Nights ―ひまなつりアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 05/31〜06/04

●本文

●闇夜駆けるU・B・N
 彼らが一体何者なのか、知る者はいない。
 いや、正確には‥‥誰も「知っている」とは答えない。
 Ultimate Bandit Nights 。彼らは『最高』の盗賊団。

 彼らの仕事の稼ぎは『最高』。
 彼らの民衆への還元率も『最高』。
 彼らの失敗の数も『最高』。
 そして何より、仲間達が『最高』。

 弱きを助け強気を挫く盗賊団Nights。この番組は、彼らの『最高』の物語を伝える特撮番組である。

●『Nights』の世界
 文明レベルは蒸気機関が開発された直後ほど。その世界には凶悪な怪物どもが闊歩し、人々の生活を脅かしていた。
 怪物の脅威から身を守るため、人々は高く強固な城壁を造り巡らすことを思いついた。突破されぬ城壁に囲まれた幾つもの集落は、規模の大きなものは『国』、小さなものは『街』と呼ばれ、それぞれに独立し、また相互協力を行いつつ生きている。

 多数存在する『街』の中でもかなり大きい部類に入る街『アルテイス』。そこに、治安を取り締まるはずの騎士警察を手玉に取り、犯罪を繰り返す盗賊団がやってきた。『Nights』。裕福な商人や貴族のみをターゲットとし、奪った金品を貧しい人々へ分け与える、義賊を名乗る集団である。

●出演に当たって
 出演者には以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定してほしい。
 出演者は『一般人』選択時以外は、半獣化しての撮影となる。

【能力】4つのパラメータに合計15ポイントを1〜10の範囲で振り分けてください。
 体力:筋力、持久力など。敵を蹴り飛ばしたり、高くジャンプしたり。
 技量:手先の器用さ。狙いすました突きや、鍵開けなど。
 速度:足の速さ、身の軽さ。受身の巧さもここ。
 知識:知識の量。不測の事態に対応する力や小さな情報から答えを見つける力。

【特殊】習得している特殊能力を1つ記載してください。
 特殊能力は、『出演者の獣人種族が』習得できる特殊能力から1つを選んでください。
 この時、自身が習得していない能力を選んでも構いません。
 番組の登場人物はその獣人能力のようなイメージの特殊能力を、番組中で行使します。
 威力や効果、使用回数については、獣人能力のデータを参照してください。

※『一般人』の選択について
 キャラ名・能力は通常通りに記入し、【特殊】の欄には『一般人』(カッコ不要)としてください。
 一般人とは、獣人ではない通常の人間の姿をした、特定勢力に加わっていない者を指します。一般人は特殊能力を使用出来ません。

<キャラクターテンプレート>
キャラ名:
能力:体力・技量・速度・知識/特殊
備考:

※皆さんが演じるのは原則として盗賊団ナイツの一員若しくは一般人です。その他は選択できません。

●ひまなつり
 無事に密造酒騒ぎを切りぬけ、酒場兼食堂兼アジト『レッドスピネル』の経営を救ったナイツ。だが、そのことが新たな危機を招いた。
 密造酒騒ぎで摘発された騎士警察幹部の一人と、酒の販売を行っていた商人。そのうち商人の方は、次回のターゲットとして狙っていた人物だった。彼が逮捕されたことによって、ナイツは大きなお仕事をひとつ失ってしまったのだ。だからといってすぐ何か新しい獲物が見つかるわけでもなく、お得意様のヴァイス氏も最近うかつな行動をしてくれないとなれば。
「暇」
「店は忙しいけどね」
「でも暇」
「そんなアナタに!」
 そんなノリで唐突に顔を出すエステル(織石 薫)が持ってくる情報に手を出してしまう。今回彼女が持ってきたお話というのは、盗みがどうの、困っている人がどうのというものではなく。
「たまには、旅行なんてどう? って思ってさ」
 旅行? 何をトチ狂ったのかこの小娘は。間違ってもそんな楽しそうな情報を持ってくる奴じゃない。これはしっかりと詳細を聞かなければ。旅行という言葉の持つウキウキ感にあてられて安請け合いしては痛い目を見る。
「『街』を出て、北に1日とちょっとの所。そこに、地中に潜っていく洞窟があるのよ。洞窟は地底湖に繋がっていて、その湖の底にはお宝が眠っているっていう噂があるのよ」
 噂かよ。つーかまず旅行じゃねえじゃん。
「まーまー、でも暇なんでしょ? ちょっと体慣らしにでも行ってきて、ちょちょっとお宝を持ってくればいいわよ。湖の底に沈む誰も知らぬお宝なんて、ロマンチックじゃない」
 お前が見たいだけか。
 まあ、確かに暇は暇だ。興味が無いことも無い。ということで、毎度いつもの事ながらエステルの話に乗ってしまうのだった。
 唯一の問題は、『街』の外に出るということ。外には怪物たちが徘徊している。それらに捕まらないよう、対策は考えておかなければ。

●今回の参加者

 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1420 神楽坂 紫翠(25歳・♂・鴉)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2825 リーベ・レンジ(39歳・♂・ハムスター)
 fa3092 阿野次 のもじ(15歳・♀・猫)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

●OPキャストロール
シオン‥‥神楽坂 紫翠(fa1420)
メイ‥‥月見里 神楽(fa2122)
ルイス‥‥ブリッツ・アスカ(fa2321)
ヴォレット‥‥深森風音(fa3736)
ゼフィリス‥‥夏姫・シュトラウス(fa0761)
リベイラ‥‥リーベ・レンジ(fa2825)
チェイシャ‥‥阿野次 のもじ(fa3092)
カルヴァネーレ‥‥九条・運(fa0378)
ディアナ‥‥桜 美琴

●小旅行のスタートライン
「‥‥と、いうことらしい。皆はどう思う?」
 夜、閉店直前のレッドスピネル(ナイツのアジト兼仕事場食堂)の『奥(仕事用会議室)』にて、シオンが皆に尋ねる。それはエステルから聞かされた『お宝探し』のこと。
「ピクニック行きたいです!」
 メイ、聞かれてるのそこじゃない。
「お宝探し、いいじゃないか。そういうのは本物かどうかの結果じゃなく、探し求める過程がロマンなんだ」
 ルイス、素敵なセリフだけど盗賊団としては結果を出したいよ。
「な、ヴォレット。お前もお宝見てみたいよな?」
「私はそれほどヒマじゃないんだけれどね」
「店、忙しいのか?」
「いや‥‥行くよ。やっぱり宝は見てみたいし」
 ヴォレットも宝探しに賛同。あれ? シオンの質問って、情報が信用出来そうかじゃなかったっけ?
「あ、わ、私は」
「「「荷物持ち」」」
 満場一致で強制連行の決まったゼフィリス。まあ本人に行ってみたいという気持ちがあったから良しとしておく。
「‥‥リベイラ、君の意見は?」
「そういう噂は、旅先でも聞いたことがある。全くのデタラメ情報でもないだろう。行くのなら、私もサーガの一曲の題材にでも、同行しよう」
 やっと出てきた普通の意見に胸を撫で下ろしつつ。皆も行く気満々だし、情報の発信源がエステルだけでないというところで不安も少しは消えた。
「なら、明日の朝、出発しよう。皆準備を」
「待てーい!!」
 突如店内に響く男の声。その後を追って聞こえてくる「やかましい!」「うげぇ!!」というのは飛び蹴り店長と絶叫男の会話だろう(会話?)。表ではもう客のいなくなった店内で店長にしばかれている者約1名。紅棘の常連客カルヴァネーレ。
「フルネームで呼ぶな地の文」
 地の文に文句たれるな青年。
「まあそんなことはどうでもいいや。話は聞いた、聞かせてもらった、二つの耳でた〜〜んと聞いちゃった。洞窟の奥に広がる地底湖だって? そこは、誰にも荒らされてない釣りの穴場なんだ! きっと。たぶん。おそらく。だから連れてって!」
「でも、ねぇ‥‥」
「連れてってください!」
「不確定な要素は排除した方が、旅は安全だが」
「連れてけや!!」
「んだとテメエ、人に頼み事する時は相応の態度ってもんが必要だろ!」
「ごごごめんなさいっ! いや、マジで荷物持ちとかで良いんで連れてってもらえません?」

 ・ ・ ・

 翌昼。どうなったかっていうと。
「やぁ諸君! 今日はいい天気だ、釣り日和だな!」
 結局連れて行くことに。
「ルイス‥‥それは?」
「決まってるだろ、ハンモックにするんだよ」
「こんな粗い目の網で大丈夫かい? 肌に跡がつきそうだ」
「なに、若者は大丈夫さ」
「私はもう若くないとでも言いたそうな言葉だね」
 そんなことはないさ。温かいお茶を縁側で飲んでそうな雰囲気がそう錯覚させるだけさ。
「店長、後頼む。こいつの世話もよろしく」
「ん〜、行ってらっしゃ〜い」
「お弁当は何ですか? メイの食べられないもの入れてないです?」
「大丈夫よ〜、私にしては頑張って作ったから〜」
 番組注。『朝の』ディアナにしては頑張った。『夜の』ディアナと比べてはいけない。
 番組注。ちなみに『メイの食べられないもの』=『朝ディアナのミスクッキング』。
「さぁ、早速出発だ! 約束どおり荷物は‥‥に、荷物多過ぎねぇ?」
 こうして、ナイツプラス1の小旅行がスタートしたのだった。


「ふふふ〜ん。あの洞窟に行くのね。この美少女怪盗エクセレントさんが、ばっちりと‥‥」
「お姉さん何してるですか?」
「え!? え、えーとね、いや、美味しそうな匂いがするな〜って」
「そうなのです! 美味しいお弁当なのです! ‥‥にゃ? お姉さんどこ行ったですか?」

●恐怖と驚嘆のスタートライン
 出発から半日としばらく。日も落ちて辺りが完全に暗闇に覆われた頃。
「ねえ、皆。さすがにそろそろ休憩しないかい?」
 ヴォレットの言葉がようやく受け入れられた。これまでにも何度も提案(荷物持ち組の視線での疲労訴え代理も含め)してきたが、その度に見たことの無い怪物の姿が現れて警戒態勢、移動開始となっていた。まぁ、遭遇したどの怪物も今までのところ襲ってくる種のものではなかったようだったが。
 そこらの木を集め、リベイラが火をつける。ぼんやりした炎に照らされる周囲。ここまででは歩いたり走ったりに意識を裂かれていてじっくり見られなかった風景を、ヴォレットはここぞとばかり楽しもうとする。
「ふぅ‥‥やっとお休みできますね」
 多くの荷物をひとつずつ置いていくゼフィ。元々はカルが持っていた荷物も、今は彼女の背にあった。カル、口では荷物持ちをすると言っておきながら意外とすぐバテた。
「こうして休み始めると、何だか分からない怪物が寄って来て終了になるんだよな‥‥今度は怪物だろうが何だろうが、出てきやがったらこの俺が‥‥」
「ルイス。向こうに何かいるよ。追っ払ってもらえるかい?」
 辺りを見ていたヴォレットが、視線そのままに話しかける。ルイスもその視線を追ってみると。
「‥‥ごめん、やっぱさっきのナシで」
「どうする、戦うか、皆?」
 言いつつシオンは既に荷物をまとめ始めている。それは現状、きっと正しい判断だ。何故なら。
 向かって来る何かは、周囲の景色との遠近感を無視した無意味な巨大さだから。これはアレだ、絶対勝てないパターン。
「よし任せた! もう任せた!」
「カルさん、お話の中で『怪物もイチコロの切り札』の話してませんでしたか?」
「生憎オレの切り札は容易く切れん! 製造費高いから!!」
 ゼフィのそれ以上の追求を既に遠くへ走り去ってかわすカル。製造費の高い切り札‥‥既に彼は釣竿しか持っていないのだが。


「前方に何か見える」
 リベイラの言葉通り、一行の進行方向には何かがあった。それは近づいてみると岩山のようで、さらに接近すると洞窟だと分かった。入り口の高さは3mほど、幅は4mほど。話に聞いていた洞窟にしては到着が少し早い気もするが、休憩が少なかったのと洞窟までの距離が伝聞で詳細でなかったためだろう。
 何とかその洞窟に辿り着くと、入り口に飛び込む。と、後からついて来る大音響、衝撃。洞窟に激突した巨大な怪物は、すぐに諦めて去っていく。
「‥‥何とか、助かったな。皆生きてるか?」
 ルイスが確認の声を上げると、シオンが、ヴォレットが、ゼフィが、カルが返事をする。リベイラの返事はやや遅れて、小さな火の灯りと共にやって来た。
「‥‥メイ?」
 いない。
「ただいまーです」
 いた。さっき皆が洞窟に飛び込んだ時、メイは一人外に残り怪物を他へ誘導したのだった。そしてお得意の瞬速縮地にてぱぱぱぱーっと帰ってきた。
「メイ、そういうことをする時は、事前に一言言っておけ」
「はーいです。シオン、メイお腹がすいたです。おやつが食べたいです」
 さすがに満足な休憩を取っていないから、ここで一度まとまった休憩を取りたかった一行。ヴォレットが簡易トラップを作り、おやつタイムに加え、交替で見張りを務めつつ就寝となった。
(「ふふふ、これでいつかシオンの髪を解いてみるのです‥‥」)
「ん? 何ニマニマしてるんだメイ?」
「何でもないですー!」

 そんな中、見張りのリベイラが見つけた石板。ところどころ砕けていて、さっきの怪物の体当たりで洞窟内に叩き込まれたものだと思われるが。
『この洞窟ゎ原則立ち入り禁止☆ 見てもいいヶド持ち出しゎダメだょ』
「‥‥古代ギャル文字か」
 なんだそれ。

 ・ ・ ・

 翌朝。
「‥‥メイ?」
 いない。
「ただいまーです」
 いた。またか。
「地図を描いてたです。ここが行き止まりになってて、こっちは道がちっちゃくて皆は通れないです」
「メイ、そういうことをする時も、事前に一言言って、誰かと一緒に行ってくれ」
「それでこの2番と6番は繋がっててぐるぐるなのです。迷っちゃダメです」
「‥‥‥‥」
「それじゃ、朝ごはんの後は出発ーなのです! ほら皆起きるですー! 店長さんみたいに寝ぼすけさんはダメダメですー!」
「‥‥‥‥」


「こっちですー。朝はお腹が減って、ここまでしか地図作ってないです」
「地底湖に繋がっているというだけあって、足元が滑りやすいですね。十分気をつけないと‥‥って、はわわわーー!!」
「お、おいっ、何てお決まり展開! 大丈夫かっ!?」
「大丈夫、です‥‥無傷なのもお決まり展開ですかね、助かりました‥‥」
 ゼフィの消えた先へ皆も降りていくと、そこには未だうつ伏せのまま大の字で倒れているゼフィと、
「綺麗だな。しかも広い」
 目的地の地底湖。

 ・ ・ ・

「いざ‥‥フィーーーッシュ!!!」
「そんなに叫んでは、魚がいても逃げてしまうよ」
 ここまで鳴りを潜めていたカルが、水を得た魚のように一本釣りを開始する。そこから少し離れたところでは、ヴォレットも釣り糸を垂らす。
「はっはっは〜、この新兵器の具合は最高だな! 恐るべき技術革新!」
「釣りの釣果は腕前でも道具でもない、仕掛けを作る技術だよ」
 実は釣りの開始前ひと悶着あった二人。釣りは腕と気合のカルと、釣りは仕掛けで8割決まるのヴォレット。その勝負の行く末は。
「来たね」
 ヴォレット先制。カルはそれを見て歯を食い縛りつつも。
「バカめ! まだオレのターンは終わっていない! 寧ろずっとオレのターン! 場を転換!」
 釣り場所を変えるカル。
「あー、ルイス、カルが着替え覗きに行ったですー!」
「んだと!? 八つ裂きの刑だって言っただろーがっ!!」
「あっ、すいませんそんなつもりはなくてお願いだから魚の餌にはしないでくれっ!」
「大丈夫ですよー。沈められても引き揚げには行ってあげますから」
 もう水泳用の服に着替えて準備万端のゼフィが楽しそうに声をかける。きっとゼフィのことだから、カルが沈められたのを助けに行ったら止めを刺して帰ってくるだろう。

 ‥‥と。
 どっぱーん、と効果音のつきそうな大きな水柱。幾本か湖面に立っていた鍾乳石も吹き飛び、欠片が舞う。
「‥‥怪物!?」
 水中を高速度で泳ぐ、体の長い生物。蜥蜴のような、蛇のような。そいつが、カルとルイスの元に突っ込んできて‥‥
「ラムちゃんストーップっ!!」
 ピーー、と響く笛の音。その音が聞こえると、ラムちゃん(?)は突如動きを止め、湖の中へと帰っていった。
「ふふふ、危ない所だったわね。この美少女怪盗エクセレント様がいなかったら、今頃皆ラムちゃんのお腹の中よ」
「「「‥‥あんた、誰?」」」

 ・ ・ ・

 赫々云々。チェイシャ、と本名を名乗った自称美少女怪盗は、この洞窟や先の海竜について話した。この洞窟は少し前に気に入ってよく来るようになったこと、ここに偶然捨てられてた海竜を拾って、お宝の守護者にしていること、ラムちゃんは今は彼女には慣れ、彼女は襲われないこと。‥‥って待て、偶然捨てられてた海竜って、それ棲息してただけじゃ‥‥?
 まあ、そんなことはいちいち気にしない。ナイツ的に気になるのは別のこと。
「ん? よく来るってことは、あんた‥‥」
「お宝の場所を知ってるかって? もちろん知ってるわ。‥‥そろそろ時間よ、ついてきて」
 チェイシャが皆を連れて行った場所は、皆が入ってきた道とは正反対の側の、少し高くなった丘のような場所。
 そこに、少しずつ高くなってきた太陽の光が天井の隙間から幾筋か差し込んできて、それが水晶や鍾乳石に当たり、屈折して輝く。
「お宝、って、これだったんですね。湖底や天井の水晶だと思っていましたよ」
「水晶? あれに価値はそんなにないわよ。取り出そうとしても手間がかかるだけで大してお金にならないし。ただそういうの分からない馬鹿も多いから」
「キレイです‥‥店長に持って帰れないのが残念です‥‥」

●動乱のスタートライン
 シオンの手元に光る水晶の欠片。それは削り取ってきたものではなく、ラムちゃんが激突した際吹っ飛んできたのを持ってきたもの。そしてそれとは逆の手に、上質紙が使われた一通の手紙。テーブルの上には新聞。向かいの席にはリベイラ。
「これは、誤解だよな?」
「ああ、そのはずだ。ナイツは人まで盗んではいない」
 その新聞は、アルテイスとは別の『国』のものだった。そこにはある少女の行方不明事件と、その事件当日『国』をアルテイス方面へ向け出発した所属不明の荷馬車、そしてアルテイスを中心に活動する盗賊団ナイツについて書かれてあった。行方不明事件と荷馬車については以前から取り上げられていた事件のようだが、ナイツの関与が疑われているのはこの号が初めてのようだ。
 新聞の大量印刷やその流通が整っていない世界。そのため情報の広まりは遅く、新鮮とは限らない。この他国の新聞も少し前のもの。そして他国へナイツの存在が伝えられたのは、かなり前に新聞記者エドが書いた新聞記事が他国へ渡ったためと考えられる。
「さて、こんな手紙も来ているが、どうするかな?」
 シオンの持つ手紙は、先ほどエステルを通じて届けられたもの。送り主は騎士警察。机上にある新聞の件について。
 協力願い。『実力行使での解決も辞さない』とする『国』への、その情報の真偽を確かめるスパイ要請。