新人強化合宿・皐月アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
香月ショウコ
|
芸能 |
1Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
易しい
|
報酬 |
1.1万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
05/06〜05/12
|
●本文
「うふふふ‥‥よく来たわね、当新人合宿所へ。あなた方のその生まれたての美術センスを、このワタクシが某双子の評論家やちょいワルの人のように鍛えなおして差し上げますわ」
ぼうっ、と暗闇に包まれていた視界に明かりが灯る。浮かび上がったのは舞台。大量の段ボールや木材、マネキン、カツラ、布、工具などなどが置かれている舞台。
「あなた方には、今から指定する物を作ってもらうわ。一人ひとり自分の担当分をこなす形でも良いし、何人かでチームを組んでも構わないわ。とにかく、合宿終了までに指定の物を完成させること。それさえ出来れば合格とするわ」
シュピッと鋭く差し出されるA4の紙。そこには簡素に、以下のような文字。
『剣』4種
『銃器』2種
『衣装』6種
『髪型・メイクプラン』6種
『コンテナ』1種
『椰子の木』1種
「細かく指定はしないわ。それらをどういった雰囲気に仕上げればいいのか。それはあなた方が決めること。美術の極意は、示された少ない情報の中から完成したひとつの世界を作り上げること。考えずに、感じなさい。舞台の声を聞くの」
うふふふ、うふふ。と回転しながら舞台へ向かっていく男。
「他に何か作りたい物ができたなら、止めはしないわ。ワタクシは困らないから、好きになさい。ただし、この合宿所にいる間は徹夜、獣化は禁止。そんな事をしなきゃならないような状況じゃ、真の美術は生まれないわ! byワタクシ! なんちゃって。うふふ」
●リプレイ本文
●ハンディキャップ?
「あ、あの‥‥」
「何かしら?」
「図面、引きたいんですけど」
大きなテーブルに紙を広げ、山田悟志(fa1750)がコンテナの図面を引こうとしていた1日目。彼の作業は初っ端から妨げられていた。
「うふふ、あなたは他のみんなと違って多少の熟練の匂いがするのよねん。みんながあなたに頼りっきりにならないように、ちょっと見張ってるのよん」
合宿開始直後の自己紹介で「おねぃさんと呼びなさい」とのたまった男は山田の両肩を揉みほぐすようにモミモミ。手つきの微妙な嫌らしさに集中できないったらありゃしない。
初日は、自己紹介の後全体のイメージの統一やスケジュールの設定が行われた。イメージは『海賊時代』、スケジュールは序盤から順序良く詰め込んで、最終日は余裕をとって何も入れない、予備日とすることになった。
「ここの不足分を悟志ちゃんとでっち上げたかったんだけど‥‥」
碧野 風華(fa1788)が見つめる先には、今度は山田に肩をもませ、彼の淹れたコーヒーでくつろぐおねぃさんの姿。
「俺たちで早めに始めてるほうがいいかもね」
獲物が俺っちでなくて良かった。そう思いながら、相麻 了(fa0352)が皆を作業へ誘う。
●衣装とメイクは大忙し
タタタタタタタタ‥‥
ミシンの針は結(fa2724)の手元で軽快な音を立てて進んでいく。彼女は七瀬・瀬名(fa1609)と共に衣装のうち二つを製作中だ。
つい先ほど縫い上げたのはふわふわロングスカート。これと、七瀬が作ったブラウスや赤い薔薇のコサージュを組み合わせると、女性用の衣装一組目が完成する。
そして‥‥
「できたっ!」
結が手を止めて七瀬の声のほうを見ると、完成した分の衣装がマネキンに着せられていた。マネキンにはカツラがかぶせられ、立て巻きロールのドリル標準装備(嘘)。中世の貴婦人をイメージした逸品である。
「次は海兵だね」
ミシン作業に戻る結。七瀬は使う生地を選んで運んでくる。と。
「きゃっ!」
プツン。
一体目が完成した喜びと物を運んでいたせいで足元が見えにくくなっていたのが原因か、七瀬がミシンの電源ケーブルに引っかかり転んでしまったのだ。それと同時にコンセントからプラグが抜け、ミシン強制終了。
「大丈夫!?」
「ごめん、大丈夫‥‥」
再びコンセントにプラグを差し込み、作業を再開する結。しかし‥‥
タタッタタタタッタッタタタ‥‥
「わっ、ストップストップ! ‥‥あちゃ、曲がっちゃった」
気持ちよくリズム良く縫っていたところにリズムを崩され、曲がって縫ってしまったのだ。
「一度全部解くしかないね‥‥」
ちまちまちまと糸を少しずつ解いていく二人。結構長い距離を縫ってしまっていたので、かなりのタイムロスだ。と、そこに通りかかったのは相麻。
「あ〜、曲がっちゃったのか‥‥そういう時はホラ、こうやって力ずくで‥‥」
七瀬から生地を奪い取って思い切り引っ張ろうとする相麻。
「ダメ〜!!」
「冗談だって。こういうのは、糸がちょっと勿体ないけど所々で切っちゃえば時間短縮になるよ」
糸切りバサミで何箇所か糸をプツプツ切っていく相麻。確かにそうすれば生地を軽く引っ張るだけで解くことが出来る。
「そういえば、コイツは何の衣装?」
「これは海兵さんね。海賊の相手って言えば海兵隊でしょ。相麻さんは?」
「俺っちのは、アレだね。東洋の武芸者!」
相麻の指さす先には、マネキンにセットされた衣装一式。古武道風の装束に、鉢金、足袋。いかにも古強者といった風体だ。
「その敵さんが、この髑髏船長なの〜」
黒いロングのカツラと眼帯をつけ、ぬっと顔を出したのは碧野。わかめのような髪をたらし、姿はまるでテレビから這い出てくるアレのミニバージョン。しかし服装は確かに海賊の船長。
「ええと、何て言ったら良いか‥‥に、似合ってるよ?」
褒め言葉なのかどうかは分からないが、結の言葉に碧野は喜びのVサイン。
「あら? この海兵さん‥‥」
単独でウェディングドレスを作っていた大豪院 さらら(fa3020)が、出来上がりつつあった海兵の衣装の何かに気付いた。
「あっ! ベルト!」
そう、海兵の白いパンツにベルトが無かったのである。これでは演技中にイヤーンな事になってしまう。
「ベルトを作るにも、バックルが無いのね‥‥」
七瀬と結は相談すると、布でスカーフを作りはじめた。丸めて腰に巻き、ベルトの代わりにしようというのだ。
巻いてみると、何とか代替ベルトはその役目を全う出来そうであった。
「皆さん、夕食の時間ですよ」
「今日のメニューは、うちの特製獄辛カレーやで〜」
山田と敷島ポーレット(fa3611)が皆に作業の一時中断を告げる。短い期間で大量の物、ということで作業は毎日みっちり入ってしまうのだが、食事や起床、就寝時間を規則的にすることで体調を崩さないようにという配慮・工夫がなされていた。
「はい、今行きまーす」
と、皆が食事へ向かう中、ただ一人そこに居残る碧野。
「ま、待って、ふ〜かちゃんも行くの〜!」
長靴、コート、海賊帽に全身髑髏とフル装備だった骸骨船長こと碧野は夕食への出撃に遅刻。あえなく食事の座席がおねぃさんの隣(皆そこを避けて早い者勝ちで座っていた)へご招待となった。
ちなみに、カレーは名前の通り鬼のような辛さで、食べ歩きが趣味である大豪院も食べたことが無いとヒーヒー言っていた。山田に至っては脱水症状でも起こすのではないかというくらいの汗をかき。
●銃刀法違反?
武器類については、山田のアドバイスを中心に製作が進められた。おねぃさんは相変わらず山田のコーヒーでくつろいでいる。
「どうやろ、山やん。短剣完成や」
敷島が山田に掲げて見せるのは、柄に紅い宝石が埋め込まれたダガー。碧野がカトラスを作ったライオンボードの余った部分で作られた品だ。
「宝石は、軽くヤスリをかけておくといいかな。そうすると舞台上で照明を反射して眩しいなんてことが無くなるから」
「ヤスリやね? わかった〜」
作業に戻る敷島の隣で、碧野は船長の銃として長い銃身を持ったマスケット銃を作っていた。基本はプラスチックの筒で、木材を使ってまわりの形を整え塗装する予定だ。
山田はレイピアとサーベルを同時進行で作っていた。レイピアは豪奢に、対してサーベルは簡素に、強度や使い易さにも気を配って成形していく。
と、皆が和気藹々と作業をしている作業場に。
パーンっ!
唐突に響く発砲音。
「どやろ? 銃口に花火詰めてみたんやけど」
皆の注目を一瞬で集めた敷島の手に握られていたのは、短剣に先立って完成していたフリントロック式の拳銃。
「いや、さすがに花火はヤバイかな‥‥ちょっと間違うと怪我や火事の元になっちゃうし」
そんなこんなで花火の残骸を片付ける面々を見ながら、おねぃさんは一人「うふふふ」と笑みをこぼしていた。
●デカブツは間に合った?
デカブツは難敵だった。椰子の木は舞台サイズで作ると予定を立てていたし、コンテナは宝箱風の外装にするということで木箱に装飾をつけ、塗装をし、さらに重量感や使用感を出すための加工や汚しも行う予定だった。
がしかし、メインで担当するはずだった山田が序盤拉致られていたこともあって、図面と材料の確保は出来ていたものの作業はほとんど進んでいなかったのである。
「それにしても、葉っぱを1つ作るだけでも結構手間がかかりますね」
椰子の木の葉を形作りながら七瀬が言う。担当分が早くに終わった面々は椰子の木とコンテナの製作に参加したのだ。
「海賊旗、出来上がったよ。どうかしら?」
最後に椰子の木に引っ掛ける海賊旗を上手く縫い上げ、結が全員にかざして見せる。
「コンテナの中身はこんな感じで大丈夫ですか?」
「出来上がりなの〜!」
大豪院と碧野はコンテナの中に入れておく中身を作っていた。光り物は加工に手間がかかるので、高価そうな生地や銃である。
「コンテナ本体、これで完成だねっ!」
ハケを片手に相麻が鬨の声を上げる。これで仕事は完了である。長かった仕事もこれで終わりと、山田がゴロリと地に倒れ伏す。
「作って終わりっちゅうのもなんやし、試着タイムといこか?」
敷島が衣装類を指して皆を誘う。皆で一緒に立ち向かっていた敵を片付けたことで、テンションは高くなっている。
と、それを遮って響くおねぃさんの拍手の音。
「よくやったな、お前達」
突然の普通ゼリフに驚く一同をさらりと流し、おねぃさんは続ける。
「今回のように、一つの舞台に必要になる道具や衣装、メイクは非常に多い。それらを一人や二人でってのは不可能だ。チームを組む必要がある。そして事前ミーティングで気付いたかもしれないが、複数人いれば複数の考え方があり、それぞれの味がある。それらを上手く融合させることが重要だ。一番初めに言ったが、美術の極意は『示された少ない情報の中から完成したひとつの世界を作り上げること』。一人なら受け取れる情報は少ないが、二人が受け取る情報なら二通りの情報。三人なら。四人なら。ひとつの情報からたくさんの世界観が生まれる。お互いが聞いた舞台の声を、共有しろ。それこそ極意」
軽く息をつくと、一度全員を見渡して。
「この分なら、合格だ。お疲れさん!」
「ところで、衣装1つ足りなくない?」
「あ! え、えーと‥‥こ、これ?」
七瀬の差し出すシークレット犬耳。どんな世界やねん。