車するススム。
「やあ。ちょっと停まってくれるかな」
 声と共に、何も無かったはずの空間にゆらりと現れる狸。おそらく『光学迷彩』の能力。ススム号の異変に気付いた他の車両も停止し、戦闘体勢をとりつつ集まってくる。この狸獣人に見覚えは無いが‥‥
「君が持っているのが、シャルロの欲しがってる『封印』かな? それ、一体何なの?」
 狸獣人の男はススムが急ぎ車内から持ち出した『封印』を見て言う。
「何だテメエ、知らねぇ物盗るために襲ってきたのか」
「うん」
 手ぶらのままゆっくりと歩いてくる男。射撃武器を持つ皆がそれぞれに構え威嚇するが、その歩みは止まらない。すぐさま。
「うおおおおおおおっ!!」
 半獣化形態のジェリコが突っ込む。男はその大振りの攻撃を1発、2発、3発避け、背後から腰部に強烈な回し蹴りを叩き込む。
 それが開戦の合図となった。
 和輝が、瞬華が、颯雪が、7人のWEA獣人達がそれぞれに矢と弾丸を放つ。狙い澄まして放ったものはサイドステップで回避され、周辺に散ったものは密度が薄く当たらない。
「銃撃はアテにならねぇ、『封印』を守れ! 俺達が前に出る!」
「俺は守ってもらえないのね」
 ススムの呟きには誰も反応することなく、接近されると互角に戦うのは難しい射撃部隊は後退、『封印』を持つススムと共に戦場からなるべく離れる。
「喰らいやがれっ!」
 輝璃が両手剣を振り回し、狸男に踊りかかる。が、速度は格段に向こうが上。かわされ、手首を掴まれると、そのまま背負い投げの要領で地面に叩きつけられる。
 一瞬の硬直。そこに飛び込むオルトロス。全力を込めた拳が唸りを挙げて狸に叩き込まれるが。
 避けられはしなかったが、直前に腕で防がれる。勢いを殺し切れなかった狸は防いだままの体勢で大きく後方へ弾かれ。そこに。
「簡単ニ終わると、思わないデヨネ!」
 爪を生やしたミカエラが襲い掛かる。だが。
 弾かれた勢いにステップを加えてさらに加速、ミカエラに肉薄した狸はその顔面に肘打ちを見舞う。ミカエラは視界を一瞬塞がれ一歩間合いを取ろうとしたところを片足を踏んで固定され、続けざまに打撃を受ける。
 格闘戦では3対1でも互角にならない。だがそれも仕方ないかもしれない。向こうは完全獣化、こちらは半獣化。先に雇ったと思われる人間達をぶつけてきたのは、自分が接近し易いようにするだけでなく、数の不利を返すためこちらの完全獣化での待機を防ぐ役目もあったのだろう。
 それでも、何とか数の優位で押してはいける。ミカエラをサンドバッグにしていた狸は、突如懐に現れたポーのためにミカエラを突き飛ばし、右頬への肘鉄でポーを地面に叩きつける。そこで狸の足が完全に止まった。瞬間、銃弾と矢の嵐が向けられる。
 ミカエラやポーへの誤射を防ぐためにやや上体狙いで集まった銃弾を、狸は全力でそこから離脱することで回避を試みる。
 だが、完全にゼロまで落ちた速度を再び最高速に持っていくには時間がかかる。右腕を3,4発の銃弾が掠め、貫き、右の腿には矢が深々と突き刺さる。
「狙い目だ! 次は外さん!」
 再度接近した輝璃が狸の肩口目掛け剣を振り下ろす。完全に体勢を崩している狸はそれを回避することなど出来ようはずもなく‥‥
 鮮血が剣を滴って落ちる。輝璃の剣は狸の左手にがっちりと握られ、受け止められていた。
「‥‥ねえ」
 突然、狸が口を開く。
「シャルロに伝えておいてよ。お仲間に足元すくわれないように、いい加減僕も仲間に入れてよって。‥‥まあ、彼女はあの男を仲間なんて思っていないんだろうけどさ」
「何ワケ分かんねえことを‥‥っ!?」
 オルトロスが蹴っ飛ばそうとした瞬間。ずるり、と狸の姿が溶けるように消えた。そして、沈黙。
「‥‥‥‥行く、か?」
 出てくる気配の無い狸に、一行は中破したススム号を放棄して無理やり残りの車に分乗し、移送を再開した。

●事後
 狸の襲撃後は別の襲撃も起こること無く、無事に『封印』は目的地へと到着した。『封印』はWEA職員の手に渡されると、そこにあった建物の中へと運び込まれる。それにくっついて、ジェリコも含む10人の獣人達も。
「‥‥なぁ。あれ、いいんかな?」
 ご苦労だった、と報酬を渡され自由時間となった8人だったが、何か釈然としない。
「いいのかって、何が?」
 ポーの疑問に、輝璃が疑問で返す。輝璃の疑問には和輝が答える。
「あのジェリコって男は、ダークサイドの女の部下なのよ。なのに、一緒に入って行っちゃっていいのかってことでしょう?」
 いかにジェリコが強いとしても、防衛側圧倒的多数の中で暴れて『封印』奪取、などまず通用しない。なら、彼も一緒に入って行った理由は。そして、WEAは彼について何も知らないのか。
 違和感。