シアワセノテイギアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
香月ショウコ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/29〜05/05
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●本文
幸せとは何だろうか。
愛か。友か。家族か。
金か。物か。権力か。
幸せとは何だろうか。
人により幸せは違う。
時により幸せは違う。
その定義は酷く曖昧。
早朝、君は目覚めた。
ふと違和感を覚える。
そこにあったモノは、
御伽噺で聞くような、
幸せをもたらすモノ。
それが与える幸せは、
どんな形をしている?
―――舞台演劇『シアワセノテイギ』キャスト募集―――
・あらすじ
ある朝主人公が目覚めると、机の上に見知らぬ『モノ』が置いてある。その正体を確かめようと友人に話を聞くと、それは『持っている者に幸せをもたらすモノ』だと告げられる。
半信半疑の主人公だが、自分が強く望んだことが現実になっていく様に驚き、力を信じるようになる。
主人公は自分の『幸せ』を次々実現させていく。しかし、彼は忘れていたのだ。友人に教えられた、その『モノ』の決まり事を。即ち『幸せがもたらされる回数に限度があり、超過は破滅をもたらす』ことを。
主人公は‥‥
●リプレイ本文
●開幕前〜パンフレット〜
キャスト
次女・唯(姫乃 唯(fa1463))
三女・愛(谷渡 うらら(fa2604))
長女・紗弓(藍川・紗弓(fa2767))
紗弓の彼・葵(劉 葵(fa2766))
唯の友人・美由紀/唯の担任・静(都路帆乃香(fa1013))
唯の友人・千早(鶴舞千早(fa3158))
姉妹の父・斎(伊達 斎(fa1414))
姉妹の母・雫(風間雫(fa2721))
●シアワセノアオイハネ
「それはね、幸せを呼んでくれる羽根なんだよ、願えば少しだけ貴女の願いを叶えてくれるの、でもあんまり願い過ぎないうちに次の人に渡してあげてね」
謎の『青い羽根』。朝のホームルームが終わった後、唯が今朝手に入れたその物体について友人の美由紀に尋ねたところ、そんな答えが返ってきた。
「幸せを呼んでくれる、ねぇ」
突拍子も無い話だ。メルヘンチックもいいところだ。本当にそんな効果があるのなら、前の持ち主がこれを手放すはずが無い。
3限は体育だった。着替えが終わり誰もいなくなった教室で、唯は羽根を持って願った。
(「ぬいぐるみ‥‥幸せの青い羽根よ、私の願いを聞いて」)
‥‥
‥‥‥
‥‥‥‥
「なによ、やっぱり偽物じゃない。ま、そんな都合の良いモノなんかあったら‥‥」
ハンドタオルを取ろうと唯が手を延ばした机の上には、そこにあるはずの無い物。
「‥‥嘘」
ぬいぐるみ。
放課後。唯は友達を連れて大通りへと繰り出した。
「ねえねえ、この服似合うかな? そう!? じゃこれ買っちゃお〜」
「いつもファーストフードだと太っちゃうしさ〜。今日あそこで夕飯食べてかない? 大丈夫だよ、今日は私の奢り!」
幾らでも使える。湯水のように。願えば願うだけお金が出てくるのだから。調子に乗った唯は、今日は時間の許す限り遊び倒そうと思っていた。が。
「私、そろそろ帰るね」
「何言ってんのよ美由紀。あ、そっか、財布厳しいのか‥‥大丈夫、私が出してあげるから、もっと遊ぼうよ」
「いらないよ。‥‥唯、何か今日変だよ」
「どうしたの美由紀? 怒ってる? あ、そっか、あの服か! ごめんね、最後の一枚だったけど、私もアレ欲しくてさ」
「もういいよ!」
唯には、美由紀が何を言わんとしていたのか分からなかった。ゲームセンターから一人出て行く美由紀は、いきなり怒り出して帰った、自分勝手な人間にしか見えなかった。
「美由紀、ワケ分かんないよ」
その後も、唯は残った友達と遊び続けた。だが、好きな事をして好きな物を手に入れて幸せな筈なのに、何故か少しも幸せな感じはしなかった。
拳銃型コントローラを使うゲームで何度目かのゲームオーバー。友達は皆帰っていった後、最後まで残っていた千早が唐突に言った。
「ねぇ唯。さっきの美由紀のことだけどさ、何で美由紀が怒ってるのか、もう一度頭から考え直してみたらどうかな」
じゃ、あたいも門限あるから。言うことは言ったと、早足で千早は帰っていく。
「何よ、千早まで‥‥美由紀なんか別にどうでも‥‥美由紀なんか‥‥」
コンティニューを何回しても、何故か気が入らない。コウモリに噛まれ、ゾンビに引っ掻かれ。ズタズタになってるのはゲームの主人公のはずなのに。
●シアワセッテナニ?
「新しいのなんていらない!」
「どうして? こんな安っぽいボロ人形より、新しいこっちの方が良いじゃない」
ある日。唯の妹である愛は、ジュースがかかって汚れてしまった人形を抱え、大騒ぎをしていた。
ジュースがかかったのは唯の不注意だった。それで、羽根の力で新しい人形を出し、それをあげれば解決するだろうと考えたのだ。
そして、結果は。
「ちぃねぇちゃん最近おかしいよ! どうしちゃったの? カレシに振られたの?」
「何言ってんのよ愛!」
「ちぃねえちゃん、変なバイトしてるならやめた方がいいよ!」
愛は汚れてしまった人形を抱え、走り去る。
「何なのよ‥‥皆おかしいよ」
場面は変わって。愛の自室。部屋の隅で人形を抱きしめ、愛は。
「これが、お父さんがくれた野球選手のサインボール。これが、大ねぇちゃんがくれた熊のぬいぐるみ。‥‥全部大事、全部大切なの」
愛は、幼少時に大病を患って長い入院生活を経験した。注射と薬が嫌いで大騒ぎし母達を煩わせたが、唯が学校で作ってきた人形を抱くと、不思議に落ち着いたものだった。
「‥‥やっぱり、謝ろう。お姉ちゃんはお姉ちゃんなりに謝って弁償してくれるってゆった」
愛にとっては、家族全員が笑顔でいられることが最高の幸せだ。姉は姉なりに考えた末の行動だったのだと、そう自分を言い聞かせる。
「何だか最近、唯の様子がおかしいとは思いませんか」
雫が新しいビールの瓶を冷蔵庫に入れながら、斎に尋ねる。
「そんなものじゃないのか? 男親には思春期の娘の気持ちは分からないよ」
斎はビールを飲みながら、遠い記憶に思いを馳せる。
「小さいうちはおとーさんおとーさんって寄って来てくれたものだが、今は話をすることも少なくなった。紗弓とは仕事の話をするようにはなったが、一人暮らしを始めたら寂しくなるなぁ。‥‥笑顔で送り出したいとは思っているんだが。紗弓も、唯も愛も」
娘達の成長を見守ること。それを自身の最高の幸せと仕事に精を出してきた斎には、娘達が自立していくことは寂しさ一抹、しかし至上の喜びだ。
「結婚式とか出ることになったら、笑うか泣くかどちらかにしてくださいね。泣いてぐちゃぐちゃの顔で笑われたら子どもが泣きますよ‥‥あら?」
返事の無い斎。雫が振り返ると、斎はテーブルに突っ伏して寝息を立てていた。ビール数杯で酔い潰れるのに飲んでいたのは、唯の様子や部屋から出て来ない愛、就職を控えた紗弓のことが不安で、心配していたからだろうか。
斎にそっと毛布をかけると、雫は淡い笑みで洗い物に戻った。
●シアワセノテイギ
紗弓の恋人である葵が訪ねてきたという母親の声を、唯は自分の部屋で聞いた。
(「葵さんになら、今の私のワケの分からない状態を解消する何かを教えてもらえるかもしれない」)
葵は写真家を夢見て修行を重ねてきた青年だ。1つの物事に集中し、辛い日々を送りながらもいつも幸せそうな表情をしている葵なら、きっと何かを教えてくれる。
葵がいるであろう、紗弓の部屋へ向かう唯。果たしてそこでは‥‥
「外国に行く事になったんだ。尊敬してる先生に認められて、一緒に」
「‥‥そう‥‥なの」
葵が切り出した話は、紗弓に大きなショックを与えた。写真家を夢見る葵の影響で、それに携わる編集者になる事が紗弓の夢になっていたのだ。先日届いた内定通知。それは編集プロダクションの内定だったのだ。
葵の腕が認められたのだ。だから、彼を祝いたい。けれど、葵は遠くへ行ってしまう。
彼の旅に、ついて来いと言われ、うんと言えたら。けれど、私の夢はどうなるのだろう。
やっと追いついた夢なんだ。何時か、どうしても咲かせたい夢なんだ。紗弓は、迷う。
紗弓に、彼女自身の夢があることを葵も知っていた。だから、その夢を捨てて自分について来いと言えなかった。そして内定の話も聞いた今、それはますます口に出せない言葉となった。
自分の夢、叶える姿。紗弓の夢、叶える姿。自分のために彼女の夢を壊すわけにはいかない。彼女が大切だと自分の夢を捨てることも、違う。どちらも本当の幸せとは、違う。
一緒に来い、と言うのとは違う。ついては行けない、と言うのとは違う。
幸せは自分のものだけを指す言葉ではない。誰かの幸せを願い、それが成されることもまた、幸せだ。だから、さよならじゃなく。
「またいつか」
なぜだろう。あり得ない。喧嘩したわけでもなく、二人は別れると決めた。愛し合っているのに。お互いを大切に思っているのに。
家から飛び出し、ふらりと立ち寄った公園のベンチで、唯は考えていた。すると。
「あら、唯さん」
声の主は、今は産休をとっている担任の教師、静だった。高校に入学したばかりの唯とは数回顔を合わせた程度だというのによく顔と名前を覚えているものだと唯は思った。
静は唯の隣に腰掛けると、優しくお腹を撫でながら言った。
「もう暫くしたら生まれてくるのよ、触ってみる?」
唯がその言葉通りにそっと触ってみると、何となく、体温とは別の温かみがあるように感じられた。
「先生、今幸せでしょう?」
「ええ。‥‥この子も貴女みたいに素直で良い子に育ってくれたらいいんだけど‥‥なんて、先生なのにこんな事考えるなんておかしいかな?」
唯の問いに、静は不安混じりの笑顔で答えた。その表情に、唯は何かに違和感を覚えた。
「子供って、自分が欲しいと思ったら欲しいと思ったカタチでポンと出てくるわけじゃないでしょ? 本当に全くのゼロで産まれてくる。その子が幸せになるかどうかは、親の私たち次第。それが、出来るかなって。少し不安でね」
(「私が叶えてる幸せって、本当の幸せなのかな‥‥」)
ふと唯が顔を上げると、公園の入り口を通り過ぎていく美由紀の姿が見えた。
「先生すいません、失礼します。元気な赤ちゃん、産んでくださいね!」
ベンチから立ち上がり、唯は美由紀の向かった方へ走った。走りながら、考えた。
『何で美由紀が怒ってるのか、もう一度頭から考え直してみたらどうかな』
「待って、美由紀!」
「唯!?」
「その‥‥前は、ゴメン。私色々、多分たくさん、勘違いしてた。ゲームも、ゲームやってれば幸せなんじゃなくて、美由紀と、皆とゲームやるから幸せなんだって、だから‥‥」
早口に、自分がさっきようやく気付いたことを話す唯。そんな唯に、美由紀は。
「ありがとう。唯が気づいてくれて、そう思ってくれて、嬉しいよ」
そう、笑顔で。
●シアワセノカタチ
家に戻ると、食卓のいつもの愛の席に、ちょこんと座っている人形。唯が汚してしまった人形。それは、昔唯が愛のために作ってあげた物。そのことに、唯はやっと気がつけた。
「そっか、ずっと大切にしてくれてたんだ」
持ち上げて見てみると、結構大きなシミ。これをとるにはどうしたらいいものかと思案を巡らすが、思いつかない。
そう、こういう時は。あの物知りな友人に聞けばいいのだ。
「もしもし、美由紀? あのさ、布についたジュースのシミって‥‥」
「ちぃねえちゃん、このお人形!」
「キレイになったでしょ。もう汚したりしないから。ごめんね」
「ううん、良いよ! ありがとう!」
唯が夜遅くまでかけて汚れをとった人形を受け取って、愛は最高の笑顔で喜んだ。その笑顔が唯にも幸せを与えてくれた。
そう、幸せっていうのは。
「幸せって、自分の努力した結果とか、誰かが喜んでくれるとか、そういう所から来るんだ。どんなに良い物を手に入れても、満足出来ないと幸せとは感じない。幸せは自分の中にあったんだね」
唯は、ポケットから青い羽根を取り出すと、心から願った。
「青い羽根、最後のお願い。羽根を本当に必要としている人の所に飛んで行って!」
宙に舞い、ひらひらと唯から離れていく青い羽根。遠くへと飛んでいく羽根は、それから‥‥