バック・アタック中東・アフリカ

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 5Lv以上
難度 やや難
報酬 21.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/05〜07/07

●本文

「これが‥‥確かに、同じ形をしている」
 エジプト神話の別解釈、セト神は悪者であるオシリス神を封印し世界に平和をもたらしたという物語の研究者であり、自身がそのセト神の子孫であると伝えられている男は、全く同じ形の二つのものを手に、電話の前へ向かった。
 オーパーツ、『封印』。そのうちの二つの『扉の鍵』。以前このオーパーツについてWEAの関係者が尋ねてきたため、少し興味が湧いて探していたのだ。
「もしもし? 私‥‥ああ、はい。そうです。よくお分かりに。‥‥ええ、それでですね」
 電話の相手は、シャルロという女性。WEAの調査委に所属するという彼女とは、前にカイロ市内のレストランで会って以降、1度だけ電話で連絡を取っていた。曰く「『封印』は危険なシロモノであるから、早めにWEAに預けるように」と。
「はい。では、明日11時に」

 ・ ・ ・

 それは今までに無い光景だった。いつもならシャルロの斜め後ろに立っているだけの男、ジェリコが、今回は単独でやってきて、さらに長文を話しているのだから。
「目標の位置はこのあたりだ。だが、どこにキャンプを張るかまで細かく決めてあるわけではない。時間的にはこのあたりというだけだ。誤差も含めて見つけてもらう」
 ジェリコが依頼してきた内容は、やはり非合法な『襲撃』。しかも、WEAの『封印』探索隊を装っての襲撃。砂漠に面した長い道路のど真ん中で。
「移送隊の人数は6人。いずれも戦闘に長けた獣人だ。武装もしている。それらを戦闘不能に、もしくは殲滅し、『鍵』の奪取を行う」
 依頼内容は、オーパーツ『封印』の2つ、『扉の鍵』の強奪。その所持者達の生死は問わない。『鍵』は強奪後、指定の場所にてジェリコに受け渡すように、とのことだった。
 生死は問わないと言うが、それでは色々問題があるのではないか。その疑問に、『封印』移送隊は皆『既に死んだ』者達だからあまり気にしなくて良い、と返事。『既に死んだ』というのは、つまり、そういうこと。シャルロの、非合法任務専用の捨て駒部隊。
 その『捨て駒部隊』の一人であるジェリコは、上司直属の『捨て駒部隊』への襲撃を依頼してきたのであった。
 なぜそんな依頼を行うのか。彼が言うには、シャルロに対する自身の交渉能力向上・対抗手段の一つとして確保したいかららしい。部下が上司に交渉・対抗ということは、つまり、彼らは完璧には一枚岩ではないということか。
「お前達が知っているかどうかは知らんが、シャルロ様はNWに対抗するためのある技術・能力を所持している。私はそれを教授されることを対価に、付き従っている。だが、その対価が約束どおりに払われるか確証は無い。その対NWの力を確実に手に入れるため、その交渉のカードとして『扉の鍵』を所持したい」
 ジェリコが、対NWの力を手に入れたいと思う理由。尋ねると、ジェリコは何も言わず一枚の写真をテーブルの上に出した。普通サイズの少々擦り切れた写真には、茶色い癖っ毛を風に遊ばせる16〜18歳くらいの女性。
「私は、6年前娘と共に死んだ人間だ。NWの襲撃で」

●今回の参加者

 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4554 叢雲 颯雪(14歳・♀・豹)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)

●リプレイ本文

 まずは結果のみを報告する。
 『封印』の奪取は成功。使用武器などへの被害はなく、弾薬等消費物は追加ボーナス扱いでジェリコより全て補給。
 対象6人のうち3人死亡。3人が戦闘不能。さらに戦闘不能のうち、2人は高確率で助からない。1人は行動不能。治療など施しは危険を増すだけなので放置。
 作戦は成功した。結果的には。

 ・ ・ ・

 遠方に車影を発見。泉 彩佳(fa1890)が望遠視覚と鋭敏視覚を組み合わせた能力で偵察したところ、ジェリコから聞いたとおりの車が一台、止まっていた。キャンプといっても外にテントなどを張っているわけではなく、車内に数人、社外で煙草を吸っている者が数人といった状態だ。‥‥はっきり人数まで見えるものの、『数人』と人数を断定しないのは、潜伏系の能力で姿を隠している者がいる可能性と、望遠視覚は空に視点を置いているため、車の天井に隠れて見えないところにまだいる可能性を踏まえてだ。
「武装は‥‥見えている分は皆マシンガンだね。見える限りでは完全獣化の人はいないけど、車の中に1人か2人はいるかも」
「あと2時間ホドで日が暮れマスワ。準備が整ったナラ、四十八つ裂きにしに行くワヨ」
 ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)が指を鳴らしながら皆に促すと、御影 瞬華(fa2386)、神保原和輝(fa3843)、神保原・輝璃(fa5387)らが一斉に完全獣化を始める。今回の依頼は『封印』奪取が目的とはいえ、タダで簡単に奪わせてくれるはずはない。実質殺し合いだ。全力で戦えるよう準備を進める。
 そんな中、準備に多少の遅れが出ている2人。敷島ポーレット(fa3611)と叢雲 颯雪(fa4554)。
「出来るなら、殺さないように戦いたいなぁ、って思うんだけど‥‥」
「そやな。『鍵』の場所が分かって、それをうまく出し抜いて奪えたら、無駄な戦いはせんで逃げてもええんやないかな。『鍵』の在り処が分かったら、うちが瞬速縮地で盗りに跳ぶで?」
「今回はこちらが襲撃者ですから、相手方も本気で戦うでしょう。そんな時に、生死の配慮を行う余裕はありませんよ。相手が我々より格段に技量や戦力が下というのなら考慮も出来ますが。自分達が死なないように、とは考えますが、私の武器は銃でもありますから、敵に容赦は出来ません。ただ撃つのみ、です」
「そうだな。完全獣化して襲うってことは、それが必要な相手だってことだからな。手加減出来る相手なら、普通に皆で近づいて、半獣化しつつとっ捕まえれば解決しちまう」
 ポーと颯雪の言葉に、瞬華と輝璃が反論する。もうこの仕事は、手加減などというレベルを超えているのだと。
「お話はそこまでにしよう。一瞬見て手加減出来そうならする。無理そうなら、或いは分からないなら全力で。それでいいだろう?」
 各務 神無(fa3392)が完全獣化を終え、ローブとフードで自身の姿を隠しながら言う。この後、アヤ、ミカ、神無の3人が先立って敵に接触するのだが、神無は念のために完全獣化で向かう。


 徒歩で向かう3人を、他の5人はいつでも飛び出せるよう準備して見送る。瞬華はライトオンターゲットをすぐ服用出来るようにし、和輝はソルジャーボウに軽く矢を番え、ポーは眼を皿のようにして『鍵』の在り処を探す。
 そして。

「WEAです」

●奇襲
 神無はひとり、避けられる銃弾は避けつつ、時には身を盾にして銃弾を受けていた。敵4人のサブマシンガン斉射と、2人のマグナム。それらは完全獣化状態の神無にも長く耐えられるものではなく、つまり半獣化状態の2人は既に地に倒れ伏しているということで。
 『封印』を移送している『死人』達は、WEAとは『封印』を真っ向から奪い合う宿敵同士である。WEAが『死人』達の正体を掴みきれておらずともそれは関係なく、彼ら『死人』、そしてシャルロにとってはWEAは確定した第1級の敵である。故に、WEAを名乗り接近すれば、他の仲間が完全獣化で近づくまで注意を引きつけることが可能だと考えた。そして、それは現実に注意を引くことが出来た。『死人』達は『封印』の移送にあたってWEAを強く警戒していた。目の前に見も知らぬ人物にやって来られ、WEAだと名乗られれば、即座に銃の引き金を引くほどに。
 予めローブの下で完全獣化していた神無は身体能力を限界まで動員して射線上から回避することは出来たが、ミカとアヤは半獣化こそし果せたものの、横薙ぎに降り注ぐ銃弾の嵐の直撃を受けてしまった。もし半獣化すら間に合っていなかったら、即ゲームオーバーの危険さえあった。
 だが、即死と数分の生き永らえに、怒りや絶望を感じることが出来る他に大した差などあろうか。完全獣化2人を含む6人からの銃撃は、3人の命の灯火を今まさに吹き消そうとしていた。『死人』達がすぐに止めを刺しに来ないのは、神無が何とか健在であることと、まだ意識はあるミカとアヤが彼らの完全獣化を拒否する意志を発していること。
 答え合わせをしよう。WEAを装って襲撃するというのは、それによって油断させ奇襲するためではない。自分達はWEAであり、『封印』を狙う第3勢力ではないと主張して、自分達の本性にまで疑いを持たせないためである。その上で「WEAだ、御用!」と強襲する。敵に誰かへ連絡する暇を与えず、また連絡されてもこちらに不利益の無いように化ける。それが、ジェリコの話した『WEAを装う』意味。

 ・ ・ ・

 数分後。今度は『死人』達に銃弾の雨が降った。遠距離から瞬華のライフルが『死人』達の車両を捉え、そのタイヤを撃ち抜く。和輝の矢は放物線を描いて着弾し、車両をバリケードに神無達を撃っていた『死人』を影から追い出す。
 ついで、輝璃がダークデュアルブレードを派手に振るいながら、本命の刺客はこちらであるとばかりに接敵。その輝璃の作った隙に、満身創痍ながらも神無と、駆けつけた颯雪がミカとアヤを一時戦線から引き離し、ヒーリングポーションを飲ませる。
 一方で、奇襲の利を失うと輝璃はすぐさま窮地に立たされた。面が割れているために遠く後方から言霊操作による敵の行動妨害を行うポー、その他に大した援護も無く6人を相手にするのは、当然ながら苦しい。瞬華と和輝は射撃武器の発射・着弾までのタイムラグによる誤射を防ぐため、今は射撃援護を止めこちらへ距離をつめている最中だ。代わりに、すぐ、神無と颯雪が戦列に参加。傷がある程度は癒えたミカとアヤは、一旦さらに大きく後退し、完全獣化を完了する。
 颯雪の放った放雷紫爪が『死人』達の持つ銃器を取り落とさせ、1人を行動不能に陥れると、神無と輝璃が挟み込むように肉薄する。『死人』達のうち完全獣化の2人がそれぞれ白兵用武器を持ち対抗すると、他の4人は獣人能力での援護を始める。だが、戦力差が逆転し先制攻撃の有利が失われ、ほぼ包囲された状態で攻撃される『死人』達に最早勝ちの目は見えてこない。銃撃を再開した瞬華と和輝に肩を、胸を撃ち抜かれ倒れる者、銃弾を避けて車の陰に移動し、アヤの波光神息に焼かれる者、翼を生やし空へ舞い上がり、頭上に回りこんだミカに後頭部を強く打たれ地に落ちる者。輝璃が相手取っている『死人』は、ポーの言霊操作「動くな」で生まれた隙を突かれ首が飛び、神無は颯雪の撃ったスレッジハンマーを受けて地に倒れた『死人』の喉元を日本刀『白夜』で貫く。

 ・ ・ ・

 銃弾や矢、獣人能力によってボロボロになった『死人』達の車の中を徹底的に調べたところ、助手席の座席カバーが開閉するようになっており、そのカバーに鍵のかかった状態で『封印』、『扉の鍵』2つが収められていた。これでは、あの戦闘の最中に発見・奪取することは難しい。
 『扉の鍵』奪取後、倒れた敵は死者・重傷者問わず放置する。治療など施しは危険を増すだけ。悲しい扱いだが、こうする他ない。

●結末
「一つ聞きたいのデスけど、ジェリコ?」
「どうした。苛立っているな」
「別ニ。筋肉痛が3日後とか言ってられナイと思ったダケヨ。‥‥こうして『鍵』を受け取ったコトで、あなたはシャルロと全面戦争になりマスワ。そのオーパーツ以外に、勝算はあるノ?」
「ある」
「そ」
 『鍵』を受け取り、報酬や弾薬などを渡すと、ジェリコはすぐに去っていく。依頼した仕事は終了、もう互いに関係はないとばかりに。
 その後を追って、ポー。
「うちはジェリコのこと、わりと好きやよ。単なるうちのわがままやけど、あんまり無茶はせんといてほしいな。ジェリコみたいに、自分が死んだ思えるほど大事な人を亡くしたことないんで、あんま偉そうに口出しできへんけど‥‥いなくなったら悲しむもんがおることぐらい覚えとってな」
 その言葉にジェリコは足を止め、ポーの前まで戻って来ると。
 ぐし、と一度だけその頭を撫でて、今度こそ姿を消した。