Nights―最後の聖戦・前アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 香月ショウコ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 9.9万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 07/12〜07/16

●本文

●闇夜駆けるU・B・N
 彼らが一体何者なのか、知る者はいない。
 いや、正確には‥‥誰も「知っている」とは答えない。
 Ultimate Bandit Nights 。彼らは『最高』の盗賊団。

 彼らの仕事の稼ぎは『最高』。
 彼らの民衆への還元率も『最高』。
 彼らの失敗の数も『最高』。
 そして何より、仲間達が『最高』。

 弱きを助け強気を挫く盗賊団Nights。この番組は、彼らの『最高』の物語を伝える特撮番組である。

●『Nights』の世界
 文明レベルは蒸気機関が開発された直後ほど。その世界には凶悪な怪物どもが闊歩し、人々の生活を脅かしていた。
 怪物の脅威から身を守るため、人々は高く強固な城壁を造り巡らすことを思いついた。突破されぬ城壁に囲まれた幾つもの集落は、規模の大きなものは『国』、小さなものは『街』と呼ばれ、それぞれに独立し、また相互協力を行いつつ生きている。

 多数存在する『街』の中でもかなり大きい部類に入る街『アルテイス』。そこに、治安を取り締まるはずの騎士警察を手玉に取り、犯罪を繰り返す盗賊団がやってきた。『Nights』。裕福な商人や貴族のみをターゲットとし、奪った金品を貧しい人々へ分け与える、義賊を名乗る集団である。

●出演に当たって
 出演者には以下注意点各種を踏まえてテンプレートを埋め、番組の登場人物を設定してほしい。
 出演者は『一般人』選択時以外は、半獣化しての撮影となる。

【能力】4つのパラメータに合計15ポイントを1〜10の範囲で振り分けてください。
 体力:筋力、持久力など。敵を蹴り飛ばしたり、高くジャンプしたり。
 技量:手先の器用さ。狙いすました突きや、鍵開けなど。
 速度:足の速さ、身の軽さ。受身の巧さもここ。
 知識:知識の量。不測の事態に対応する力や小さな情報から答えを見つける力。

【特殊】習得している特殊能力を1つ記載してください。
 特殊能力は、『出演者の獣人種族が』習得できる特殊能力から1つを選んでください。
 この時、自身が習得していない能力を選んでも構いません。
 番組の登場人物はその獣人能力のようなイメージの特殊能力を、番組中で行使します。
 威力や効果、使用回数については、獣人能力のデータを参照してください。

※『一般人』の選択について
 キャラ名・能力は通常通りに記入し、【特殊】の欄には『一般人』(カッコ不要)としてください。
 一般人とは、獣人ではない通常の人間の姿をした、特定勢力に加わっていない者を指します。一般人は特殊能力を使用出来ません。

<キャラクターテンプレート>
キャラ名:
能力:体力・技量・速度・知識/特殊
備考:

※皆さんが演じるのは原則として盗賊団ナイツの一員若しくは一般人です。その他は選択できません。

●最後の聖戦?
 国民誘拐事件について疑惑を駆けられているアルテイスは、隣国パルミラドから『実力行使での解決も辞さない』と宣告を受けていた。だが、騎士警察から秘密の依頼を受けたナイツが調査したところ、それは単なる脅し、ブラフだろうという結論に達した。

 ナイツが商売の儲けにほくほくしながらアルテイスに帰ってきて数日後。ナイツのアジト兼食堂兼酒場レッドスピネル(紅棘)に、2人の男女がやって来た。少女の方には見覚えがあって。
 パルミラド国民誘拐事件で消えたと騒動になっている少女でパルミラド防衛部委員長テルバドの娘であるマーテルは、ナイツが以前の『お仕事』で手に入れた子猫と一緒に、箱の中に入っていた娘である。彼女は即エステルが連れ去り、その後行方不明になったと聞いていたが。
「お姉ちゃんを‥‥エステルお姉ちゃんを助けてください!」
 そう言うマーテルの言葉を、男性が補う。騎士警察特捜部2課長、クレイトン。
「パルミラドでの事件と、その後の宣告がブラフであったこと。これらは皆さんも知っての通りですが‥‥その事件の数年前、彼女の姉であるエステルも、パルミラドを出奔しているそうです。そのエステルとは、私や皆さんの知ってるあの女性のことですが。そのエステルが、行方不明になりました。おそらくは特捜1課に連れ去られたのだと思います。
 アルテイスの上層部‥‥我々騎士警察のトップなども含まれますが、彼らの半数以上が好戦派と言える存在です。彼らは戦争を起こすことで自分たちの財を増やしたいと考えています。彼らの今のターゲットは、パルミラドの資源です。『国』『街』と規模は大きく違いますが、その実、軍事力だけを比べればほとんど2者間に差は無いのですよ。
 アルテイスは、出来るだけ早くパルミラドへ攻め込み、その力を削いで富を得たい。それは、アルテイスが自国を狙っていることに気付いたテルバド委員長が急ぎ軍備を拡張しているからです。エステルは早期開戦と正当防衛主張のための挑発材料として、そしてテルバド委員長への人質として、囚われたのです」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「お姉ちゃんが「私は逃げた」って皆さんに言ったのは、パルミラドの宣告が本当だった時に『マーテルを差し出せば終わる』ってすぐに思わせないためだったんです。本当に攻めて来ようとしてた時はエステルお姉ちゃんが戻ってお父さんを説得するから、私はまた窮屈な所に戻らなくてもいいんだって‥‥
 そして、皆さんに調査の依頼を持っていって、見送った後、アルテイスの動向について調べ始めたんです。もし調べ終わって戻って来る前に危険を感じたり、自分に何かがあったら、このお店の『ナイツ』を頼るようにって言い残して」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「エステルさんを捕らえようという動きが特捜で見え始めたので、私は心配になり彼女の家を訪ねたのです。そうしたら、そこにはマーテルしかいなかった。少し、動くのが遅かったのです。騎士警察は今既に、戦争の準備を始めています。しかも運の悪いことに、パルミラドからはテルバド委員長が指揮する意図不明の大部隊がアルテイスに向けて出撃したという報告もあります。そこで」
「ちょっと待った」
 長い長いマーテルとクレイトンの言葉に、やっと口を挟む紅棘店員の彼。
「ちょっとシリアスな話が長過ぎて疲れた。楽にいこう。エステルが攫われた、アルテイスとパルミラドが戦争になるかも。こりゃ大変だ。‥‥状況把握はおっけー?」
「「おっけー」」
「クレイトンさんは騎士警察なのに、ナイツを捕まえないの?」
「この前の件で、これまでの罪状は帳消しになっていますから」
「クレイトンさんは騎士警察なのに、戦争反対なの?」
「困るのは一般市民ですから。何が何でも止めなければなりません。私をはじめ、特捜2課は皆戦争の阻止に動きます」
「では、結論どーぞ」
「特捜1課が捕らえているエステルを救い出し、戦争を止めるために協力してほしい」
「‥‥わかった。だが条件がある」
「何だ?」
「会話だけで話が進みすぎる。もう少しナレーションを入れよう」
「善処しよう」

●今回の参加者

 fa1420 神楽坂 紫翠(25歳・♂・鴉)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa2832 ウォンサマー淳平(15歳・♂・猫)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)
 fa4946 二郎丸・慎吾(33歳・♂・猿)
 fa5508 アイリス・エリオット(20歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●OPキャストロール
シオン‥‥神楽坂 紫翠(fa1420)
メイ‥‥月見里 神楽(fa2122)
ディアナ‥‥桜 美琴(fa3369)
リッツ‥‥ウォンサマー淳平(fa2832)
ナーマ‥‥葉月 珪(fa4909)
カルロス‥‥マリアーノ・ファリアス(fa2539)
シュカ‥‥アイリス・エリオット(fa5508)
ノア‥‥水鏡・シメイ
フーリィ‥‥二郎丸・慎吾(fa4946)

●見えぬ追跡者
「今回くらいは」
「昼過ぎまで寝てる余裕は無い、んでしょ〜? 分かってるわよシオン〜」
 珍しく午前中から起きているディアナが、大きく伸びをして、首を左右に回しながら答える。
「びしっと、するわよ〜‥‥‥‥ZZzz」
「その店長、どうする?」
「‥‥まあ、放っておこう。そのうち、動き出すだろう」
 言葉と行動の不一致が見られるディアナを、カルロスが会議の邪魔にならない位置まで引きずっていく。シオンや他の面々は既にテーブルについて、各々に自分のするべき仕事を考えている。
「私は、エステルさんの家の周辺の聞き込みをして、その足取りを辿ってみます」
「じゃあ、私は1課の動きを洗ってみるわ。姉妹の仲を裂くのも平和を裂くのも、頂けないわ」
 ナーマとシュカがそれぞれに自分の役割を提示すると、アルテイス名家の次男にしてナイツの一員という珍しい男リッツは街での聞き込みのほか、実家の伝手を利用して騎士警察の動きを探り、カルロスは1課の調査を、シュカとは違い直接潜入でかき回すことで行うことに。彼らの調査の進捗状況は、ナイツ専用通信機ノア1号が定期的に電波を飛ばし、総括する。
「『藪をつついて蛇を出す』、じゃなくて‥‥何だっけ」
「『草を打って蛇を驚かす』じゃな」
 だが、実際に彼らの行動は『藪をつついて蛇を出す』結果にも繋がりかねない。ナーマが調べるエステル宅周辺は事件に気付くものがいないか1課が見張りをつけている可能性もあるし、リッツの名家のコネは、騎士警察側から逆に辿り着かれる恐れもある。シュカも一度ドジを踏めば捕まるし、カルロスも『誰かが動いている』痕跡を残して危機感を煽ろうとして、『動いている本人』が捕まり正体が露呈することも考えられる。
 シオンはシオンで、接近中のパルミラド軍の情報を探りに行く途中で同じ目的の1課と遭遇するかもしれないし、パルミラドからの密偵などがいればそれに襲われる危険性もある。紅棘で連絡役のノアでさえ、2課のクレイトンが敵だった場合、真っ先に捉えられる危険がある。壁にもたれて眠っているディアナも、マーテルと話しているメイも、ナイツとしてではなくても、ナイツのいる酒場紅棘の関係者として捕らえられるだろう。
 つまり、誰かが一つでも見落としや失敗をすれば、それが即ちナイツ全体の危機となる可能性もある。危ない作戦だ。
「だから‥‥貸しにしておく」
「分かりました。必要な物資などがあれば、遠慮なく言ってください」
 シオンの言葉に頷き、クレイトンは紅棘を後にする。その後を、静かにカルロスがついていく。シオンに一度視線を送って、頷いて。
 今回の依頼を持ってきたクレイトンや2課は、言葉では味方だと言っていても、ナイツを誘き出すためにやって来た敵かもしれない。彼らの情報の裏を取るために、1課関連施設に忍び込むカルロスに、ついでに資料を奪ってきてほしいと、シオンは依頼したのだった。
「シオン、重大な疑問が発生したです!」
 紅棘で働く兄を持つメイは、会議の最中ずっと、マーテルと年上の兄弟についての話をしていた。そこで生まれた疑問だというが‥‥
「エステルは『つんでれ』だってマーテルが言ってたです。『つんでれ』って何です?」
「‥‥ツンデレ。生意気な態度が、あるきっかけで急にしおらしくなること。‥‥など」
「なるほど、分かったです。つまりシオンの逆パターンですね!」
「‥‥‥‥ノーコメントだ」
「エステル戻ってきたら、皆でお店でご飯食べようね、マーテル♪」
 既に別の話題に移っているメイ。その言葉にマーテルは苦笑しながら頷く。
「さてそれじゃ、早速動き始めましょうか。頭脳班はしっかり分析とかお願いね」
 シュカの言葉を皮切りに、次々と紅棘を出発するナイツ。
 その姿を、やや離れた道端から見ている男がいることに、まだ誰も気付かない。

●盗み取る情報
 紅棘店内、端のテーブル。ぽつんと静かにメイ、ノア、マーテル。通信機として待機中のノアはいつものように一人チェスを始め、エステル救出時に大任を預かるメイは顔を知られないようノアの手伝いという名目で待機。マーテルはきっと追われる身ということで店内に留まった。待機は退屈とノアにチェス(の駒の動かし方)を習いさっきからやっているが、どうしても勝てない。
「‥‥今帰ってきた。あのクレイトンという男が持ってきた情報、ひと通り確からしい」
 シオンは帰ってくるなり、まずは知った内容を話す。
「カルロスが持ってきた1課の書類では、2課について触れられていなかった。パルミラドから軍が出たのは真実だ」
 まあ確かに、とノアは定期通信の準備を始める。
「そうそう、忘れておったが、シュカが経過を報告しに来た。追跡中に近くを通ったらしくての」
「お土産もらったです。大根」
「買い物中の新妻を装ったそうじゃ。‥‥で、1課の動向じゃが、出入りが慌しくなっているのはどの施設も変わらんらしい。あと、エステルは『街』西側の2課が所有する小さい施設にいる、と、1課の連中が話しているのを聞いたそうじゃよ」
「だが、2課は、調べた限りではこちらの味方‥‥そうすると、それは1課が流した偽情報の可能性も‥‥。もちろんまだ、2課の疑いが完全に晴れたわけじゃないが‥‥」
 大根ダンスを見てもらえず拗ねるメイは、今度はこっそりとチェス盤に手を伸ばし駒の位置を変える。
「‥‥リッツ、聞こえるかの? そちらの状況はどうじゃ?」
『ああ、ノアさん。1課が戦争準備どれだけやってるのか聞こうとしてたら、別の事もセットで聞けたぜ。まず準備の方は、相当急いでる。そこそこにしか進んでなかったのが、パルミラドの軍が動いたんで焦り出したんだ』
「なるほど。で、別の事とは?」
『1課が逮捕した人のうち、特に隠しておきたい人を置いておく施設についてだ。3箇所くらいあるらしい』
「エステルがいそうな施設が3箇所あるそうじゃ、シオン。場所が、ここと、ここと、ここ」
「この3つだと‥‥カルロスが言っていた警備の固まっている場所は、これだな。ナイツ対策に目のいい奴を集めているとか聞いた」
 シオンの判断に、ノアはリッツにエステルの居場所が絞れたことを伝える。それを聞いたリッツは、この後急いで帰って来、エステル救出作戦に備える。
「ディアナ様たらいま帰りまひた〜!」
「にゃ! 店長臭いです!」
 突然に帰ってきてチェス盤をまだ弄っていたメイを抱きしめるディアナ。その息がなにやら酒臭く、話す言葉は呂律が回っていない。
「昼から飲んでるな。失恋でもしたのか」
「違うれしょ、お仕事から帰ってきはら「おかへりハニー」って」
「店長なんでこんなに酔ってるです〜!?」
「酔ってないわよ1杯だけよ〜。2課のお店で色々、だったら礼儀じゃない〜」
 意味の繋がらない文章。
「昼のディアナはこんなもんじゃな。いつも」
「2課行きつけの店で色々情報を聞いてきた。教えてもらったからには、酒の1杯くらい注文するのが礼儀だろう。か?」
「‥‥ZZzz」
「駄目か」
「夜になれば起きるじゃろ」
「店長寝るなです、昨日のアレばらすですようにゃあ! むー、むー」
 寝ぼけながらもメイの口を塞いで、それから寝入るディアナ。酔っていても体が止めに動くとは、昨日一体何があった。
「‥‥シュカとカルロスは、そろそろ帰ってくるとして。ナーマは?」
「聞いてみるかの」

 ・ ・ ・

 ナーマはその店舗の前にやって来た。目が見えない彼女は、外見からその店の様子を知ることが出来ない。ただ、触れて、聞いて、嗅いで。それで周囲のことを把握する。
 エステル宅の周辺から聞き込みを始めてその足取りを辿った結果、この店に辿り着いた。チャールズという男が経営するこの店は会員制。会員証を持たない彼女には入れない。
 いや。入ることは出来る。入店して簡単な手続をすれば会員証をもらえる。だが、彼女が欲しいのはそっちではない。
 チャールズがいる特別貴賓室。そこへ入るには、特別な会員証が必要なのだという。
『ナーマ、聞こえるかの?』
「ノアさん。ちょうどいいところに。実はエステルさんの足取りを辿って、チャールズという方がオーナーのお店に辿り着いたんですが、会員証がなくて入れないんです。リッツに言って、銀色の会員証を融通してもらえませんか?」
『そうじゃな‥‥うむ、こちらでも大体情報が出揃ったところじゃが、その裏付けに調査を続けてもらおうかの。会員証は言っておくから、もう少し近くの聞き込みをしてみてくれ』

 ・ ・ ・

「引っ掛からなかったか。ま、これくらいで騙される様じゃ『最高』たぁ言えないけどな。次の罠は、どうかな?」

●火事場泥棒作戦
 一人の女性を追う影達。いや、あえて暗がりに姿を隠してはいない。彼ら特捜1課はその女性を追っている。
 1課が追っているのは、エステルという人物だ。エステルは今回の計画の重要人物として収容施設に収容している。はずなのだが、追っている彼らの目の前にはそのエステルと思しき人物が先ほどから姿を現している。
 とりあえず、確保。そう動き始めたところで、彼らの得物を何かがスパッと切り捨てた。
「フハハ、エステルは既にナイツが頂いた! もう手遅れだ!」
 登場したリッツが、大音声を上げる。その声に慌てた1課は二手に分かれ、片方はリッツへ向かい、もう片方はエステル確保へ向かう。
「その程度でこの俺を止められると思うなよ!」
 覆面をかぶっていかにも怪しいリッツは、その自慢の腕力で次々に追っ手をいなす。ある者は殴られて気絶し、ある者は壁にぶつけられ、ある者はくすぐられる。
「な、何で俺だけっ!?」
「決まってるだろう。天罰だ」
 何の。
 一方でエステルの元へ向かった1課の者達は、目元に女王様チックな仮面をつけたディアナの店長キックによって蹴散らされていた。
「残念でした。エステルを奪い返したければ、もっと戦力をつれてくることね!」
 追っ手を倒してゆっくりと去っていく3人。倒された1課の者は、急ぎ増援を呼ぶ。

 実は、このエステルは偽物である。ディアナが提案した火事場泥棒作戦のために、メイが変装したものだ。服装や髪型のみならず歩き方や細かい癖まで、記憶力抜群のメイがエステルそのまま真似しているのだからそう簡単にはバレまい。
「あ、ノア? うん、ちょうどいいところまで引っ張ったわ。後は向こうに。合流地点の変更は要らないわ」
 3人は、どんどん収容施設から離れていく。

 ・ ・ ・

 一方で、ナーマの聞き込み調査で完全に場所の確定したエステルが収容されている施設では、小規模な戦闘と大規模な騒ぎが発生していた。
 警備兵達を眠らせて潜入したカルロスは、牢に捕らえられているエステルと他1名(エステル曰く「知らないオッサン」。オッサン曰く「まだお兄さん」)。1課の悪事を暴こうとして捕まったというその自称探偵お兄さんも含めてとりあえず救出し、収容施設の脱出を図る。その途中では、新聞社に情報タレコミのビラを送りつけ周辺住民に号外をばら撒いたシュカが合流し、逃げる。
 シュカがばら撒いた号外とは、特捜1課の悪事を暴露する内容のものだった。そう簡単に尻尾を掴ませてはくれなかったが、記事は3割が事実、7割が装飾で書かれている。決して全て事実である必要はなく、市民の非難の目が1課に向けばそれで良い。
 で、起きていた小規模な戦闘とは。
「逃げるな余所モンが! さっさとお縄につきな!」
 警察でも岡っ引きでもない彼がお縄と言うのは何だかアレだが、自称お兄さん(フーリィという名前らしい)は施設の入口がもう少しというところでナイツの前に立ちふさがった。元々アルテイスで暗躍していた盗賊の彼は、突如現れた義賊ナイツという馬の骨を、鬱陶しく感じていた。そのために1課の依頼を受け、潜んでいたのだ。
 そして、その手から礫弾を放ちながら立ち塞がる。
「まったく、どきなさい!!」
「うおっ! てめェ、その紐当たったらミミズ腫れなんてレベルじゃねェぞ!」
「もう懐かしいネタだな‥‥ちゃんと並ばなきゃ物売れないぞ」
 閑話休題。
 そんな小競り合いを、周囲の大きな騒ぎが包む。ビラを見た市民達が、追われるナイツと思われる者達を助けようとそれぞれに物を投げ始めたのだ。礫弾によって生まれた隙を突いてシュカに迫ったフーリィだったが、その投擲物に阻まれ、逆にその姿を見失わされてしまった。
「‥‥ちっ。まぁ、向こうじゃうまくやってるだろ。結果は、悪くねェ」

●最後の聖戦
「ふむ、うまくいったようじゃな」
 紅棘にて、作戦の成功を知るノア。そこに、パルミラド軍の続報を求めに行ったシオンが帰ってきた。
「おお、シオン。どうじゃった」
「報告の前に頼みがある。ナーマに、帰ってくるなと」
「‥‥‥‥?」
 疑問は、シオンとは別の人物が解いてくれた。紅棘店内にシオンに続き現れる男達。特捜1課長ガトリン。そして特捜1課の部隊。
「見事な手並みだ、ナイツ。だが、少々足元が疎かだったね」
 ガトリンの一言で、ノアとシオン、マーテルを捕らえ、店内の捜索に散る1課達。ノアはその隙をついて、ナーマと、ディアナに状況を伝える。

 ――レッドスピネル、陥落。