砂漠が奏デ、歌ウ悲劇中東・アフリカ

種類 ショート
担当 香月ショウコ
芸能 1Lv以上
獣人 5Lv以上
難度 難しい
報酬 22.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/19〜07/21

●本文

「なぁ。何で既存の資料映像を使うとか、CGで作るとかいうことを上は考えないんだ?」
「考えたことは考えたらしいが、やっぱり新しく撮った方がいいんだとさ。ここにこういう角度があってこんなアングルで撮った映像が無いんだー、欲しいぞーって」
 運転席と助手席でぼやきあいながら、オフロード仕様の車は砂漠のそばを進む。彼らは日本からやって来た撮影スタッフなど計8人。何の撮影のためにやって来たスタッフかというと。

 ru‥‥lala‥‥
 幾重にも重なり合い流れていく旋律
 荒野を越え森を癒し 夢の彼方に消える
 傷付いた心に染み広がり ひとときの安息を

「やっぱ男声だと聞いてても嬉しくないな」
「それは俺に性転換しろって要望か?」
「モロッコは近いぞ」
 劇場版『奏デ歌ウ想イ』。その挿入歌である未公開の曲を口ずさんで文句を言われた運転席のスタッフは車を止める。文句を言われたからではなく、撮影ポイントに近づいたからだ。
 現地スタッフの案内のもと、機材を担いで、砂漠を徒歩で歩き始める。機材が砂を被らないようカバーはしっかりかけて、人が暑さにやられないよう水などもしっかり持って。
「この辺でいいか。よし、それじゃ撮るぞ」

 ・ ・ ・

『発見しました。日本の撮影スタッフが使っていたという車です。何か巨大なものに衝突されたような状態ですね。ボディが大きく凹んで、ひっくり返ってますよ』
 『奏デ』スタッフが砂漠に入った翌日夕刻。全く連絡の取れなくなった彼らは何らかの理由で遭難したものと判断され、その捜索隊が派遣されていた。彼らが来たという撮影ポイント近くに来てみるとそこにはひっくり返った車だけがあり、周囲に人のいる様子は無かった。
『ここから撮影ポイントまでは少し歩かなければならないようです。そちらをこれから捜索し‥‥』
 直後。無線の向こう側で聞こえる大音響。続いて、誰かの悲鳴、怒号、混乱。
『な、NWです! NWが、でかい、でかいミミズのようなっ‥‥銃が、効いてない? 待て、おい、こっちに来』

 ・ ・ ・

『こちら第2隊。未だ例のNWは確認出来ない。そろそろ、日本映画の撮影ポイント付近に到達する』
 WEAが派遣した謎の巨大NW討伐隊。その第2隊は、先に到着した第1隊と事件現場で合流する予定だったが‥‥
『第2隊より。第1隊が確認出来ない。こちらの位置情報を送るので、位置の確認をしてほしい。‥‥ん? 待て、これ』

 ・ ・ ・

「というわけで、君たちは行方不明の日本人撮影スタッフ捜索隊の第3陣ということになる。‥‥まあ、実際は撮影スタッフの捜索は既に不必要だと思うが。状況を見るに」
 渡されていた報告書を改めて見てみる。捜索する対象は日本からやってきている撮影スタッフ7名と、彼らに随行していた現地スタッフ1名。そして彼らを探しに行った捜索隊17名。さらにNW討伐に向かったWEA部隊8名。合計33名。
「さすがに今回は、「ミイラ取りがミイラにならんように」とだけ激励して送り出すわけにもいかない。この体長5mという大型NWの前科を見るに、相手取るには危険過ぎる。君たちにはあるオーパーツを預ける。危険な相手の場合は、それを使用したまえ」
 渡されたのは、絡みつく蛇が浮き彫りで装飾に施されたオーパーツ。
「これは『封印』、『棺の鎖』という。使用した相手の、全ての状態変化を抑止するという効果を持っている。この使用許可を与える。この『封印』は既に他の対象をその力の大部分で封印しているために効果の大小は明言できないが、これの使用でNWの戦闘力を削ぐことが出来る。使用者が『棺の鎖』を持ち、対象を目視し、『封印する』と10秒間念じることで効果が発せられる」
 続いて、注意事項が述べられる。使用不使用は自由だが、少々博打性の高いオーパーツであるため、使用せずに倒せるなら使わずにおいてほしいということ。『封印』のオーパーツについては他言無用であること。そして。
「どんな事態が起こったとしても、『棺の鎖』は必ず持ち帰ること。例え君たちが全滅しても、『棺の鎖』は確実にWEAへ返却するんだ」

●今回の参加者

 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)
 fa5662 月詠・月夜(16歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

●獣人VS大蚯蚓 モッコロの大決戦
「こちら、緑川。でかい釣り針になるからよろしく!」
 緑川安則(fa1206)が神保原・輝璃(fa5387)から借り受けたトランシーバーで作戦の開始を告げる。もう間も無く襲撃ポイント。安則の乗るジープが少し速度を上げ、連絡を受けたもう1台のジープに乗る月詠・月夜(fa5662)が運転手の敷島ポーレット(fa3611)にその旨伝え、速度を少し落とさせる。次第に離れる2台のジープ。
 2台とも、乗っている人員は皆完全獣化をしている。付近一帯はWEAが手配して一般人が立ち入れないようになっているため、目撃される心配は極めて低い。だから車の乗車定員を無視した乗り方をしても目立つことは無く。
 今回の作戦では、安則が乗るジープを囮として巨大ミミズ、サンドワームをおびき寄せる。その関係上、安則のジープにはあまり人数を乗せたくない。そのため安則以外の7人は皆、敷島オルトロス(fa0780)のジープに乗っている。定員4人。
「それでは、月夜はこれから単独行動に入ります。全ての状態変化を抑止する‥‥時間を停止させる? 力が必要な程の相手。くれぐれも、気をつけてくださいね」
「お前こそ気をつけろよ、その『封印』を無くしたり壊したりしたら大事だからな」
 『封印』、『棺の鎖』を持ち、緊急要員として上空に飛ぶ月夜。その姿が空高く、声が届くかどうかぐらいになるまでオルトロスはその取り扱いについて注意と文句をたれる。いわく「落とすな」「食べるな」「プチプチ必須」。食べはしない。
「それにしても、『封印』まで持ち出すとは‥‥ずいぶんと厄介な相手なのですね」
 後部座席で御影 瞬華(fa2386)が言う。その隣、月夜が座っていたところには、座席じゃないところにしがみついて乗車していた夏姫・シュトラウス(fa0761)が座って一息つく。まだ輝璃が端の方に妙な体勢でくっついているが、彼はおそらく戦闘開始までそのままだろう。
「『 深闇の底 光なき地の果てに 蠢く影の声を聞く 』」
「ん? なんやその歌?」
 助手席で富士川・千春(fa0847)が口ずさむ聞きなれぬ歌を聞いて、ポーが尋ねる。その歌は千春の出演する映画のOP曲で、まだ一般には公開されていない歌だった。
「そうなんか、いい歌やね。カラオケに入るのはいつやろ?」
「映画の劇場公開が9月頃の予定だから、その頃かな? そういえば、こんな事件が無かったら、映画のロケはモッコロでやっていたのね‥‥」
「‥‥もっころ?」
「それはこの前の万博のマスコットの仲間か?」
「フュージョンしたんでしょうか‥‥?」
「子どもと老人のフュージョン‥‥中年の精霊?」
「ちっ、違うっ、モロッコ、モロッコだってば!!」
 笑いに包まれる車内。その中で、ようやっとポーは引きずっているもやもやを一瞬ながらも忘れることが出来て。オルトロスの背中で充電するも回復し切れなかった以前の依頼での惨事。きっとどこかで何かが起きなければ、歯車がどこか一つ填まらなかっただけで、ポーには縁の無かっただろう血生臭い世界。
 その笑い声も、横転した車両や散乱した機材が視界に入るようになると自然に消え、再び皆は戦闘モードへと入っていく。

●襲撃、迎撃、突撃
 散らばる機材や車の残骸。それらを見るに、敵の攻撃手段に特殊なものは無いだろうと推測出来た。溶けているとか焦げているとかいうものは無く、ほとんどが潰れているかへこんでいるかバラバラか落ちているだけか。
「‥‥酷いものですね‥‥。こんなに物は落ちているのに、死体一つ残ってないのは‥‥」
 夏姫の言葉に対応する答え。それは『捕食された』という事実。
「あれは‥‥陽炎、ではないですね。緑川さんに警戒するよう伝えてください」
 瞬華が砂漠の小さな揺らめきに気付き、安則に注意を促したすぐ後。
 安則の運転するジープの背後に、派手に砂を撒き散らしながらそれが現れた。体長は5mほど、報告どおりの巨大な砂ミミズ。サンドワーム。
「こちら緑川! 各員に通達! 獲物が食いついた!!」
 すぐ背後を追ってくる不気味な砂色のバケモノから離れようとジープを走らせる安則。だが、その距離は一向に離れない。
「‥‥これでは、旋回して速度を上げての突撃が敢行出来ないな」
 一方、ポーの運転するジープ車内では。
「下手に攻撃を加えるなよ! まずはコアを探せ! 攻撃はそれからだ!」
 千春と瞬華は翼で空中に飛び立ち、空いた助手席に飛び移る輝璃。夏姫は視力を水増ししてNWの身体中を注視する。だが、コアはなかなか見つからない。千春は獣人能力でコアを探すがそれらしいものは見つけられず、、ポーは時々車を近づけて『FIRE ROCK』で歌を歌い攻撃するが、それもあまり効いている様子はない。
「むー、カッコいい曲が流れればヒーロー達の反撃開始、っていうんはさすがにテレビの中だけか‥‥」
「いいや、そうでもない! 奴のコアが見えたぞ! 口の中、上顎だ!」
 月夜が飛び立ってからジープに括りつけられたトランシーバーから、安則の声が聞こえる。その位置は、追われている安則の位置からしか確認出来ない、サイドや上空からの死角。
「1発目なら、デメリットは無いわ!」
 千春が安則のジープ進行方向上空に移動し、スレッジハンマーを構える。弾丸はギャンブルブリット。半々の確率ながら1発でジープくらい余裕で粉砕出来る弾。瞬華もいつでもNWを銃撃できる位置につき、ポーのジープも急ぎ接近してくる。
 放たれるギャンブルブリット。それは高速でうねるNWの胴体に吸い込まれていき。
 ど派手な衝撃音と共に、サンドワームの胴から大量の血液が噴出する。体を大きく震わせ、安則を追うのを止めて悶えるNW。そして。
「‥‥ちょ、もう逃げる!?」
 急いで砂中に潜り始めるNW。このまま逃げられては振り出しに戻ってしまう。
「まったく獲物が激しく暴れるねえ。それでは! メタスラアタック!」
 サンドワームから距離をおいて、再び戻ってきた安則がスピードを上げてジープで突撃する。ジープは既に頭を砂に埋めたNWに激突し、衝撃でNWは砂の上に舞い戻らされる。安則はインパクトの直前に空中へ退避し、エンジンに巨大なダメージを負ったジープは煙を吹き、少しして火を噴いた。
「ポー、さっさと車を寄せろ! また潜られる前にぶった斬って金太郎飴にしてやる!」
 オルトロスの叫びでジープが寄ってくる間、千春はスレッジハンマーにショック弾を装填し、NWの動きを阻害するため連続して放つ。だが、先のギャンブルブリットと違いNWの装甲を貫通はするも出血やダメージはそれほどではない。動きも鈍らない。
「やっぱり相当硬いのね‥‥フェンリルでいったほうがいいかな」
 千春が銃を持ち替えている間にも、瞬華はライフルを次々に撃ってワームの動きを牽制し、安則は20mmの徹甲弾が欲しいと言いながらスレッジハンマーを撃ち続ける。
 と、ワームが逃げる動きを一度止める。小さくとぐろを巻いて、体を大きく蠢かせ、次の瞬間。
 跳んだ。
 ライフルよりスレッジハンマーの方が効きが良いと接近した瞬華はすぐさま踏みとどまり、千春も上空へ退避する。砂埃が勢いよく舞う。遠くで水中ゴーグルを身につけ光学迷彩で姿を隠している月夜は特に回避する必要も無く。ただ一人、ジープから飛び立った直後射程ぎりぎりから、他の面々より低空にいた安則が、NWの尻尾の直撃を受けて彼方へ吹き飛ぶ。
「ちっ‥‥今は助けに行く余裕はない、後回しにするぞ」
 安則が消えた方向を苦い表情で睨みながら、輝璃がジープを飛び降り剣を構えて疾駆する。それに夏姫も続き、ついでオルトロスも走る。ポーは一度ジープを置きに行き、マイクを持って舞い戻る。
 着地し暴れるワームに、輝璃の剣が放たれる。だがやはり、表面に傷をつける程度で流血などは無く、夏姫の爪も多くの獣人能力を重ね掛けしているにも拘らず効果があがらない。崩振粉砕も相手の装甲が硬い皮膚では効果が無い。オルトロスは自分の走ってきた全運動エネルギーと体重、筋力を加えて剣を突き刺し、その皮膚を貫通させるが、今度は剣が抜けず、やっと引き抜いたところで尻尾の一撃を喰らう。相手の体勢もそれほど良くなかったため大怪我とはならなかったが、しかし剣を砂漠のどこかに落とした。ポーの歌はやはり効果が薄い。本業歌手でなければNWには響かないのだろうか。
 だが、それでも確実にダメージは蓄積されている。千春の封魔の弾丸や水晶の38口径弾、夏姫のしつこいほどの同箇所への集中攻撃でNWの動きは大きく鈍り、サンドワームは目の前をうろうろする輝璃に気を取られつつもそれを捕らえられず、他の攻撃に酷く無防備になる。明らかに落ちたその動きに、瞬華は虚闇撃弾を放って追い討ちをかけ、千春が撃ったカースブリットがその動きを止める。
「これで終わりだな」
 まだ時折ビクビクと体を震わせるNWの顎をオルトロスと夏姫がこじ開け、拳大の小さなコアに輝璃が繰り返し攻撃を加える。無防備無抵抗なコアはすぐにひび割れ、砕け散る。

 ・ ・ ・

 結局、やはり撮影スタッフや捜索隊の姿は誰一人として発見出来なかった。が、無事にNWの退治は完了し、『封印』の使用も無かった。緊急要員として『棺の鎖』を持っていた月夜には、仕事の開始前に宣言していた最後にホットケーキを焼いて皆に振舞うことくらいしかすることが無く。
 ちなみに、月夜がホットケーキをご馳走すると激励した相手、安則は、NWにぶっ飛ばされた衝撃で治療してもらうまで自力でホットケーキを頂けなかったため、「はい、あーん」で食べさせてもらえることに。何と羨ましい。

 食べさせたのはオルトロスだったがな。