変身〜戦い来たりて〜中東・アフリカ

種類 ショート
担当 久条巧
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 不明
参加人数 12人
サポート 0人
期間 08/25〜09/03

●本文

●こちらは中東・ちょっと前
──とある屋敷
 ザーーーーーッ
『クサナギ1よりキャリバーベース。三つ目のスフィア解析完了。但し、ドクター・ユウキの持ち出したスフィアシードまでの解析は困難。プロトタイプの『種』をベースで完成、これより実験に入る』
「こちらキャリバーベース。スフィアシードの実験はくれぐれも慎重に。実験体が暴走した場合、速やかに廃棄処分とするよう‥‥」
──ザーッ
『クサナギ1よりキャリバーベース。了解した‥‥実験体は即時実戦に組み込む。ターゲットはWEAのリバーススフィア関係、及び逃亡したドクター・ユウキ、そしてWEAのスフィアシード融合者とする‥‥』
「こちらキャリバーベース。後始末についてはこちらに一任。思う存分やりたまえと『マスター』から連絡があった」
──ザーッ
『クサナギ1よりキャリバーベース。任務了解。全力でいかせてもらう‥‥』
「こちらキャリバーベース。本部より『オペレーション・ファントム・オブ・ナイトウォーカーズ』の発動要請。全てのWEAPONはコマンドモードを変更せよ」
──交信終了


●そして第4発掘ベース・仮設ラボ
「ふむふむ。これが精製し完成したシードバンクルとな?」
 そこは小さな仮設テント。
 ドクター・ユウキが敵『WEAPON』より持ち出したスフィアシードを精製し、新たなるシードバンクルを完成させていた。
「ええ。但し、以前も説明したとおり、融合成功率は0.5%以下です。前回成功した適合者ならば、多少は適合しやすいかもしれませんが‥‥」
 そう告げると、ドクター・ユウキは4つのシードバンクルの一つを手に取る。
 ここ最近は敵からの襲撃もないリバーススフィア発掘ベース。
 但し、敵も3つの遺跡を占拠し、独自に解析を行なっている。
 偵察部隊からの報告では、敵はかなり大規模の戦力を集結しつつあるらしく、そろそろこのWEA管区のスフィア発掘ベースを襲撃するのではないかという噂まで広がっていた。
 そのため、本部に対して援軍要請を行なってみたものの、現地で何とか対処するようにとの報告が返ってきたのである。
 そのため、現地での緊急会議の結果、ドクター・ユウキにシードバンクルを完成してもらい、それを使用する希望者を募る事にしたのである‥‥。
「例の地下洞窟の女性といい‥‥まったく、この地域もきな臭いものじゃわい」
 ウェンリー教授はそう呟くと、手元に届いた希望者のリストを見始めた。

●今回の参加者

 fa0154 風羽シン(27歳・♂・鷹)
 fa0167 ベアトリーチェ(26歳・♀・獅子)
 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0356 越野高志(35歳・♂・蛇)
 fa0677 高邑雅嵩(22歳・♂・一角獣)
 fa0683 美川キリコ(22歳・♀・狼)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa0829 烏丸りん(20歳・♀・鴉)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa2529 常盤 躑躅(37歳・♂・パンダ)
 fa2582 名無しの演技者(19歳・♂・蝙蝠)
 fa4159 護国院・玄武斎(59歳・♂・亀)

●リプレイ本文

●命の価値
──エジプト・リバーススフィア発掘ベース
「一度融合する所を見せてくれないか?」
 そう頼み込んだのはベアトリーチェ(fa0167)である。
 そして他のメンバーからの頼みともあり、Dr.ユウキは変身をしてみせたのである。

──メキョッ
 筋肉の怪しい煽動。
 体表が茶色に変わり、硬質化していく。
 頭部が異形に盛上り、触覚の様な器官が額から伸びはじめた。
 そして巨大な複眼が前方に形成されたとき、Dr.ユウキの変身は完了した。
「Dr‥‥意識はあるのか?」
 風羽シン(fa0154)がそう問い掛けた時、Dr.ユウキは静かに肯いた。
──シュルルッ
 そして突然変身が解除され、中からDr.ユウキが姿を現わした。
「ハアハア‥‥私でもセーフティモード(自我安定状態)は2分が限界ですね」
「Dr.ユウキ。4つのシードバンクルを使っていた獣人達の種族は?」
 そう質問しているのはベルシード(fa0190)。
「全員が狼‥‥だった筈です。過去の実験では、種族による適合差はなかったのですが‥‥」
 そう告げるDr.ユウキ。
「さて、それでは実験を開始しますか‥‥」
 そうDr.ユウキが告げると、まずは敷島オルトロス(fa0780)がシードバンクルを手に取る。
──パチン
「‥‥済まないが、ガス弾の準備は出来ているか?」
 歯噛みしながら近くで待機している御影 瞬華(fa2386)に問い掛ける。
「準備OKです」
 ガシャッとグレネードランチャーを構える瞬華に、敷島はニャッと笑う。
「任せてくれ。二度と無様な真似はしねぇ。それじゅあいこうか‥‥変身(トランス)っ」
 意識がまだはっきりしている。
 腕のバンクルが以前よりも熱く感じる。
(まだ大丈夫だ‥‥)
 メキメキッと全身が漆黒の外骨格に覆われはじめる敷島。
 やがて全身の筋肉の隆起も収まり、それらを取り巻く装甲も安定しはじめた。
──ク‥‥ラウ‥‥
 何かが敷島の脳裏に聞こえてくる。
(来たな‥‥暴走の原因‥‥)
 意識を集中する敷島。
 やがて、その声は脳全体に響き渡った。
 自我が少しずつ侵食されていくのを感じる。
 全身が、魂が悲鳴をあげはじめる。
 周囲から見ると、外骨格に包まれ、半ば昆虫の‥‥そう、まるでカブトムシの如く漆黒の体表を持つ人型の生物が、ただじっとたたずんでいるだけのように感じられる。
「ゴクッ‥‥ここからが正念場だな‥‥」
 美川キリコ(fa0683)はすでに獣人モード。
──エモノ‥‥クラエ‥‥
 それは幻聴なのかもしれない。
 だが、確実に敷島の肉体を、脳内を、そして魂を食らいはじめていた。
(だ‥‥黙れ‥‥これは俺の身体だ‥‥これは俺の魂だ‥‥)
 ぼんやりとした意識が敷島のなかで一つになり始める。
 そして
──ビシィィィィッ
 何かが敷島の中でくだけ散る。
「ウォォォォォッ!! 貴様の自由にさせるかぁぁぁっ!!」
 そう咆哮を上げると同時に、敷島『だったもの』は、拳を大地に叩き込んだ。
「良し‥‥変身完了‥‥だ‥‥」
 にぃっと口許に笑みを浮かべ、敷島が変身を完了させた。

「タイプ‥‥ヘラクレスというところですか」
 Dr.ユウキが静かに呟く。
「俺は‥‥どうなっている?」
 そう問い掛ける敷島に、高邑雅嵩(fa0677)が鏡を見せる。
「ほらよ。おめでとうっていう所だな、WEAで最初のOI(アウトキャスト・インセクター)さん」
 周囲がにわかに騒がしくなる。
 そして敷島は肉体の限界を感じ、変身を解除する。
 そこまでの時間、わずか5分。
 それでも、自我は安定したままの変身である。
「ふぅ‥‥少し休ませてくれ‥‥といいたいが」
 まだ実験は始まったばかりである。
 少なくとも、次以降の被験者が暴走を開始したとしても、敷島がそれを押さえつけることができるであろうから。
「ふぅ‥‥次は私の番ね‥‥」
 覚悟を決めて、キリコが中央に立つ。
 高邑が周囲に読心水鏡用の水を撒き、烏丸りん(fa0829)が教授から受け取った対NW用アサルトライフルをガシャッと構える。
「確か、暴走したときはコアを狙うといいのですよね?」
 烏丸の問いに、キリコが肯く。
「ああ、きっついのを一発頼むよ。それじゃああとは任せたよっ!! 暴走時は宜しくっ」
 勢いよく上着を脱ぎ捨てると、キリコは軽く肩を回す。
「変身ッ!」
 気合と同時に掛け声を上げる。
 刹那、コアが輝き、キリコの全身の筋肉が煽動する。
(うぁっ‥‥身体の中を芋虫が這い回るようなこの感触‥‥)
 その気持ち悪さに耐えつつ、第一段階である肉体の構成変化は終了。
 そして第二段階。
 体表の硬質化が始まった時、キリコの脳裏に何かが聞こえた。
──ウケイレロ‥‥
 それは何かの声?
(面白いけれど‥‥奪われたら堪らないからねぇ‥‥)
 抵抗するイメージを浮かび上がらせるキリコ。
 だが。
──メキョメキョッ
 自我がどんどん失われていくのが判る。
 自信が崩れていくイメージ。
 そしてその光景は、周囲の人間から見ても明らかであった。
「不味い、暴走モードです!!」
 その声と同時に、烏丸がキリコのコアに向かって虚闇撃弾を叩き込む!!
「私のこの一撃で!!」
──ドゴォッ
 それはコアに届かない。
 コアに届く直前、キリコ『だったもの』が、虚闇撃弾を素手で受止めたのだ。
「そ‥‥ん‥‥な‥‥」
 呆然とする烏丸。
 と、その瞬間、『キリコだったもの』が、烏丸の眼の前に滑り込む。
 そして巨大な爪を開くと、一気に身動きの取れない烏丸に向かって振りおろした!!
──ドシュッ!!
「ふぅ。もう少し落ち着いてくれよ‥‥お嬢さん」
 霊包神衣で身を守りつつ、外のトラップ確認を終えて加わった護国院・玄武斎(fa4159)が『キリコだったもの』と烏丸の間に割って入る。
 そして『キリコだったもの』の一撃を腕で受け流すが、その力で腕が引き裂かれ、肩口から千切れ飛んだ!!
「う‥‥あ‥‥アア‥‥」
 明らかに暴走。
(違う‥‥止まれ‥‥止まってくれ私!!)
 キリコの魂が、必死に暴走している自分だったものを止めようとする。
 だが、制御がきいていない。
「離れてっ!!」
 二丁拳銃を構えてキリコだったものに向かって斉射する瞬華。
 だが、それは体表で全て弾かれる。
「Dr.ユウキっ。トランスをっ!!」
 だが、制御の不完全なDr.ユウキはトランスできない模様。
──ザッ
「下がっていろ‥‥」
 瞬華の前に入って来たのは漆黒の男。
 ヘラクレスモードに変身した敷島がキリコに向かって間合を詰める。
──ドゴッ
 ほんの一撃。
 『キリコだったもの』の腹部に向かって当て身を叩き込む。
 と、そのまま『キリコだったもの』は意識を失い、やがてトランスが解除されていった。
「グッ‥‥がはぁっ!!」
 腹部を押さえ、意識の無いままに苦しむキリコ。
「ふぅ‥‥とりあえずは収まったか‥‥」
 そっとキリコの身体に手をあて、治癒命光を発動させる高邑。
「このまま医療班の方に。Dr.ユウキ、実験はどうする?」
「可能なら続行‥‥といきたいのですが、皆さんの意見は?」
 高邑の言葉に、Dr.ユウキがそう告げる。
 だが、皆の意見は一つであった。


●続行〜完全適合者は今の所2名〜
──実験エリア
 キリコが医療チームに運ばれて1時間後。
「‥‥ふう‥‥自我が‥‥限界ねっ‥‥」
──シュルルルル
 三人目の実験体である瞬華が、そう告げつつトランスを解除する。
 第一段階である肉体の構成変換、そして第二段階である体表に硬質化までをクリアし、瞬華は1分間のみの変身に成功。
「タイプ・OB(アウトキャスト・ビースト)ですか。外見的特徴からは特に‥‥どのタイプの獣か区別が付かないというところですか」
 Dr.ユウキがそう呟く。
 深紅の体表、硬質化した全身。
 その女性的フォルムのボディライン、それに張り付く中世の鎧のような装甲。
「さしずめ、タイプ・ブラットナイト(深紅の騎士)という所かしら?」
 ベアトリーチェのその呼び方が気に入られ、瞬華の使用したタイプの名前が決定した。
 これでタイプは二つ。

 インセクタータイプの『漆黒のヘラクレレス』
 ビーストタイプの『深紅のブラットナイト』

 これから残る二つの実験と、他者での融合実験が始まる訳であるが。


●翌日〜さらなる実験〜
──実験エリア・ラボ
「ふぅ‥‥成る程ねぇ‥‥」
 手元に置いてあるビデオカメラを再生しつつ、シンは敷島と瞬華の融合のタイミングをじっと解析していた。
「ほら、この段階が第一段階、装甲が作られる前にコアが一瞬輝く。そして次が第二段階、装甲が完成し、自我が安定する。この時もコアは輝く。つまり、段階を得るたびに自我が崩れはじめるが、そのタイミングは一定であるということ。成功体があるからこそ、この事実に気が付いたという所だろう?」
 シンは、残った他のメンバーとDr.ユウキにそう自分なりの解説を付け加える。
「もしそうなら、自分でも自我に何か‥‥そう、えーっと」
 そう告げつつ、ベルシードが腕を組んでじっとしているキリコの方を見る。
「NWの自我への侵食。それに絶えることができるということ。私は味わったから、多分タイミングは判る。あとは数をこなせば抵抗できるようになるんじゃないか?」
 敷島をチラッと見つつ、キリコが告げる。
 そして全員がカメラを見ながら、そして瞬華と敷島に細かい話を聞きつつ、実験は開始された。

──実験体・風羽シン
「いかせて貰う‥‥変身(トランス)っ!!」
 気合を込めて叫ぶシン。
 全身の筋肉の煽動が始まり、自身の身体が一回り大きくなっていくのを感じる。
(自分が自分でなくなっていく‥‥)
 それでもまず、第一段階はクリア。
 そして第二段階に突入。
 体表の硬質化、純白の装甲が身体に浮かび上がりはじめたとき、シンの脳裏に嫌な感覚が入ってくる。
──ウケイレ‥‥
(きやがったな‥‥)
 そのタイミングで、シンは意識を集中させる。
 無理に精神抵抗するのではなく、暴風の真っ只中を舞う羽毛の様に。
 激流に沈む事なく流れに乗っていく木の葉の様に、その激しさを受け入れた上でさらに先へと意識を乗せる様イメージ。
 だが、結果はシンの想像を遥かに越えた。
 流れに乗る。
 それは即ち、全てを受け入れ、さらに前へ。
 既に変化は止まらない。
「グフッ‥‥グァ‥‥グガガガガガ‥‥」
 純白の人形のようなシン。
 それが暴走を開始した。
 素早く対処した敷島により、シンは沈静化。

──実験体・ベアトリーチェ
「‥‥」
 周囲を見渡す。
 果てしない砂漠。
 自身を見つめる仲間たちの瞳。
 自分に何が起ったのか、ベアトリーチェは理解していない。
 少なくとも、第二段階はクリアしたらしい。
 そして目の前では、敷島と瞬華がトランスを開始していた。
「そっ‥‥か‥‥これが暴走なんですね‥‥」
 そう告げるベアトリーチェ。
 やがて意識が消えていった。
 腕を引きちぎられた敷島と、両脚を失った瞬華によって、ベアトリーチェの暴走は停止した。
 二人の傷は、実験期間が終る頃には癒えるだろう‥‥。

──翌日・実験体・ベルシード
「ふぅ‥‥」
 第一段階をクリアしたベルシード。
 そのまま第二段階に入る直前に、実験は中止。
 昨日までの仲間たちの変化を確認し、ベルシードは少しずつであるが変身に慣れるという方法に入った。
 途中で休憩を挟みつつ、其の日の内に第二段階までクリア。
 あとは自我をどこまで続けられるか。

──実験体・越野
 越野高志(fa0356)は静かに掌の中の『ラーの瞳』を見つめる。
 変身した融合体、『漆黒のヘラクレス』と『深紅のブラットナイト』、そして先日のベアトリーチェの『純白のヴァルキュリア』は明らかにラーの瞳によって反応していた。
 越野は残る一つの適合実験を開始。
 第一段階はクリアできたものの、第二段階の手前で、不思議な事に強制的にシードバンクルが腕から外れた。
「‥‥不適合ということですか。もしかしたら、獣人のタイプとバンクルのタイプによって、適合、不適合があるのかも‥‥」

──実験体・常盤
「来た来た来た来たァァァァァァ」
 全身を埋めつくす装甲。
 そして軽くなったような感触。
 第二段階を越えた常盤 躑躅(fa2529)は、その体内に溢れる力に改めて驚いていた。
 完全獣化、金剛力増、幸運付与、平心霊光ともてる力を次々と覚醒させ、万全の状態での変身。
 既に俺を止める者は何もない。
 現に、自身ですら、この身体の暴走を止められない‥‥
「うぉぁぁぁぁぁ、誰か止めてくれぇぇぇぇ」
 意識がはっきりとしている中での暴走。
 珍しいケースではあるが、敷島の一撃で止む無く沈黙。


──実験体・ナナシ
 名無しの演技者(fa2582)は静かに瞳を閉じていた。
 第一段階のクリア、そして第二段階への移行。
 肉体を覆う銀色の装甲。
 今までのタイプとは違う、機械的に色彩に包まれた装甲。
「我輩たちの仲間‥‥父も‥‥母も‥‥友もNWのことを恐れ、怒り、憎んだ! NWは不倶戴天の敵である! 撃破し、蹂躙し、駆逐し! その身を一片のデータ片に変えつくしてならんのだ! そのための力、守るための力を得れるなら我輩は実験動物と化してもかまわん‥‥」
 かたくなな意志が、名無しの演技者の中で沸き上がる。
 だが、第二段階が終りを告げようとした時、シードバンクルは強制分離した。

 そして実験期間の間、幾度となく融合実験は繰り返された。
 完全変身が可能になったのは瞬華と敷島、キリコ、ベルシード、常盤の5名。
 但し敷島は36分、瞬華が18分、キリコが4分、ベルシードは2分、常盤は36秒という時間の限界があった。
 残った者たちも第二段階までの実験は完了し、その後の自我をどう抑えるかが課題となった。

〜Fin