劇場版奏デ歌ウ想イ・�Tアジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 香月ショウコ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 11万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/07〜06/13

●本文

●奏デ歌ウ想イ
 奏歌楽士と呼ばれる者たちがいることを、おそらくあなたは知らないだろう。
 世界は調和の下に成り立っている。世界各地で大なり小なり争いは起きているが、それも調和の中の一部分。
 『歪』。それは世界に生じた歪みとも、もともと存在していたが気づかれなかった歪な部分とも。『歪』が世界に生まれた瞬間、調和は乱される。

 世界の調和のため、日夜人知れず『歪』と戦う奏歌楽士たち。
 この『奏デ歌ウ想イ』は、彼ら奏歌楽士たちの戦いの記録を記す特撮番組劇場版である。

●『奏デ歌ウ想イ』の世界
 奏歌楽士とは、『奏(ソウ)』『歌(カ)』と呼ばれる特殊な能力を使用して『歪(イビツ)』と戦う者たちのことである。『奏』を使用する者を『奏士(カナデシ)』、『歌』を使用する者を『歌士(ウタシ)』という。
 楽士たちは世界各国にある楽士協会に所属し、そこから下される指令によって『歪』退治を行う。楽士協会は、楽師(マイスター)と呼ばれる強力な力を持つ数人の奏歌楽士によってその上層を構成され、『歪』の調査と退治、奏歌楽士の訓練、新たな楽士の育成を行っている。

●出演に当たって
 出演者にはこれらと以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定、毎回提示される目的の達成を目指してほしい。

【能力】「奏」もしくは「歌」を選択。
【ジャンル】能力の種類を設定。いずれか一つ。
 奏‥‥白兵(+5)、単体射撃(+3)、複数射撃(+2)、散弾/扇状/放射(+1)、回復(+3)、補助(+3)
 歌‥‥単体射撃(+4)、複数射撃(+3)、散弾/扇状/放射(+3)、回復(+3)、補助(+4)、修復(+5)
【射程】能力の射程を選択。いずれか一つ。
 奏‥‥短(+5)、中(+3)、長(+1) ※短:0〜1m 中:1〜12m 長:12〜100m
 歌‥‥短(+4)、中(+4)、長(+2)
【効果】4つのパラメータに合計20ポイントを1〜15の範囲で振り分けてください。
 威力/効果:破壊力、回復力など。
 速度:演奏・歌唱から発動までの速度。射撃であればその弾速。
 持続:その能力が発動してからどれだけの時間効果を持って存在し続けるか。
 安定:発動確率、効力の安定、妨害に対する抵抗。
【回数】能力を一日に使用できる回数。
 ジャンルと射程を決定後、()内の数値を足した数。
 パラメータポイントを2点消費することで使用回数+1することも可。
【その他】能力についての注意点
 『奏士』と『歌士』の掛け持ちは不可。しかし、『奏士』なら『奏』、『歌士』なら『歌』の複数習得は可能。

※フリー楽士オプション
 フリーの楽士となる方は以下の制限に注意して設定を作ってください。
・無条件で『奏歌』の持続+1、使用回数+2。
・3人以上での『共鳴』『共声』『共音』の発動・参加不可。
 フリーの楽士は協会に属さず、かつ一人で戦うことに慣れた楽士のことを指します。フリー楽士オプションの対象になる基準は決まっていませんが、協会に所属しなくなってから最低でも半月以上を目安にしてください。

<キャラクターテンプレート>
キャラ名:
能力:能力・ジャンル・射程/効果:威力・速度・持続・安定・回数
備考:

<テンプレート見本>
キャラ名:香月
能力:奏・白兵・短/効果:6・7・3・4・10
備考:楽器はヴァイオリン。弓が光の剣になる。

※皆さんが演じるのは原則として奏歌楽士です。一般人、マイスターは現在選択できません。

●劇場版『発端』
「その情報を、信じるに値する何かはあるのかね?」
「ううん。無いけど。でも、間違いだっていう証拠も無いでしょ? もしもこの話が本当だったら、って時のことを考えてみなさいよ。真実である可能性が1%しか無いとしても、それに備えて対策をして損は無いわよ」
「‥‥‥‥」
「ぜーんぶ終わってから、信じとけばよかったって思ってもどうしようもないのよ? 後悔するくらいなら、ちょっとした負担くらい目を瞑って、危険の芽を摘んだほうがいいでしょ。調査にかかる費用は、危険が実際に起こった時の被害の1%よりずっと安いわ。簡単なゲーム理論よ」
「分かっている。もういい。‥‥一つだけ、聞きたい。そんな話を我々に知らせて、君にどんな利益がある?」
「そんなの‥‥お金に決まってるでしょ。東協会のお金で世界一周旅行をしながらお話ししてまわる、それだけでさらに報酬まで貰える。ボロ儲けよ」
「‥‥なるほど、そういうことなら信じられそうだ」
「利害がはっきりしているから? それは信用のカードと等価じゃないわよ。口でなら何とでも言える。他人が、それを真実であると証明する手立てなんてひとつだってありはしないんだから」
 それじゃ、次はアメリカに行くから。そう言ってエステル(織石 薫)と名乗る女は部屋を後にした。楽士協会日本支部(暫定)主席楽師、三ケ田 審良はそれを視線だけで見送り、後ろ姿が視界から消え、足音が途絶え、エレベーターが開き、閉まり、上昇していく音まで聞き届けてから、深く溜め息を吐いた。そして側近を呼ぶと、指示。急ぎ手続きをするように。
「‥‥『聖なる絶対領域』か」

 ・ ・ ・

 深闇の底 光なき地の果てに
 蠢く影の声を聞く
 遠く誓ったあの日の夢が やがて形を失くしても
 歪む世界から

 『君を護るために』

 奏デ 歌エ その想いを
 いつも胸に抱きしめて
 踏み出すこの一歩から 道は続いていく

 ・ ・ ・

「‥‥研修ぅ?」
 そんな抜けた声が聞こえるのも仕方ない。話を聞いた奏歌楽士にとって、あまりにも今更だ。研修とは、訓練中の楽士が『奏歌』の行使の仕方を学んだり、新人楽士が忙しくない別ブロックに行って実戦に近い形式の調律、または実際の調律を行ったりするような、そんなもの。ある程度場数を踏んでいる楽士にとっては教官にでもならない限り全く縁の無い単語のはずだったのだが。
 勝手に渡されるパンフレット。募集人員と、志願者は先着順に選考が行われ合格者から定員が埋まっていくこと、向かう先は楽士協会本部があるドイツであることなどが載っている。渡航手続は自分で。渡航費用や向こうでの宿泊費は協会負担。食費は1日幾らで支給。食い過ぎは自腹。
「単純な観光旅行なら、破格の条件なんだけどな」
 ただし、空港までの国内移動は自費。なぜここでケチるのか。
「研修内容は、ドイツ協会の視察。調律部隊に同行したり、施設内を散策したり。その他、状況に応じて現地日本協会スタッフが指示。‥‥何だ状況に応じてって」
 はっきり言っておかしい要素は結構ある。だが、興味を惹かれる要素は満載だ。安い海外旅行(長休取りにくい若者向け)。楽士協会の最高府ドイツ協会でのお勉強(勉強好きな人向け)。日本協会をしばらく離れられる(サボりたい人向け)。
 とにかく、まぁ。
「考えてはみよう」

 そうして、物語は再び大きく動き始める。

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa3028 小日向 環生(20歳・♀・兎)
 fa3319 カナン 澪野(12歳・♂・ハムスター)
 fa3742 倉橋 羊(15歳・♂・ハムスター)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)
 fa4769 (20歳・♂・猫)
 fa5241 (20歳・♂・蝙蝠)
 fa5498 雅・G・アカツキ(29歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

●OPキャストロール
渋谷 伊紀‥‥小日向 環生(fa3028)
暁‥‥雅・G・アカツキ(fa5498)
久瀬 灯‥‥倉橋 羊(fa3742)
二宮 千鶴‥‥欅(fa5241)
景山 千歳‥‥忍(fa4769)
如月 春燈‥‥富士川・千春(fa0847)
朝香 凛‥‥雅楽川 陽向(fa4371)
カナン・藤堂‥‥カナン 澪野(fa3319)
エステル‥‥織石 薫

●『歪』な訓練
「痛ぇ! おいオカマ、やっぱこれ要らねえだろ、取るぞ!?」
「ダメよ、先輩ならそれくらいのハンディ、何ともないでしょ」
 暁が携帯電話を久瀬 灯に向けながら言う。暁の意図は撮影。灯の。
 何故撮影か。それは今行われている模擬訓練のために用意された装備を装着した灯の姿が、あまりにあまりだから。市販の白いTシャツに筆で『歪』と書き上げられた由緒正しき一品。それプラス、『(×。×)』と書かれた顔面用張り紙。そちらは灯の兄が愛用したもの。実兄でなく、ゴーン兄弟の。
 模擬訓練、先輩、ハンディ。このあたりから推測されることと、宙を舞っている多数の泡が示すことは。
「さ、伊紀チャン、自称一人前の先輩さんがキレて暴れ出す前に、どんどんぶち込んじゃいなさい♪」
「は、はいっ!」
 暁の声に渋谷 伊紀は再びサックスを構え、灯に向けて泡を発射する。新人奏士、伊紀の『奏』は、放った泡で物を包んで飛ばし、泡を破裂させることで勢いをつけ内部のものを放出するもの。この模擬訓練場では包めるような物が無いため『空気』を包んで飛ばし、対象の周辺で連続して弾くことで転倒を狙っている。
「ちくしょこのっ‥‥見えないなら焙り出す!」
 いい加減に見えない敵からのプチプチ攻撃に耐えられなくなってきた灯は、最大出力でまずは伊紀のいそうな方向に適当にぶっ放す。日本協会楽士の中でも高い破壊力を持つ灯の矢は、伊紀の横数mを通過して壁にぶち当たり、瓦礫を撒き散らす。
「きゃっ! ‥‥けほっ、けほっ」
「見つけた! 普通の新人恐るるに足らず、そこだぁッ!」
 舞い散る粉塵に咳き込む伊紀、その音の方向へ狙いを修正して再び矢を放つ灯。多少の手加減をしているとはいえ、直撃は。
「まずいのよもうっ!!」
 タタタンタンタンとタンバリンを細かく叩く暁。すると伊紀の前に結界が張られ‥‥ない。
 結界が張られたのは、矢を放った直後の灯の前。目の前に突如現れた薄い膜のような壁に矢は激突、爆発。遥か後方へぶっ飛ぶ『(×。×)』。
「痛ぇなオカマ、何だよ!? 狙いは外しただろ!」
「伊紀チャンが避けようとして、ずらした方に動いたらどうするのよ。それに‥‥」
「それに?」
「優雅さが足りないわ。根本的に」
 ぎゃーすかぎゃーすか。いつかのように始まる大喧嘩。こんな二人が新人の教官と先輩なのだというのだから、日本協会の人手不足の程度も分かろうというものだ。ああ、まともな先輩達カムバック。
「相変わらずねえ‥‥こりゃ、パンフ人数分持ってきて正解だったかな?」
 灯と暁の喧嘩を座って休憩しつつ眺めていた伊紀の隣に腰掛ける如月 春燈。その手には4枚のパンフレット。『ドイツ研修参加者募集』と書いてあるそれを1枚、春燈は伊紀に手渡す。
「研修‥‥? ドイツで?」
「そう。ドイツには楽士協会の本部があるのよ。日本支部とは違った形で各国の楽士が集まっていて、どこかで歪の大量発生が起きた時なんかに周辺の国の楽士を融通したり、本部精鋭部隊を派遣したりするの」
「へえ。じゃあこの前のゴタゴタも本部が出て来たの? ってそれ何?」
「これ? カンペ。さっきから話してるのは全部、お兄ちゃんからの受け売りなのよ。‥‥で、『この前』の話だけど、この前のはイギリスと中国が日本とロシアの動きに気付いて、先に動いたの。本部が動き始めたのは、事後処理になってからね」
「どうして、イギリスと中国が先に気付いたの?」
「各国の協会は色んな分野で競争をしてて、お互いの状況を探るためにスパイを潜ませていたりするのよ。そして『この前』の時は、丁度その2国のスパイがアクティブだったの。中国は『時』の奏歌で、近場で大きな世界の歪みがそろそろ起こるってことを漠然と知ったから、イギリスは奏歌の最先端研究組織として‥‥ケンブリッジって、実は運営に楽士協会が1枚噛んでるのよ。‥‥『転送弦』の働きに変化があったから、日本協会内の動きに敏感になってたの」
「なるほど‥‥」
 考え込む仕草の伊紀。流れ込んできた多くの新しい情報を整理する。そして、導き出される結論。
「つまり、各協会から楽士を集めることで、本部精鋭部隊にスパルタ教育をさせて楽士全体の平均能力を高めたいのと、同時に、各協会のレベルとかを探りたいのがこの研修の目的なんですかね。ドイツ本部は他国支部の内情を調査するのが苦手だから」
「お兄ちゃんもそう言ってた。ドイツ本部はこういうゴタゴタは治めてくれないし」
 2人の視線の先には、ハーモニカぷー攻撃を繰り出す灯とそれを笑い踊りながら避ける暁。この辺の事件は誰も止めてくれないだろう。というか、関わりたくない。

●不公平な研修案内
 飛び立つヘリの放つ大音響と強風。それを見送りながら、久々に関東の地を踏んだ朝香 凛はぼっさぼさになった髪を手櫛で整えながら大きく溜め息を吐く。
「何で説明会、関東でしかせんのやろう‥‥移動にお金かからんでも、時間はかかるんやで‥‥」
 ドイツでの勉強(人や建築物を見たり、食べ歩いたり)がしたいと関西の本家に掛け合い手続きと移動費についてはすねかじりに成功したものの、研修の説明会は関東でしか行われないことに数日前まで気付かず、そして今日、立腹しながら協会近くのここへ到着したのだ。
 鈍行で。
 何かの宣伝をしながら飛び去っていくヘリに背を向け、凛は楽士協会日本支部関東ブロック本局へ向かう。

 ・ ・ ・

「あ‥‥久しぶりだね。少し雰囲気変わった? 大人びた感じ」
 説明会の会場で凛を発見したカナン・藤堂は、まず凛の雰囲気に、次に両手の大量のたこ焼きに首を傾げる。たこ焼き食べたい、と思うのは天の声の独り言。
「大人びたかなぁ? あ、これ? さっき春燈からもらったんや。タイヤキと間違えてたこ焼き買うてきたって‥‥」
「ごめんね、だから増援を連れてきたわよ」
 声に二人が振り向くと、そこには春燈と灯。
「お前、何たこ焼きにまみれてんの」
 言って灯は一つつまみ食い。二つ目を取ろうとするとさっとかわされる。
「おやつは別腹やからわざわざ食わんでもええよ」
「別腹幾つあるんだ‥‥」
「そういえば、皆はどうして研修に行こうと思ったの?」
「そりゃもちろん、ドイツ観光や!」
 春燈の問いに凛は即答するが、カナンは少し考え込んで。
「‥‥何でだろう? パンフレット見てたら、いつの間にか人数に数えられてたの」
「あはは‥‥灯は?」
「俺は強制連行。あっちで踊ってる変態に」
 くいと親指で灯が示す先には、うふふあははと大はしゃぎの暁。ドイツで料理とショッピング、服よメイクよアクセサリーよと素敵に無駄に大騒ぎ。
「先輩なら、教官がああなった時の対処法くらい教えてから抜けてよ‥‥」
 疲れ果てた顔をして顔を覗かせる伊紀。もうコイツ嫌だと灯にお守りを押し付けられて少々疲れ気味。テンションは誰にでも合わせようと思っていた彼女も、さすがに暁には。きっと同じ種族じゃないと無理。でもこの作品に同種族二人目が出たらそれはそれで危険。
 伊紀の、灯への先輩発言に疑問の表情を浮かべる凛。それを察知した伊紀が、新人奏士だと自己紹介。その途上で『暁教官』という単語が出て来て微妙な顔をする者約2名。
「暁さんはね、昔は『ダンシングスター仮面』って名乗ってたの」
 カナン、それは嘘だ。
「2ヶ月踊り続けてギネスブックに載ってるのよ」
 春燈、あり得そうだけどそれは嘘だ。
「自分の命を狙ってきた相手の前で踊って、スルーされた」
 灯、それは正解。


 それはともかく。
「ドイツ協会の『紋章』ってどんな能力なんだろうね?」
「『紋章』はね、人や物に『奏歌』を付与するんだって。例えば地面に『炎の紋章』を付与して、歪がそれに近づいた時に爆発するとか、その辺の鉄パイプに『氷の紋章』を付与して、それで殴った相手を凍りつかせるとか、仲間に『速の紋章』を付与してスピードアップさせたりとか」
「『速の紋章』は、うちの歌と似た感じやね」
「普通の奏歌と違うのは、発動のタイミングを付与者か被付与者が決められることと、『奏楽器』でないものも『奏楽器』のような武器に出来ることかしら。言ってしまえばつまり、一般人も奏士みたいに戦えるってこと。歪は見えないけど」
「それはいいけど、お前手に持ってるメモ何?」
「カンペ」
 灯が春燈の持つメモを取り上げて見てみると、ついさっき春燈が話した内容がそのまま。
「ところで‥‥僕ドイツには一度も行ったことないんだけど、どんな所なんだろうね」
「ん? ドイツゆうたら、人前に出る時はいつもドレスとかタキシードで、挨拶は投げキッスとウインクで、街中を歩く時はずっと踊ってるんやろ?」
「‥‥お前はいつの時代の人間だ」
「えっ!? 違うんか??」
「今時ドレス着て踊りながら歩いてる人間なんて、フランス人くらいだろ。ドイツ人は夜12時過ぎたら階段に靴を片足残して帰るんだ。それが決闘を申し込むって意思表示」
「なっ‥‥!! そうか、イギリスは手袋投げて、ドイツは靴置いてくるんか‥‥文化が伝わる途中で変化したんやな‥‥」
 真顔で考え込む凛を見て、必死で笑いを堪える灯。次の瞬間、灯空を飛ぶ。
「嘘を教えるな嘘を。今時どこの国も大体同じだ」
 灯の首根っこを掴んで持ち上げた二宮 千鶴が大成功した嘘吐き作戦に終止符を打つ。灯は地上に降り立ってから、堪えきれなくなった笑いを遠慮なく。凛はしばらく何が起こったか把握出来ずにいたが、騙されたこととカルチャーショックに唖然。
「でも、踊って移動とか挨拶は投げキッスとか、日本にもいるわよ。暁さん」
「何言ってるの、アタシは直キッスよ」
「止めろオカマ」
 突如登場の暁になんでやねんの裏拳を見舞う灯。暁はやはり優雅に回転して回避。
「千鶴さん、ドイツ詳しいの? そうだったら、観光案内してほしいな‥‥」
「まあ、日独ハーフだからな。向こうに住んでたこともあったし。案内くらいはするよ」
「ドイツ人の母と眼球オヤジ」
「ドイツ人の父親と日本人の母親だ、つーかいつになく嫌な表現だなそれ」
 いつもの面々にはいつものやり取りだが、初遭遇の伊紀にはいまいちなやり取り。話を総合すると、千鶴は人間と妖怪のハーフということで正しいだろうか。
「正しくない」
「それにしても、何で今さら研修なんだろうね。ドイツで」
「スルーか。‥‥そもそもドイツで何すんの?」
「お前また寝てたのか? 内容知ってから参加するか決めろよ」
「や、暇潰しと里帰りに。で、何やるんだって?」
「向こうでは、伊紀チャンとアタシは本部の精鋭部隊にくっついてお勉強よ。他は精鋭部隊密着取材について来るか、本部施設でお勉強。その辺は向こう着いてから自由選択ね」
「若しくは、現地の日本楽士の指示に従ってお仕事か、ですね」
「おー、千歳ー。お前も観光か」
「ええ、久しぶりに。それにしても皆さん相変わらず騒がしいですね。周りからものすごく浮いてますよ」
 ロシア協会所属のくせに日本協会の説明会に何故かいる景山 千歳。その辺は表面上『従兄弟らに便乗』とか『一人くらい保護者が要る』とか言って参加しているが、裏では複雑な理由が色々と絡んでいる。例えばロシアの研修生としてでなく日本から参加するのに、日本協会(暫定)主席楽師三ケ田審良の一声が関係していたり。
「今回のこの研修、様々な思惑が絡み合っているんですよ、裏では」
「思惑って、ドイツ本部が各国支部の状況を把握したいってやつですか?」
 千歳の呟きに反応した伊紀。その言葉に千歳は目を細めて。
「この集団の中にあってその読みが出来るのは素晴らしいですよ。頑張ってここの色に染まらないようにしてください。‥‥理由にはそれもあります。ですが、それだけじゃありません。今は、ストーリーが語られるままに。そのうち嫌ってほど色々起こり始めますよ。きっと」
 二人のそんな会話に気付くことなく、周囲では渡航手続がどうだとか、白いお城が見たいとか会話は続いている。そんな様子を見ながら、千歳は一人、思う。

 ロシア東協会特殊部隊リーダー、シードルが行方不明になっていること。
 協会日本支部上層で囁かれる『聖なる絶対領域』。
 ロシア協会にいる時にシードルの片腕キリルから聞いた『Heiliges Land』。

(「一体、何が起ころうとしているのやら‥‥」)

 とりあえず、ミニスカート云々じゃない。

●海を越える物語
 ドイツ行きの機内にて、やはり大騒ぎの一行。「アタシは到着に備えて美を磨くのよ!」と言う暁に子供達の保母を任せられた(千鶴は一緒に騒いでて、千歳は我関せず。役立たずめ)伊紀は、修学旅行以来だなぁと一緒に楽しみながらも、ふと笑顔の裏で思う。
(「私は、これで人を守れるようになるの?」)
 姉と共に歪に襲われてから、伊紀の人生は大きく変わってしまった。光の当たる表の世界から、光の届かない、光を浴びてはいけない裏の世界へと。
 自分と同じような目に遭う人を出さないように。今の仲間達が傷付かないように。私は何が出来るのか。
 一人、考える。

 ・ ・ ・

「‥‥東より、歪んだ存在がやって来る」
「『楽団』を潰してくれた奴らだろう。一度ならず‥‥」
「いや。最も忌むべきは、そいつらではない。一人、別の‥‥」